サニアへ向かう途中に。
サニアの町へ向かった二人と2匹。
そのまま町に着くといいが…
───この世界は、”アストラ”というらしい。
カルマが言ってた通り、光の神と闇の神の双子の神が創ったとされて、その子孫たる人族と魔族が覇権を巡り争い合っているということだった。
幾年もの戦争ののち、大地は五つに分けられ、それぞれに名前がついた。
北の大陸”ノーセリア”
東の大陸”イーガス”
西の大陸”ウルガイア”
南の大陸”サウサリス”
中央の大陸”ウルステラ”
それぞれの大地は、大きな川や海で隔たれており、歩いて渡るとかは無理なようだ。
その形はLBOと同じなので、すんなり頭に入った。
LBOのときは、各大陸からポータルと言われる魔法陣で繋がってて、利用料払えば渡ることが出来たのだがあるだろうか?
そのうち、行って確かめよう。
いや、町で情報を聞けるかもしれないな。
今、いる大陸は西の”ウルガイア”。
パドはその中でも最果ての村なので最西端と言える。
さらに西側は、鉱山があった険しい山々が連なっているので、世界の果ては見えない事になっている。(LBOの時も、制限が掛かってて抜けれなかった。これも、いつかチャレンジしよう。)
向かっているのは、北だ。
今は、大陸のやや南側にいるので、サニアの町は北東にある。
さらに抜けて北東へ行くとウルガイアの王都がある。
現在、中央大陸、北大陸、東大陸は魔族の支配地なので、かなり危険だ。
また、王都より東側は侵略をしかけてくる魔族もいるらしい。
戦争には興味無いが巻き込まれないようにしないとな。
カルマで爆走しているので、あと2時間もすればま到着するだろう。
村から町まで300キロくらいなので、時速80キロ以上出している計算だ。
馬車なら5日はかかる距離を3時間程度で移動出来る。
これもテイマーの特権と言っても過言じゃない。
飛竜は、ドラゴンライダー以外の戦士は乗れないし、ペガサスナイトとかも一緒だ。
…そしてだ、それらを捕まえて来るのはやっぱりテイマーなのだ。
馬以外の騎乗生物は、そこらでは買えないのだ。
移動して、2時間くらいになった頃、一度休憩をとろうと言うことになった。
急いではいないし、無理はさせたくない。
カルマとニケに干し肉を食べさせて(肉はダイアウルフ製)、自分達も水分補給する。
丁度、昼になったらしく太陽が真上に出ていた。
酒場で買ってきた弁当二人分を取り出し、一人分をガントに渡した。
「ほら、昼飯だ。食べれるうちに食べておこう」
「おー、気が利くなぁ、さすがユート!」
さっそく弁当を開けて、うまそー!とか言いながら食べだした。
俺も折角なので、ニケとカルマに水を飲ませながら弁当を食べた。
中身は、ベーコントマトサンドと、鶏肉の蒸し焼きみたいなのが入ってた。
いつか、料理スキル持ちを仲間にしたら、美味しい物食べれていいな、とかぼやっと考えながら食べてた。
食べ終わって、そろそろ出発しようとしたところに、遠くから何かがこちらに近づいてくる。
あっちは、なんかの塔があるって地図に描いてたな。
用事がないので、スルーしていく予定だか…
人影は段々近付いて来た。なんか遠目から見てもボロボロだ。
なんか嫌な予感がする。
「主、仕留めますか?」
さらっと、怖い事を提案してくるカルマ。
「まぁまて、あれは食べても美味しく無いぞ?」
「そう言う問題じゃないだろ…」
ガントが呆れた顔でこっちをみてくる。
「まぁ、冗談だよ。ちょっと、いやかなーり、面倒くさそうだなと思っただけだ」
呆れ顔が、ジト目に変わってた。
そうこうしているうちに、ボロボロの一団が話しかけてきた。
「あなた方は、冒険者か?見た所かなりの魔獣をつれているみたいだが」
リーダーらしき、男がカルマとニケを見て質問してきた。
「あぁ、そうだよ。これから町に行くところさ。何かようかい?」
あからさまに、関わりたくない雰囲気を出してみるが効果は無さそうだな。
「た、頼みがある!急ぎなんだ!」
「断る!」
「えぇ!?いや、まだ内容も言ってないのに断るなよ…」
ガントがツッコミを入れてきた。いい反応だな!
「でも、どう考えても禄な事じゃないだろ?」
「き、聞いてください!私達は、ギルドの依頼を受けた冒険者なのですが、魔物討伐であの塔に行っていたのです。そこで、先行してしまったまだ幼い冒険者がトラップに掛かってしまい、魔物に囲まれてしまったのです!」
幼い?こっちの冒険者は、低年齢でも登録出来るのか?
疑問に思いつつ、続きを聞いた。
「二分されたので、慌てて魔物を倒して合流しようとしたんですが、数が多すぎて、我らでは太刀打ち出来ずに…」
「置いて逃げてきたと?」
リーダーの男は、クッと言いながら、苦虫を潰したような顔になった。
…図星か。
しかし、そこまで無責任なやつには見えないな。
「先行した彼等は、我々よりも実力が高く、問題ないからと先行を任してたのです。実際に、それまでは本当に問題ありませんでした。なので、あんな事になるとは…」
「それで?その子達はどんな状態なんだ?」
ユートがそう聞くと、もしや助けてくれるのか?と期待を込めながら見てきたので、いいからつづけろと促した。
「はい、彼等は我らを逃がすために、魔物たちを引き付けてくれてます。大丈夫だから先にいけと言われて我々は助けを呼ぶ為に離脱しました。彼らは見た時は、まだ怪我を追うほどでは無かったですが、あのままでは…」
「いずれ力尽きるか…分かった」
ガントが、おや?という顔をしてる。
意外だなーとか言ってるが失礼な。
聖人君子ではないが、一人の子供の親だった記憶があるのだ、幼い冒険者が命の危険があると言われてほっとく訳にはいかない。
それに、幼い冒険者が彼等より強いという事実に引っ掛る。
嘘で無ければだが。
こういう時は、先生の出番だ。
お願いカルマ先生!
「その話が本当なら手伝ってやるよ」
「そんな、嘘なんて言いませんよ!」
「…カルマ、どうだ?」
そこで、じっと冒険者達を見てたカルマに審議を問う。
「…ふむ、今のところ嘘を言っていないようです。ついていたなら、命は有りませんでしたが」
大丈夫なようだな。後半怖い事を言っていたが同意見なので頷いておく。
「なっ、ま、魔獣が喋った!?」
なんか、別なとこに驚いているが、そこはスルーだな。
「よし、決まりだ。手伝おう。全員は邪魔だな。案内役は、お前とお前だけでいいよ。あとは、町に戻って待ってな」
リーダーらしき男と、回復職らしい女性を指名する。
「リーダー、二人を頼んだよ!俺らは帰ってギルドに報告しに行く!」
「ああ、頼んだぞ!」
そこで、二人以外は町の方へ行進していった。
二人の名前は、リーダーがライで女性がサナティと言うらしい。
二人共、浅黒い肌と黒髪の若者だ。
女性の方はロングストレートの髪でローブで隠れているが美人だな。
ガントが見惚れてるので、肘打ちしといた。
「俺はユート、見ての通りテイマーだ。こっちは、鍛冶屋のガントだ」
「宜しくお願いします。さっそく、向かいましょう。急がないと!」
走り出しそうなので、ストップを掛ける。
「まずは情報を正確に把握したい。無闇に突っ込んでも二の舞になりかねない」
焦る顔を崩さないライだったが、確かにと逸る気持ちを抑えて説明をした。
「まず、取り残されたのはシュウという戦士の少年と、リンという剣士の少女です。二人は、先日サニアに現れてギルドに登録したばかりですが、ステータス魔法による判断でBランク判定を受けました。ちなみに、われら二人はCランク冒険者です」
なるほど、既にクエスト対象を討伐済でクエスト受ける必要が無かったんだな。
しかし、Bランクか。
この世界の一般冒険者から見てかなり強い。
…しかも、それが二人も。
プレイヤーかもと思っていたが、これはほぼ当りだな。
「それで?」
「はい、今回の討伐クエストはシュウから持ち掛けられたんです。割のいい依頼があるから、一緒にいかないかと。それで、依頼書を見たらBランクを数体倒すものだったので、危険だと言ったんですが、何度も倒したことあるから平気だと」
「で、それを真に受けたのか?」
訝しげにライを見て言うと、ぶんぶんと顔を横に振る。
「まさかですよ。でも、討伐対象の素材を見せられて、嘘とも言えず。なので下層で実力を見て、問題が無さそうなら、そのまま討伐に行こうという話になったんです」
「なるほどなぁ。で、下層では圧倒的だったと?」
「はい、それは凄いもんでしたよ。二人だけで全部やっつけてしまうんですから。ですが…」
「あ、ちなみに討伐対象はなんだ?」
「あぁ、そうでしたね。相手はBランク魔獣の”ヘルキャット”を10体です」
ヘルキャットか、群れの連携と基礎ステータスが高めで速さがある厄介な敵だ。まぁ、俺なら余裕だが。
ニケとカルマなら餌にしか見えないだろう。
「なるほど。で、トラップはヘルキャットの巣か?」
「はい、まさかおびき寄せるとは思っても居なくて、気がついた時には二人が入り込んだあとだったので」
子供が大人より力を持ってはしゃいじゃった典型的パターンだな。
「数は、どのくらい居た?」
「混乱してたので正確には分かりませんが、大小含めて30体はいたかと」
うへー、それはちょっと面倒くさいな。
範囲魔法使えればいいけど、二人も黒焦げにしてしまう。
かといって、一匹づつじゃ埒が明かない。
塔なら、ニケも入り込めるし、カルマもいる。
戦力は問題無いが、どうやるかだな。
「カルマ、二人を巻き込まないで一掃する方法あるか?」
カルマは、少し考えて。
「主よ、少年少女を先に助けるだけなら、我とニケで正面からいっても平気ですぞ」
まじか、お前らどんだけだよ。親の顔がみたいわ。あ、俺だ。
ん、ニケと名前で言ってる!
「お前ら仲良くなったの?」
「まさか。ですが、この間全力でぶつかってみて、互角でしたのでね。力は認めております」
まず、ランクが下だったお前が互角って時点で凄いよ…
「よし。それならささっと突っ込んでもいいか」
「え、本当に大丈夫なんですか?!」
ライとサナティが不安そうに見てくる。
「大丈夫だろ。こう見えて俺とこの子らのランクは、Sランクだから!」
へ?とポカーンと口を開けてた。
なにその面白い顔。
「じょ、冗談ですよね?Sランクなんて、王都の伝説級冒険者と一緒ですよ?!」
「あ、そなの?ま、嘘か本当かは見てればわかるよ。じゃ、ニケこいつら抱えてあの塔まで行ってくれ!」
言うと、直ぐにガシィッと二人を掴んだ。慌ててガントが背中に飛び乗り、飛び上がった。
「カルマ、俺らもいくぞ!」
「承知!」
俺らも追いかける形で、駆け出し塔へ向かった。
遠くから悲鳴が聞こえる…気がする。
聞こえなくなったからキニシナイ。
ものの数分で到着。
やっぱ、ペット様々です。
ほんと、移動力は冒険には欠かせない。
グロッキーな二人がいるが、きっと気のせい。ほら、早く案内しなさい。
「兄さん、私初めて空飛んだわ」
「それは、俺もだよサナティ」
ん、こいつら兄妹だったのか。
「よし、ライ。ガントとサナティと3人でニケの背中に乗れ。飛ばない状態なら乗れるから」
そう言いながら、自分はカルマに乗る。
「カルマ、ニケ。目的地の中層まで全力疾走だ。雑魚は、弾き飛ばせ!」
「承知!」
クァアアッ!
カルマとニケの周りに障壁が形成される。
通常なら、単なる落下防止でしかないが、2匹のクラスになると、それだけで敵を蹴散らせる。
言われたとおり、2匹は全力疾走した!
ドドドドドダドドドダドドドドッ!
チャージタックルされたかのように、弾け飛ぶ魔物たち。
たまに固まって、邪魔になりそうだと。
クァックァッ!と鳴いたかと思うと、突然、室内に竜巻が起きて魔物を吹き飛ばし。
また、ガードしながら突撃してきた、オーガソルジャー達が出てきたら、カルマが魔法を発動し、ダークブラストでこれまた吹っ飛ばし、瞬殺していた。
「サナティ、俺は夢を見てるのか?」
「いいえ、信じられませんが私も同じ光景を見ています」
そんな光景を見て、二人は唖然としてた。
ガントだけは、
「こんなにすげーのか。流石だなぁ。しかし、こりゃ楽でいいね!」
と、言っていたが…
入り口に着いてから、中層に来るまでに10分。
そこから目的地のヘルキャット部屋まで、5分だった。
かなりのハイペースだが、これまでに打ち洩らしはない。
全てが瞬殺だ。
「さて、まだ元気にやってるかなー?」
───ユートが到着するほんの少し前。リンとシュウはまだ戦ってた。
「シュウ、このままだと押し切られるよぉ!」
「くっ、本当にキリないな!リン、まだポーションはあるかっ?」
「あとっ、2本!てい、やぁっ!」
たった二人で、続々と湧いてくるヘルキャット達に囲まれながらも、なんとか致命傷を避けつつ少しずつ数を減らしていた。
しかし、確実に溜まっていく疲労はどうにも出来なかった。
少しずつ、少しずつ死が忍び寄ってくる。
そんな事が頭を過るのを振り払って、頭の片隅に追いやる二人。
二人は、純粋なファイターなので魔法は使えない。
使えたとしても、詠唱する暇が無かったので状況は変わらなかっただろうが。
だが、打開策が無いというのは、気持ち的にも二人をかなり追い詰めていた。
(…くっそ、何か抜け出す手を考えないとリンがもう限界だ)
どうしようどうしよう、と追い詰められてるシュウは、見た目通りの幼い精神がさらなる弱みを見せる。
その結果、大きな隙きを敵に見せてしまった。
背後から数体のヘルキャットがチャンスとばかりに喰らいついてきた。
一瞬背後の警戒が疎かになっていたシュウは、あっけなく深手を負わされた。
「がっは!うがぁ、痛ってええっ!」
余りの痛さを振り払うかのように、ブンブンと大剣を振り回す。
「シュウ!?駄目だよ!いま、ポーション使うから!」
さっきまでの冷静さを忘れているシュウが深手を負っているのをみて、リンは庇うかのように剣を滑り込ませ、敵の攻撃を受け止めつつ左手にもったポーションをシュウに振り掛ける。
背中から流していた血がとまり、わずかに傷が塞がる。
しかし痛みは消えない。
痛みに顔を顰めながらも、我を取り戻したシュウは冷静さを取り戻した。
しかし、精細さを欠いた動きでは防戦一方だ。
リンもポーションを飲み傷を癒やした。
だが、やはり疲労は溜まり続けている。
普通のポーションでは疲労は回復しないからだ。
極限状態がかれこれ1時間以上続き、リンの集中力も既に限界だった。
その最中、ポーションを使った時に出来た隙をまた違うヘルキャット達が狙ってくる。
なんとか捌くも、そこで遂に限界がきた。
攻撃を受けた瞬間に片膝を落してしまう。
意識が一瞬飛ぶ。
シュウは、既に助けに入る余裕は無い。
リンはその場に押し倒され、そのまま複数のヘルキャットに噛みつかれる。
なんとか防具とステータスの恩恵でしばらく牙に抵抗していたが、あっけなく突き破れ腕から脚から背中から血が滲み出てきた。
「う、あああああっ!」
リンは堪らず苦痛に呻き声をあげるが、既に跳ね避ける力が出ない。
「リン!リンー!!くそっ、どけろおおおお!」
シュウはなんとかリンに駆け寄ろうとするも、ヘルキャットの大群に囲まれて近づく事すら出来ない。
それどころか自分も数匹に噛み付かれて、ついにシュウも倒れた。
すかさず、他のヘルキャット達がさらに喰らいついてきた。
「がああっ!」
もはや声にならない悲鳴をあげて、自分達の最期を悟った。
今さら浅はかに飛び込んだ自分を呪うも、既に遅い。
リンは既に気を失いかけている。
「リン、ごめん…俺のせいで…」
シュウも激痛で気を失いかけていた。
グオオオオオオオオオオオオ!!!
突然、辺りに咆哮が体にビリビリするほど響き渡る。
ヘルキャット達も、何事かと動きがとまる。
クルラアアアアアアアアアン!!!
さらに、また違う鳴き声と共に、爆風が吹き荒れた!
辺りにいたヘルキャット達がたちまち吹き飛ばされて行った。
「やぁ、君たち無事か?…うん、無事ではなさそうだな」
そこに現れたのは、大きな白い魔獣と漆黒の馬のような魔獣をつれた、おじさんだった。
お読み戴きまして有難うございます!
次話も宜しくお願いします。




