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出発するために。(前編)

散り散りになっていたペット達を回収した主人公は、ある人物に呼び止められる。

その人物の正体とは…

「なあ、あんたももしかしてプレイヤーか?」


 突然、横から声が掛けられた。

 見たところ自分よりも少し若いくらいの冒険者がビールを飲みながらこっちを見ている。


「私ですか?…あなたは?」


 まずは、誰だと言外に告げて、話を促した。


「あぁっ、いきなり済まんな。俺は、ガントって言うんだ。職業は、ブラックスミス。つまり鍛冶屋だ。あんたは?」


「私は、…ユートです。職業は調教師(テイマー)です。()()()()ですか?」


 一瞬、本名を言いそうになったが、相手もどう見てもキャラ名を言ってきたのでこちらもキャラ名で答えた?


「あぁ、俺もそうなんだ。一昨日までは普通にゲームしてた筈なのに、いきなりブラックアウトしたと思ったら、次に気が付いたときこの村の中で倒れてたんだ。訳も分からないまま、村を彷徨いてたら、厩舎の方でモンスターが暴れてるって村人が騒ぎだして、なんかのイベントかっ?!って思ったらナイトメアがいてビビったよ…」


 あ、それうちの子です。すいません。と心の中で謝っといた、


「その時に気が付いたんだ。ステータス表示が消えてることに。インターフェースが変わるなんてざらにあるが、なんの、告知もなしに、しかもオプション表示も消すなんて。あり得ないじゃないか?それに、厩舎から芳しい臭いするし、これは、ひょっとしてひょっとするのかと思ったよ」


 そのあと、金が無くなって困って材料売っ払っただの、野宿してたら村人に泊めて貰えただの、ここらのモンスターには勝てなかっただの、途中から愚痴になってた。

 仕方無いので一杯奢ってやった。飯もつけてあげた。


「あんた、いやユートさん、優しいな。久々に人の優しさに救われたぜ!」


「はは、大袈裟だな。ところでガント。君は、鍛冶屋だよね。防具は作れるかい?」


 もともと、装備を整えるつもりだったのだ。頼めるなら、それに、越した事はない。


「もちろんさ。『裁縫師テイラー』と『革加工レザークラフト』スキルも持ってるから、テイマーに適した革装備作れるぜ」


「じゃ、お願い出来るかい?お金も勿論払うよ。ただ、そこまで持ち金ある訳じゃないから、お手柔らかにね」


 頭をぽりぽりし、苦笑いしながら頼んだ。


「もちろん、引き受けたっ!って、言いたいとこなんですが…」


 え、まさか断られる?ここは、金なんかいいですよっ!の流だろと勝手な事を考えてたら…


「…いやー、ほらさっき言ったじゃないですか、材料売ったって。あはは」


 あー、はいはい。確かに言ってたね。

 って、あほー!材料持ってないスミスなんて、ただの村人じゃないか!


「さっき言ったとおり、ここらのモンスターには歯が立たなかったので、危なくて材料取りにも行けないですし、手持ちもないから買うことも出来ないんです。そこで、ユートさん。一緒に材料取りに行ってくれませんか?」


 なるほど…。考えたら、いい材料手にいれて渡したほうが効率は良さそうだし、買うより安し、期待できる品質も高い。

 それなら、断る理由もないな。


「よし、いいよ。付き合うよ材料集め。何が必要なんだい?」


 喜びに、顔を明るくしてガントは、抱き付く勢いだったので、どうどうと、止めて話を促す。


「えっとですね、丈夫な金具を作るのに鉱石類が必要ですね。あとは、魔獣の革ですかね。今着てるのは、B級魔獣の革鎧ですね?じゃあ、Aランク以上ならどれでもグレードアップ出来ますよ」


 鑑定も持ってるようで、見ただけで性能を正確に見抜いている。なかなか、職人としては腕が良さそうだな。

 これなら期待できるな。


 武器の方は、今は作るより整備して使った方がいいと言うことだった。

 ただ、弓が無くなっていたので、小さめのボーガンを作って貰う事にした。全部で、銀貨30枚で手を打った。


「じゃあ、明日の朝、ここで待ち合わせよう。朝食がてら、どこを探索するか決めよう」


 俺が提案すると、ガントとそれでいいと頷いた。

 しかし、そのあと遠慮なく言い放った。


「ついでに朝飯も、奢ってください!」


「ったく、しょうがないな。いいよ、前金代わりな!」


「あざーす!」


 苦笑いしながらも、嫌な気持ちもせず承諾した。

 こーいう、気を使わないで済む相手は色々と楽だ。

 飯も食べ終わり、ビールも空になってたので、今日は寝ると告げてその場で別れ、宿屋に戻った。


 ベットは、まぁ普通かな。野宿しないだけましと思おう。

 風呂はないので、桶にお湯を貰い、体を拭ってスッキリしてから眠った。



 ───翌朝、早めに起きた俺は厩舎に向かった。

 厩舎には既に世話をする主人が働いていた。そういや、壊れた建物直してやらんとだな。

 素材ついでに宝石とか狙いに行くかなー。

 そんなことを考えてたら、声を掛けてきた。


「あー、旦那お早うございます。冒険者にしてはお早いですね」


「あぁ、様子が気になってな。みんな元気か?」


「はい、勿論です!昨日は、飯もちゃんと食ってくれましたし、元気いっぱいで私もひと安心ですよ」


 厩舎の主人も気にしてくれてたようだ。その真心に感謝する。


 みんなボロボロになったし、今日からまた冒険するのだ。

 全快してくれないと心配が残る。

 でも、どうやら杞憂で済んだようで良かった。


 ポーションという魔法のアイテムがあるからこんなんで済んでいるだけで、無かったら今も絶対安静にしてないといけないくらいの怪我してた子もいた。

 やっぱ、どのペット達も我が子なんです。

 可愛いんです!


 死んでしまった、動物の事を思いだし少し悲しくなった。


「しっかり治してくれて助かったよ、ありがとう。今日も出掛けるからまた、あとで引き取りに来るからよろしく」


「わかりました。お待ちしてますね」


 去り際に、三日分の預り金を渡しておいた。


 ひとまず、ペット達の状態を確認できたので、食堂兼酒場へ向かう。

 朝だというのに、もう中は客で賑わっていた。

 昨日と同じカウンターへ進んでいくと、そこにガントが待っていた。


「お早うガント、早いじゃないか」


「お早うございます、ユートさん」


 明るくなった朝に改めて見た感じ、自分と大して変わらない男がさん付けで挨拶してきた。

 なんか違和感しかない…うん、やめさせよう。


「そういや、ガントいくつだ?」


「へ?俺は、今年で39歳ですが、何か関係が?」


 やっぱ、そんなもんか。


「うん、大して歳変わらんし、これからはギブアンドテイクの関係だ。俺の事はユートでいいよ」


「了解した。じゃ、ユート改めて宜しく!」


「おうよ。よろしくな!」


 ガントと、飯を食べながら今日の方針を話し合った。

 今日は、まずは鉱石を採らないと、金属が無くては何も作れないって話だ。

 大事な道具類は売らずに取っておいてるが、細かい部品とかは在庫がないらしく、それを作るのにも金属が必要ということだ。


 ゲームみたいに、ツルハシ振れば必ず鉱石が出るわけはない。

 なので、ある程度時間は掛かるだろう。

 幸いなことに、ガントはスキル〈鉱石探知Ⅲ〉を習得しているらしく、ある程度の絞り混みは出来るらしい。

 どのみち、一日は鉱山に潜るつもりだ。


 朝食を食べ終わって、一息ついた後、二人で厩舎へ来た。

 今日連れていくのは、ナイトメアのカルマとカーゴタートルのゲンブとフレイムキャットのフィアだ。

 カルマは、万能タイプなので空中戦以外はかなり強い。

 ニケは大きすぎるので狭いとこには適してないので入り口で見張り番だ。


 ゲンブは、背中に半球状のカーゴ(荷物を入れられるコンテナ)を背負っている。

 実は、この中は異空間になっており、かなりのアイテムを入れれる。


 数人なら、人間も入れるスペースがある。大きさとしては、15畳くらいか。

 なんなら、住み込み可!但し、外から攻撃されると結構揺れます!(過去に戦闘中に逃げ込んで船酔いした奴がいた。)

 今回は、中に鉱石BOXを作って散らばらないようにした。

 仕分けは、ゲンブに言えば自動でしてくれるので問題はない。


 フィアは何故連れていくかというと、灯りに困らないし、携帯フォージ(小さな鉱石を溶かす炉)に火を入れれる為だ。

 見た目は火を纏った猫だが、鍛えてランクを上げているのでスキルを修得しているので、野良には出来ない戦い方が出来る。

 そのお陰で、野良のAランク魔獣と戦っても勝つ自信があるのだ!


 フフフフと笑っていたら、隣からジと目を向けられた。


「しかし、職業聞いてまさかとは思ったがやっぱユートのナイトメアだったか」


「うん、今回の異変でさ、服従状態切れたみたいでさ、自我失ってみんな暴れちゃったんだ。はははっ」


「はははっ、じゃねー!まじで死ぬかと思ったんだぞ!取り抑えようとした厩舎の主人を尊敬したわっ!」


 ガントの口から衝撃的な事実が飛んできた。


「まじか?アレに生身の人間で向かうとか…彼は何者なんだ…」


 いやー、必死だっただけですよーとか言ってるが、信じられない。

 もしかしたら、昔、凄腕のテイマーだったとかか?

 機会があったら訊いてみよう、と頭の片隅にメモしておいた。


「取り敢えず、鉱山までの道のりだが、ガントはニケの背中に乗ってくれ。俺とフィアはカルマの背に乗っていく」


「了解した!空から世界見るの初めてだから、ウキウキするなぁ!」


 ガントは、嬉しそうにニケの背中に掴まった。


「ニケ、ゲンブに付けたロープを持ち上げて、そのまま空を飛んで運んでくれ。元々ゲンブも浮いてるし、そんなに重くは無いだろう」


 ニケは、クァァー!と鳴くと、ロープを前足でしっかり掴み、ガントを背中に乗せて飛び立ち、ゆっくりと羽ばたいた。


「よし、カルマ、フィア、いくぞ!」


 カルマの背中に飛び乗り、厩舎の主人に別れを言って村の外へ駆けて行った。

 フィアは、俺とカルマの間にちょこんと座り、顔を覗かしている。

 うん、可愛いなあ。


「うおーっ、ユートーー、こりゃあ最高だなっ!!」


 空の上から、景色を見渡したガントから感動の言葉が漏れる。

 自分が飛んでいる訳じゃないが、自慢気な気分になる。


「そうだろうっー!これを味わえるのは、そんなにいないからな!」



 ───三時間くらい、走らせると目的の坑道が見えてきた。


 通常なら一日は掛かるのでかなりハイペースだ。

 そんな中、フィアは、丸まって寝ていた。

 …可愛いけど、図太いなこいつ。


 まだ昼間だし明るいが、他に来ている人はいないようだ。

 酒場で少し聞いたが、最近入り込んできたモンスターが縄張りにしてしまったらしく、殆どの坑夫は入れなくなって休業中らしい。


 国のギルドに依頼は出しているが、一向に音沙汰がないらしい。

 もし討伐して素材を持ってきてくれたら、依頼に用意した金貨三枚を村長から貰えるぞとも、教えてくれた。

 正式クエストではないが、切羽詰まってる分だけ報酬は高めだ。

 これを逃す手はないだろう。


 入り口に着いて、中で作業中であることを示す旗を建てた。

 こうしておけば、魔獣を連れていても、あとから来た冒険者に驚かれる心配が減る。

 ニケにも、ペットである証の腕章を前足に着けておいた。


 こうしないと、別の討伐隊が派遣されかねないくらいのレアモンスターなのだ。(殆どの場合、返り討ちにしてしまうので、それはそれでヤバい。)


 さて、早速作業を開始だ。


 入り口ではもう鉱石はでないし、等級も低いので奥へ奥へと進む。


 野生のコウモリとか蛇とか居たが、モンスターは全然いない。

 いても、カルマがいるので危険を感じて出てこないのかも知れないが…。


 下へ下へと進み、人工的に作られた階段を10階くらい降りた頃だった。

 どうやら、やっと目的のものがありそうだ。


「ユート、ここらで堀始める。その間の警護は頼んだぜ!」


 そう言うと、早速ツルハシで堀始めた。ちなみにツルハシも自分で作ってるらしい。


「あいよー、じゃあ周りに何かいないか確認してくるな。カルマを置いていくから、安心して掘りまくれよー」


「助かる!そっちも気をつけてな!」


 松明を数本設置して、辺りを照らしてからフィアを連れて周りの探索を始めた。


 数分して、奥の方から唸り声が聞こえてきた。

 多分、カルマから離れたので警戒が薄まったのだろう。

 現れたのは、Bランクの魔獣のダイアウルフ達だ。あちこちにいる種類だが群れで行動するため、意外と強い。


 フィアを見て格下と分かり、すっかり気分はハンターだろう。

 しかし、それは大きな間違いだ!


「フィア、スキル〈炎体分身〉だ!」


 LBOでは、Aランク以上のモンスターが固有スキルを持つというのが常識だった。

 だが本当は違う。

 A()()()()()()以上の能力を持ったものが発現出来るスキルの事なのだ。


 元Cランクのフィアを極限まで鍛えた結果、ギリギリAランク相当までいった。

 結果、自分と()()()()()()を持った炎の分身を最大10体作り出せるようになった。

 これは、テイマーの中でも俺くらいしか知らないだろう。


 フィアが、グアアアアアンと鳴くと同時に、周りに5体の分身が生まれた。

 同時にフィア自身が激しく燃え上がり、本来の姿に戻る。

 イエネコサイズから、チーター位まで大きくなった。


 その5体が、哀れな狼達に襲い掛かった!

 約15体居た狼達は、一匹、また一匹と丸焦げになっていく。


「でいやー!とうっ!」


 ギャンッ!!

 呆気にとられている隙に、自分も双剣で刻んでいく。

 統制の執れてない狼など、大した相手ではない。


 数分で残り三匹となったとこで、取り逃がした。


 …というより、わざと逃がした。

 そうすれば、本命が現れると踏んだのだが…


「ちっ、外れか…?なら、あっちに行ってるか」


 そういいながら、俺はガントとカルマの方に視線を向けた。


 ───数分前


 カルマは主が去って直ぐに、自分に近づいてくる気配に気が付いていた。

 正直、雑魚相手など面倒くさいだけだと思っていたが、奥には採掘をしているガントがいる。

 彼の作業が滞るのは、主人が望む事ではないと理解していた。


「眷属たるクロよ、我の前に出でよ」


 そう呟いただけで、不自然な影からクロが現れた。


「オヨビデスカ」


 辿々しいが、確かに人間の言葉を発した。

 ()()()()()()のクロが。


「我が眷属として生まれ変わったお前には、奥の男の護衛を任せる。傷一筋も付けさせるなよ?」


 カルマが目をギラっとさせて命令すると、『オオセノママニ』といって、地面に消えていった。


「そこに居る獣よ、我が主のため消えてもらおう」


 カルマがそう言うと、周りに魔法陣が現れた。


 奥から現れた、二つ首の獣、Aランク魔獣のキマイラが現れた。

 Aランクの中でも攻撃的で、縄張り意識も高い魔獣だ。


 ただ、こんな洞窟で縄張り作ることはないはずだが、何かから逃げてきたのだろうか?

 (まあ、丁度よい。試してやろう)

 と、カルマは考えながら魔力を練り上げていく。


「燃えろ。ヘルファイヤ」


 静かに、言葉にしただけでキマイラに黒い炎が纏わりつく。


 グギャアアアアアアアアアア!!と叫び声をあげるキマイラ。

 予想していたよりもダメージが大きく驚いているようだ。


「その位でまだ倒れるなよ。我も力を試したいのだ」


 そういうと、また新たな魔法陣が現れる。


「はじけ飛べ。アンチグラビティブラスト」


 瞬間、相手の中心からが逆流する重力がはじけ飛んだ。 

 その衝撃で、はるか遠くのほうの壁際までキマイラは吹っ飛んでいった。


 ギャオオオオオオオン。

 遠くのほうから悲壮な鳴き声が聞こえる。


「ほうほう、なるほど。だがまだまだこれからだぞ?我の心飽くまで付き合って貰おう…」


 まさに、悪魔の笑いを浮かべながら、哀れな実験台のほうへ向かっていく。


「…クク、次はこれだ」


 カルマの実験は、始まったばかりである。


お読み戴きまして有難うございます!

次話も宜しくお願いします。

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