救出と攻略と。
ライとサナティに助けを求められて、シュウとリンという少年少女を助けに行くユート。
一方、ついに力尽いた二人の前に現れたのは…。
「やぁ、君たち無事か?…うん、無事ではなさそうだな」
ちょっと遅かったかなと思ったけど、俺のせいじゃない。
こちとら超特急で来たんだし。
しかし、ギリギリだったな。あぶないあぶない。
「サナティ、回復してやれ。ガントとライはシュウを運び出せ!」
「分かりました!」
「「了解!」」
3人は、返事と共に動き出す。
同時に、カルマとニケに司令を出す。
「ニケとカルマは、猫どもを残さずすり潰せ!」
「承知!」
「クアッ!」
2匹が遠慮せずに範囲攻撃を繰り出す。
見事にミンチにしていく様は、さすがSランクに到達した魔獣だ。
サナティは、リンを抱えて入り口の方に運び、静かに持っていたポーションをかけつつ、回復魔法を掛けた。
「水の精霊よ、この者に治癒の加護を…アクア・ヒール!」
キラキラとリンが水色の光に包まれていく。
みるみるリンの傷が塞がり、血も止まった。
これは精霊治癒魔法か?
なかなか優秀なヒーラーだったようだ。
サナティがリンを治療している間に、ライとガントはシュウを両肩を抱えて、入り口付近まで連れて行く。
その間にポーションも掛けて応急手当をしていた。
「ぐっ、うう…あ、あんた達は?あ…ら、ライ!助けを呼んできてくれたの?ありがと…う」
安心したのか、そこでシュウも気を失った。
「クロ、出てこい!」
カルマの足元に影が出来上がる。
そこからクロが出て来た。
「オヨビデスカ?」
そう言うとスルリと俺の足元に来た。
動きが忍者っぽいな。
まぁ、狼だけど。
「こいつらのガードに当たれ。近づく魔物は全て倒せ!分かったな?」
「ワカリマシタ」
そう言うと、クロは黒いオーラを纏い戦闘モードになる。
ここらの雑魚なら問題ない。
「俺も掩護してくるわ」
カルマとニケの共同戦線は、相手には地獄のようだった。
ニケがその翼を振るだけで凄まじい威力のウインドカッターが発生し数体の体を両断し、カルマが無詠唱で魔法陣を大量に出現させるとあたり一帯が爆炎に包まれてまた数体が消し炭となった。
もはや、蹂躙といえる有り様だった。
余りの実力差に、ヘルキャット達は恐慌に陥った。
それが彼等の死期を早める結果に繋がったのは言うまでもない。
もはや、2匹は恐怖と暴力の象徴だった。
そこに、さらなる恐怖が加わる。
彼等の主人が来たのだ。
既にオーバーキルだというのに、これ以上何をするのか?
そんなの決まってる。
蹂躙だっ!
「スキル発動、〈アニマブーストⅢ〉」
ニケとカルマが赤いオーラに包まれた。
〈アニマブースト〉とは高位テイマースキルのひとつで、絆で繋がっているペットの能力を上昇させる効果だ。
Ⅰなら10%、Ⅲなら30%すべてのステータスが上がる。
単純だが効果はかなり高い。
「よし、さらにスキル発動、〈ビーストコマンダーⅣ〉!」
今度は、緑色のオーラに包まれた。
ビーストコマンダーとは、主人が命令することで使用する魔法およびスキル等の攻撃力がすべて向上するスキルだ。
Ⅳなら、威力が40%アップだ。
「ニケ、ライトニングブレス!…カルマ、ダークブラスト!」
そのまま、2匹に範囲攻撃を命令した。
次の瞬間、眩いばかりの閃光が辺りを照らしたと思ったら、次の瞬間に漆黒の光が辺りを埋め尽くした。
そして視界が戻ると、ヘルキャットがいた場所には灰だけが残っていた。
「あ、材料も燃え尽きた…」
あとの祭りだ。
広い空間に塵と灰が積もるのを見ながら、取り敢えず安全になった事を確認したので、治療中の二人を奥に連れてこさせた。
危険な状態は脱したようだが、まだ油断は出来ない。
そこで、スキル上げ以外で滅多には使って来なかったスキルを使うことにした。
「神聖術スキル…〈祝光〉!!」
祈るようにしてから、両手を広げて発動する。
すると、キラキラと全員が光に包まれて、疲労回復と気力回復効果を発揮する。
「なっ、ユート、神聖術なんて習得してるのか!」
「まあね、これないと使えないテイマースキルが有るんだよ。だから副産物みたいなもんさ」
神聖術は、司祭や司教を目指す人が取得する信仰系魔法スキルで、テイマーには無縁なスキルだ。
しかし、ある派生スキルを修得するのに必要だ。
『魔法』スキル熟練度が100以上、『神聖術』の熟練度が80以上、『降霊術』の熟練度が80以上で『神秘術』が派生し、『獣医学』と『動物知識』の熟練度を100以上にすると『生物学』が派生する。
『神秘術』は、水や石等の生物以外に一時的に効果を付与することが出来るスキルで、熟練度に応じて付与出来る効果の数と時間が増える。
『生物学』は、その名の通り、生物に関する情報を見ただけで得ることが出来る。生物版の鑑定みたいなスキルだ。また、生物に対しての魔法やスキル効果が熟練度に応じて上昇する。
そして、『神秘術』と『生物学』両方修得すると、さらなる派生スキルの『蘇生術』を修得するのだ。
このスキルは、死んで間もない生物を生き返せるスキルだ。
熟練度が上がると成功率と蘇生時のHP回復量が上昇する。
…但し、寿命が尽きて死んだ生物を生き返らせることは出来ない。
各キャラクターはスキル枠というのをもっているが、この派生スキルはカウントされない。
何故なら習得して獲得することは出来ない、他のスキル同士が複合して生まれる副産物的なスキルだからである。
しかし修得するまでかなりの苦労を要する分、その効果は絶大だ。
なお戦士系は、戦闘系派生スキルを複数修得することで多彩な攻撃スキルを扱えるようになる。
『蘇生術』は、それまでの過程が多すぎるため修得難易度が半端ない。
実際に俺もどれだけの時間とお金と気力を費やした事か…
だが、それだけの価値がある。
名前の通り、魔力さえあれば従属させたペット達を蘇生出来るのだ。(ペット達は、魔法では蘇生出来ない。)
そう、ニケとカルマも蘇生可能なのである。
…まあ、今は死ぬ想像つかないけど。
先日死んだ動物ペット達は、時間が経ち過ぎて手遅れだったので本当に残念だった…。
さて、そろそろリンとシュウも目を覚ますだろう。
「あれ、ここは…。あ、…パパ?」
リンが、目を覚ました。
まだ意識がハッキリしないのか、ぼやけた意識で俺を見てそう呟く。
「ははは、俺にも娘がいたが、君の父親ではないな」
ガントが俺をみてまじか!みたいな顔しているがスルーである。
「え、あっ!ごめんなさい!パパに雰囲気が似てたから…えっと、おじさんは誰?」
顔を真っ赤にして、あれ、初めましてかな?と首を傾げてる。
「俺は、ユートだ。ライ達に頼まれて君たちを助けに来たんだよ。とりあえず治療もしたし、痛みも消えたはずだがどうだい?」
リンは、自分の体を確かめた。
防具は噛まれた跡と血の跡が残っているが、傷は完全に消えていた。
噛まれた時に感じた痛みもなくなっている。
「はい、大丈夫みたいです。ありがとうございました!本当に、もうダメかと…」
さっきの事を思い出したのか、恐怖に体を震わせる。
そんなリンを見て、小さい時の娘を思い出しながら、大丈夫もう安心だよといいながら頭をなでてやった。
リンは俺の胸に顔をうずくめ、小さく嗚咽を漏らした。
「う…、はっ!リン!!」
そんなタイミングでシュウが目を覚ました。
がばっと、起き上がると俺に背中を抱かれるリンを見つけた。
「誰だおっさんっ!リンから離れろおっ!」
と、いきなり大剣で切り付けようとくる。
こいつ頭に血が上がりやすいやつだな。
だが振り下ろす前にニケがクチバシで捕獲し、ぷらーんと持ち上げられて阻止された。
「うわわわわわっ!は、はなせー!」
騒がしいやつである。
そしてニケ、グッジョブ!そのまま暫く吊るしてなさい。
泣いていたリンも、そんなシュウが騒ぎだしたことで気が付いた。
「あ、シュウ!目が覚めたんだね!でも、この人が助けてくれたんだよ。いきなり攻撃するなんてダメじゃない!」
と、ニケに吊るされているシュウ対し、ぷんすこと表現されそうな感じで叱った。
両こぶしを振り上げて怒るたびに、両サイドに結われたツインのテールが揺れて微笑ましい。
「わ、わかったから、ごめんって!てか、誰か降ろして~!」
そんなリンに平謝りし、降参のポーズをとった。
「とりあえず、ニケもう降ろしていいぞー」
苦笑いしながら、ニケに指示を出した。
降ろされたシュウは、ちょっと涙目になってた。
そんな様子をとりあえず見守っていたライとサナティが口を開いた。
「二人とも、もう平気か?…なんとか間に合ってよかった。ユートさんが居なかったら、君たちを助けることすら出来なった。力不足で本当に済まない」
「そうね兄さん。年長者として止めるべきだったよね。ごめんね、こんな怖い思いをさせる結果になって。でも、本当生きててよかった」
二人は、リンとシュウの手を取りながらそう言って謝った。
「ううん、俺から持ち掛けてお願いしたのに、勝手な行動でみんなを巻き込んでしまったんです。こちらこそごめんなさい」
お、意外なことにシュウが反省している。
「うん、私もみんなより強い!とか勘違いしてました。その結果、死んじゃいそうになって…。ユートさんたちを呼んできてくれて、助けに来てくれてありがとうございました!」
二人揃って頭を下げて謝った。
うん、人間素直が一番である。
さて、せっかく塔に来たんだし、手ぶらで帰ることはない。
ここはまだ中層だし、俺らにとっては雑魚ばかり。
ここの最上層の部屋には、Sランク魔獣がいたはずだ。
この子たちにも、本当に強い敵を見せて勉強してもらおうかなと考えていた。
ライとサナティにとっては未知の領域になるだろうが、何事も経験である。
それに守るだけなら問題ない。
ガントの方を見て、ニコっと笑いかけた。
引き攣った顔で、嫌な予感がするよと呟いている。
そう、当たりだよガント君。
うんうん、君も分かってきたね。
「よーし、みんな治療も済んだことだし…」
「あ、塔を降りるんですね。帰りは歩きでいいですよ!」
サナティが勘違いして帰ると思っている。
「いや、このまま最上層まで登る」
「「「「え?」」」」
ガントだけ、やっぱり・・とか言ってる。
「このまま、手ぶらで帰れないだろ?来たからには、ちゃんと攻略しないと」
いい笑顔で、答えておいた。
「いやいやいやいや!何言ってるんですか!ここの最上層は、Sランク魔獣がいるっていう噂ですよ?そんなとこ行って生きて帰れるわけないでしょう!?」
「まあまあ、落ち着けって。皆には付いてきてもらうだけでいいから。ちゃんとガードはつけるし。本当にやばそうだったらちゃんと引き返すから」
皆を無理やり説得し、取り敢えず準備する。
ガントにそれぞれの武器を手入れしてもらい、その場で補修出来そうな防具の修復だけしてもらう。
また、こちらの手持ちの中級ポーションをいくつか持たせる。
そう言えばと、さっきヘルキャットだったものの残骸である、灰を鑑定してもらう。
”魔獣の灰(高品質)”という結果だったので、布袋に入れてストレージに入れた。
後で売りに行こう。
さて、上層までの移動だが歩きは面倒くさいな。
だがニケには精々4人迄しか乗せれない。
戦闘させるなら3人までが適正であるし。
それならば…
「カルマ、どいつか俺と一緒に乗せてやれないか?」
カルマは俺以外の人間を乗せたがらないのだが、一応聞いてみる。
「主以外の人間を…特にオスは乗せるのはお断りです」
ん、女性は良いって事か?あ、そういや悪魔だしなコイツ。
「じゃあ、リンなら一緒に乗せても平気か?」
「はい、私の好み的にはあちらの女がいいですが、主の願いであるならば仕方ありません」
サナティを見てそう言っていたら、サナティは首をぶんぶんと横に振っていた。
「じゃあ、リンは俺と一緒にこのカルマに乗って移動な」
「あっ、はい!よろしくおねがいします!」
リンは、元気よく返事を返した。真っ直ぐでいい子だな。
「あとは、シュウだが…クロ!」
地面からニュッと出てくる。
「オヨビデスカ?」
「この少年を乗せて移動出来るか?」
大きさ的には問題ないと思うが。
「ダイジョウブデス」
「そうか、頼んだぞ」
「ショウチ」
そう言うと、シュウの背後にスルリとまわり、咥えたと思ったら宙に放り出す。
シュウが空中で一回転してバンザイの状態でクロに着地した。
おおーっと、なぜか拍手が起こったが、シュウは顔を真っ赤にして何も言えなかった。
ニケには、来るときと同じくガント、ライ、サナティを乗せた。
みんな、落下防止の障壁に守られるので最上層まで怪我すらしないだろう。
リンは、カルマの首元の、カルマと俺の間に座る。フィアの定位置と一緒だ。この位置にいるとつい撫でたくなり、無意識に頭を撫でてたら、リンはふにゃあと気持ちよさげにしていた。
シュウは、最初はビックリしていたが、乗り慣れるとすげーっ!とか、カッコいい!とか言ってご機嫌になっていた。
地面に近い分より速さを感じる分スリル満点のはず。
少年にとっては最高のアトラクションのようだ。
カルマに乗った俺とリンを先頭に通路をダダダっと駆けていく。
遭遇する敵は、俺のボーガンやカルマの闇魔法、ニケの風の精霊術によって蹴散らされた。
上層に入ると、魔物の強さが上がってきた。
Bランク上位からAランク下位くらいというとこだ。
ただ、強くなった分出現する個体数が減ったので、捌く速度は変わらない。
「今度は、黒いトラってとこか?…ヘルタイガーだってさ」
ありきたりな名前だったが、強さはなかなかだ。
クアアアアアッ!とニケが咆哮により衝撃波を繰り出すが、怯まなかった。
ヘルキャットとは格が違う。
「カルマ、魔法で串刺しにしてやれ!」
そう言いつつ、なんか言ってる事が悪役っぽいかなと思いながら攻撃を仕掛けた。
クロスボウで援護しつつ、カルマに魔法を打たせる。
「承知しました」
そういうと、Aランク魔獣ヘルタイガーの周りに魔法陣が複数出現する。
そこから、黒い槍のようなものがヘルタイガー目掛けて飛翔した。
暗黒魔法エビルジャベリンだ。
ズザッズザズザッ、ダンダンダンダン!と音を立てて相手を串刺しにいていく。
問題なく1ターンでこちらの勝利だ。
「上層で、一方的に倒してるとか自分たちの死闘は一体…。Sランクって本当なんですね…」
とライが遠い目をしていたけど、しょうがない。
もちろん、俺もここに至るために数々の死闘をしてきているから(LBOでだが)、彼らも努力して力をつけるしかないのだ。
道中で何頭かのヘルタイガーや、何体ものBランク悪魔レッサーデーモンやらをほぼ瞬殺で屠っていった。
今度は消し炭にしないように倒して、素材も随時回収していく。(素材は、全部ガントに持たせた。)
何度か大きならせん状になっている階段らしきものを上り、ついに最上層らしき場所へたどり着いた。
階段を上り切ったところに大きな扉があり、扉の前まで行くと勝手に開いていく。
中に入ると、天井はなく吹き抜けになっていた。
そこは、仕切りのない大きな円環状のフロアで、フロアの奥には、大きな魔法陣があるようだ。
見るからに"ここからボスが出ます"と言ってる様なものだ。
「さて、念願のボス戦だよ?みんなは、クロと一緒に後ろに下がっていてくれ。念のため、最初はカルマもガードにつけ。最初は、俺とニケでやる」
「む…、しょうがありませんね。今回はニケに武勲を譲りましょう」
頼んだぞと言ってカルマの首を撫でてから、双剣を取り出しニケと共に前に出た。
「ユート、がんばれよ!お前のまともな戦闘初めてみるけど、期待してるぜ!」
「頑張ってね!パパ…じゃなかった、ユートさん!」
なぜか、リンにパパ認定されかかっているが気にしない。
…ちょっと家が恋しくなった気がするが、今は考えてる時じゃない。
「おじさん、無茶するするなよ~!危なくなったら俺が助けてやるよ!」
とシュウがいうが、来てもらっても困る。
正直に言うと足手まといだ。
いらんいらんと手をヒラヒラと振ると、むきーと怒ってた。
さっきの失態をもう忘れてるんだろか?
ライとサナティもお気をつけてと声を掛けてくれる。
二人にちゃんと見張っておけよと、シュウを見ながら念を押しておいた。
二人がコクコクと首を縦に振ってくれたので少し安心。
「よーし、ニケいくぞー!」
出現してからスキル使うとか阿呆なことはしない。
出るのはわかっているのだ。
「スキル発動、〈アニマブーストⅢ〉。スキル発動、〈ビーストコマンダーⅣ〉!」
ニケが赤と緑のオーラに包まれる。
ニケは、クアアアアアアアアアアアアアアアっ!と方向を上げ、自らに精霊術で風を纏わせる。精霊術ブーストエレメントっていう高位補助魔法だ。
そのまま魔法陣の前まで歩み寄ると、魔法陣が眩く光りだした。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッと大仰な音を発しながら、大きな魔獣が出てきた。
なるほど、道理でヘルだのデーモンだのと付くのが多いわけだ。
出現した魔獣は、Sランク魔獣【地獄の番犬ケルベロス】だ。
すかさず、『生物学』で観察する。
三つ首からそれぞれ違うブレスを吐くことが出来、かつ魔法も使える魔獣で、炎に強い耐性をもつらしい。
HPは、なんと2800!普通に強いな。
こういう時は、先手必勝だ。
「ニケ、トルネード!」
ニケがクアアっ!っと鳴くと、出現中のケルベロスに竜巻が纏わりつく。
「そのまま、ライトニングブレス!」
続いて、クチバシを開けて、雷のブレスを浴びせかける。
グオオオオオオオオオオオオッ!!!っと、動けないところに攻撃を浴びせかけられ怒り心頭のようだ。
ドオオオオオンっと、前足を踏み出し出現したケルベロスは、そのまま三つ首から闇・炎・氷のブレスを吐き出した。
「うおっと、危ない」
すかさず、回避しつつボーガンを数発撃ちこんだ。
バシュッバシュッバシュッと突き刺さり、グアオッっと呻いている。
物理は普通に効くみたいだな。
体が大きいニケは少し被弾したようだが、かすり傷だ。
逆に闘志に火が付いたみたい。
バッサバッサバッサと両翼を羽ばたかせて、宙に浮きあがる。
顔の前で翼を交差すると力を溜めて、大きく開いた。
その瞬間に巨大な風の刃が無尽蔵に発生した。
ズババババッっと切り刻まれて、ケルベロスは僅かに怯んだようだ。
その隙に俺も、神秘スキルにより双剣に光属性を付与させて、闇ブレスを吐いた首に強烈な一撃を刻み込む。
ケルベロスはグオオオオオンッと悲鳴を上げて首から流血をまき散らした。
血に濡れるのも気にせずに、そのまま左前足にもう一撃加えてから離脱した。
ニケは俺が離れたのを見計らってクアアアアアンッ!啼くと、上空から急下降し、前足の鋭い爪で流血している首を切り裂いた。
ついにケルベロスの首が一つ落ちた!
さすがのケルベロスも、首を一つ落とされて無事では無いらしい。
激痛に悲鳴らしき咆哮を上げ、後ずさった。
だがまだまだHPは残っている。
突然、ケルベロスの周りに黒い稲妻が集まりだした。
ん、これはヤヴァイ気がする。
「ニケ!退避だ!さがれっ!」
だが、下がりきるよりも早く相手の攻撃が発動した。
ガガアアアアアアアアアアアアアアアアンっと、強烈な音と光を発し、辺りに黒い稲妻が轟く。
「ぐあはっ」
俺も距離を取ったつもりが、足りずに被弾した。
一撃で1/3くらいHPを持っていかれたぞ。
クルアアアアンッとニケも呻いていた。
やはり直撃を喰らったようだ。
だが、もともと雷には耐性があるので、怯まずに反撃に出る。
攻撃後の大きな隙をついてニケは空に舞い上がる。
そこから両前足からの爪による直接攻撃、羽ばたいてウインドカッターを数発撃ち出した。
さらに着地後に後ろ脚で吹き飛ばし、浮いた相手を固有スキル〈轟雷〉という強烈な雷を纏っての突撃でさらに吹き飛ばすという見事な空中乱舞を繰り出した。
これは俺も見たことのない、強烈な荒業だな。
…あれ、なんか前よりも強くなってないか?
炎に耐性があるケルベロスが体から焦げて煙を上げているという異様な光景を見て、部屋の入口側で見ていた一同は『なんだあれ!?』と驚愕してたことは言うまでもない。
カルマは『あれくらい当然です』と、おかしな発言をしていたが。
倒れた相手に手心を加える気など持ってはいけないので、俺とニケはとどめを繰り出す。
ニケは、自己の最強スキルを放つ。
固有スキル〈天嵐〉。
複数の竜巻と強力な雷を放つこの攻撃は、一度喰らうと効果が終わるまで逃げ出せない凶悪な技だ。
俺も喰らったことがあるが、風で切り裂かれ、雷で焼かれて瞬殺された苦い思い出がある。
本当に、二度とは喰らいたくないやつだ。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
ついに、ケルベロスが力尽きた。
スキルでHP0になったことを確認するのも忘れない。
「よっし!よくやったニケ!えらいぞ!!」
そういいつつ、地面をみると〈天嵐〉で削れた地面にクレータが出来ている。
…こないだの地面のやつは、これか?
つかカルマは何で平気だったんだ…と心の中で汗をかいた。
ニケを撫でつつそんなことを思っていると、後ろのほうから歓声があがった。
「おおおおおおおおお!すっげーぜユート!ニケ!まじで倒しやがった!」
「すごいすごいっ!パパとニケちゃん本当に強いんだね!」
「なんと、伝説の魔獣を倒しますか…。本当にSランク調教師なんですね!?」
「兄さん、私は今日、ずっと夢を見てるんでしょうか。こんな事が、もう何がなんだか…」
「ちっ、あれを倒すのは俺だったのに!カッコつけやがって!…う、痛い。クロ、前足で蹴らないで!」
一部、罵声があったが、先にお仕置きされてたのでほっとこう。
終わったので、みんなを呼んで素材を取るのを手伝ってもらう。
「さすが主、これくらいは余裕ですね。ニケもよくやりました。しかし、もう少しやられてくれれば、私の出番が来たものを…」
後半は置いといて、カルマも労ってくれる。
二匹を全力で戦わせたら、Sランクドラゴンくらい余裕そうだな。
今度やってみようか。
SSランク魔獣ももしかしたら…。
…いやさすがに俺が危ないな、やめとこう。
素材回収するのに、ケルベロスの残った二つの首を落とそうと考えて、試しにシュウの大剣で切り落とそうとさせたら、刃が食い込んで抜けなくなった。
仕方ないのでニケにやらせたら、ウインドカッターでぽろりと落とせた。
「な、なんでウインドカッターって初級魔法じゃないの!?」
とシュウは涙目だったが、お前がまだまだ力不足ってだけだよというと、さすがにしょんぼりしてた。
さすがに解体シーンは子供には刺激が強いので、大人4人でやり(ライとかは手慣れていた。)、報酬になりそうな素材(爪とかキバとか鱗とか)は、ある程度分配した。
いつかはこの二人もやらないといけないだろうけど、今は疲れているしまたの機会だな。
宝箱とか出ないかと思ったけど、もうゲーム世界じゃないからか、そういうのはなかった。
とても残念だ。
残りをすべてストレージに収めてから魔法陣を見ると、まだ光っていた。
この手の魔法陣は、ボスを倒してから一定期間は帰還専用ゲートになっているので、使わない手はない。
ニケの治療と自分の治癒を行ってから、それぞれペット達の上に乗り魔法陣の上に乗った。
ぱあぁッと光ると、魔法陣に吸い込まれていく。
LBOの時は、瞬間移動的な感じだったが、透明なエレベーターに乗って降りているような感覚で下に降りていく。
しばらくすると、降りる感覚が無くなり辺りの景色が戻った。
ここはどうやら最下層の隠された部屋だったようだな。
目の前の扉が開き、外に出るとそこは塔の丁度裏側だった。
外はもう日が落ちかけていた。
最速で攻略したわけだが、休息時間も取っていたのでそれなりに時間が経っていた。
「カルマ、ニケ、クロ。悪いけどこのまま町まで行けるか?」
今日ずっと働き詰めの3匹に悪いとおもいつつも、野宿は避けたいので確認する。
「もちろんです、主」
クワっ!
「オオセノ、トオリニ」
3匹とも承諾してくれる。
俺にとってはやはり最高のパートナー達だ。
いつも心強いよ。
「よし、じゃあこのまま町へいくぞ!じゃあ、れっつごー!」
そのまま俺たちは、先に向かっているライの仲間たちを追いかけて、サニアの町へ向かうのだった。
…余談だが、あまりにも早く町について、途中ライの仲間たちを追い抜いてしまい。
「リーダーひどい!なんで俺たちより早いんですか!しかも置いていくなんて!」
と、ライが仲間たちに文句を言われていたが、俺の知るところではない。
お読み戴きまして有難うございます!
次話も宜しくお願いします。