洋館のお化け退治?
謎の声がユートへ呼び掛ける。
果たしてその正体とは?
『お帰りなさい、ご主人様。さあ、こちらへ…』
何か聞こえた気がする…。
いや、今は気にしてる場合じゃない。
屋敷を買おうとしたら、イキナリおばけ退治をする羽目になったわけだが。
取り敢えず中も見てみよう。
「い、行くんですか?」
「もちろんだよ。見ないと中が分からんだろう?」
そう言うと中庭をずんずんと、進んでいく。
あちこちから視線が飛んでくるんで、精霊術を使ってあたりを探知する。
いるわいるわ。
中庭だけで数十体のレイスを発見。
これを倒すとどうなるんだろう。
「アークホーリーレイ!」
頭上から辺りにいるレイス達を光が貫いていく。
一瞬にして消滅するレイス達。
だが、次の瞬間に戦慄する。
なんとレイス達がすぐさま復活したのだ。
これは本体が別の場所にあるパターンか。
「はぁー、ステータス見せて頂いたから知ってはいましたけど、本当に神聖魔法も使えるんですね。すごいなぁ」
と見ていたミルバは感心していた。
「まぁな。蘇生術を覚えるのには、神聖術と降霊術を覚えて派生する神秘術を覚えないといけないからな。今まで俺にとって副産物スキルだったけど、使ってみると案外役に立つもんだよな」
本当にアストラに来るまで使ってないに等しかったが、こっちに来てからは大活躍だ。
ん?降霊術って、死霊系を操れるんだよな。
てことは、こいつらを支配して本体を探れるか?
「ちょっと下がっててくれな。降霊術発動!〈死者交信〉!」
まずは会話を試みる。
こいつ等が何を求めてるのか分かれば、対処出来るかも知れない。
「おー、来た来た」
広場にぞろぞろとレイス化した使用人達が集まってくる。
殆どが意思がないかの様に呻いているだけだが、数体が話しかけてきた。
『私達の声が聞こえるのですか?もしや、領主様ですか?』
「いや、違うよ。彼は亡くなったよ。俺は新しくここに住もうと思っている。だからお前等には協力してもらう。…俺に従え!〈死霊支配〉!」
そこでさらに、死霊系を一時的に支配するスキルを発動。
『はい、仰せのままに主様』
この中でも意思がハッキリした奴だけ支配した。
レジストは…されなかった、成功だ。
「ユートさん、一体何を…」
「浄化出来ないなら、こいつらを操ってる親玉を教えてもらえばいい。さて、ここの1番偉いやつはどこだ?」
『執事長と、メイド長の二人です。彼らはロビーで貴方様をお待ちしております』
何やら俺を待っているらしい。
それなら早速会って話をしてみよう。
「ミルバはここに残るか?危険が無いとは言えないぞ?」
一応武器だけは常に持っているが、防具を装備していないので防御が紙だ。
襲われたときに庇いきれるか分からない。
「い、行きます!お仕事ですし…こ、ここで待ってる方が怖いです!!」
うん、正直だな。
でも仕事根性は称賛に値するな。
「気休めだけど…ホーリーベール!」
弱い精神攻撃ならこれで防ぐことが出来る。
天使の塔のハニエルが使うような、強力な精神異常スキルは防げないが。
早速支配したレイス達を先頭に案内させる。
さっき迄は単なるレイスだったのに、いつのまにかメイドの姿になっている。
足がなくてその先がひょろろっとしっぽみたいになってるようなコミカルな姿では無く、ちゃんと足先まであるがモノクロで半透明な姿だ。
『執事長ゼフ様、メイド長メイア様、新しい御主人様をお連れしました』
洋館の扉を開けて中に入り、居るであろう二人に声を掛けた。
すると、部屋の中央に人魂が集まってきた。
いくつもの人魂が集まってきて段々と人の形になっていく。
暫くすると、執事服を着た老人とメイド服を着た女性が立っていた。
『お帰りなさいませ、旦那様』
そう言って、二人は恭しくお辞儀をした。
どう見ても人間では無いので、生命学で生物鑑定する。
ついでに精霊術の精霊魔法のエレメントアイを発動した。
霊鬼ゼフ 種族:霊鬼 ランクA HP:800/800
啓示は、[元人間。今は、死霊より進化せし鬼。実態を持たないが類稀なる力をもつ霊体。]
霊姫メイア 種族:霊鬼 ランクA HP:800/800
啓示は一緒だな。
うん、普通に強い魔物になってる。
しかもそこらの冒険者よりも遥かに強い。
つか、リンとシュウより強い幽霊ってなんなんだ!
「ミルバ、あいつらかなりヤバい。絶対に離れるなよ?」
「は、はひ。存在感だけでちょっと気を失いそうですぅ」
「が、がんばれ!ここで気を失ったらあいつらの仲間入りだからな!?」
顔面蒼白になりながら必死に耐えてるミルバを激励する。
『そちらのお嬢様はお客様で?でしたら、饗さねばいけませんね』
そう言うとメイアは、一瞬でミルバを捕まえて奥の部屋へ連れて行ってしまった。
「なっ!ミルバを何処へ連れて行った!!」
『ミルバ様と仰るのですね。心配ありません。最高のお饗しを致しますので』
猟奇的な発言にも聞こえるが、居場所が分からないと探しようがない。
しかし、警戒して無いとはいえ反応出来ない速さとか!
結構反則的なやつらだな。
「じゃあ、俺もそこに案内してくれ。お前達と話がしたいんだ」
『我々とですか?畏まりました。では、食堂へご案内します。こちらへ…』
そう言うと音もなく歩き出す。
よく見ると周りの家具や調度品などが、襲撃から数年経って誰も使ってないのにかなり綺麗だ。
きっとここの亡霊達が綺麗にしているんだろうと考えた。
『こちらです、旦那様』
ゼフがそう言うと扉が勝手に開いた。
そこには、豪勢な料理の前で気を失っているミルバが席に座っていた。
きっと連れて行かれた時に失神したんだろう…。
『お客様は既にお席についていらっしゃいます。さあ、こちらへ』
そう言って椅子を引く。
その洗練された動きに促されて席についた。
目の前の料理は本物だろうか。
湯気が立っている。
最悪でも即死はないだろうと思いいくつか取り分けて貰った。
一口食べてみた。
とても美味しい。
これが亡霊が作ったものじゃなければ、食事を楽しめたのだが。
「なぁ、ゼフ。単刀直入に聞く。何が未練で未だに現世にいるんだ?」
『未練…ですか?…特には有りません。我々は普段通りに生活しているだけです』
「じゃあ、なぜに霊鬼なんてものになってここにいるんだ?」
『…ほう。私の事を見抜いておりましたか。でしたら、お答えしましょう。私は…私達はこの屋敷に長年務めておりました。しかし、ある貴族の企みによりこの屋敷の者達は皆殺しになりました。もちろん、襲撃者に恨みはあります。ですが、それよりも何もできずに死に行く自分が許せませんでした』
悲壮な顔で告白するゼフ。
その無念さは、あの天使の塔での俺と同じかそれ以上だろう。
「その思いでここまで力を付けたのか」
『はい。次に会うことがあれば必ずや自らの手でその息の根止めて見せようと…。物に触れるようになるだけで1年は掛かりましたが、そこからは順調にここまで己を鍛えれました』
そう言って一部だけ筋肉隆々してみせる。
「凄い執念だな」
『年老いると執念深くなるのでしょうね。しかし、まさかメイアまで修羅の道に入るとは思いませんでしたが…』
「彼女も同じ理由か?」
『少し違うと思います。彼女は、他のメイド達から姉のように慕われてましたからな。彼女達が目の前で殺されてしまった時に、かなりの怒りと悲しみを感じた為のようです』
そう言い、メイアの方を見た。
『私は、あのとき彼女達を助けることが出来なかった。新しい旦那様。私達の願いは一つ。私達を襲ってきたあの下劣な一味をこの手で仕留めさせて欲しいのです』
瞳に怒りの炎を滾らせ俺に訴えてきた。
さて、どうしたもんだろうか。
まだ買うとも決めてない。
主となれば復讐を手伝えと言いかねないな。
それは人殺しを手伝えと言ってるようなもんだ。
…さすがに、それはなぁ…。
「その後はどうするんだ?」
『え?』
メイアがキョトンとする。
「人殺しをして、そのあとお前たちはどうするんだと聞いている」
『それは…』
「より、業を深めればその後に待つのは破滅だ。成仏ではなく、消滅させられる道しかないぞ?」
悪霊が暴れて人を殺すなど、ギルドが放置する訳が無い。
どう転んでも討伐されるだろう。
『それでも…!』
「なぁ、気が付いているか?お前たちのせいで他のメイド達もこの地に縛り付けられているのを。もはや自我すらないのにここに縛られているのもいる。お前たちはそれを望んでいるのか?」
『…。分かっております。私達のせいであの者どもが成仏出来ていないのを。しかし、この気持ちをどうする事も出来ないのです!思い返せば思い返すほどに滾る怒りが、湧いてくる悲しみが、私達を縛り付けていくのを!!』
「わかったよ。俺がまずお前たちを解放してやろう。その黒い気持ちを解き放ってやる!そこのメイドよ、ミルバをソファーに寝かせてガードにつけ!」
『承知しました御主人様』
ミルバとメイドを残し、ゼフとメイアと一緒に中庭に来た。
『一体何を?』
ゼフが訝しげに聞いてくる。
「決まってるだろ?お前らを浄化する。消えたくなければ耐えろよ?」
言うか早いか、詠唱を開始する。
「天より降り注ぐ光の御子よ、彼の者達に清らかなる祝福をもたらせ!〈聖なる祝福〉!!」
幾重にも重なる光の帯が、ゼフとメイアを包み込んでいく。
二人の体から煙が上がっている。
聖なる光に灼かれて存在を削られていく。
『ガアッ、私共を消し去る気ですか!?』
『私が居なくなってしまっては、あの子達が消えてしまう!!』
二人の霊鬼は、必死に抗っていた。
「お前たちは一度死んているんだ。本来この世に居るべきじゃない。だがそれでもまだ居たいのなら、抗ってみろ!」
そう言ってさらに魔力を込める。
見えないように神秘術を発動し、双剣に聖と光を込めた。
『うおおおおおっ!貴方も…オマエもオレを消そうトするノカ!!許さんゾォおっ!!』
ゼフが老執事から筋肉が膨れ上がった真っ黒な鬼の姿に変化する。
『ぎゃあああっ!ああ許せない!ユルセナイイイィッ!!』
メイアも変化して、スリムで引き締まった体の紅色の鬼女の姿になった。
「さぁ来い!お前たちの怒りを全て跳ね除けてやる!」
そう言いながら魔法でステータス強化を行い肉弾戦に備える。
素の肉体なら、ランクの高いこちらの方が強いはずだ。
決して力負けはしないだろう。
そういうスキルを持っていなければだが。
『グオオオオオ!!武技〈金剛〉!〈剛力〉!』
そう、思った矢先から使ってきた。
そのまま飛びかかってくる。
「おいおい、肉体派老執事とかなんの需要だよ!!」
と憎まれ口を叩きながら双剣で迎撃する。
俺が双剣で攻め込むと俊敏に回避し、後ろに飛び退くと同時にムーンサルトをお見舞いしてきた。
躱しきれずに顎に蹴りを食らう。
「いってぇ!結構やるな!」
しかしダメージはさほど無い。
『シャアアアアアアアアッ!!』
と、蛇のような声で鬼メイアが飛び掛かってきた。
メイアの両指先の鋼鉄も引き裂く長い爪で斜めに切り裂いてきた。
「うおっと、あぶない」
ひらりと躱し、ついでにと双剣で斬りつけた後に蹴り飛ばす。
『グァッ!』
うめき声を上げつつも着地し、今度は魔法を詠唱し撃ってきた。
『クラエ!…スベテヲ灼キ尽クセッ!フレア!』
メイアが炎系魔法を放つ。
回避をせずに双剣を使って弾いた。
「高位魔法も使えるのか?でもヌルいな。こちらの番だ。喰らえ、ライトジャベリン!ホーリーブラスト!」
連続魔法でメイアを狙い撃つ。
『マズイ!メイアァァッ!』
ゼフが体当たりでメイアを吹き飛ばし、代わりに自分がその魔法を食らった。
ズガガガガガガガッと体を串刺しにされたあと聖属性の波動に吹き飛ばされ、ゼフは倒れた。
「あとはメイア、お前だけだぞ?」
『ウアアアアアアアアッ!』
焦りと恐怖に負けて破れかぶれで襲い掛かってくる。
しかし、そんな攻撃では今の俺には通じない。
アッサリと躱して反撃する。
縦に二閃、両手を広げて回転し2回斬りつけさらにジャンプして両手で斜め斬り裂くという舞うかの様な連続攻撃で斬りつけた。
ザンッザザザザンッ
メッタに斬られてメイアも力尽きその場に倒れ込んだ。
実戦を経験していない彼らと、死地を抜けてきた俺との差は歴然だ。
「怒りや憎しみだけの力では、そんな程度だよ。お前たちはそんな事を本当に望んでいるのか?」
倒れた二人から黒い煙が立ち昇り消えていくと、元の姿に戻った。
『私は…私達は…』
悔しそうな顔をしながらもそれ以上の声は出なかった。
「正直復讐するのは無意味だ。お前たちの本分はそこじゃないだろう?しかもその程度では返り討ちに合うだけだぞ?」
『ならば旦那様。私達はどうしたら良いのです?』
もはや立ち上がれないのか、顔だけあげてこちらを見ている。
「そうだな…よし、決めた。お前たちは今日から俺の配下になれ。そして、俺に忠誠を誓い俺に尽くせ」
『なっ…私らを消すのでは無かったのですか?』
「ああ、そのつもりはないよ。それよりもお前たちの力を俺に貸してくれれば、今日から本当の主になろう。俺は前の主人と違ってお前たちを見捨てたりはしないぞ、どうだ?」
『なぜですか?私達は貴方を襲ったのに』
「そのおかげで俺の方が強いってわかったろ?それに…少しはスッキリしたか?」
『…確かに、今はあれ程あった憎しみが薄れています』
ふと、自分の両手を眺めながら確かめる二人。
「さっき迄はお前たちを悪い気が包んでいた。それを浄化したからな。賭けではあったけど効果があったようで良かったよ。なぁ…さっき建物の中見て思ったんだ。お前たちの本来の仕事はさ、執事とメイドだろ?凄く管理が行き届いていたのを見て素晴らしいなと思ったよ。復讐なんてやめて、俺のためこの屋敷をしっかり管理してくれるなら、全員雇ってやるぞ?」
『お気は確かですか?我々は霊体ですぞ?』
「そうだな。魔力が枯渇しなければ食事をする必要ないし、便利な体だと思うが?」
『はっは、なんとも言えない評価ですな。まぁ、理には適ってますが』
「ただ、既に意思がない者たちは天に還そう。憐れな姿のままでは可哀想だ」
既にレイス化して意思を持ってない亡霊は流石に雇えない。
ダンジョンを運営したいわけじゃないし。
それに元人だと思うとやはり偲びない。
『彼女達を天に還してくれるんですか?』
「ああ、俺ならできるよ。どうだ?」
『『我が主の御心のままに』』
二人は立ち上がり恭しく礼をした。
「決まりだな!意思があるのはメイド数名とお前たち二人だけか?」
『あとは厨房の料理長だけです』
「料理長!さっきの食事は本物か」
『はい。家畜も裏の畑もきちんと手入れをしております』
死してなおしっかりと屋敷を守る使用人達。
ここまで出来る使用人達を見捨てたとか、前領主は大したやつじゃ無かったんだろなぁ…お金は持ってただろうけど。
「生きてるときに会えればな…いや、今更言っても仕方ないな。霊鬼なら魂から魔力を奪えるよな?レイスのままじゃやり難い。一度彼女らを取り込んで人魂に戻してくれないか?」
『その役目、私がやります』
メイアが意思が消えたメイド達を取り込んだ。
『館に残ってる使用人の死霊は、私が取り込んで戻しましょう』
そう言ってゼフも使用人達の死霊を集めて取り込んだ。
俺は地面に魔法陣を描きスキルを発動した。
魔法陣を描くとより効果が強くなるし、範囲を広げれる。
その分準備が必要なので戦闘中は難しいが。
「神聖術発動!〈聖浄魂還〉!」
すると、魔法陣が光りだし辺りを神聖なる光で包み込んでいく。
触媒に天使の灰を使い効果を強化した。
ああああぁぁぁ…!!
と、メイド達や使用人達の人魂が歓喜の声をあげて螺旋状に連なり天に昇っていく。
そのまま、天に開いた光の門に吸い込まれて消えていった。
「これで彼女らは天に還った。いずれ新しい命となって生まれ変わる事が出来るだろうさ」
『ああ、あの子達の喜ぶ声が聴こえる。一緒に逝けなくてごめんね。新しい旦那さまの務めが終わる時にきっと私もそっちに行くからね…』
メイアが涙を流してそう呟いた。
『守れなくて済まなかったな。安らかに休んでくれ』
ゼフは、静かに目を閉じて彼等を見送るのだった。
その日、町でこの光の柱を見たものはなんとも言えない気持ちになり、多くの者が静かに黙祷を捧げたという。
───全ての者が天の門に昇っていくのを見届けたユート達は、応接間に集まり自己紹介をすることにした。
「その前に…ミルバ!起きろミルバ!」
応接間のソファーに寝かされたミルバを揺すって起こす。
「う…あっ!ユートさん!…と、ひいいいい!」
「落ち着け、もう大丈夫だ。襲っては来ないよ」
「ほ、本当ですか?」
『先程は申し訳ございませんでした。少し脅かせてしまったようで。ですがユート様と正式に契約を交わしましたので、我々はユート様の配下…元い、使用人となりました。これから宜しくお願いします』
そうゼフが挨拶した。
『私は、メイド長メイアです。これからは正式にここで働かせて頂きます。宜しくお願いします』
そう言いながら恭しく挨拶した。
『ワシは、コック長のルガーだ。宜しくな。死んでしまったがまだまだ腕は衰えていないぞ?』
そうガッツポーズして、言った。
『アイです。宜しくお願いします』
『ヴァイです。宜しくお願いします』
『ドーラです。宜しくお願いします』
『フィーです。宜しくお願いします』
『ヒュンです。宜しくお願いします』
5人が同時に挨拶した、お辞儀した。
ゼフとメイア以外は、種族が人霊だった。
ようは、ただの幽霊ってことだ。
但しちゃんと物を掴めるらしい。
「みんな宜しくな。さて、ミルバ君?」
「は、はひ!何でしょうか?」
「こんな、事故物件をギルドが紹介したとなればギルドの評判どうなるかなー?」
「あわわわっ!駄目です!そんな事言いふらしてはっっっ!!」
「浄化も俺がやったし、当然売値は変わるよね?」
「私には何とも…分かりました!これから交渉してきます!」
シャキッと敬礼して、ミルバはダッシュで帰っていった。
「まぁ、そういう訳で俺がここを買い終えるまで守っててくれ」
『畏まりました。御任せください旦那様』
取り敢えずゼフに任せておけば他で買い手が着くことは無いだろう。
あとはミルバがいい値段を持ってきてくれれば大成功だ。
しかしまさかこんなとこでお化け退治する事になるとは。
どこに何があるのか、世の中分からないものだ。
一先ず、ガントに荷物も届けないといけないし一旦町に帰ることにした。
『行ってらっしゃいませ旦那様』
一同に見送りされて屋敷を出てきた。
───30分くらい歩いて金庫に寄ってからガントに指定された工房についた。
「こんばんわー」
扉を開けて中に声をかける。
しばらくすると誰かが出てきた。
「おう!来たか!早速だが素材を見せてくれ!」
ガントは奥から出てくると汗だくの額を拭いながら素材を広げる為に台を用意してそこに置いてくれと促した。
「取り敢えずAランクの素材を一通り持ってきたぞ。中にはレアもあるはずだ」
ユニコーンの角や、ワイバーンやヘルハウンド等の魔獣の革や、ヘルモスの糸、マーマンロードのキバなど十数種類の素材を渡した。
「中々凄いな!さすがSランクテイマー様だせ!で、家の方はどうだ?決まったか?」
「ああ、面白い屋敷があったぞ。見たらビックリするぞ?」
「へぇ、それは、楽しみだ!期待しているぞ!」
なかなかいい笑顔を浮かべているが、見たら驚く顔が目に浮かぶ。
それを見る俺の方が楽しみだよ…ふふふ。
「じゃ、渡したからな」
そう言って、手でサヨナラして工房を出た。
町の中央まで戻ってきたのでついでにギルドへ寄ってみた。
扉を開けた瞬間に声を掛けられた。
「あっ!来た!」
「なぬ、あの者がそうかっ!」
言うが早いか恰幅のいい男がミルバを引き連れて駆け寄ってきた。
「えっと…どちら様?」
「お主がユートか?私は前領主の次男、デイブだ。あの屋敷の持ち主だ。なんでもあの屋敷の悪霊どもを追い払ってくれたみたいだな。感謝する」
「ああ、あの屋敷のオーナーか。今まであそこで死人出なかったのか?ヤバイやついたぞ?俺が殆ど祓ったけどさ」
「耳が痛い話だ。しかし、追い払ってくれたならこれで他の貴族に売れる。ほら、お主には礼金として100金貨くれてやろう?」
「そんな端金いらんな。それよりも、あの屋敷をもっと値引いて俺に売ってくれ」
「お主…勘違いしておらんか?あんな悪霊の住処に金出す奴がいないから売りに出してたのだ。それが居なくなったなら平民に売るわけ無いだろう?」
「いや、バカはお前だろ?誰がもう悪霊はいないと言った?」
「は?」
「あそこにはまだ悪霊はいるよ。だが、俺に屈伏したからもう襲ってこないが、他のやつだと普通に襲われるぞ?試しに行ってこいよ」
高慢な態度にイラッと来てつい強めに言ってしまったが、言っていることは正しい。
なんせ、そう指示しておいたからだ。
「なっ、な、なんだその態度は!?私は貴族だそ?貴様、その態度を取ったこと後悔させてやる!」
「はいはい。屋敷行って死ななかったら話を聞いてやるよ。まずは行って自分の目で見てこい」
「くそ、覚えてろよ。おい、視察しに行くぞ。馬車を回せ!」
部下らしいお付きの者たちがあわあわと掛けていった。
可哀想なやつら。
「ミルバ、金額の件は明日に聞く。分かったら宿屋へ来てくれ」
「分かりましたユートさん。あ、そうだギルドマスターが奥でお待ちです。どうぞ、こちらへ!」
バツが悪そうにしていたがギルマスの事を思い出し慌てて案内をしてくれた。
「ギルマス!ユート様をお連れしました」
扉の向こうから入れと一言だけ聞こえた。
「失礼しまーす」
と、ミルバが扉を開けて。
「お邪魔しまーす」
と、俺も中に入った。
「ああ、よく来てくれたな。何か揉めてたみたいだが平気か?」
「ああ、俺の方は問題ない。で、彼らは帰ってきたか?」
朝の件だろう事は明白だ。
果たして彼らは無事なのか?
「まずは、彼らだが…」
俺はその話をやっぱり聞かなければ良かったと、後で後悔する事になる。
いつもご覧になって戴きましてありがとうございます。
日々、見てくださる方が増えて、恐縮至極です。
また、ブックマークをしていただいて、本当に励みになっています。
重ねて有難うございます。
今回かなりバタバタしてしまい更新が遅れてすいませんでした。
次回迄には、ペースが落ち着くと思います。
次回更新は、9/25 25:00頃迄の予定です。
次回もよろしくお願いします!




