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第5章~殺人生中継~

 6月23日、月曜日の早朝7時。

 長谷川美嘉は眠い目をこすりながら朝食を取っていた。メニューは、近所のスーパーで買ってきた食パン。それにチーズ、ジャム、マーガリンがつく。美嘉は毎朝オレンジジュースを飲む。牛乳は「飲んだ後の後味が悪いから」と小学校6年生の時から飲まなくなった。この様子はひかり中学での給食の時でもそうだ。代わり映えしない毎日を象徴するかのような光景だった。

 美嘉はテレビのチャンネルをレイクタウンTVに合わせ、朝食そっちのけでテレビを見始めた。

 「こらっ!よそ見しながら食べるの、やめなさい!」

 こう厳しく注意するのは父親だ。生命保険の代理店で働く父は、普段から美嘉の生活態度には厳しい。

 「分かってるって!」

 大好きなはずの父親なのに、彼の一言にはつい反発してしまう。父から見れば、美嘉は難しい年頃の娘になっていた。

 レイクタウンTVに設定しているテレビ画面を見ると、小鳥遊彩華ではない別の女性キャスターが天気予報コーナーの司会を務めていた。この時間帯は生放送のニュース番組「おはよう茨城365」が放送されており、ちょうど7時10分頃の今の時間帯は、天気予報の時間だ。天気予報の司会を務めるのは、黄前葉月(おうまえ・はづき)。彼女もまたその局では人気のあるキャスターだ。

 「それでは、関東地方の天気です!」

 黄前が万人受けしそうな笑顔でそう伝えた時だった。


 「きゃあああああっ!!」


 生中継中に女性の悲鳴が響いた。

 「えっ、何っ!?どういうこと!?」

 テレビを見ていた美嘉は思わず目を白黒させた。食べていたジャムパンのブルーベリージャムが皿の上にこぼれてしまった。

 「ゲフンゲフン、・・・どういうことなんだ・・・?」

 父は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。

 「お父さん、今の、聞いた?」

 「うん、確かに聞いた」

 このように真剣な面持ちで父親と会話したのは、美嘉にとっては久しぶりだった。それほどの緊急事態がレイクタウンTVの内部で発生した。


 この瞬間、天気予報のコーナーは直ちに中断。黄前がカメラマンを連れて、悲鳴の聞こえた場所に向かっていくと、そこには一人の女性が胸から血を流して倒れていた。その光景に、美嘉は愕然とした。まさか倒れている女性は・・・。

 「えっ・・・あの人って・・・まさか・・・」

 不安が的中しないように祈る。だが、美嘉はもう見ていられなかった。見てはいけないものを見てしまった、という気持ちだった。

 「これは一体・・・」

 美嘉の父がそうつぶやいた。

 「パパ・・・」

 美嘉が今度はそうつぶやいた。腰を抜かし、今座っている椅子から動くことができなくなった。あまりに衝撃的な放送内容に、父を「パパ」と呼んでいた幼稚園児の頃の自分に戻ってしまったようだった。

 「パパ、助けて!」

 美嘉は一瞬にしてパニックに陥った。この瞬間、父は今日一日、美嘉を学校に行かせないことを決めた。


 血を流して倒れていたのは、当局の看板アナウンサー・小鳥遊彩華だった。この様子は生中継で茨城県全土に向かって放映されていた。小鳥遊はすぐさま救急搬送されたものの、搬送先の病院で死亡が確認された。


 サンガンピュールが異変に気付いたのは、その日の1時間目終了後のことだった。休み時間中に自分の携帯電話に市長室からの連絡で知った。

 あの小鳥遊さんが・・・。インタビュアーとしてあたしをおだててくれた小鳥遊さんが・・・事件に巻き込まれたなんて・・・。

 追い打ちをかけるように、さらなる衝撃的な情報が伝わった。


 同じレイクタウンTVの小尻プロデューサーが昨晩から連絡が取れず、安否不明とのことだった。だがその後すぐに、牛久沼の湖畔で遺体となって発見されたことが報告された。


 サンガンピュールは言葉を失った。最悪の結果だ。自分、それにKおじさんと関わった2人のマスコミ関係者が何者かによって殺された。やり場のない怒りや悔しさを感じた、初めての瞬間だった。

 サンガンピュールは「もどかしい」という気持ちを抑えつつ、授業を受けた。しかし、授業の内容は全く頭に入らなかった。

 何とかしないと。現場に出向かなきゃ。犯人を捕まえなきゃ。

 彼女としては、いても立ってもいられなかった。

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