第4章~直撃インタビュー~
いよいよインタビューの収録が始まった。小鳥遊が質問し、サンガンピュールが答えるという形で進行していった。現場にはカメラマンがおり、収録現場の裏方として小尻プロデューサーとKが様子を見守った。
Q.あなたの出自は?
→フランスのリヨンという町で生まれました。アルプスの麓にある、住みやすい町です。
Q.趣味は?
→サッカー観戦。お父さんから影響を受けた趣味で、フランスにいた頃はオリンピック・リヨンを応援していました。今は・・・鹿島アントラーズを応援しています。
Q.サンガンピュールはどういった立場なのか?
→土浦市長からの委託を受け、警察と協力して凶悪犯の身柄を確保するための協力者です。
Q.その超能力の源は何か?
→多分、雷を通して神様から「自分にしか使えない能力」として与えられたものだと思います。
Q.今のお義父さんと出会った時の彼の印象は?
→自分のことをとても気にかけてくれる人です。時には怒られることもあるけれど、新しいお父さんとしては大好きです。
Q.日本に来て一番苦労したことは何か?
→人との付き合い方。フランスと日本では何もかもが全く違うので最初は戸惑いました。でも今は自分を知りたがってくれる友達ができて、うれしいです。
他にも様々な質問が投げかけられたが、彼女が最も盛り上がったのは次のお題である。
「今まで一番大変だった任務は何ですか?」
「『すごく大変』というものはまだ無いけど、あるとすれば水戸で暴走族を一網打尽にしたことかな」
「どんなところが大変でしたか」
「水戸駅の北口で警察と協力しながら、40人以上もの参加者を一度に逮捕したんです。でもその時、バイクに乗っていたヤツらは赤信号や交通ルールの無視は当たり前。タクシーの前をわざと横切ったり、他の車に煽り運転をしたり、反対車線を通ったり、地面を金属バットで叩いたり・・・」
「それはそれは・・・大変ですねぇ・・・」
小鳥遊は思わず苦笑いをしてしまった。
「うん、だからあたし、ライトセイバーで一気に片付けちゃった」
「『片付けちゃった』というと・・・?」
サンガンピュールの目が次第にキラキラしてきた。
「それは、オートバイの車体やタイヤを、ライトセーバーで一気に切断して、走行不能にしたの!」
ものの見事に人間離れした技だろう。サンガンピュールはそうアピールしたかったところだが、小鳥遊はコメントするのを一瞬やめた。
「・・・あれ?」
サンガンピュールは雰囲気の変化に気付くのに鈍感だった。レイクタウンTVのプロデューサー・小尻が気まずい表情を見せ、「何とかしないと」と焦りの顔を浮かべている。Kも苦しい表情をしている。そんなことを暴露して良かったのか、と。一方で同席しているカメラマンは表情を一つも変えていない。
こうした雰囲気の中で小鳥遊は口を開いた。
「・・・こうして聞いていると、サンガンピュールさんは本当にすごいな、と思います」
「えっ!?」
驚いたのはサンガンピュールの方だった。
「なぜかと言うと、言葉が全く分からない、頼れる同年代の友達がいないという環境の下で、自分の力を信じて生活してきたわけです。私もアナウンサーになるためにたくさんの勉強を重ねてきました。なった後も幅広い分野の勉強をしてきました」
サンガンピュールは真剣な面持ちで小鳥遊の言葉を聞いていた。K以外の大人の言うことを真剣に聞いたのは、とても久しぶりだ。
「でも、私は大人になってから実行に移したことです。サンガンピュールさんは、まだ12歳。物凄い努力をされてるのではと思います。しかも、先月は市議会のことでもどうしたら良いのかと、大変な思いをされたかと思います」
「それは・・・」
ここで少しトラウマが蘇りそうになった。だが、
「あっ、ごめんなさい。辛いことを思い出させてしまいましたね」
小鳥遊は追及するのをやめた。これが大人の人心掌握術ではないだろうかとサンガンピュールは勝手に思っていた。
インタビューの収録は30分ほどで終了。出演の謝礼としてKに金一封と菓子折りが渡された。いよいよレイクタウンTVの本社事務所を退出する際、サンガンピュールは言った。
「小鳥遊さん・・・本日は、ありがとうございました!あたし、真剣な気持ちで『自分のこと、すごい』と褒めてくれる人に出会ったのは、初めてです。あっ、おじさんの次にね!」
「そうだったんですか、サンガンピュールさん」
小鳥遊はとびっきりの笑顔で彼女に応えてみせた。サンガンピュールは自分なりに小鳥遊彩華というアナウンサーの人間としての器の広さを感じていた。
「また、・・・チャンスがあったら、遊びに来てもいいですか・・・?」
このように質問したら、
「はい、もちろんです!」
と答えが返ってきた。
時刻は14時を過ぎ、サンガンピュールとKは、インタビューの模様が放送される日を楽しみに待つことにした。放送されるのは2週間後のことだそうだ。
2週間後。6月21日、土曜日。16時55分。
サンガンピュール(塩崎ゆうこ)、岩本あずみ、初台春、長谷川美嘉、今田愛美の5人があずみの家に集まっていた。レイクタウンTVでのサンガンピュールのインタビュー番組を見るためだった。ただし、この時点ではサンガンピュールと塩崎ゆうこが同一人物であることは、一部の関係者以外は誰も知らなかった。そのため、実現に至るまでは紆余曲折があった。自分の正体を隠しながら、自分のインタビュー番組を見るというのは難しいことだった。結局、クラスメイトの塩崎ゆうことして、あずみに懇願する形となった。
17時。レイクタウンTVによる情報番組「ゆうがた茨城365」が始まった。最初の10分間は茨城をはじめとする関東地方のニュースや、茨城県内の商業施設のお得な情報、地域のイベント情報が流された。
17時10分。いよいよ、サンガンピュールのインタビューの模様が放映された。インタビューは5分ほどに編集されていたが、彼女の想いは曲げられずに伝えられていた。
「きゃあ、ちっちゃくて可愛い!」
そう歓声を上げたのは、愛美だった。
「ほんと、お人形さんみたい!」
そんな感想を言ったのは、春だった。
「サンガンピュールって、こういう子だったんだ!」
美嘉は「町の平和を守る魔法少女」の意外な姿に驚いていた。
そしてあずみはというと、
「ふぅ~ん・・・」
と一呼吸置いた後、
「・・・どこかで見たことあるような・・・」
と思わせぶりなことを言った。サンガンピュールは一瞬ギクッとしたものの、あずみは
「まっ、いいか」
と追及するのを止めた。
だがその一方で、
「へぇー、これがサンガンピュールって子なんだぁ」
サンガンピュールはテレビに映っている自分の映像を見て、わざとらしく発言した。「サンガンピュールという魔法少女なんて知らない」という設定の女子中学生を演じるのは、少し苦しかった。
三者三様ならぬ、五者五様の捉え方だった。