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第7章~交錯する想い~

 午後3時。渋谷区原宿のゴールデン出版の本社にKはいた。

 この日は、ポルトガルへ取材旅行に出かける後輩による報告会が行われていた。思えば2年前、Kも同じ身分だった。その時はイギリスへ派遣される立場だったが、今回は先輩として見送る立場だ。なぜ派遣先がポルトガルなのか。それはサッカー大会「ユーロ2004」が翌年、同地で開催されるためだそうだ。どうやら2002年のサッカー・ワールドカップ日韓大会以降、日本国内で高まる海外サッカー人気を当て込んでるようだ。ある大手携帯電話会社は、デビッド・ベッカムをイメージキャラクターに起用したテレビCMを流しているくらいだ。

 30分ほどで報告会が終わり、Kは自分の席に戻った。その際、自分の携帯電話の着信履歴を確認して驚いた。なんと、ひかり中学校からの着信が3件ある。

 「一体、どういうことなんだ・・・」

 Kはトイレに移動して、中学校へ折り返し電話をした。そして、サンガンピュールのその日の異常な行動を知らされた。Kの顔は怒りよりも呆れるという表情が出てしまっていた。

 「何てことをしてくれんだよ・・・」


 それから2時間ほど経過して、Kの携帯電話にまた着信がかかった。着メロとして使用しているシルヴィ・ヴァルタンの「あなたのとりこ」(Irrésistiblement)がフロア中に流れてしまい、Kは焦りながらフロアを一旦出た。

 「はい、もしもし」

 「こんにちは、ご無沙汰しております」

 「あっ、これはこれは・・・」

 Kは急にかしこまった言葉遣いになった。電話の相手は、兄嫁の詩織だった。聞くところによると、サンガンピュールを取手市の自宅で「保護」しているという。



 その日の午後、サンガンピュールはどうする術もなかった。悔しい、悔しい、悔しい・・・。一時の感情から給食の準備中に学校を飛び出した。無我夢中で現場まで向かったのは良いが、警察から門前払いされてしまった。気合だけが空回りしてしまう。

 だが今更学校に戻るのも彼女にとってはカッコ悪かった。戻ってしまったら、先生やクラスメイトから後ろ指を差されてしまう。キーン先生に暴言を吐いた時と同じ事態になってしまう。また、教科書やノートといった教材は学校に放置したままだった。それで、戦闘服のまま自宅に帰った。だが、帰宅した瞬間、頭の中で様々な思いが交錯した。

 「あの時、少し冷静になって準備しておけば・・・」

 だが、覆水盆に返らず。後悔しても遅い。サンガンピュールは諦めムードの中で、時間が過ぎるのを待った。だが夜遅くになるとKが帰宅してくる。Kはまた怒って詰問するに違いない。しばらくして彼女は、手元に1000円前後しかないなけなしのお小遣いを使い、外出した。それで向かった先が、取手市のM夫妻の家だった。

 「あら、サンガンピュールちゃん、いらっしゃい。でも、どうしたの?」

 詩織がやさしい言葉で迎えてくれた。ドアを閉めた後、サンガンピュールは詩織に抱き着いた。そして小さな声でつぶやいた。


 「あたしね・・・失敗しちゃった・・・」

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