第14章~心の安らぎ~
サンガンピュールはとにかく待った。自分を褒めてくれた恩人を殺害した奴のことを絶対に許さない。そのような想いばかりが空回りしていた。ただテレビ局内での殺人事件となると事態は複雑になる一方だ。市長の個人的なSPにすぎず、喧嘩っ早い彼女が介入すれば、事件の全貌の解明はむしろ遅くなってしまう。
「悔しいという気持ちは分かる。ただ、今はとにかく待とう」
Kは彼女にそう伝えた。2人ともまずは茂木をはじめとする警察の捜査の進展を待った。サンガンピュールは7月7日~9日にかけて期末テストを控えていた。連休となる6月28日(土)、29日(日)。Kは昼前から夕方までサンガンピュールのテスト対策の勉強に付き合った。特に国語はフランス生まれの彼女にとっては分からないことだらけだ。Kが親身になって彼女に勉強を教えるのは、日本に来たばかりの頃以来のように見えた。サンガンピュールも自身の心のモヤモヤを、テスト対策の勉強をすることで晴らそうとしていた。
7月9日、水曜日。3日間に亘る期末テストが終了した。
「はぁ~・・・やっと終わったよ・・・」
最後の科目までしっかりと「塩崎ゆうこ」と氏名欄に書いて、答案を提出できた。自分のやることは全てやった、という気持ちだった。
「お疲れ、ゆうゆう」
長谷川美嘉が返事をした。そこへ、
「最後まで余裕だったかなぁ」
ここで介入したのは岩本あずみだった。
「そりゃ、あずみんにとっては余裕だと思うよ。最後に残ったのが英語なんだからさぁ・・・。うちはボロボロだもん」
「美嘉ちゃんもゆうこちゃんも、お疲れ様!」
「うん、ありがとう、あずみ」
お互いをねぎらい合った。
最終日とはいえテスト期間だったため、早い時間帯に帰宅できた。サンガンピュールはキッチンの冷凍庫から冷凍チャーハンを取り出した。レンジで加熱し、お皿に盛り付けて食べていた。フランスではそういった食習慣は全くなかった。手軽になった反面、実の親が作ってくれたご飯の味を思い出しそうになる。
「・・・もう2年前かぁ。お父さんとお母さんが死んじゃったのは・・・」
そのようにつぶやいた後、
「なんであたしだけ・・・」
目を閉じ、下を向いてしまった。
気を紛らわすために、テレビをつける。適当にNHKにチャンネルを合わせた。時刻は午後1時。朝ドラ「こころ」の再放送が終わり、NHKニュースが始まった。その直後、サンガンピュールの目の色が変わった。
「先月、茨城県内のケーブルテレビ局でアナウンサーら2人が殺害された事件についてです。今月になって別の事件で逮捕された男が、アナウンサーを殺害した実行犯と面識があることを明かしました」
「・・・どういうこと?」
サンガンピュールは一気に目がテンになった。
「今月に入り、宮城県内で詐欺容疑で逮捕された男が、2人が殺害された事件の実行犯と面識があることを明かしました。男によると、同じ組織に所属しており、以前はお互いに連絡を取り合う仲だったと語っており・・・」
やっぱり、今回は待って正解だった。レイクタウンTV局内での殺人生中継から16日。事態は急展開を迎えた。