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第11章~Kの自問自答~

 夜遅くになって、KがMの家に寄ってきた。サンガンピュールを引き取るためだ。今年(2003年)になって、取手に寄るのは何度目になるだろうか。Kにとってこれほどまで兄夫婦に頼ったのは初めてかもしれない。だが裏を返せば、Kの保護者としての力量が疑問視されていることになる。

 遅い夕食をいただいている最中、Kは詩織からサンガンピュールのことについて報告を受けた。


 「そんなことが・・・」

 Kは絶句した。この年の春にイラク戦争が勃発した時に、サンガンピュールがアメリカに対して敵意を見せたのは覚えている。だが、Kは彼女の負の側面だとか心の闇といったものを全く知らなかった。一番近くにいた大人なのに。

 「誤解を恐れずに言うと、あの娘は近々『壊れ』ます。あの娘は自分の感情をコントロールできないでいる。ストレスをどう発散したら良いのか分からない。自分の悩みを分かってもらえず、苦しんでいるように見えました」

 詩織はこの日一日のサンガンピュールの動きを見て、単刀直入にKに伝えていく。

 「壊れる・・・」

 「そう、このままだと近々『壊れる』わ。最近だと『キレる』という言葉が適切かしら」

 詩織の脳裏には、長男・稜のクラスメイトの姉(中学3年生)の話があった。彼女は大人への不信感だとか「これ以上相談しても無駄だ」という絶望感から、カッターナイフを中学校に持ち込んだ。持ち物検査で発見され、カッターナイフを取り上げると「返せよ!」と激しく抵抗したそうだ。その際は先生たちに取り押さえられたが、現在は保健室登校が続いているそうだ。そんな彼女の姿を、サンガンピュールの今日一日の過ごし方と重ねていた。

 「確か、2年前だったわね」

 「そうです、2年前です」

 Kがロンドンでサンガンピュールを引き取り、土浦で一緒に生活してから2年が経過しようとしていた。月日が経つのは早い。サンガンピュールは「塩崎ゆうこ」という日本名を与えられ、学校に通いだした。一方でKはどうだ。見知らぬ国に来てどうしたら良いか分からないあの娘を導けているだろうか。・・・答えはノンだ。特にあの娘が中学に入学して以降、彼女の心のSOSに気付いてあげられただろうか。今のKにはこの問いに対して自信を持って「はい」と答えることができなかった。

 Kはあるおぞましい事件を思い出していた。1998年に栃木県黒磯市(当時)のある中学校で男子生徒が女性教師をバタフライナイフで刺殺した事件だ。確か報道によると、原因は女性教師の度重なる注意・指導に対して男子生徒がキレたため、と言われている。まさかとは思うがサンガンピュールも近い将来、あの加害者のようになってしまうのだろうか。一気に寒気を感じた。


 その日の晩はMにお願いして、自分たちを土浦の家まで送ってもらった。多忙化する仕事を逃げ道にして、彼女と向き合うことから逃げていたのではないか・・・。Kはもどかしさを感じていた。だったら・・・、仕事であの事を願い出るしかないだろう。

 次の日からは、サンガンピュールを通常通り登校させる。その一方でKは職場の上司に対して重大な決意を伝えようと決めた。

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