第13章~チャンスを待つ~
サンガンピュールは心の落ち着きをとりあえず取り戻した。Kは年度途中の異動を直訴した。ひとまず2人ともやるべきことはやったという面持ちだ。
さて、レイクタウンTV・アナウンサーの小鳥遊彩華と同局プロデューサーの小尻勇太が6月23日に遺体で発見された事件についてだ。事件発生から2日が経ち、報道でも次第に詳細が伝わってきた。2人は他殺である。小鳥遊の死因は、何者かによりナイフで執拗に刺された末の失血死。彼女はレイクタウンTVの局内で、しかも朝の生放送の真っ只中に発見された。これに対し、小尻は顔を水につけられた上での窒息死で、遺体は牛久沼の湖畔で発見された。
6月27日、金曜日の夜9時過ぎ。
サンガンピュールとKが2人で夕食を取っていた。仕事の都合上、Kが帰宅するのはとても遅い。これは土浦から原宿までを毎日通勤しているのでいつものことだ。彼女はこの状態には2年間ずっと慣れっこだった。
2人はテレビをつけながら夕食を取るのが習慣になっている。
「それでは、次のニュースです。今月23日に茨城県土浦市で発生したケーブルテレビ局内での殺人事件について、殺害された2人の告別式が営まれました。
殺害されたのは、ケーブルテレビ局・レイクタウンTVでアナウンサーを務めていた小鳥遊彩華さんと、同じケーブルテレビ局のプロデューサーだった小尻勇太さんです。土浦市内の斎場で告別式が執り行われ、100人ほどの弔問客が訪れました」
弔辞を読んだのは、後輩アナウンサーの黄前葉月だった。彼女は、小鳥遊の遺体の第一発見者だ。
「・・・私たちは、先輩たちと出会えたことを忘れません。小鳥遊さんと出会えたことを誇りに思います。・・・それだけに・・・突然、こんな形でお別れしなければならないなんて・・・」
弔辞を読む黄前は、今にも泣き崩れそうな様子だった。
その中でサンガンピュールは、テレビで2人が殺害された事件の報道を見るたびに悔しさを感じる。日本に来て以来、これほどまで犯人に対して怒りと、事件を止められなかった悔しさを感じた事件は初めてだ。
「・・・何か言いたそうだね」
サンガンピュールはKから発言を求められた。
「そうよ!」
ここぞとばかりに彼女はまくし立てた。
「あたしは事件の解決に貢献したいって言うのに、市役所の人たちは何も教えてくれない!」
「まぁ、事件の捜査は警察の仕事だ。市役所の仕事じゃないからな」
Kは冷静に突っ込んだ。一方で彼女の愚痴は止まらない。
「警察の人だって、あたしは現場に行ったのに追い返した。信じらんない!」
だが実際、警察からは何の情報も届かなかった。Kの同級生である茂木刑事に追い返されたことを相当根に持っているようだ。
「・・・そうだろうね」
Kは詩織さんから言われていた。女の子に対しては、まずは共感してあげること。解決策の提示は求められていない、と。
「もどかしいよね」
「そうだよ、どうしたらいいか・・・」
サンガンピュールは、また何を言うべきか分からなくなってしまう。ここでKがアドバイスを言った。
「市長室に聞いてみたら?」
その手があったか。今更ながらその手があった。彼女は自分の携帯電話で土浦の市長室へ電話をかけた。しかし
「市長はもう帰られました」
時刻はもう午後9時半。しかも金曜日の夜遅くであることを考えると、市長と連絡が付かないのは致し方無いことであった。そもそも彼女は土浦市長の個人的な「SP」だ。サンガンピュールは一旦電話を切った。
これに対し、Kは一言彼女に伝えた。
「今日はもう遅いし、また明日にしようよ。明日になれば、また違う局面が見えてくる」
「・・・」
「サンガンピュール、まずはチャンスを待つんだ」