表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第1章
1/81

1

数ある作品の中から選んでお読みくださり、ありがとうございます。




 「私、あなたが好きです!」



 少し茶色い瞳の綺麗なストレートの髪の女の子が、目を潤ませて僕に告白してくれた。

 僕はこれを複雑な顔で見ている。

 これで何回目だろう?


 「ふう! まだ、緊張するわね。」


 彼女は素の顔になり、僕の部屋の床に直接座った。


 「もう、これで大丈夫だろ?」


 僕は彼女にクッションをすすめながら言う。


 「まだよ! 失敗は許されないの!

  あと少しだけ、付き合って? お願い!」


 彼女は僕の目を見て、手を合わせて小首を傾ける。

 ・・・・・・・かわいい。


 「、、、、、いいよ。」


 僕は仕方なくお願いをきいてあげることにする。

 


 僕が好きな女の子は、僕のことを告白の練習台にしていた。

 きっかけは、大学のサークルで彼女に声をかけたときに断られたことだった。


 「花火、二人で見に行こうよ。」

 「行かないわ。一緒に行きたい人がいるの。」


 彼女は僕を見て、はっきりと断った。


 「誰?彼氏?」

 「違う。でも、いつか、付き合うつもり。」


 なんだ。清純そうに見えて、実は結構いろいろしてる?

 僕たちは同じ大学の同じ学年だ。現役で入ったので、歳も同じ。

 つまり、同じ年齢なのに、彼女の方がたくさん異性と付き合ったことがあるというのは、引け目を感じる。


 「でも、無理かもしれない。」


 彼女が下を向いて言う。


 「どうして?」


 彼女の言葉に僕が返すと、彼女は誰かに言いたかったのか、とうとうと話し出した。


 「私、小さな頃から好きな人がいるの。その人は、とっても綺麗で優しくて、ずっと一緒に住んでいたの。

  でも、私が10歳になった頃に海外に行っちゃった。毎年夏頃に帰って来るのだけど、どんどんかっこよくなっていくの。

  告白しようと思っても断られるのが怖い。断られる確率の方が高いから、どうせ断られるのなら、今のままが何も言わない方がいいかなーって。」

 「いつか、付き合うつもりなら、言わないとわからないよ?」


 彼女が真剣に悩んでいるので、僕もきちんとこたえた。


 「でも、どう言えばいいの?」

 「普通に、好きって言えば?」

 「それでいいのかな?」


 彼女は僕を真っすぐ見てきいてくる。


 「僕なら、それで十分うれしい。」

 「本当に?」


 彼女が信じられないように言うので、僕は断言する。


 「本当に。」

 

 彼女は僕をじっと見て、ちょっと棒読み風に言った。


 「あなたのことが、好き。」


 少しだけ、どきっとした。

 女の子の「好き」という言葉は効果がある。


 「どう?」


 彼女が期待して言うので、僕は事実を伝える。


 「心がこもってない。」

 「そんなこと言われても、言ったことないし。」


 彼女が不満を言うので、僕は彼女をなだめる。


 「言い慣れてないなら、仕方ないよ。」


 普通、言い慣れないよ、と自分に突っ込む。


 「あなたが好きです。」


 油断したところで、彼女が言った。

 さっきよりましだけれど、心に響かない。


 「なんだか、セリフを読んでいるみたいだね。」


 彼女が口を結ぶ。怒った?


 「ありがとう。今日はもう帰るね。」


 この日、彼女と別れたが、翌日は大変だった。




 ーーーー朝。


 「昨日、告白されていたでしょ?」


 僕は相手の顔を見た。


 「私、見ちゃったのよねー。」


 サークルの先輩だった。


 「違いますよ。あれは、練習に付き合っただけです。」

 「えー? あんなに真剣で?」

 「練習です。」


 僕はきっぱりと言って、誤解を解いた。

 


 ーーーー昼。

 彼女が僕のところに来て、頭を下げた。


 「ごめんなさい。あなたの迷惑を考えず、人目にさらされる場所で練習した。

  先輩から、注意されました。」


 僕は彼女が急に謝ったので、びっくりした。


 「別にいいよ。そんなに謝るほどのことでもないし。」

 「ありがとう。優しいのね。」


 彼女は僕に微笑んで言った。

 ・・・・・かわいい。


 「でも、練習はどうする?」


 僕が普通にきくと、彼女は僕を見た。


 「え?でも、練習はもう、人目がない場所なんてないし。あなたに迷惑かけられないわ。」


 彼女はかわいいし、純真だし、何だか応援したくなる。

 僕は彼女に提案してみることにした。


 「一人暮らしだけど、僕の部屋でよければ、練習場所に使う?」


 彼女が目を開いて何も言わない。


 「変なことはしないよ?練習するところに困っているようだから誘っただけ。

  嫌だったら、別にいいけど。」


 彼女は僕を見たまま言葉を選んでいるようだった。


 「お願いします。」


 頭を軽く下げて、彼女が了承した。

 


 ーーーー夕方。

 帰りに彼女と待ち合わせして、僕の1DKの一人暮らしの自宅に向かう。

 女の子を自宅に招くのは、生まれて初めてだ。

 こんなに簡単でいいのか?


 「入って。適当に座ってくつろいで。」

 「お邪魔します。」


 僕の後に家に入った彼女は、狭い玄関で靴を脱いで僕の分も一緒に靴をそろえる。

 僕の家には特に何も出すものがないので、途中のコンビニで一緒に買った飲み物を出す。

 僕と彼女はラグの上に対面に座って、早速練習に入ることにした。

 なぜか、お互いに正座になっている。


 「あなたのことが、好きです。」


 緊張してる?


 「昨日よりもいいけれど、なんか堅い。」


 僕は手加減せず評価する。

 彼女が深呼吸した。


 「あなたが、好き。」


 彼女が少し笑顔になった。

 どきどきする。


 「いいと思う。ぐっとくるよ。」

 「忘れない内に、もう一度練習するね。」


 彼女は心を静めるように目を閉じた。

 目を閉じたままの彼女を僕はじっと見続けた。

 彼女の長い睫毛(まつげ)や整った顔立ち、綺麗な髪を見続けて数十秒後、彼女はゆっくりと目を開けて、ふんわり微笑みながら僕に言う。


 「あなたのことが、好きです。」


 僕は単純だ。僕に言った言葉ではないとわかっているのに、うれしくなった。

 僕は何も言えず、彼女を見つめた。


 「ダメだった?」


 僕が評価をくださないので、彼女が焦れてきいてきた。


 「とってもよかった。」


 僕はやっとこれだけ言えた。

 

 彼女は嬉しそうにして「帰る」と言うので、僕は彼女を駅まで送った。

 僕は帰りに適当に店に入って夕飯を済ませた。一人部屋に帰って来て、さっきまで彼女がいた場所を見た。僕だけ部屋に残されような気がする。

 僕は理由がわからず、さっさと課題を片付けて寝ることにした。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ