王城決戦(4)
先行しているカルマ。
彼を断ち塞ぐの者は…
カルマは一人王宮の奥へ進んでいく。
目指しているのは、王の間。
目的である人物はそこにいるはずだ。
リンの事は主であるユートとニケに任せれば問題は無いだろう。
少なくとも、今のユートであれば負ける事は無いはずだ。
それに先ほど竜姫の双子の魔力が近づくのを感知した。
なぜか聖女の魔力も感知したが、まぁ問題という程ではない。
それよりも、ユートの精神を乱すヘラの存在を許すわけにはいかない。
あの女は魔族であったカルマの記憶からすれば、かなりの厄介な人物。
本人の戦闘力は幹部の中でも大したことはないが、計略や姦計に優れていて放っておくとこの先も邪魔をして来る事が容易に想像できた。
(しかし、人質に使えばもっと厄介だったはずなのに使わなかった。何か他の手札を持っているのか?もしや、あれは時間稼ぎ?もしくは陽動か)
ユートを討ち取る事が目的なら、リンを人質にすればもっと容易かった筈だ。
(もしくは単なる嫌がらせ?まさかな…)
途中に魔族の騎士らしき者達が巡回していたが、カルマに気が付くものは居なかった。
さすが幻惑の使い手である幻龍のスキル。
格下の魔族では感知すら出来ないらしい。
しかしこの大広間を抜ければ王の間というところで、スムーズに歩み進めるカルマを待ち受ける者がいた。
「やっときたかカルマとやらよ。ヘラ様の主命によりお前の命をここでいただく」
(隠蔽スキルを看過した?どうやら雑魚ではないようだな)
真っ直ぐこちらを見てそう宣言する白銀の騎士。
カルマはすぐに隠蔽を解き、その姿を現した。
「ほう、我を発見出来るとは少なくともそこら辺の雑魚というわけではなさそうだな」
「私はヘラ様の下僕ロイド。私と、コイツがお前の命を奪うものだ」
するとロイドは小さな箱を開いた。
中から出てきたのは、リンを攫った時に現れたという竜の顔を持つ大亀の魔獣タラスクだった。
「なるほど、お前がリンを攫った張本人というわけか」
「ほう、頭が悪いわけではないようだな。さあ行けタラスク!」
タラスクを1つ咆哮を上げると、どす黒いブレスを吐きだした。
あたりの物がそのブレスに触れた途端に腐食していく。
「腐食ブレスか。だが我には届かないな」
カルマは自身の周りに魔力障壁を展開した。
この手のブレスは触れなければダメージはない。
ビュウッン!!
ブレスを煙幕替わりに死角から銀の槍が降ってくる。
「聖銀の槍…?」
「ほう、躱したか?そうだ、これはお前たち悪魔族が嫌う聖銀の槍だ。当たればその傷は治らないぞ?」
ビュウッン!!ビュウッン!!ビュウッン!!
言いながらも、どこから出現させているのか分からないくらい、あちこちから槍を飛ばしてくる。
更にブレスを吐きながらも、タラスクがその巨大な前足で攻撃をしかけてきた。
ドゴオウンと轟音を鳴らしながら地面の大きな穴を開けつつ執拗に攻撃を仕掛けてくるタラスク。
カルマはどちらも回避しながら、魔法で応戦する。
───シャドウジャベリン、───ダークブラスト、───インフェルノ。
無詠唱で魔法を発動させタラスクにすべて命中させるも、すべてタラスクが背負う甲羅にすべて弾かれる。
なるほど、防御力だけを見ればこちらを上回っているようだ。
だがあちらの攻撃が通らないのも同じこと。
白銀の騎士もあの槍の攻撃くらいしかしてこない。
そもそも白銀の騎士など魔王軍にいただろうか?
自分が魔王軍を追い出されてからかなりの年月が経っているらしいが、それでも苦手とする神聖魔法や光魔法を扱う魔族は視たことが無い。
だとすると、目の前の騎士はニンゲン?
「ふむ、思ったよりも賢く無いようだな。所詮は獣に化けた悪魔ってところだな。では、消え去るがいい〈聖浄領域〉!!」
しまった!
いつの間にか投げられていた槍が結界を象る魔法陣を描いていた。
気が付いた時には既に遅く、範囲浄化スキルが発動する。
「グオオオオオオオオオオォォ!!」
「ふん、獣にはお似合いの最期だな!」
迂闊にもタラスクに気を取られ過ぎて、白銀の騎士の事を過少評価しすぎていたようだ。
このままでは流石に拙いな。
そんな時だった。
頭の中でカチリと音がした、気がした。
すると思い出せなかったある事が鮮明に思い出される。
「なぜ…今まで思い出せなかったのか…そうか、そう言う事だったのか…クックック、あの者は面白い事をしてくれたようだな!」
全然面白そうじゃない声でカルマが一人呟く。
「はんっ!諦めたか獣め…ん、姿が変わった?」
いつの間にか大精霊の姿に変化したカルマ。
それと同時に魔法陣を魔力だけで吹き飛ばした。
「なっ、馬鹿な!タラスク、奴を押し潰せ!!」
グオオオオオッ!と咆哮を上げながら迫りくるタラスク。
しかしそれをカルマは右手だけで抑えた。
いや実際は重力魔法で押し返していた。
「図体がデカいだけの亀に、我が本当に負けるとでも?だが折角だ、我の本気のスキルを見せてやろう…力を見せよ【ティターン】!」
タラスクの頭上に大きな魔法陣が現れ、そこから巨大な足だけが現れる。
そしてそのままタラスクを押し潰した。
グギャアアアアアアッ!!と悲鳴を上げながら逃れようとするも、カルマの重力魔法で身動きが取れず、背中の甲羅が砕け散ったあとすぐにグチャっと体が潰されたようだ。
「なんだとっ!あのタラスクがたったの一撃で潰された!?」
「どこを見ている?」
「なっ!?がぁっ!!」
カルマはロイドの顔をがしりと掴むと、そのまま〈吸魂〉を発動して躊躇なく相手の生命を奪っていく。
もしかしたら、主のユートがいたら止めるかもしれないが、この男の場合はそうもいかないだろう。
王国騎士団長ロイド。
かつて、国の英雄として称えられたもの。
それがこの男の正体だからだ。
いつから内通していたか分からないが、リンのように今さっき配下になったわけではないだろう。
そんなヤツにあのタラスクを預けるわけが無い。
それほど希少な魔獣でもあるのだが…。
なので、ここで生き延びても死罪は免れないだろう。
それならばこの場で処分するのも変わらないし、我が魔力の回復に役立つのだし光栄に思うがいいだろう。
ロイドは完全に生命力を失い、その場に崩れ落ちた。
しかも、ニンゲンのはずが肉体が崩れ落ちて灰となってしまった。
あとにはロイドが装着していた白銀の鎧がガランと音を立てて転がるだけだった。
「既にニンゲンをやめていたか。…哀れな男だ」
ちなみにタラスクの方だが、一応素材となりそうなものは自分のストレージに入れておく。
ユート程ではないが、このくらいの量なら仕舞っておけるだろう。
ロイドの鎧はそのまま放置することにした。
ちなみにストレージは、本体を取り戻した時に習得した。
というよりも、元々持っていたスキルが復活したと言った方が正しいだろう。
しかし…さっきの鍵が開くような感覚だが、あれはきっと主に起因するものに違いない。
前にフレイアが主の『覇王』スキルを解放したときにも、同じような感覚を覚えた気がする。
その時は自身にそれほどの変化を感じなかったが、今回は急に思い出せない事が思い出せた。
そして、そのおかげでなぜ記憶に曖昧な部分があったのか判明することになったのだが…。
「ふん、まぁいい。まずは先にヘラを仕留めなくては。考えるのはその後でも遅くないだろう。それにあの女も知りたいだろうからな…」
そんな事を呟きながら、奥にある王の間へと続く扉へを歩き出した。
───
カルマとロイドの戦闘を監視用の水晶で視ていたヘラ。
途中まで少しは期待していたのだが、大精霊の姿になった時には既に負ける事を確信していた。
「ふん、ロイドのヤツ。可愛がってあげてたのにあっさり死ぬだなんて。…役立たずね。結構コスト掛けてたのにとんだ損害だわ。でも、おかげで時間が稼げたしあとはカルマがここにやってくるのを待っているだけね。ね、王様?」
「は…い。ヘ…ラ…様」
そこには虚ろな目をした王がいた。
ユートに受勲した威厳ある王の姿はそこにはなく、虚空を見つめてただ返事をするだけの傀儡と化していた。
「ちょっと頭を弄りすぎたかしら?まぁ、命令通りに動けば十分ね。あとで影武者に替えればいいし。さて、仕掛けは済んだし帰らないとね。憎たらしいあのカルマをこの手で殺せないのは残念だけど、直接やる必要はないし、無駄だし。ほんと…羨ましいわ。あの方の力を無条件で貰ってるだけの癖に…私もあの方の寵愛を再び…。」
まるで嫉妬に憑りつかれた女の顔をしながら、水晶に映るカルマを見るヘラ。
しかしすぐに意識を次の事に移した。
「ま、余計なことに意識を割いていると足元を掬われかねないわね。あとはお前がここに来れば終わりよ」
不敵に笑い、王を足蹴にしながら王座に座るヘラだった。
───とある国で
「お帰りなさいませクロノス様、首尾はいかがでしたか?」
執事の恰好をした、立派な髭を生やした獣人がクロノスを出迎える。
まるで好々爺のような笑みを浮かべつつも、その目は鋭さを失っていない歴戦の戦士のような眼だ。
「ただいまだにゃ。おかげで目的のモノは手に入れたにゃ。これで鍵はあとひとつで揃うにゃ~」
「でありますか。ならば後は次の芽が息吹くのを待つだけですな」
「これ以上自分で開けれないから、それしかないだろうね。次のを感知したらまた教えてくれにゃアクト」
「畏まりました、引き続き監視させます」
アクトと呼ばれた執事は、そのまま部下達に指示を出すために何処かに向かっていく。
クロノスの方は、別の部屋へ向かう。
そこには氷の棺が安置されていた。
その棺の中に少女が一人眠る様に目を閉じている。
「もう少しですべての鍵が揃うにゃ。早く目を覚ますんだにゃ相棒」
そっと棺に触れながらそう言い残すと、クロノスはまたどこかへ旅立つのだった。
───
リンは秘薬を無理やり飲まされてからずっと悪夢をみさせられているかのようだった。
自分とは違うナニカが、元自分の体を操りユート達と戦っているのだ。
だが、それの正体は分かっている。
認めたくないだけなのだ。
アレはきっと、自分の中のにあった悪意。
それだけを抜き取って増幅したもの。
(違う、あれは私なんかじゃない!)
そう叫んでも自分の声は誰にも届かない。
そう叫べば叫ぶほど、認めようとしない自分に嫌悪するリン。
自分の体は目の前にあるのに、触れようとするも精神だけとなったリンは、自らの意思で動くことも出来ないようで、ただただもどかしい思いをするだけだ。
そんな時だった。
ヘカティアとディアナが、アリアネル様を連れて一緒にやってきたのだ。
アリアネルはとても清らかな光を放つ石を抱えていた。
どうやらそれをユートに渡す様だ。
魔人と化した自分は、へカティとディアナとの戦い始めたようだ。
その間にユートをその石を手にし、瞑想をするかのように目を閉じたのが分かった。
その時だった。
優しい声が自分の頭の中に響いた。
『心優しき少女よ、彼の者のチカラになりたいか?』
(彼の者…?パパ…ユートさんの事?)
『そうだ、あの者はこの世界を救うためのチカラを授かった。だが、それを邪魔する者がこの世界に巣くっている。あの者…ユートが全てのチカラを解放するためには、それを退け守る力が必要だ。お前はユートを守りたいか?』
(守りたい!守りたいよ!!だって、あの人は私を救ってくれた人だもん!命だけじゃない、私の心も救ってくれた。それなのにそんな大事な人を自分で傷つけているだなんて!お願いします、私にあの人を救う力をくださいっ!)
心の中に強く願う。
自分に家族の愛を再びくれたあの人を救いたい。
慈しみ愛をくれたあの人に、その想いを返したい、と。
『いいでしょう、少女よ。貴女は我が魂を受け取るにふさわしい人。その心をチカラに変えて『覇王』を守護する者となるのです』
(分かりました!お願いします!)
『さあ、ユートが呼んでいます。征きなさい『慈愛』の魂を持つものよ』
(あ…パパが呼ぶ声が聞こえる!うん、分かった!今そっちに帰るね…!)
やさしい光が私を導いてくれる。
それに手を伸ばすと私の意識が現実に戻った。
「あ…パパ…ありがとうね…?」
そこで私はまた気を失ってしまった。
でも戻ってこれたのだけは確信し、安心して目を閉じる事が出来た。
───
「マスター、リンは大丈夫。さっきまでの禍々しい気配はなくなりました」
「というよりも、アリアっちに近いくらい清らかな魂になったかも?」
竜姫である二人は、カルマほどではないが魂の質を見る事が出来るみたいだ。
俺にはさっぱりだが、一つ言えるのは今気を失って横たわるリンの表情がいつものリンだということだ。
「『慈愛』のチカラに目覚めたとか聞こえたけど、なんだろう、リンらしいチカラだよな」
「リンはマスター並みに人がいいからね~。きっと女神さまに好かれたんじゃないかな」
「女神…なるほどな。とりあえずは、あっちのクロをどうにかしないとだけど…」
カイト達が抑えていたフェンリルと化したクロを確認すると、いつの間にかHPが1になっている。
なんという寸止め技術!
「カイト中々やるな!そんなギリギリで止めるとか俺でも出来ないぞ?」
「いや、俺達じゃないんです。変な魔王とか名乗る獣人がおかしなスキルを使ったら、一瞬でこうなってしまって。そのあとからピクリとも動かないんですけど、一応監視しといてましたよ」
どうやらクロもさっきの獣人の魔王クロノスが抑え込んでおいてくれたようだ。
しかし、未だに何の目的だったのかわからないな。
取り敢えず助けてくれたのだから、敵って感じじゃないけど。
カルマと合流して、そこら辺は聞いてみる必要がありそうだな。
「ニケは魔王達について何か知っているか?」
「確かに複数出現しているとは聞いていますが、あの者がどうのような者かまでは分かりません。お役に立てず申し訳ございません」
「いや、知らないならいいんだ。とりあえずここまで弱っているなら再度テイムするのがいいかな?」
「そうだね、マスター。私達と一緒でここまで衰弱すると抵抗が弱まるからテイム可能になっていると思うよ」
ヘカティアがそう言っているし、ひと先ずはクロを魔族の支配から解放しよう。
『覇王の光』を併用してフェンリルの邪気を抑え込みつつ、『動物調教』スキルを発動した。
「スキル発動!〈アニマルテイムⅤ〉!〈調伏の波動〉!」
すると、フェンリルが光輝きだした。
あ、この感じ久々だな。
魂が繋がっていく感じ。
…うん、テイム成功だ!
「オオ…、我ハ操ラレテイタノカ?」
なぜか前よりも少し流暢に話せるようになっているクロ。
ブルブルと首を振ってから、暫くすると何を思い出したようだ。
「ソウダッ!我ラハ閉ジ込メラレテ、変ナ薬ヲノマサレテカラ体モ精神モオカシクナッタノデス!」
話を聞いてみると、捕らえられたリンとクロは真っ暗な箱のようなものに閉じ込められて、その後に変な薬を飲まされたらしい。
その後の事はあまり覚えていないらしいが、暴れていたのはなんとなく分かるらしい。
「リンハ?!アア、マサカ!?」
「安心しろクロ、リンもなんとか正気に戻ったようだ。今は精魂尽きて気を失っているだけだよ」
「ソウデスカ…、不甲斐ナク、申シ訳アリマセヌ」
「いや、お前がリンを守ろうとしてくれたのは十分伝わったさ。しばらくは影に潜って休め。今治療をしてやっているがかなりHPがマズイし」
ちなみにお約束通り、テイム後のHPは普通の状態に戻っている。
とはいっても、フェンリルのままなので素の状態でもかなり高いのだが。
「ショウチ」
クロは素直に返事をすると、俺の指示に従い影に潜っていった。
どうやらそのスキルは残っているようで良かった。
体も大分変化したが、記憶は全部残っているみたいだし一安心だ。
「よし。残るは敵の総大将と街で暴れていた魔獣と魔族だな。先行しているカルマを追いかけよう」
リンを治療してもらうため、アイナとアリアネルに託す。
とは言っても別行動だとまた何かあるので、3人をニケに乗せて治療しつつ付いてきてもらう。
俺達は、駆け足で王の間に急ぐのだった。
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