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物件を内見したら洋館だった!

リンと、父娘のように一緒に眠った次の日の朝。

今日は、ミルバとの約束の日だ。

 朝起きたら既にリンは起きていたらしく、先に朝食の準備をしていた。

 

「あ、パパおはよう!昨日はおかげでぐっすり寝れたよ。有難う〜」


 リンは、はにかみながらそう言い微笑んだ。


「おはよう。ん、そうか?それなら良かった。俺もぐっすりと寝れたよ」


 そういいながら、紅茶をもらう。


「二人は?」


「まだ寝てるみたいー。起こしてくる?」


「ああ、頼んだよ」


 リンが、元気な声でそれぞれの部屋の外から声を掛けた。


 しばらくして、もそもそと起きてきた二人は、おはようといいながら早速朝ごはんを頬張っていた。


 取り敢えず、全員が揃ったので予定を確認しておく。


 まず、俺は家探しに行くと伝えた。

 一日掛かると思うから、今日も各自で自由行動と伝えた。


「了解だよ。俺もまだ試作しているものができて無いから、今日一日また工房に行ってくる」


 なんでもガントは、昨日一日知り合った個人工房の鍛冶師と意気投合したらしく、新しい装備を作ってるらしい。


「お前に作ったキマイラの鎧がほぼ駄目になったからな。いくつか装備を作っとかないとな。あ、そうだユート。素材あったんだろ?いくらか分けてくれ」


 そう言うと、雑紙にインクで素材を書いていく。


「うん、これなら倉庫に入ってたな。じゃあ、これあとで工房へ持っていくな」


「ああ、頼んだ」


 そう言うと、食事を続ける。


「じゃあ、俺とリンは一日鍛錬に使うよ。ゲームの時と違ってちゃんと体動かさないとスキル上げれないっぽいから、今のうちに上げておく。それでさ、ユートさん。お願いしたいことがあるんどけど」


 シュウが珍しいことに、俺にお願いしてきた。


「なんだ?俺にできる事なら、聞くよ?」


「うん、スキルをある程度上げたらランクアップクエストに連れて行って欲しいんだ。俺も、リンも、この先ユートさん達と一緒に戦いたいけど、今のままだと力不足だからさ」



 丁度俺も考えていたとこだ。

 まぁ、俺自身も上にチャレンジしないといけないと思っているから、Aランクと言わず、Sランクになって欲しいと思っている。


「ああ、それなら問題ない。元々、やって貰おうと思ってたんだ。討伐モンスターと、生息地も押さえている。だから、連れて行くまでスキルあげしっかりしとけよ?油断すると、この間よりも痛い目みるからな?」


 冗談ではないので、真剣な顔で伝える。


「もちろんさ!」


 シュウも、しっかりと頷いて答えた。


「私も頑張るからね。シュウ、一緒にがんばろ?」


「ああ!よろしくな!」


 二人のやる気の高さを見て、一先ず安心する。

 ただ、やり過ぎて怪我しても意味がないので、ポーションをいくつか渡しておいた。


「おっし、ごちそーさん。顔洗ったら俺は先に出るな。工房は、ギルドから、北西にある【マリエル工房】だ」


 なんとも、女性的な名前の工房だな。


 顔を素早く洗って、使い捨ての縄の端みたいな歯ブラシで歯を磨いて洗面所から出てきた。


「じゃあな!また、あとでな!」

 と、爽やかに言って去っていった。

 ガントは、なにかとてもやる気に満ちてるようだ。


「いってらっしゃ~い!」


「いってらー」


 と、子供たちからは声だけで見送りされた。


 その後、朝食を全員しっかり食べて各自準備をした。

 二人は練習用の軽装鎧を着ていた。


 俺は今日もラフな普段着に着替えて、一応身だしなみは整えた。


「馬小屋と厩舎回ってから見に行ってくるから、先に出るなー。じゃ、また夜な!」


 そう二人に言って出掛けた。

 俺も二人からいってらっしゃーいと言われて出てきた。



 まずは馬小屋に来た。


「おはよう。カルマ、ニケ。ちょっと聞きたいことがあるんだが」


 来て早々に、ふたりに話しかけた。


「これは、お早う御座います、主」


『お早う御座います、主様』


 ふたりも、起きていたようだ。

 すぐ、反応を返してきた。


「で、話というのは?」


「ああ、例の男のことさ。あの魔族がなんなのか、意見を聞きたいと思ってね」


『それならカルマが詳しいはずですね。同じ種族ですし』


 ん?カルマは悪魔だけど、魔族じゃないぞ?


「ふん、気が付いていたのか。目聡いやつだ。主様、あの者について()()()()()()をお教えしましょう」


「そもそも魔族とはなんなのか?そこから説明した方が良いでしょうね。まず…」


 カルマの説明を要約すると魔族とは、悪魔族、魔人族、亜人族のことを指す。


 彼らは生まれて直ぐに高い魔力を備えていて、人族よりも寿命が長い。

 また進化することで、より肉体的な寿命に囚われない精神生命体に近くなっていく事が出来るという事だった。


 更にそこから、より高位の存在に進化したものが魔王候補となり、頂点に立てた者が魔王になるという事だった。


 なおこの世界の勇者は、人族の中ですべての大精霊から認められ、すべての属性の加護を得たものを言うらしい。

 ただ生身の人間のままらしいので、基本は魔王の方が強いと言う事だった。

 その為、何人もの勇者が魔王に挑んで斃されているらしい。


「なるほどな。魔族と言ってもひとつの種族じゃないのか。…と言う事は、あいつは悪魔族ってことか?」


 ニケの言葉を思い出し思い至る。


「そのとおりです。しかも、…あ奴は魔王候補です」


 さらっと爆弾発言をする。


「え!?マジでか?」


 衝撃発言に語彙が下がる。


「はい、マジです。主よ、あ奴は魔王幹部の一人の”アモン”です。あの剣技、あのスキルは間違いなく奴のものです。まさか、あそこまで強くなっていたとは我も知りませんでしたが」


 カルマがこの世界のひとりのデーモンだった頃の記憶では、自分と同格くらいだったという。

 それが、()()()()があった頃から急激に力を付けていきなり幹部入りを果たしたと、デーモン達の情報で知ったという。


「悪魔族はその姿に惑わされる事はありません。その本質を魂で見分けます。なので、我のことも”カルマ”だと認識したはずです」


 なんと、あの男とは古い知り合いだったという。

 前とは比べ物にならないほど強くなっているのと、以前とは魂の質が変わっていたため気が付かなかったらしい。


 どちらにしろ好戦的な性格なために、分かっていても戦闘する結果は変わらなかったということだった。


「あ奴は強者しか求めていません。我々が負けたに等しいのですし、暫くはわざわざ追ってくることも無いでしょう。しかし、いずれはまた戦うことになると思います。それまでに我らも力を付けねば…」


 そう言ってニケのほうを見た。


『分かっています。主様のここでの準備が終わりましたなら次なる力の昇華のため、()()()()()()()へ向って欲しいと考えています』


「わかったよ。ここの町で拠点となる家を買ったら準備して行こう」


 行きたいところはなんとなく分かる。

 しかし、あのダンジョンはここの大陸ではない。

 行くとなればかなり長旅になる。

 その場合は全員を連れて行くことは出来ないだろう。

 それを考えても、先になんとか家を確保したい。


『主様、よろしくお願いします』


 ニケとカルマとしばらく今後のことを話しながら、これから家探しをすることを話して必要なものはないかとか、設備に追加したい物はないかを確認したあとに別れた。



 ───そのあとミルバに会いにギルドへ来た。

 まだミルバは不動産の手続きのため戻ってきてないらしく、しばらくロビーで待つことにした。


「あんた、噂のSランクテイマーか…?」


 一人の壮年の男が話掛けてきた。


「多分そうだと思うけど、何か?」


 見知らぬ男に声を掛けられて、何の要件か聞いてみた。


「あぁ、あんたらが天使の塔を20階層を攻略したと聞いて若い冒険者達が躍起になっててな。町がまた活気づいてきたんだ。有難うな」


 なぜあんたが俺に礼を言うんだと思い、首を傾げる。


「ああ、申し遅れた。俺はこの町のギルドの団長やってるゼオスと言う。支部長が事務方の長なら、俺は冒険者の取り纏めしている長だ。一般的にはギルドマスターと言われている。クエストの請負や発行は俺が取り仕切ってるんだ。お前のお陰でどんどんクエストが消化されれば、俺の株もあがるって寸法さ。これからも宜しくな!」

 ガハハと笑って背中をボンボン叩かれた。


「なるほどな。俺は知ってると思うがユートだ。うまいクエストあったら言ってくれな」

 取り敢えず仲良くしとく方が良さそうと思って、挨拶はしておく。


「あぁ、こちらからも頼むよ。さて…本題といこう」

「ん、なんだ?クエストか?」


「いやまだ違うが…。お前等が旅立った翌日にな、結構腕が立つ冒険書たちがやって来たんだ。ランクもAランクばかりでな。知らない奴しか居なかったから最近Aランクに到達したんだろうな」


「へぇ、それで?」


「そいつらがな、【迷宮ラビリンス】に向うクエストを受けて行ったんだがまだ帰ってこない。ランクを考えてもそろそろ帰って来てないとおかしいのだが、帰ってこないんだ」


 顔をしかめてそう言った。


「奥に潜ってるんじゃないのか?俺らみたいにさ」


「いやお前等が行ってるならわかる。だがAランクしかいないチームじゃ突破出来ないんだよ、あそこは」


「じゃあ、…全滅したんじゃないか?」


「ああ、俺もそれを心配している。だが貴重なAランク冒険者が5人も一気に失われるのは勿体無い。なんとか助け出したいと思っている」


「あー、そういう事ならお断りだ。俺にメリットが無い」


「おいっ、まだ依頼してないだろ?!だが頼むよ。もう手遅れかも知れないが、依頼出来そうなのはお前しかいないんだ。生存確認だけでもいいからよ!」


「丁度帰ってきてるとこかも知れないぞ?」


「それならいいが…。今日一日は様子見る。だが明日の朝までに帰ってきてない場合は行って来て欲しい。もちろん報酬は弾むぞ?」


 うーん、どうしたもんか。


「俺にも用事があるし確約は出来ない。まして、あそこは準備しないで行くのは危険すぎる場所だ」


 迷宮ラビリンスはその名前の通り、攻略方法を熟知しないと出る事すら出来ないダンジョンだ。

 地上に入口があり、地下に潜っていくタイプのダンジョンで、潜れば潜るほどMAPが広くなっていく。

 LBO時代には何度か足を運んだこともあるが、いい思い出は少ない。


 中は冒険者をかく乱する魔力が流れており、方向感覚が鈍るため迷いやすくなっている。

 また出現するモンスターがすべてアンデット系であり、物理攻撃が効きにくいために戦士には向いていないダンジョンである。


 魔法も低ランクではまるで役に立たないほど抵抗値が高いモンスターばかりのため、出現するモンスターのランク以上に厄介になっている。


 なので最低でもAランクの以上の司祭プリーストか、司教ビショップを連れていくのが通例だ。

 だがうちにはそんな職業はいない。


「うちのパーティーには聖職者クレリック系がいない。だから、行くとしたら俺一人だけで行くことになる。まぁ、ペットは連れていくがな。だから、危険な状態だったとしたら離脱を優先するが…構わないな?」


 一応事前に確認しておく。


 正直、助けなかったら批判されるとか勘弁してほしい。

 妙に名前が売れてしまっているようなので保険を掛けておく。

 こっちは生活がかかっているのだし…みんなの生活がだ。


「ああ、もちろんだ。死にに行けとか酔狂なことは言わんよ。状況を確認出来たらクエスト完了。もし保護して帰ってきたら追加報酬くらいで発行しておく。冒険者は自分の命は自分で守るのが原則だ。誰も文句は言わない」


「ああ、そうして貰えると助かる。とりあえず、今日はやる事があるんでな、夜にでも一度状況を確認しよう。それから具体的に詰めようか」


「ははは、受けるか分からないという割にはしっかり段取りを組むんだな。お前の人柄が分かった気がするよ。ありがとう。では夜にここで待っているぞ。職員には話を通しておくから、奥の応接間で打ち合わせよう」


 とりあえず普段の癖で段取りをしてしまうのには、自分でも苦笑いしてしまった。

 ああ了解したと伝えて、ギルドマスターのゼオスに別れを告げた。


 そこで丁度ミルバが戻ってきたようだ。


 ゼオスを見てギルマス!?と一瞬驚いていたが、俺に用事があったようだと言うと、もう流石としか言いようがありませんよと返ってきた。


 さておき、ミルバからこれが資料ですといくつかの証印つきの羊皮紙を渡された。

 紹介する事と、中に入ることをこれで承諾受けている証になるらしい。


 これが無いと不法侵入ですぐ牢屋だ。


「早速ですが、一番近くの物件へ行きましょう。歩いてすぐなので時間は掛かりませんし」


 と帰ってきたばかりですぐ出掛ける事を躊躇しないで、案内を開始してくれた。



 ───町の中心から、10分くらいにある屋敷に着いた。


 ここはとある貴族の別荘らしい。

 最近まったく使っていないということでしばらく前から売りに出ているらしいが、貴族のお屋敷ということもあり結構高値なので買い手がつかないらしい。


 そこは町の一般的な作りとそれほど変わらず、通り沿いに面しているため使い勝手はよさそうだった。

 ただ、増築したり改造したりは難しそうだった。

 さらに厩舎が狭くてカルマはともかく、大型魔獣でもあるニケには狭そうだった。


「で、ここはいくらなんだ?」


「はい、ここは立地がいいので3500金貨ですね。ちなみに借地税が年500金貨です」


 この世界は住民が土地を買うことは出来ない。

 また勝手に開拓することも出来ない。

 すべて国に管理されているので勝手に自分の土地とか言うと牢屋行だ。


 すべての領地内の土地に税が掛けられており、占有する場所と大きさで税が変わる。

 税金は、その町や村の役場に収める決まりらしい。


 ちなみに領地になっていない場所を占有した場合は特に罰則がないが、対立国扱いなのですぐに軍隊がやってきて接収される運命らしい。


 そんなことよりもだ。


「高いな。それだけ払うと内装に金掛けられないな。厩舎も狭いしパスだな」


「そうですか…残念です。ここなら近くていいかと思ったんですが…」


 立地は悪くないが、売値と維持費が高い。

 取り敢えず他を見て回ろう。


「次は───」


 そこから、5件ほど回った。

 どれもいい物件だが、条件が揃わない。


 これから長く使っていくのに妥協はすべきではないし、足りないものは結局他でお金が掛かることになる。


「…最後に、もう1件あるんですが…」


「ん、どうした?」


「あの…そろそろお昼どうですか?」


「あ…ごめん物件の事に集中しすぎてすっかり忘れてたよ。もう日がかなり上っているな」


 空を見上げると、日が真上よりも落ちている。

 昼時を少し過ぎたようだった。


「じゃあ、最後の見る前にご飯にしようか。どこに行きたい?」


「はい!ありがとうございます!ではですね…」



 連れてこられたのは、比較的若い客が多い店だった。

 内装もお洒落でカップルがデートに使うような店のようだった。


「えっと…ここ?」


「はい!前から一度ココに来てみたかったんです!」


 なるほど…しかし41のおっさんには些かハードルが高い店だな。


「ここは、お洒落なだけでなく食事も美味しいんですよ。…まぁ、そのぶん少し高めなんですが…」


「ははは、そうか。じゃあ、とりあえず席に着こうか」


「はい、うわー美味しそうなにおい~」


 結構歩き回ったのもあって、二人ともお腹が空いていた。


 メニューを見ると、結構な種類があるようだ。

 イメージ的には、()()()メキシカンな料理店に近い。

 若者に人気があるとおり、盛り付けがお洒落だが、食事自体もかなり拘っているようだ。


 というか、あんなにスパイスとかあるなんて、こっちの世界も思ったよりもいろいろな物が流通しているんだな。


 店員が注文を聞きに来たのでそれぞれ注文した。


「ユートさんは決まりました?私はですね、この香草チキンとクロ麦のブレッドサンドにします。あとは彩りサラダに、デザートは桃のコンポートとチーズケーキにします!飲み物は水出し紅茶でお願いします」


「おー、結構頼むな~。そんなに入る?…うし、俺はスパイスチキンローストと、…まじかピラフがあるだと?じゃあこのピラフと、魚のソテー。あとデザートに梨のパイ。それと飲み物はコーヒーで」


 文字は地球と違う言語なのに読めるし、なぜか書ける。

 カルマが言うには、この世界に生きていたユートが習得した技術はそのまま引き継いでいるから、らしい。

 そして地球の言葉で表現されているものは、脳内で勝手に変換されているという事らしい。


 実際には似て非なる言葉らしいが、本当の言葉を考えてもしようが無い、例えるならリンゴジュースとアップルジュースの違いくらいの差なので、どっちで書いてあっても違和感を感じないのと同じ、ということらしい。

 なお、地球に無くてこっちの世界にしか無いものは、そのままの名前らしい。


 そのあと、出てきた料理は本当においしかった。

 ピラフは本当にピラフだった。

 食感はすこしパサパサ感があるが、確かにコメだった。

 スパイスと麦もあるし、そのうちカレーとか食べれそうだなとか思った。



「わぁー、お腹一杯です。美味しかったし幸せです〜」


 本当に幸せそうなに蕩けた顔をしてる。


「そりゃぁ、良かった。確かに美味かったよ。ここに誘ってくれて良かった。こういう情報ってどこから入ってくるの?」


「私は、職場の仲間とか友人との会話の中とかですかね。あと、オープンした店とかはチラシを配りますから、それを見たりとかですかね」


 やっぱ、女子同士のネットワークの広さはどの世界でも共通なんだと思った。


「そう言えば、ミルバは、なんでギルド受付嬢に?」


ふと、思ったことを聞いてみた。

 

「はい?えっとですね。この町では、一番お給金が良かったからです。人気高いので結構倍率高かったんですけど、運よく受かりました。お陰で生活に困らないので安心です」


 と、ほくほく顔で答えてくれた。


「なるほどね。確かに普通の仕事するよりは、お金が動く分金払いもいいわけか」


「はい、そうですね。すべては、冒険者さんたちが色々な物を取ってきてくれるので、素材の売買とか、クエストの斡旋とか、どれも一般の人から見たら高額で取引されていますからね。それに、ああいう素材は、普通の人じゃ絶対手に入れれないので、商人にとってはいい商売道具らしいです」


 やはり、モンスターからの素材って人気商品なんだな。

 色んなものの素材だし、ランクが上がれば上がるほど良いものを作れる。

 さらに、いい素材は高ランクの魔物からしか出ないから自然と値段が吊り上がっていくのか。


 それを基準に手数料を掛ければ…。

 おのずと収入も増えるわけだ。

 いい商売だなぁ。


「ただ、知り合って仲良くなる人も、次の日には死んでしまう方も大勢いますし、ただ楽しい仕事ってわけではないですけどね」


「まぁな。実際俺らも死に掛けたから他人ごとではないよ」


「えぇっ!そうだったんですか。なんか大変だったとは聞いてましたが、そんなに危険な状態だったなんて…」


「まぁ、次はもっと安全マージン取っていくから、二の轍は踏まさないさ」


「はい、命あってのお金ですから!絶対死なないでください。ユートさんのチームは、みんな良いひとばかりだから、特に…」


「はは、心配してくれてありがとう。もう慢心することはないし大丈夫さ。おっと、飯時に辛気臭い話をしてしまったな、すまない。お詫びにデザートを追加で好きなの多べていいぞ~」


 もとより好きに食べていいと言っていたので変わってないのだが、やったーと喜ぶ姿を見て話を逸らす作戦は成功したとホッとした。

 透かさずミルバは追加でシフォンケーキを頼んでいた。


「食べ終わったら最後の物件見に行こう。出来るなら明るいうちに見ておきたいからな」


「はい、そうですね。明るいときじゃないと、細かいところ見落とすこと結構ありますから」


 そういいつつ、追加のデザートのシフォンケーキを頬張る。

 

 ミルバは格別な美人というわけではないが、この元気な笑顔とどちらかというと童顔で可愛いらしい愛嬌のある顔なので、ギルドメンバーの冒険者には好かれていそうだ。


 冒険者にモテるだろう?と聞いたら半目になって、『だったらもっと早くにここに来てますよぅ!』と言っていた。

 みんなの見る目がないのか、冒険者が奥手なのか…。



 ───お店を後にして、最後の物件に向かっていた。

 

 郊外まで歩いたところにぽつんとある屋敷を見つけた。

 遠目から見ても、いままで一番大きいのが分かる。


 屋敷の前に来ると。


「ここは、なんというか洋館だな。趣があるというか…」


 と、思わず声が漏れてしまった。


 そこは、なんとか西洋館とか付きそうなくらい立派な屋敷で、広い庭がある。 

 数棟の厩舎に、古い工房跡。

 それに大きな倉庫もある。

 なんといっても、メインの屋敷がとても大きく、部屋も20以上はありそうだ。


「ここ、売ってるのか…?」


「はい、売ってます。それはもう格安で…」


 なんだかアヤシイ反応だな。


「先に聞くぞ、ここいくらだ?」


 例えどんなにいい物件でも、借金してまでは買いたくない。

 予算に間に合うのか聞いてみる。


「ここはですね。とある貴族様の管轄物件だったのですけど、すぐに処分したいからと破格になっています。値段は、3000金貨です」


「おぉっ。それは破格だな。あ、借地税は?」


「借地税は、年200金貨です。ここら辺は町の中心から比べて1/10くらいの借地税なんです」


「なるほど、じゃあ維持費も抑えられてありがたいな」


 町までは30分くらいは歩くことになるが、馬とか使わせればあっという間だ。

 俺の場合は、いくらでも騎乗動物を捕まえることが出来るのでそこの問題はないに等しい。


 問題は…。


「なぁ、なんでこの敷地にはいってから俺の袖を掴んでいるんだ?」


「え?ええと…気のせいじゃないですかね?」


「じゃあ、歩きづらいから離して?」


「はひ!あの、その…。イヤです」


 やはり、どうにもアヤシイ。

 よく見ると、若干顔も青い気がするし。


「で?一体何を隠しているんだ?」


「ナンデモナイデスヨ?」


 なぜ片言!?


「ん?あれ?今人が通ったな。まだ管理している人がいるのか?おおーい!すいません、お邪魔していますね~!」


「わわわっ!ダメです、ユートさん。彼らを刺激しては!!」


「ん?なんだ、やっぱり誰かいるんだな?一体、なんだというんだ?」


「そ、それはですね…」


 滝のような冷や汗を流して、盛大に目を泳がせながら答えようとした時だった。


『いらっしゃいませ~、当屋敷へようこそ…お客様でいらっしゃいますか…?』


 なんとも、ニンゲンの声なのにニンゲンらしからぬ質の声が響き渡った。


「…ミルバ君?」


「は、はひ!」


「ここをさ、住む場所を探している人間に、売っていいところだと思っているのかな?」


「は、はひ!私も最初はそう言ったんです!でもでも、支部長が…冒険者なら自分で退治出来るだろ、幽霊くらい…と」


 あのオヤジ~!食えない顔をしていたけど、こんな物件を寄こしてくるとかどういう神経しているんだ。


「それで、ここを浄化しようとか思わなかったわけ?」


「はい…、一度は試みたらしいのですが、うまくいかなかったようです」


「そういう事ね…。で、ここで何があったの?」


「う…。実はですね、ここは前領主様の別宅でして。休暇の度にここを訪れていらっしゃってたようなんですが、数年前に襲撃に遭いまして…」


「おいおい、マジか。中とかスプラッタとかじゃないだろうな…」


 さすがに、血まみれの部屋とかに住みたくはない。


「あ、そこは大丈夫みたいです。すべて綺麗にはなっていますし、一部の破損したものは修繕してますし、家具とかも入れ替えてあります。あ、そう、家具とか備え付きのものも付いてきますよ。…で、当時働いていたメイド達が襲撃時に全員命を落としてしまいまして…、ギルドでも教会の司教ビショップ様にお願いしたんです。浄化を」


「…結果は?」


「失敗でした」


「理由は?」


「あまりにも数が多すぎて、浄化対象が絞れないかららしいです」


 詳しく聞いたこところによると、襲撃時に人質として外に庭に全員集められたらしく、建物の中では殺人は起きていないらしい。『だから、部屋の中は大丈夫ですよ!』と言うので、『じゃあ建物の中は出ない?』と言うと、『あ、それは出ます』ということだった。


 いや、何が大丈夫なんだ?

 ちなみに前領主は、逃亡してその襲撃とは関係ないとこで死んでるらしい。

 そして、領主が逃亡してしまったゆえに、広場で全使用人が処刑されてしまったという事だった。

 なんとも惨い話だ。


「逆に言えば、彼らさえどうにしか出来れば、綺麗な屋敷を格安で手に入れれるってことか…」


「そ、そういう事になりますね…」


 そんな二人を見つめるじっと視線があった。


『お帰りなさい、ご主人様。さあ、こちらへ…』 


 

いつもご覧になって戴きましてありがとうございます。

また、ブックマークをしていただいて、本当に励みになっています。

重ねて有難うございます。


日々、見てくださる方が増えて、恐縮至極です。


さて、魔族の男の正体が判明しました。

今後、どういう形で関わってくるのかお楽しみしてください。

ただ、彼が再登場するのは少し先になる予定です。


次回更新は、9/18 25:00頃迄の予定です。

→更新遅れます。9/20頃アップ予定です!申し訳ないです。


次回もよろしくお願いします!

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