東大陸での決闘
久々に着た東大陸。
暗黒の森に辿り着くが…
襲撃してきたロペを難なく撃退し、ヒョウ達の元を離れたユート達はすぐに東大陸に向かった。
目的地は東の大地【イーガス】の、大陸中心地にある”暗黒の森”という場所。
時間があればアーカニアの村や、リザードマンの集落に寄ってい行きたいが、先に用事を終わらせてからにしようという事になった。
空の旅は相変わらず順調ですね。
数体のエルダードラゴンと遭遇したけど、へカティアとディアナが危ないよ〜って話しかけたら、暫く周りを護衛してくれた。
知能が高く、彼女らの祖父の支配下にある種族は襲ってこないのだという。
逆に若くて知性がまだ低いと無謀にも襲ってくるので、その時はお肉に変わるだけと言っていたが。
そんな訳で、勝手に護衛がついたので余計な邪魔が入らずに済んだ。
ただ困った事に、現地に着くと森全体が黒い霧に包まれていて中に入る事が出来なかった。
進めないわけでは無いが、無理をして墜落でもしたら大変な事になる。
同じ物を建造するには、今度は材料集めからしないといけないので一ヶ月は掛かるだろう。
しかも、手伝ってくれる船大工がいてやっとそのくらいだという。
「これだけ視界が悪いと、何が起こるか分からないし仕方無いか」
「ああ、こんなとこで墜落でもしたら帰れないぜ?手前にある平野に停泊しようぜ」
ガントの言う事も尤もなので、素直に飛行艇ウラノスを下ろした。
あたりは草原で長閑な風景だ。
目の前にこの暗黒の霧が立ち込めて居なければだが。
隠れる場所が無いせいで凶悪な魔物も生息しておらず、草食の野生動物がいるくらいだ。
それを狙う肉食獣くらいはいるだろうが、俺らにとっては脅威にならないし、彼らは基本臆病なのでわざわざこんな大きな建造物に近付こうとはしない。
「ここからチームを組んで中を探索するしかないですね」
「そうだな。しかし、魔物がいないとはいえ、ここも魔族領だ。近くに町もあったはずだし、ウラノスの護衛は必要だな」
カイトと方針を決めるため話をしていると一人の女性が近づいてきた。
「今回は私が付いていこう。護衛にはカイト達に任せたい」
「セツナか。やはり中は危険か?」
「そうだろうな。LBOの時はあの森にはSランクの魔獣が出たはず。同じくらいの難易度だと想定した方がいいと思う」
何を隠そう、LBOの時はこの森にはニケの同族であるファルコニアが普通に出てきた。
勿論エリアボスでは無いので劣化版となるが、それでも十分な脅威度の魔獣だ。
しかもそれが複数出るのだから、生半可な戦力で行くと痛い目に合うのだ。
俺も前に来たことがあるが、育っていないニケと同格だったので回復しないとやられそうになったくらい強い。
危なくなって逃げた事もあるくらいだ。
そうなるとメンバーは決まってくるか…。
俺と聖女の3人は行かないといけないから、それ以外だとセツナとセリオンのコンビ。
それにカルマ、ニケ、ディアナ、へカティアとなる。
ピューイも今回は危険なのでお留守番とし、代わりにクロを連れて行くことにした。
クロはフェンリルに進化したおかげで、Sランク魔獣になっていた。
カルマと同じく姿を変えることが出来て、普段は前の姿でいる事が多い。
カルマ曰く、『コツさえ掴めば出来て当然だ』と言う事らしい。
未だにカルマとクロの主従関係は変わらないみたいで、逆らう事は叶わないようだ。
残るメンバーで、ウラノスの護衛と周辺の調査ということになった。
近くの町にもメイアが探りを入れることにしている。
なにせ、彼女は鬼族なので魔族である住民に俺等よりは警戒されにくい。
勿論万が一敵意を向けられるようなら、直ぐに逃げろと伝えた。
場合によっては、俺らを置いてウラノスを浮上させて良いとも付け加える。
まぁ、こっちは飛べる奴が多いから問題ないとの判断だ。
勿論一人では行かせない。
護衛にはニクスをつける事にした。
ニクスも人化する事が出来るので、二人でいても違和感は無いはず。
いざとなれば、フェニックスに戻りメイアを乗せて飛んで帰ってこれるし、戦闘になってもそこらの魔族では敵わないくらい強いので心配は無いはずだ。
やり過ぎると町が燃えて無くなるので、町中では暴れないように釘を刺しておいた。
冗談抜きで町が消失するからな…。
その日は段取りだけ決めて船内で一日を過ごし、明日の朝から各自行動する事にした。
特に夜に何かがやってくるでもなく、朝まで平和に過ごす事が出来た。
流石に船の中にお風呂を作る事が出来ないので、入る事が出来ないのだけど、なんとシャワー室を取り付ける事が出来たらしい。
これも魔力でお湯を作る仕組みは一緒で、寒い冬でも暖かいシャワーを浴びれるので、とても快適だ。
流石にスペースの兼ね合いもあり、3基しか付けれなかったがそれでも十分だった。
シャワー中はお世話兼、防犯の為メイアが付き添っているので良からぬ事を考える奴は居なかった。
万が一そんな事をしたら、本当の意味で命がけになるだろう。
翌朝、朝食を取るために食堂に来るとデッキの方が騒がしい。
何やら船員が慌てているようだ。
「どうした?何かあったか?」
「あっ、ユート様!大変です、魔族の大群がこちらに押し寄せてきています」
「はあっ!?なんだって」
船員が使っていた単眼の望遠鏡を借りると、確かに遠くの方から地平線一杯の魔族らしき大群がやって来ている。
「急いでウラノスを浮上させる。警鐘を鳴らせ!」
「畏まりました!」
船員は慌てて緊急用の警鐘を鳴らした。
まだ部屋にいるメンバーもいたので、緊急事態だと知らせる為だ。
俺は急いで操舵室に向かった。
そこにはカルマが既に来ていて、ウラノスの浮上をさせるところだった。
「主よ、朝から騒がしいことになったな」
「ああ、なんだってあんな大軍が来たんだ?」
「見知らぬ飛行物体が急に平原に現れたので、新種のドラゴンでも来たのかと討伐部隊でも寄こしたんでしょう」
「そんなバカな。いくらなんでも、先に斥候を送るだろう?」
「きっと、居たんでしょうな。しかし、我も気が付かせないとは中々腕のいい斥候のようです。用心したほうがいいでしょう。…が、送ってきた戦力は数ばかりで大したことは無い。主の僕である我らが少し暴れてくるのがいいでしょう」
「お前達だけで?確かに、広範囲の攻撃も得意だろうが…。あまり殺すなよ?勘違いしているだけなら、穏便に済ませたい」
「心得てます。我とニケ、ディアナにヘカティア、それにクロで出ます。クロも少し体を慣らした方がいいでしょうし」
「分かった、無理はするなよ?」
「ふふ、心配不要です。では、ウラノスの操縦は任せました。我らは向かい討ちます」
「ああ、頼んだぞ」
───
飛行艇ウラノスが上空に退避したころ、地上には平原を埋め尽くさんばかりの獣人たちがいた。
獣人達は飼い慣らした魔獣達に乗っているものや、魔導士のように杖を持っているもの、槍を持った歩兵など様々な兵を並べている。
ここは魔王の中でも武闘派である獣王ラーザイアの領地である。
この東の大地は、各地で戦争が勃発しており未だにお互いの領地をめぐって争いが耐えない。
そんな中に現れた巨大な空飛ぶ何かを検知しない訳は無かった。
もちろんそんな事情は人間側の世界に住んでいるユートにはあずかり知らぬところであるが。
「なんだ、あの空飛ぶ船は?!あんなデカい物が空を飛ぶのを初めて見たぞ。もしや、クロノスの差し金か?」
「さすがのクロノスも、あんな建造物は作れないんでは…?もしかしたら、中央の魔王かもしれないですよ?」
「なるほど、あの者達は金があるからな…。あんな化け物みたいな船も作れるかも知れんか…一先ず、鹵獲したいな。ファルコニア部隊はいつ頃到着する?」
「すぐにでも到着するでしょう。数は100騎ほどですが、過剰戦力でしょうね」
「念には念をいれんとだよ。魔王自身が来ているとは思わぬが、それに相当するものがいるかもしれない」
獣人の将軍であるレオルドは、その実力もさることながら用心深さでも有名であった。
そのため、ここまでの手を打っても誰も文句は言わない。
そうやって、これまでいくつもの戦果をあげてきているからだ。
そんな時だった。
空飛ぶ船から5つの影が降りてくるのが見えた。
「敵影です。数は5つ。敵は…ファルコニアとナイトメア?それと大型ドラゴン2体に大型魔獣が1です!」
「魔獣ばかりを5体か。やはり中央の魔王の手先か?しかし、指揮官がいないのは何故なんだ?油断するなよ?総員戦闘態勢!」
レオルドの号令に合わせて全兵士が武器を構えた。
急降下してきた魔獣達は地面に急降下してきた。
着地と同時に轟音が…起こらなかった。
すべての魔獣が、直前でふわりと浮き上がり静かに着地した。
ドラゴンはまだ分かる。
しかし、羽根の生えたナイトメアや、空中で静止する狼のような魔獣など見たことが無い。
全員に緊張が走る中、その中で異様な魔力を発するナイトメアが言葉を発した。
「全員に告ぐ、大人しく降伏もしくは撤退すれば危害は加えない。しかし、抵抗するようであれば容赦はしない。賢明な判断をすることだな」
「魔獣風情が舐めた口を利く!貴様こそ、この場で命乞いすればペットくらいにならしてやらんことも無いぞ?」
レオルドの副官が挑発気味にカルマにそう返答する。
しかし、ナイトメアことカルマは冷静に冷徹に告げるだけであった。
「それが答えか。大人しくひれ伏せなかった事を這いつくばって後悔するがいい。…グラビディフィールド」
レオルドの陣地のおおよそ半分を魔法陣が包み込む。
次の瞬間、強力な磁場が発生し殆どの者が地面に這いつくばる。
そして、それが合図となり戦闘が開始された。
動けなくなった味方を迂回しつつ、左右からレオルドの軍が一斉に襲い掛かってくる。
それを向かい討つように金と銀のドラゴンが立ちはだかった。
『さあ、私達に傷つけれる者はいるのかしら?ね、ヘカティア』
『どうだろうね~。あ、どっちが多く倒せるか勝負だよディアナ。なるべく殺すなってマスターの命令だからね?』
『消滅させる方が楽ですのにね。しょうがないです。さあ、始めましょう!』
殺傷力の高いブレスは使わずに、金と銀のドラゴンは兵士たちを尻尾で吹き飛ばし、広範囲魔法を使って相手を無力化していく。
風魔法により切り裂き、氷魔法により足を凍り付かせ、爆炎により吹き飛ばす。
殆どの兵士は成す術も無く蹴散らされていく。
「なんて化け物どもだ!ファルコニア部隊はまだか!?」
「もうすぐです将軍!・・・来ました!」
その時だった、高速で飛翔してくるファルコニア達。
その背中にはランスやロングソードを装備した騎士たちが騎乗していた。
「よく来てくれた!頼んだぞ、エレン騎士隊長!」
「お任せください!皆、行くぞ!」
白い鎧を着た騎士達が色とりどりのファルコニアに乗り、カルマ達に強襲する。
しかし、彼らを待ち受ける者がいた。
『この先には行かせませんよ』
辺りを眩い光を放ちながら、稲妻が彼らに襲いかかる。
「ぐあっ!!」
「があっ!!」
稲妻は狙ったかの様に騎士達だけを穿ち、地面に落としていく。
無防備に地面に落とされた騎士達は抗う事が出来ずに、そのまま気を失った。
しかし、悪夢はまだ続く。
なんと、主を失ったファルコニア達がその者に付き従っているのだ。
『私の声が聞こえるか!私は嵐の大精霊の化身であり、ファルコニアの女王のニケです。さぁ、私の眷属達よ私の力となりなさい!』
ニケが二対の翼を広げてそう言うと、ファルコニア達が騎士達に攻撃を仕掛けた。
さらにまだ騎士を乗せているファルコニア達も、乗せている者を放り出した。
あちこちから、うあ〜と悲鳴と共に騎士達が地上に落とされていく。
彼等はものの数分で、たった一人を残して全滅するのだった。
「な、なんだ?!一体何が起こっているんだ!?俺は悪夢を見ているのか?」
エレンは必死に自分の相棒を抑えて、なんとか留まっていた。
本の数分前までは、こちらが百の相手が一体だったのが、逆になっている。
百体のファルコニアに襲われればひとたまりもない。
『命は穫らない。投降しなさい』
「くっ、何という屈辱…」
エレンは戦うことすら出来ないまま、ニケに投降するのであった。
「くっくっく、あっはっはっ!」
その光景を見てあろう事か大笑いしている者がいた。
それは将軍と言われた、この軍の総大将レオルドである。
「しょ、将軍?」
「見たかあれを。たった一瞬で虎の子のファルコニア部隊が無力化されるどころか、相手にファルコニアを奪われるだと?しかもよく見ろ…」
レオナルドが指し示す先には呻く兵士達や騎士達がいる。
どうやら皆生きているようだ。
「あそこまでやって、全員生かされている。分かるか?我らは手加減された上で負けたのだ。完敗だよ」
自ら負けたと言っているのに、武器を持って前に進むレオナルド将軍。
副官が止めようとするも手で制す。
そして小声で、『撤退の準備をしろ、俺が時間を稼ぐ』と。
彼は暗に、このままでは本当の意味で全滅すると言っているのだ。
馬鹿では無い副官はそれを察して、苦渋の表情を浮かべながらも素早く伝令を飛ばすのだった。
「俺は、この軍の総指揮官レオナルドだ!お前達で、一番強いのは誰だ!俺と一騎打ちで勝負をしろ!!受けないのであれば、お前達の大将は腰抜けだと言っている様なものだがなっ!」
かなり勝手な言い分を述べつつも、誰が出てくるか待ち構えるレオナルド。
副官はスムーズに兵を引かせ始めた。
これなら、何とか半数は帰れるだろう。
…自分の命と引き換えにだが。
「随分、勝手を言っているな。だが、一人で前に出て来た大将をそのまま帰すのは偲びない。我が相手をしてやろう」
そして、真ん中にいたナイトメアが目の前にやってきた。
よし、こいつはあの兵を動けなくした奴だ。
こいつが俺に集中すれば撤退の確率はぐんと上がるはずだ。
「貴殿の名前を聞いてよいか?」
「そうだな。名乗ってやろう。我が名は、カルマ。そして、その勇気に免じて全力を見せてやろう」
そう言うと、カルマは闇の大精霊の姿になった。
放つ魔力であたりの空気がピリピリとする。
「カルマだと…?何処かで聞いた事が…人に変化した!?その姿まさかっ!!」
「では、始めよう。そして、さようならだ」
右手を翳したと思うと、あたり一面に魔法陣が浮かび上がる。
その数は、数えるのが面倒な程だ。
魔法陣が一斉に光った瞬間、レオナルドの意識は途絶えるのだった。
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