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数ある作品の中から選んでお読みくださり、ありがとうございます。
「私、あなたが好きです!」
少し茶色い瞳の綺麗なストレートの髪の女の子が、目を潤ませて僕に告白してくれた。
僕はこれを複雑な顔で見ている。
これで何回目だろう?
「ふう! まだ、緊張するわね。」
彼女は素の顔になり、僕の部屋の床に直接座った。
「もう、これで大丈夫だろ?」
僕は彼女にクッションをすすめながら言う。
「まだよ! 失敗は許されないの!
あと少しだけ、付き合って? お願い!」
彼女は僕の目を見て、手を合わせて小首を傾ける。
・・・・・・・かわいい。
「、、、、、いいよ。」
僕は仕方なくお願いをきいてあげることにする。
僕が好きな女の子は、僕のことを告白の練習台にしていた。
きっかけは、大学のサークルで彼女に声をかけたときに断られたことだった。
「花火、二人で見に行こうよ。」
「行かないわ。一緒に行きたい人がいるの。」
彼女は僕を見て、はっきりと断った。
「誰?彼氏?」
「違う。でも、いつか、付き合うつもり。」
なんだ。清純そうに見えて、実は結構いろいろしてる?
僕たちは同じ大学の同じ学年だ。現役で入ったので、歳も同じ。
つまり、同じ年齢なのに、彼女の方がたくさん異性と付き合ったことがあるというのは、引け目を感じる。
「でも、無理かもしれない。」
彼女が下を向いて言う。
「どうして?」
彼女の言葉に僕が返すと、彼女は誰かに言いたかったのか、とうとうと話し出した。
「私、小さな頃から好きな人がいるの。その人は、とっても綺麗で優しくて、ずっと一緒に住んでいたの。
でも、私が10歳になった頃に海外に行っちゃった。毎年夏頃に帰って来るのだけど、どんどんかっこよくなっていくの。
告白しようと思っても断られるのが怖い。断られる確率の方が高いから、どうせ断られるのなら、今のままが何も言わない方がいいかなーって。」
「いつか、付き合うつもりなら、言わないとわからないよ?」
彼女が真剣に悩んでいるので、僕もきちんとこたえた。
「でも、どう言えばいいの?」
「普通に、好きって言えば?」
「それでいいのかな?」
彼女は僕を真っすぐ見てきいてくる。
「僕なら、それで十分うれしい。」
「本当に?」
彼女が信じられないように言うので、僕は断言する。
「本当に。」
彼女は僕をじっと見て、ちょっと棒読み風に言った。
「あなたのことが、好き。」
少しだけ、どきっとした。
女の子の「好き」という言葉は効果がある。
「どう?」
彼女が期待して言うので、僕は事実を伝える。
「心がこもってない。」
「そんなこと言われても、言ったことないし。」
彼女が不満を言うので、僕は彼女をなだめる。
「言い慣れてないなら、仕方ないよ。」
普通、言い慣れないよ、と自分に突っ込む。
「あなたが好きです。」
油断したところで、彼女が言った。
さっきよりましだけれど、心に響かない。
「なんだか、セリフを読んでいるみたいだね。」
彼女が口を結ぶ。怒った?
「ありがとう。今日はもう帰るね。」
この日、彼女と別れたが、翌日は大変だった。
ーーーー朝。
「昨日、告白されていたでしょ?」
僕は相手の顔を見た。
「私、見ちゃったのよねー。」
サークルの先輩だった。
「違いますよ。あれは、練習に付き合っただけです。」
「えー? あんなに真剣で?」
「練習です。」
僕はきっぱりと言って、誤解を解いた。
ーーーー昼。
彼女が僕のところに来て、頭を下げた。
「ごめんなさい。あなたの迷惑を考えず、人目にさらされる場所で練習した。
先輩から、注意されました。」
僕は彼女が急に謝ったので、びっくりした。
「別にいいよ。そんなに謝るほどのことでもないし。」
「ありがとう。優しいのね。」
彼女は僕に微笑んで言った。
・・・・・かわいい。
「でも、練習はどうする?」
僕が普通にきくと、彼女は僕を見た。
「え?でも、練習はもう、人目がない場所なんてないし。あなたに迷惑かけられないわ。」
彼女はかわいいし、純真だし、何だか応援したくなる。
僕は彼女に提案してみることにした。
「一人暮らしだけど、僕の部屋でよければ、練習場所に使う?」
彼女が目を開いて何も言わない。
「変なことはしないよ?練習するところに困っているようだから誘っただけ。
嫌だったら、別にいいけど。」
彼女は僕を見たまま言葉を選んでいるようだった。
「お願いします。」
頭を軽く下げて、彼女が了承した。
ーーーー夕方。
帰りに彼女と待ち合わせして、僕の1DKの一人暮らしの自宅に向かう。
女の子を自宅に招くのは、生まれて初めてだ。
こんなに簡単でいいのか?
「入って。適当に座ってくつろいで。」
「お邪魔します。」
僕の後に家に入った彼女は、狭い玄関で靴を脱いで僕の分も一緒に靴をそろえる。
僕の家には特に何も出すものがないので、途中のコンビニで一緒に買った飲み物を出す。
僕と彼女はラグの上に対面に座って、早速練習に入ることにした。
なぜか、お互いに正座になっている。
「あなたのことが、好きです。」
緊張してる?
「昨日よりもいいけれど、なんか堅い。」
僕は手加減せず評価する。
彼女が深呼吸した。
「あなたが、好き。」
彼女が少し笑顔になった。
どきどきする。
「いいと思う。ぐっとくるよ。」
「忘れない内に、もう一度練習するね。」
彼女は心を静めるように目を閉じた。
目を閉じたままの彼女を僕はじっと見続けた。
彼女の長い睫毛や整った顔立ち、綺麗な髪を見続けて数十秒後、彼女はゆっくりと目を開けて、ふんわり微笑みながら僕に言う。
「あなたのことが、好きです。」
僕は単純だ。僕に言った言葉ではないとわかっているのに、うれしくなった。
僕は何も言えず、彼女を見つめた。
「ダメだった?」
僕が評価をくださないので、彼女が焦れてきいてきた。
「とってもよかった。」
僕はやっとこれだけ言えた。
彼女は嬉しそうにして「帰る」と言うので、僕は彼女を駅まで送った。
僕は帰りに適当に店に入って夕飯を済ませた。一人部屋に帰って来て、さっきまで彼女がいた場所を見た。僕だけ部屋に残されような気がする。
僕は理由がわからず、さっさと課題を片付けて寝ることにした。