第16章~敵の襲撃~
7月10日、木曜日の夜7時過ぎ。
彼女はポテチを食べながらKの帰りを待っていた。だが表情は少しばかりにこやかだ。定期テストの成績が少しばかり上がっていたのだ。特に国語はKが応援してくれたためか、漢字テストは1問以外は全て正解していた。記号問題もかなり正解できていた。記号となると運も必要な箇所もあるが、今回はとても運が良かったのだろう。
今度はテレビでも見ようかな。そう思って、食卓の椅子から立ち上がり、ソファへ移動しようとしたその時だった。
ガシャーン!
すぐ近くでガラスの割れる音がした。すぐ後ろ隣だ。1人の覆面の男が、大胆不敵にも1階の居間の窓ガラスを割って侵入した。右手にはサバイバルナイフを持ち、それを自由に振り回している。
サンガンピュールは本心から、命の危険を感じた。インタビュアーを務めた小鳥遊さんが殺されたのに続き、今度はインタビュー対象者である私が殺されるのではないか。
覆面の男は右手にサバイバルナイフを持ち、彼女を襲った。無言で凶器を振り回している分、怖さが数倍増しているようにも感じた。それでも彼女は135cmという身軽な身体を活かし、相手を翻弄していく。その際、偶然にも食卓に三ツ矢サイダーのペットボトルが置いてあるのを視認した。彼女はそのペットボトルのふたを開け、男に液体をかけた。
「うっ!・・・め・・・目が・・・」
ここで覆面の男の声を初めて聞いた。ひるんでいる隙に彼女はキックを男の右手に一発入れた。これでサバイバルナイフを落とした。続けて二発目のキック。これが回し蹴りだった。男は一気に体勢を崩し、後方のソファへ頭を突っ込んだ。そして、ソファーテーブルに後頭部を直撃させた。襲撃を受けてからわずか15秒ほどの出来事だった。
「ああ・・・あああ~・・・」
後頭部にダメージを負ったせいか、覆面の男はすぐに立ち上がれない。
彼女は男の目出し帽を奪い取った。その際、サンガンピュールは、
「あっ・・・あんたは・・・」
と続けたものの、
「誰?」
ただ、どこかで見たことあるような・・・。どちらにしても思い出せなかった。と、ここで顔を知られた覆面の男は
「こうなったら仕方がねぇ」
と腹をくくったような一言をつぶやいた。
「ニュートリノの戦士の、お出ましだ!」
「・・・ニュートリノ?」
彼女は理解が追い付かなかった。と、その時だった。粉々のガラス片が散らばる居間に、一体の大きな怪物が現れた。
「何なの、これ!?」
サンガンピュールが驚愕している間に怪物は軽々と侵入した。その直後、
「我は世界の真の平和を守るニュートリノの戦士、ガンガルー!」
その怪物は不気味な声を発しながら、自身をガンガルーと名乗った。身長は190cmほどで、黄色い皮膚。ワニのような顔つき、ワニのような鋭い牙、ウサギのような大きな耳、そして一見するとカンガルーのような胴体をしていた。
今まで無名の犯罪者ばかり相手にしてきたサンガンピュールにとっては、こんなの見たことない。どうしたら良いだろうか。一瞬、迷った。
こんな時こそ、彼女の最大の武器、ライトセーバーの出番だ。スイッチを入れ、赤く光る刃を出した。それだけで相手に対して威圧感を与える代物だ。最大の武器を両手で握りしめた彼女は覚悟を決め、ガンガルーに立ち向かった。
「グオオオオオッ!!」
ガンガルーは雄叫びを発しながら右手を差し出した。続いて左手からのストレートパンチが飛んだ。彼女は両方ともよけることができた。すぐ後には、右腕による強烈なエルボー。これは剣で食い止めた。その直後、
「たああっ!!」
ライトセーバーを思いっきり怪物のお腹に向けた。
ブスリ!
怪物のお腹を貫通させることに成功した。そしてそのまま、右側へ薙ぎ払った。
ガンガルーは左わき腹から大量出血。一気に体勢を崩し、そのままフローリングの床に倒れ込んでしまった。するとその直後、ガンガルーの巨体が光りだした。
「まずい・・・逃げるぞ!」
ここで、覆面を被っていた男が立ち去ろうとしていた。だがサンガンピュールが右手から念力を発動させた。
「う・・・か・・・身体・・・が・・・うご・・・か・・・ない・・・」
「あたしをナメてもらっちゃ困るよ!」
そうこうしている内にガンガルーの巨体から発せられる光は大きくなっていった。そして、
ドカン!
ガンガルーは爆発した。そしてその跡には、一人の少女がうずくまっていた。
「・・・どういうこと!?」
サンガンピュールが状況を呑み込めないのは、当然のことであった。