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第6章~暴走~

 居ても立っても居られなかった。

 「何とかしないと。絶対に許さない」

 サンガンピュールは感情のまま動き始めた。自分で自分をコントロールできなくなってしまった。悪い癖がまた出てしまった。


 4時間目の授業が終了した後、給食の時間になった。サンガンピュールは机の位置を班ごとの形態に変えず、そのまま教室から飛び出そうとしていた。その時、

 「あれっ、ゆうこちゃん、トイレ?」

 あずみにそう聞かれた。これに対して、

 「いや、なんか居ても立っても居られないの」

 そう答えるのが精一杯だった。とにかくじっとしていられなかった。彼女は給食の時間中に、戦闘服を入れたかばんを抱え、女子トイレの窓を通じて学校から飛び出してしまった。


 「あれ?塩崎は?」

 担任の森先生は、「塩崎ゆうこ」ことサンガンピュールの机上に給食が置かれていないことに気付いた。長谷川美嘉の机上にもないが、彼女については欠席連絡を受けているので問題はない。

 この日の給食は、スパゲッティ(ミートソース)、コールスローサラダ、ビンで出された牛乳というメニューだった。久しぶりの麺類ということもあり、待ちきれない生徒が多かった。

 「先生さぁ、塩崎のこと放っといて『いただきます』しようぜ!」

 ある男子がそう語気を強めた。主に男子が困惑気味だ。全員分の配膳は終わっているはずなのに、塩崎ゆうこ1人を待つせいで「いただきます」の号令がかからないのだ。この状況下であずみは

 「え~、みんな、ゆうこちゃんのことを待ってあげようよ」

 と提案したのだが、みんなは猛反発した。

 「これだから岩本は!」

 ある男子がそう吐き捨てた。

 「あずみって、いっつもこうだよね」

 別の女子が苦言を呈した。嫌味な言動が目立つ水山さゆりに至っては、

 「あんた1人だけで待ってな!」

 とバカにされた。挙句の果てには、また別の女子から

 「だからあずみは『幸せの王子』って呼ばれるのよ!」

 と呆れられた。確かにあずみはよく同級生や周囲の大人からそのように呼ばれる。元々はアイルランドの詩人、オスカー・ワイルドの子ども向け小説のタイトルだ。自分のことを犠牲にして他人を優先してしまう岩本あずみのことを皮肉ったあだ名である。

 配膳「完了」から5分経っても、塩崎ゆうこは教室に戻ってこなかった。時刻はもう12時55分。給食の時間自体がそろそろ終わってしまう。森先生がしびれを切らした。

 「もういい!『いただきます』をしよう!」

 そう宣言して、日直に号令をかけさせた。


 一方、何のアテもなく学校を飛び出したサンガンピュール。6月23日は夏至の翌日だった。まさに真夏の太陽が彼女を容赦なく照りつける。国道125号線沿いにある真鍋町にあるレイクタウンTVの本社へ走って向かった。だが現場には5、6台ほどの警察車両が来ており、規制線も張られている。サンガンピュールはその規制線を越え、警察による捜査現場へと侵入した。その際、知り合いの刑事である茂木の姿を見かけた。

 「茂木さん!」

 だが、現場検証で立ち話をしていた茂木はサンガンピュールの姿を視認すると、彼女の方を鋭い目つきで睨みつけた。その時、彼女の動きが止まった。


 「ここは部外者が入っていい場所じゃない!!」


 茂木がそう怒鳴ると続けて、

 「今すぐ出ていきなさい!そうしないと、公務執行妨害で逮捕するぞ!」

 大声で彼女に警告した。

 「何よ、ケチ!こっちだって、居ても立っても居られないのに!あの小鳥遊さんを殺した相手に復讐してやるんだから!」

 売り言葉に買い言葉とはまさにこのことだ。

 結局、茂木から命令を受けた部下の警察官がサンガンピュールを規制線の外側へ追い出した。


 自分の行動が、とてつもなく意味のないものと理解したのは、サンガンピュールが学校に戻る途中でのことだった。

 「・・・先生にまた叱られたらどうしよう・・・」

 そんな思いが、ますます彼女を常識外れの行動へと駆り立ててゆく。

 その日の彼女は、学校を無断早退したという扱いになった。

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