戦いの後に
魔王軍による襲撃はヘラの撤退にて幕を閉じた。
失うもの、守れたもの様々だが、そんな戦いの後にユート達は…。
あの後は大変だった。
まず、王都の主要施設がほぼ壊滅。
しかも、王宮もかなり破壊されており完全な修繕には長い月日が必要とのこと。
今は専属の職人達が突貫工事をしているようだ。
また、王都の住民の3割にあたる約30万人の死者・行方不明者が出たようだ。
そのせいで一時期レイスが大量に発生して、只でさえ治療等で忙しかった聖職者があちこちに駆り出される事態となった。
地下に避難していた住民の誘導だが、ギルド冒険者や教会関係者が全員を地上に連れてくるまでで結局3日もかかった。
俺らも総出で対応していたが、焼け石に水だった。
リンは、次の日には目を覚ました。
レーナやアーヤが交代で看病してくれて、目を覚ました時は泣いて喜んでいた。
目の前で拉致されたので、かなり責任を感じていた様だ。
元気になってからは、前よりも少し成長しているリンに『先に成長してズルイ』とか言っていたが、笑顔で話をしているので茶化しているだけだろう。
そう、リンの魔人化は例の女神のチカラで解除されたようなのだが、強制的に成長した体は元には戻らなかった。
ある意味、竜姫の双子と逆パターンだ。
しかもステータスを確認すると、ランクS相当に跳ね上がっていて、新しいスキルを獲得している。
そのスキルの名前は『聖女』と『慈愛』。
この『聖女』の方は、アリアネルが持っているスキルと同じらしく、このスキルが発現出来ないと聖女とは名乗れないらしい。
それってつまり、リンも聖女になったということか?
ちなみに、アリアネルは『聖女』と一緒に『節制』というスキルを発現したようだ。
詳しい効果は国家機密なので、と言われて教えてくれなかった。
なので、リンにスキル効果を確認してもらった。
『聖女』スキルは、神聖魔法と光魔法の効果を増幅させる効果と、味方の士気を上げてステータスを向上させる効果があるらしい。それと『覇王』や『勇者』を持つ味方が居る場合、回復魔法およびスキルの効果が大幅に向上するらしい。
『慈愛』スキルは、効果範囲内の味方のHP・MP・SPを徐々に回復する効果があるらしいという事だった。
なら、『節制』はMPやSP消費コスト軽減とかそういうところだろうな。
教えてくれないけど。
ちなみに肌の色は元の色というか、前よりも白く感じる。
ただ髪の毛の色は銀色のままなのでヘカティアがお揃いだねって喜んでいた。
俺から見ると、若干パールシルバーみたいな色に見えるのでややリンのほうが白い感じかな。
リンがツインテールで、ヘカティアとディアナがワンサイドテールなので、どこぞのアイドルかよってツッコミが聞こえてきそうだ。
見た目の年齢も15,6歳くらいになったので双子と並んでいると、3姉妹っていう感じだ。
元々中身が大人びていたので、それほど違和感は感じないかな。
逆に意識を取り戻してから、いつも通りに抱き着いてこられて俺の方が照れるというくらいしか、今のところ弊害は無さそうだった。
「あ、パパ!ここに居たんだね」
俺は今日も大教会で人々の治療をしていた。
重傷者はここ数日で殆ど治療が終わったので、今は軽症者や精神的に病んでしまった人、復興作業で怪我をした人などを見ている。
先日の戦いでかなりの数の聖職者が殉職したせいで、治療が出来る冒険者は全員駆り出されている状態だ。
まぁ、『覇王』スキルの覚醒とかアーティファクトのお陰で、この程度の治療魔法ではMPが尽きる事がないのだけどね。
「なんか、すっかり治療師さんだね」
「う…それは言わないでくれ。ただでさえ、最近自分がテイマーなのを忘れそうになるのに…」
本来の俺は、まったりと気に入った動物や魔獣をテイムして可愛がったり、仲間ペットにした子達を使って狩りをしたりするのが好きなのだ。
こんな治療師みたいな事とか、最前線で戦ってばかりとかでは、テイマーの名が廃る!
「あはははは。…でもみんな大変だもんね。私も何か手伝うよ?」
「うーん、リンのスキルはまだ目立つと拙いからなぁ。あっちでメイア達が炊き出しをやっているから、そっちを手伝ってやってくれ」
「うん、わかった!」
そう言うとリンは小走りにメイア達の所へ向かう。
リンの花が咲いたような笑顔に、皆が癒されているようだった。
俺は、この場を仕切っているギルド職員に声を掛けて、少し出掛けると伝えて大教会を後にした。
街の様子はかなり酷い。
あちこちの建物が半壊、もしくは全壊していて住む場所がない人たちが溢れていた。
「おー、ユートじゃないか?休憩か?」
「おう、ガント!そんなところだよ。そっちは?」
「おう、A区画がやっと終わったところだ。今度はB区画のほうで仮設住宅を作ってくる」
「ガントも働き詰めじゃないか?倒れるまで無理するんじゃないぞ?」
「はっはは、お前がそれを言うかよ。でもありがとうよ!だが、俺が出来る事なんてたかが知れているからな、やれる事はやっておくさ」
そう言って、ガッツポーズを取りながら去っていくガント。
たかが知れているというが、ガントがスキルを駆使して仮の家を物凄いスピードで建築しているおかげで、最低限の生活が出来るようになった住民はこの3日で数千人に及ぶ。
今言っていたA地区というのも、数万人の一般市民が生活している区画であり、そこが3日で生活出来るレベルに復旧出来たのはガントの功績がかなり高いだろう。
もちろん一人でやっているわけではないから、本人は認めないだろうけどね。
ちなみにサニアのメンバーには、こちらの状況を知らせてある。
メイドを数人と年の若い子供、保護者役のセツナを残してこちらに支援に来ることになっている。
ギルドの通信機も故障してしまったため、カイトに飛んでもらった。
昨日先に帰ってきて、向こうは何事もなく無事であったので一安心した。
(但し、こちらの余波なのか魔物の出現数が増えて依頼がかなり増えているらしく、セツナが結構な頻度で駆り出されているらしい)
そんなわけで、暫く滞在することも決まったので、今日からはまた王都で借りている屋敷を使うことになった。
幸い外壁や塀が壊されたものの、家具は地下に退避していたので実質の被害はなかった。
また、ガントがすぐに修復してくれたので、住むには問題なさそうだった。
ただ…一つ問題があった。
───昨日、重傷者の治療も終わりひと段落ついた頃だった。
「あの、ユートさん。折り入ってご相談があるのですが…」
「ん、アリアネルか。どうしたんだ?」
王族も今回の件で多数の犠牲者を出しており、国王も一命は取り留めたものの未だに意識がない。
そんな状態ではもう王族も何もないのが現状だった。
なので王族ではなく、単なる教会職員だと思ってくださいと言われているので言葉を崩して話すようになっていた。
「実は、王宮の居住区が壊滅状態でして、今殆どの王族が仮の屋敷で生活しているのですが…」
「ああ、そういやそんな事を言っていたな」
「それで、母や兄や重鎮の家臣などもそちらに移っておりまして…。私は元々は貴族区域の教会で生活していたんですが、そこは全壊してしまっていて…」
いつになく歯切れが悪いアリアネル。
まぁ、ここまで言ったら誰でも察するところだ。
「なるほど、ここも避難する人々でいっぱいだ。それだと貴女が寝泊まりする場所がないというわけだ」
「お恥ずかしながら、その通りなのでございます」
「分かったよ、うちも借り物だけど一人くらいは増えても大丈夫だろう。ただし、ベッドは一人用で用意出来ると思うけど、狭い部屋になっても我慢してくれよ?」
「はい、そこはもちろんです!ありがとうございます!」
──と、いうわけで今日からうちに王族が寝泊まりすることになったのだ。
「旦那様、ご安心ください。私達がすべて用意しますので」
とメイアが言ってくれたのは心強かった。
元々は領主の屋敷のメイド達だけに、そういうノウハウは当たり前にあるらしい。
「アリアネル様は、お客様ですから。何かあれば私にお申し付けください」
「ありがとう、何から何まで世話になってしまって」
「いいえ、これも家人の務めですので」
「あ、そうそう。私専属の侍女がいるのですが、こちらに呼んでもよろしい?」
「あの大教会で手伝っていただいていた方ですね。アマンダさんでしたか?わかりました、では私ども用の部屋を一つお貸ししますので、そちらをお使いください」
「ありがとう、助かります。では、よろしくお願いしますね」
こうして、王都復興作業と共に王女でもある聖女アリアネルと(ついでにその侍女アマンダと)の共同生活も始まったのであった。
───
魔王軍による、王都襲撃から1週間が過ぎた。
あれから魔王軍からは、何も仕掛けてくる様子もなく皆復興作業に勤しんでいた。
この1週間で、いつの間にかガントが”救世の大工”と言われるようになっているらしいと聞いた時は思わず噴き出した。
またサニアから来たメンバーと一緒に、マリエルさんが来たのには驚かされた。
王都のことは嫌厭していたのに、ガントがかなり頑張っていると聞いて応援に駆け付けたらしい。
さすがガントに師匠と言われるだけあり、鍛冶の腕だけじゃなく大工の方もかなりいいようだ。
街の人々からは、”救世の大工のおかみさん”と言われているらしく、柄にもなく照れているようだ。
しかし、否定をしないあたり、脈ありなのか?!
そういう意味でも応援したいところである。
カルマやニケ達は主に王都の警戒に当たっている。
こんな状態でもう一度攻め込まれたら、次こそ王都が陥落しかねない。
そのため、ふたりほど索敵能力が高い仲間は他にいないので頼んでいる。
流石というべきか、地下に潜んでいた斥候の魔族なども炙り出して、かなりの数を処分していた。
殆どが取り残された低級魔族か、魔獣たちであったが一般市民には敵う相手ではないのでギルドからも感謝されている。
竜姫の双子、ヘカティアとディアナは街中を駆け巡っていた。
見た目に反して怪力なので、瓦礫や倒木の撤去などを手伝っていた。
一応回復魔法を使えるので、あちこちで怪我人の治療などもしていたらしい。
二人にも隠れ潜んでいた魔獣の討伐をお願いしていたので、住民を助け、魔獣を打倒す彼女らは住人たちにとって救世主のように映ったのかもしれない。
二人を見た一部の聖職者からソテイラ(救世主)と言われていた。
そうそう、サスサリスから応援に駆けつけてくれた冒険者達だが、そのまま残って復興作業を手伝ってくれている。
率先して、警備にあたったり、怪我人の搬送や治療、ガントとは違う地区の修繕作業や、食料の搬送などまで多岐にわたって活躍していた。
その影響で、今まで獣人や亜人などに偏見を持っていた多くの人々が、彼等を敬い慕っていくことで、彼等に対する差別意識が払しょくされていくようだった。
一部まだ毛嫌いする人がいたが、どちらかというと受け入れていく人の方が多かった。
かなりの死傷者、建物の半壊や倒壊、公共施設などの停止など多大な被害を被った今回の魔王軍の襲撃だったが、こうやって人々の結束が強くなっていくのは一つの収穫だったのかもしれない。
───
それから、一か月が過ぎた頃。
国王陛下が回復されたという知らせが王都中を駆け巡った。
今では意識もはっきりしているらしい。
そこで今回国王救出に携わった俺らが呼ばれた。
「本来ならば受勲等を行いたいのだが、まだ王宮内がご覧の通りでな。正式な受勲式等は後日とさせてもらう。ベイカー総務官」
「はっ。では、ユートならびに、ユニオン『ウィンクルム』の功績を認め、王国より金貨50000枚を授与する。なお、金庫に直接送金しますので手続き完了後にご連絡をします」
5万枚!?
ギルドからも報酬が貰えるらしいし、今回でかなりお金の余裕が出るなぁ。
あ、温泉また行こうかな。
「さて、簡易的だが褒美も渡せたので、本題に入りたい」
「えっと、また何か問題でも?」
「ああ、その通りだ。いや、問題どころではない。国家の存亡にかかわる事だ」
えええ、いきなりエライ話になった。
そういえば、ここに来るまで同行していたアリアネルの顔色がかなり悪かったな。
あれはそういう事だったのか…。
「先日の襲撃で、王国の秘宝である【光の鍵】と【聖王の神器】が奪われた」
秘宝が奪われたって、そりゃ一大事だな。
でもそれが国家の存亡にかかわるってどういう事だ?
と思ってたら、ベイカーさんが補足してくれた。
「この【光の鍵】というのは、【光の神殿】に入るための鍵であり、光の神殿に入る事が出来ないと勇者を輩出することが出来ないのです。
また、【聖王の神器】というのは今の場所にハイセリア王国を建国した際に『聖王』と言われていた初代の国王様が光の女神様より授かった神器で、この地に溜まっていた瘴気を取り除くことが出来るのです。
これが無いと、毎年行っている聖王祭が行えないばかりか、瘴気を払う事が出来ないので王国内で魔物が発生する恐れがあるのです」
国内で魔物が発生するとか何の冗談だろう?
しかし、冗談を言う席ではないので本当の事なんだろうな。
つまり神器を取り返さないと、いつかこの国が魔物が溢れる場所になるという事みたいだ。
とりあえずは、冒険者がいれば少数の魔物なら退治出来るだろうがそれもいつまでもつか分からない。
なるべく早く取り返さないといけないらしい。
「以上の理由により、国王からの勅命です。『聖王の神器の奪還、もしくはそれと同等な物の入手』です。報酬は、金貨10万枚および爵位の授与、それに相応の自治領の授与です」
「ええ!?それって、拒否権はありますか?」
ベイカーさんはニッコリ笑って。
「ないです」
「ですよね~…」
「余の命の恩人でもあるそなたらを死地に送り込むような事になり、心苦しいばかりなのだが、しかし国民の命が掛かっておるのだ。よろしく頼む」
そう言って国王陛下が俺に頭を下げる。
周りにいる家臣たちがざわめき立つが、事態が事態だけに諫める者はいなかった。
「分かりました。では、準備出来次第出発いたします。ですが…、流石に魔王軍に単独で挑んでも勝てる気はしないので、同等なものの方を探したいと思います。何か情報がありますか?」
「そうですね…。ユート殿は精霊と会話が出来るとか。であれば、まずは各地にある神殿の大精霊にお会いしてください。そこで光の神殿の扉の開き方が分かれば活路が開くでしょう」
「なるほど。では、まずは各地へ飛んで情報を集めてみます」
「ええ、よろしく頼みます」
王宮を後にして、屋敷に戻って来た俺らはメンバー全員を集めて会議を開くことにした。
「…というわけだ。なのでまずは光の神殿へ入るための情報を集めたい」
「なるほどなぁ。まさか今回の魔族の襲撃にそんな思惑があったとはな。だが、放っておくことも出来ないか」
「ああ、ガントの言う通りだ。放っておくと王都が魔物だらけになるらしいからな。魔王軍があれ以来襲撃してこないのは、放っておいてもそのうち滅ぶだろうって思っているからだろうな」
「あのヘラが考えそうな事です。主よ、まずはニケが管理者になっている嵐の神殿にいってみたらどうだ?『覇王』の新たなスキル解放にもつながるかもしれないし、光の神殿に関する情報が残っているかもしれないだろう?」
「あー、それは俺も考えていた。あの時はニケのパワーアップしか考えていなかったからな。そういう知識は受け継がなかったのか?」
「はい、主様。大精霊の力はすべて受け継ぎましたが、過去の知識などは今あそこを管理している精霊達が持ったままになっています。そういう知識は、どうやら私一人では解放出来なかったようですね」
ニケ達の話だと、大精霊としてのチカラは全て引き継いでいるが、過去の情報、特に白の女神に繋がる情報は秘匿されたままらしい。
ただ、情報があるというのだけは分かっているようだが。
「じゃあ、最初の目的地は嵐の神殿だな。そこで情報を得たら次の目的地が決まりそうだな」
「はい、そこは間違いないでしょう」
「カルマの本体があった神殿には、そういう情報がありそうか?」
「我が封印されていた神殿は、闇の女神が作った神殿。なので、光の神殿に関する情報はないかと。ただ今回の件が終わったならば、行く事になる可能性が高いが」
何か含むような言い方だが、すべてをまだ語れないってところか?
無理に聞いても教えてくれないだろうし、まずは目先の事が優先だな。
「分かった。じゃあ、光の神殿が解放されたあとに訪れる事にしよう」
「承知。魔王軍の本拠地にあるので、相応の準備が必要となるだろう。時が来るまでには我が道を開けれるようにしておこう」
なるほど、魔族側だったヘカティアとディアナだったからすんなり行けただけで、やはり魔王軍の中心部に神殿があるため、普通は簡単に入れないらしい。
どのような方法を考えているか分からないけど、今はカルマに任しておくことにする。
話が一区切りついたところで、パーティー編成や、移動方法の話をしようと言ったところでガントから提案があるという。
「実はな…、古い魔道具屋から古代の設計図を手に入れたんだ。それが今回の修繕で『大工』スキルが上がったせいなのか、読めるようになった」
「それってつまり…?」
「ああ、新しい移動手段が作れるようになったぞ!」
「マジか、どんなものだ?」
「それはな…」
ガントからの提案は、今後の冒険を大きく左右するようなものであった。
いつもご覧になって頂いている方々、本当に有難うございます。
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