冒険者の町、サニア。
ケルベロスが支配する塔を攻略し、ついに新しい町へと到着したユート達は、ギルドへ向かいます。
やっと最初の町、サニアの町についた。
サニアは西大陸の中では、辺境にあるにも関わらず、冒険者が多いことで有名な町らしい。
理由としては、さっきまでいた地獄の塔がだったり、掘りに行った鉱山だったりが冒険者に人気のダンジョンだからだ。
他にも廃墟になった旧王都の城とか、その地下に作られた迷宮とか、沢山のダンジョンがある。
難易度もランクC~Aまでを対象としていることが多く、比較的裕福な冒険者が集まることもひとつの要因となっている。
そのため、ここのギルドも支部の割には立派な建物になっていた。
俺たちは、まず先ほどの依頼の結果とついでに、地獄の番犬ケルベロスを討伐したことを報告しようと思いギルドへ足を運ぶことにした。
ギルドへは、俺とガント、シュウとリンの4人で来た。
同行していたライとサナティは、途中すれ違った仲間を迎えに行ったので、報告はあとで自分たちでするようだ。
別れる前に、おススメの宿屋も教えてくれた。
後ほどその近くの酒場で合流する約束をして、見送った。
厩舎に他のペット達が転送されてくるのは明日の予定なので、厩舎も明日でいいだろう。
一応、宿屋にも馬小屋があり、魔獣達をつないで置ける場所がある。
ギルドへ到着した。
ここは町の中心地でもある。
中に入ると、夕方なのもあり報告に来ている冒険者がわんさかいた。
一通り見渡して見たが、俺もガントも知っている冒険者はいないようだった。
早速、報告するためにギルドの受付カウンターへ行く。
ヘルキャットの巣では素材は灰になってしまったが、その前に入口付近で倒した数だけで20匹くらいにはなっていた。
当然素材は回収してあるので、リンとシュウが報告するのには問題ない。
「あ、リンちゃんシュウ君お帰りなさい!もしかして、もう終わったの?!」
ギルドの受付嬢らしい女性が、二人を見つけて駆け寄ってきた。
二人がまだ幼いこともあり、心配してたのだろう。
「はい、ミルバさん、こんばんわ!こちらのユートさんとガントさんに手伝ってもらって、なんとか終わらせることが出来ました」
リンとシュウには今後の依頼に影響が出るので、罠に誘い込まれて死にかけた事は伏せておくように言っておいた。
いわゆる処世術というやつだ。
生きるためには、綺麗ごとは置いておくのも必要なことだ。
「あなた方は、…初めて見る方ですね?ギルド登録されている方で?」
ミルバは、ユートを値踏みするように見てくる。
だが、そんなことはお構いなしにさらっと答えた。
「昔に登録したはずなんですが、しばらく更新してなかったので…再度登録してもらい直そうかと思って来たんですよ」
爽やかな笑顔で答えた。
ガントの胡乱な表情は強靭な精神力でスルーだ。
「あと、こっちのガントも同じく登録し直してくれ」
ガントは驚いた表情でこっちを見てくる。
そういやガントにはカルマから聞いてる、この世界の事については話してなかったな。
リンとシュウにも話を聞きたいし、あとで飯でも食べながら話をしよう。
「お前もコッチじゃ、登録情報が古いはずだ」
取り敢えずやってみれば分るよと言いながら、ミルバに案内させた。
「リン、シュウ。ちょっと登録しなおしてくるから、報酬受け取っておいてくれ。終わったらそこら辺にいてくれ」
「はい、分かりました!」「りょうかーい」
と、二人から返事を貰ってから、奥の登録するための部屋へ入っていった。
二人とも同じパーティーということで、同時にやることになった。
一応拒否すれば同席出来なく出来るが、ガントに知られて困ることは特にない。
「では、始めますね。右手のステータス紋をこの魔法のプレートにあてて、魔力を込めてください」
まずは、俺からやる。プレートにてを添えて魔力を流し込んでいく。
そうすると、ギルド職員の目の前にあるプレートに文字が浮かび上がっていく。
「ええと…ユートさんのステータスは…え??これ、本当!?」
「何か、問題でもありました?」
「いえっ。評価ランクSって出てるんですが…」
「はい、その通りですけど?」
ミルバは、え?って顔で止まっていた。
「だから、Sランクのテイマーなんですけど?」
えええっ!!と、その場にいた職員全員が叫んだ。いちいち大袈裟だな。
ちなみに、表示されたステータスは以下の通りだ。
【基本ステータス】
名前:ユート 年齢:41歳 性別:男
ランク:Sランク 職業:調教師
HP:1800
MP:1500
SP:1400
STR(腕力):600
VIT(生命力):600
INT(知性):500
SPD(俊敏性):300
MGC(魔力):500
【習得スキル】
動物調教:130 動物知識:145 獣医学:140 双剣術:105 弓術:100 戦闘術:105 魔法術:110 神聖術:90 降霊術:80 扇動者:80 指揮者:80
【派生スキル】
神秘術:100 生命学:100 司令:100 魔獣支配:100 悪魔支配:100 天使支配:60 不和誘導:70 蘇生術:80
【従者】
カルマ:悪魔族ナイトメア/ランクS
ニケ:精霊族ファルコニア/ランクS
フィア:魔獣族フレイムキャット/ランクA
クロ:悪魔族デーモンウルフ/ランクA
ゲンブ:幻獣族カーゴタートル/ランクB
ピューイ:竜族ウインドドラゴン/ランクB
シロ:魔獣族ホワイトファング/ランクB
と、こんな感じで表示されている。
自分で確認するステータスと相違無いので、なかなか優秀な魔法アイテムだな。
ペット達もちゃんと登録されている。
…あれ、なんか一匹だけ種族変わってるんだけど?…これは、もしかしなくてもカルマの仕業だな。
相変わらず、裏で何やってるんだアイツ。
…怖くて聞けないけど。
「ええと、ユート…様?お、おめでとうございます。いま、正式にSランク冒険者と認識されましたので、こちらをお持ちください。先程は大変失礼な態度をとり、ほんとうっに申し訳ありませんっっ!」
ミルバは小さな金色のプレート付のネックレスを渡すと、土下座しそうな勢いで謝ってきた。
この世界にも土下座ってあるのかな?とかどうでもいい事を考えながら、まぁまぁ分かってくれればいいよ、と宥めた。
「ユートのステータスすげーな。これSでもMAXだよな?それと…41歳か。俺よりもおっさんだな、ぷぷっ…」
と、余計なこと言うので、腹パンしておいた。
ぐぼっ、おまっ、ひどいぞとか言ってたけど口は災いの元なのだ。
「ランク上がって速攻ステータス上げしたからな、テイマースキルあげと並行してやったから、かなり大変だったんだぞ?」
妻に内緒で有給取ってまでやってたのは内緒だ。
バレたら只では済まない。
…ただまぁ、もう、会えるかもわからないのだが…。
「よし、次はガントだな」
腹パンは無かったことにして、サクサク進める。
目の端に涙を貯めつつ、ガントはプレートに手を当てて魔力を流す。
そして、職員側のプレートに文字が浮かび上がった。
【基本ステータス】
名前:ガント 年齢:39歳 性別:男
ランク:Aランク 職業:鍛冶師
HP:1200
MP:480
SP:830
STR(腕力):400
VIT(生命力):400
INT(知性):210
SPD(俊敏性):220
MGC(魔力):170
【習得スキル】
鍛冶師:110 鉱物知識110 採掘技術:110 戦鎚術:100 裁縫師:100 革加工師:100 魔法術:70 伐採:90 木材加工:80 弓矢加工:80
【派生スキル】
鑑定:100 革装備作成:100 大工:100
【従者】
なし
うん、なかなかに優秀な鍛冶屋だ。
派生スキルは、ランクによる上限とは関係なく最高が100だ。
なので、発現してる派生スキルはマスターしている事になる。
生産にかける情熱が垣間見えるな。
素材も増えたし、また何か作ってもらおう。
「…おめでとうございます。ガント様は、Aランク生産者として登録されました!ガント様も凄いですね…!!」
ミルバも、お世辞抜きで称賛している。
それはそうだ。
Aに到達した生産職など、数えるほどしかいない。
ちなみにテイマーもそうだが、SSランク生産者は報告されていない。
そのため現状Sランクが最上位だ。
ガントなら、もしかしたら目指せるかもしれないな。
「ガントもなかなか凄いじゃないか!まぁ、INTがちょっと低いが…ぷぷっ」
だが、素直に褒めれないのが自分の性格。
大人気ない仕返しをしておく。
なっ、気にしてる事をっ!といって腹パンを返してくるが…耐えきる!
ステータスの差は絶大だな!
遊んでいる(?)と、部屋に入ってくる俺よりもおっさんな人が入ってきた。
「支部長!?」
ミルバが驚きと共に、その人物がどなたなのか教えてくれた。
「君かね、新しくやってきたSランク冒険者というのは」
支部長らしい男は、俺を見てからステータスプレートを確認する。
「ほぉ、素晴らしいな。ここまでの人間はなかなか見ないぞ。しかも、派生しているスキルが素晴らしいな。な…『蘇生術』を持っている冒険者は、初めて見るな…」
まじまじとこちらを見てくる。
おっさんに見つめられる趣味は無いから辞めてほしい。
ガントも、え、まじ?みたいな顔している。
「で、何の用?」
いい加減、埒が明かないので催促した。
「おお、そうだった。私はギルドのサニア支部長をやっているボルドーだ。どこで儀式を受けたかは分からんが、まずはSランク到達おめでとう。君達のような高位ランク者には、ギルドから様々な恩恵を受けれるのだよ。それについて私から説明させて貰おう」
話を要約すると、まず他の街に行った際に通行書がいらなくなる。
宿屋が安くなる。
クエストを優先的に受けれる。
王都で、王に謁見出来る等だ。
あと、何かあればギルド職員にいえばかなり融通してもらえると言うことだ。
正直、最後のが一番ありがたい。
「そのプレートを見せれば、大抵が顔パスになる。逆に言えば、君の事はこれから全ギルドに報告が上がるので、犯罪などしないようにな」
と、変な釘を刺された。
ちなみに、ガントもほぼ一緒らしい。
違うのは王都では顔パスにならないくらいだそうだ。
「あ、そうだ。地獄の塔だっけ?あそこのケルベロス倒して来たんだけど、報奨出るかい?」
一同がまた一斉にこちらを見てきた。もはやコントに思えてきた。
「なんだと?あそこのボス魔獣を倒したのは、かの勇者以来だぞ」
は?いやいや、俺以外の冒険者もあれくらいは倒してたはずだ。
そうか、LBOでの攻略結果はギルドには報告してないことになっている、と思ったほうが良さそうだ。
「ちなみに、最近登録した冒険者で、Sランク以上はどのくらいいるんだ?」
とりあえず、自分以外のSランク冒険者が来ていないか聞いてみる。
「なんだ急に?…いや、私の知る限りでは、…五年前の王都の英雄ロイド様が最後だな」
まだ、他のプレイヤーは登録してないのか?もしくは、まだこっちに、来てないのか?
「そうか。ありがとう…。あ、これが素材だ。確かめてくれ」
そう言って、ケルベロスの牙とツメを取り出して渡した。
「よし、鑑定士に調べさせる。君達はロビーに戻って待っていてくれ」
ボルドーに言われて、ミルバに案内されて部屋を退出した。
「あの者たちに監視をつけておけ。最近、急に高ランク冒険者が登録しに来ることが多すぎる」
まさか、魔族か?いや、そんな馬鹿な・・・。
ボルドーはぶつぶつと独り言を始めていた。
ロビーに到着すると、リンとシュウが待っていた。
「あ、お帰りなさいパ…ユートさん!」
「あ、おじさんおかえり~」
昼間と違って、少し気が抜けているシュウはちょっと眠そうだ。
「うん、ただいまリン。…シュウは眠そうだな。疲れたか?」
「うん。さすがに眠い。ご飯食べたら寝る~」
そういいつつ、ウトウトしだしたので、ソファーに座らせた。
「リンたちは、報酬貰えたか?」
「ううん、ケルベロスの分が鑑定待ちになっちゃって、いま、結果待ちしてるんです」
んー、まだかなー。と見えるはずもないのに、カウンター側を背伸びして覗くしぐさが微笑ましい。
「そっか、俺らも同じく鑑定待ちだから座って待ってようか」
「うん、そうするー」
4人で雑談しながら、待っているとミルバが帰ってきた。
「皆様、お待たせしました。それぞれの鑑定が終わりましたので、報酬カウンターへ来てください」
そういうと、ユートとガントはミルバに案内されて、リンとシュウは初めてではないのか別の報酬カウンターに向かった。
報酬カウンターでは、さっき発行して貰った自分の名前とランクが刻印されたプレートを見せると、換金額を渡される。
お金以外の報酬がある場合も受け付けた職員がとってきてくれるので、基本その町であれば誰に言っても大丈夫だ。
また、Sランクの俺は最優先でやってくれるので、必ずプレートを先に見せてくださいねと教えられた。
さて、報酬額だが、クエストを受けていないのにも関らずかなりの大金が出てきた。
「これは、災害指定魔獣のケルベロスを討伐した報酬と、Sランクになった方への報奨金です」
中身を見てみると、金貨150枚、銀貨5枚、銅貨30枚入っていた。
おぉ、これはかなりの報酬だな。
また倒してきたらどのくらい?と聞いたら、ケルベロスの報酬は金貨50枚ということだった。
かなりの破格だな。
他のメンバーは、金貨1枚ということになったらしい。
どうやら素材価値だけ判断されたようだ。
それでも、かなりの額だな。
ちなみに、ヘルキャットの討伐報酬は金貨2枚だった。
これは、シュウに払われたので素材代と合わせて分けると言っていた。
そういうとこは、しっかりしてる様だ。
リンはしっかりしているし、揉めることは無いだろう。
ここでの用事は終わったので、ギルド職員に一応お礼を言って外に出た。
出てすぐに、ガヤガヤとやけに周りがうるさい。
人だかりがある方を見ると、どうやらニケとカルマを待機させてた場所ようだ。
近づいていくと、何やら一人の騎士が叫んでる。
「おい!魔獣共!ここは人間様の住んでる場所だぞ!貴様達が来る場所では無い。直ぐに消え失せろ!聞こえないのか!?」
魔獣に言葉でどけさせるとか、とっても頭の悪い奴なのかな?
…よく見ると、顔が赤い。酔っ払いか?
「あのー?その子達、うちのコなんですがー?」
初対面だし、大人しめに聞いてみる。
「ああん?お前のだと?ははーん、お前テイマーか。魔獣を可愛がる頭のおかしな連中だな。残念だが、俺が見つけた獲物なんだ。お前みたいな雑魚は、下がっていな」
そう支離滅裂な事を言うと、スルリと剣を抜いた。
あれはミスリル素材の剣かなー?
まあまあいい素材持っているな。
「お、おい、いいのか?あいつニケに攻撃しようとしているぞ?」
ガントが、心配そうに声を掛けてける。
「大丈夫じゃない?死んだら蘇生してみるよ」
『いや、アイツが死ぬ前提かよ!』とツッコんできた。
考えたら、あんな奴に俺のスキルなんか使いたいとは思えない。
…しょうが無いなぁ。
「ニケ!その無礼なやつ、…手加減して…やれ!」
言外に、殺さなければやっていいと言う。
クアッ!と片翼をあげて返事すると、右前足をあげて…ドン!っと地面を叩いた。
ゴゴゴゴゴ…っと、地鳴りが鳴った。
相手の騎士はそれだけで、その場でたたら踏む。
そしてすぐに、ビュンっと風を切りながら左前足で薙ぎ払う(ツメは出していない)。
バチンと音がし、空を3回転半したかと思うと地面にフライングキスを成功させてから、騎士はその場でのびた。
「おお、一瞬シャチホコのようだったぞ。ぶふっ」
堪えきれず、息が洩れてしまった。
その様子を見ていた、野次馬という名の観客は、一斉におおおっと歓声を上げたあとに拍手喝采し出した。
中には、あのクソ騎士ざまーねーぜ!とか言ってるやつもいた。
こいつ、見たとおり人徳ないな。
そこに、騒ぎを聞き付けたギルド職員が駆け付けてきた。
「何事だ!…て、貴方は先程登録されたユートさんですか。何があったんですか?」
困った顔が張り付いたギルド職員が尋ねてきた。
「いやー、うちのペットに絡んで討伐とか抜かすから、軽く撫でただけだよ。うちの子がね」
確かに派手に倒れている割には、血が全く出ていない。と確認すると、倒れている騎士の顔を確認しにいった。
「この人は…、なるほど。分かりました、この件は勘違いしてた騎士が起こした事故ということで…」
「事故ー?どう見ても、喧嘩売ってきてたぞ?」
「いやー、この人はこれでもBランクの騎士で、厄介ごとはあとあと面倒なので…」
なるほど、事故なら本人の不注意で終わるわけか。
「しょうが無いな、分かったよ。まぁ、こいつに伝えておいてくれ。こいつら野生だったら、お前はミンチだったぞと。俺のペットで良かったなと」
手加減してやったぞと伝える。
「畏まりました。必ず伝えます。皆さん!この騎士は、事故とはいえこのSランクテイマーのユートさんのペットに攻撃しようとしました。本来ならその場で処刑されていても文句ありませんが、手心をいただき彼は命を落とす事はありませんでした。寛大なユート様の拍手をお願いします!」
おおおおおおお!!という歓声と共に再び拍手が巻き起こった。
Sランク!?英雄じゃないかっ!とか言ってる人がいたが聞かなったことにする。
しかし、なかなかの役者だな、この職員。
「では、私はこの騎士を救護室に連れていきますので!」
そう言って他の職員と協力して、騎士をズルズルと引き摺っていった。
ちなみにカルマは面倒くさいと思っていたのか、黒い馬のフリをしていた。
おい、ヒヒヒーンじゃねえよ。
お前そんな可愛い鳴き方じゃないだろ…。
その後、全員引き連れて宿屋に来た。
辺はすっかり夜だ。
今日は、色々あり過ぎて疲れた。
そのまま寝たい気持ちもあったが、お腹も空いてるし、しっかりと話もしておきたい。
宿屋に前金で4人分で1週間分支払ってから出てきた。
部屋は、一番上のスイートルームだ。
4人一緒に泊まっても問題ないくらい広いし中で部屋も分かれているし、なんと風呂がある!それで即決した。
全部で金貨1枚と高価だが、納得はいく造りだった。
カルマとニケは、そのまま預けてきた。
チップ弾んだら、新品の干し草ベットを2匹に作ってくれたので、満足そうだったので良かった。
ついでに、餌用の干し肉も渡しておいた。
さて、約束してた酒場に4人で来たのだが。
結構というかかなり賑わっているな。
開いてる席が無さそうだったが、席を探してもらう前に上の方から声がした。
見ると、ライとサナティが上から手を振っている。
「あ、ユートさん!やっと来ましたか!こっちに席用意しているので、どうぞーー!」
ライ達は2階のテラス部分を貸し切ってるらしく、4人で階段を昇っていく。
あの時、先に町に帰らせた仲間も一緒にいるようで、そっちは既に出来上がっていた。
「ああ、こいつらはお気にせずに。…どうぞ座ってください」
勧められるままに座り、すぐにやってきた店員に飲み物と適当な食べ物を注文した。
「まずは、今日は本当に有難うございました。あの時に、お二人に出会わなければどうなっていたか。今思い出してもゾッとします。本当に有難うございました!」
そこで、サナティも一緒にお辞儀した。
二人共、町中なので装備は外したようだ。
ラフな格好になった事で、より若者らしさが出ている。
特に、サナティは白っぽいワンピースを着ていて、発達した胸と瑞々しい褐色の肌がより際立っていた。
ガントは、完全に鼻が伸びていたがそっとしておいた。
「いやいや、俺としてもお前たちに会えて良かったよ。色々と収穫はあったし。ちなみに二人は、ここの生まれかい?」
遠回しに、プレイヤーかどうか確認してみる。
「はい、二人共このサニアで生まれて育ちました。私の家は代々この町の警護やってきたんですが、私が剣士の素質とサナティが精霊魔法の素質が認められ冒険者になったのです」
やはり、この世界の人間か。
しかしこの世界の人々は、素質が無いとスキルを習得出来ないのかな。
「あっちの仲間は?ギルドで知り合ったのか?」
酒を飲みすぎて、のびている男たちを指差す。
「いいえ、元々幼馴染というか、子供頃からの友人たちで、私達だけでは心配なのと、サナティにカッコつける為に一緒に冒険者始めたんですよ」
「兄さん!何言ってるんですか!変なこと言わないで!」
急に自分目当てだと告げられて、抗議する。
「いやーサナティ、美人だもんなぁ。分かる気がするよ」
お世辞ではなく、素直にそう思う。
「もう、ユートさんまで!からかわないでくださいっ」
顔を赤らめながら照れるサナティ。
ヤバイ、反応が可愛いな。
横を見るとガントの見る目がいい加減ヤバくなってきたので、チョップしといた。
ブベラッとか、面白い反応だった。
「むーぅ、パパッ!私は?わーたーしーはーっ?」
リンが、自分も褒めてとねだってきた。
張り詰めていた緊張が解れたせいか、少し幼さが出ているみたいだな。
…しかし、もうこの子の中でパパで呼称が固定されてしまったようだ。
娘に反抗期が来るまでは呼ばれてたので、呼ばれ慣れてはいるが…。
「うん、リンもとっても可愛いいぞ!将来は美人間違いなしだぞ!」
取り敢えずべた褒めして頭を撫でておく。
まぁでも、結構本心でもある。
本人はうへへ〜、と顔を緩めて喜んでいた。
やっぱり、まだまだお子様だ。
「ところで、リンとシュウ」
「うん」「んあ?」
シュウは、半分眠りながら食べてるな。
ある意味器用な…
「二人はLBOから来たのか?」
「「!!」」
よし、アタリだな。
「おっちゃんもか?」
うんと頷いたあと、聞きてきた。
「ああ、そうさ。こっちのガントもそうだ」
ライとサナティは、何の事か分からないといった様子で聞いている。
サナティが皆さんの国でしょうか?と首を傾げていた。
「ガントも聞け。3人には、伝えておかないといけない事があるんだ」
そう前置きして、自分がこの世界に来たあとに、経験したこと、カルマが言っていた事を説明した。
大まかには、この世界はLBOと似ているが、全く別世界の現実、異世界であること。
ステータス、スキルはゲームで獲得したものを引き継いでいること。
死んだらやり直しは出来ない事。
そして、この世界の住人に生まれ変わっている事。
一番重要なのは、もとの【地球】に帰るもしくは行くことは絶望的である事だ。
3人は、そこまで聞いて絶句していた。
何処かでこのゲームが終わる、もしくは帰れると思っていたようだ。
シュウも眠気が吹っ飛んだようで目を見開いて聞いていたが、堪らず反論してきた。
「うそだ、うそだうそだっ!それが本当なら家には帰れないって事じゃないかっ!大体なんでそんな事を信じるんだよ!あの悪魔の嘘かも知れないだろ!」
そう思うのも無理は無い。
俺も正直そう思いたい。
だが、逆に思うのだ。
確かにシワがあるのに、若々しい肉体や、漲ってくる力。
五感がすべてリアルであり、なのに今まで分からなかったはずの魔力の流れが自然と分かるようになっている事。
それは、”前の自分とは違う存在になっている”と思わざる得ない証拠でもあると。
もう、自分たちはこの世界の住人なのだ。
そうだとすれば、自力で生きていかねばならない。
だから…
「俺と一緒にこの世界で生き抜くために、力を合わせないか?」
不安はいっぱいある。
だが、ひとりじゃ無ければなんとかなるだろ?と。
「ははっ、難しい事は正直分からねぇ。けど、少なくともユート、お前といれば楽しくやっていけそうだ。元よりそのつもりだったし、こちらこそ、頼むぜ!」
ガントが快活に笑いながら、合意する。
「私も、お家に帰れるかわかんないなら、一緒に行きたい!ユートさんと一緒にいるとね、本当のパパといるみたいで安心出来るんだよ…」
リンも不安を押し殺し、俺について行くと言ってくれた。
そして小声で、『だからパパって呼んでもいいよね…』と言った気がする。
「俺は、まだ帰るのは諦めない!でも、リンは心配だから、やるよ!」
シュウも、リンを守れるならと同意した。
三人を見て、決まりだなと呟き、
「よし、俺らはこれからファミリーだ。力を合わせて…この世界をまずは満喫してやろう!」
と、笑いながら皆で乾杯するのだった。
置いてけぼりを食らってたライとサナティはポカンとしてたが、何か良い方向に纏まったんだろうと、良かったですねと言って拍手していた。
ここまで御覧になって戴きまして有難うございます。
もし宜しければ、この先も御覧になっていただければと思います。
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