リンの休暇
ユートから休暇を貰ったリンは、シュウを連れて町に買い物に出掛けた。
【天使の塔】から帰ってきてから次の日。
私は、久々の休みを貰いました。
別に、無理して冒険に出てたわけでも、嫌だったわけでもないけど、でもこうやって一日のんびりしていいよって言われると、なんだかホッとします。
この世界に来てもう二週間が経ちました。
世界が暗転して、身動きが取れなくなったときは、本当に怖かったです。
でも、光が戻ってきて、すぐ目の前にシュウが居たときは、正直泣いちゃった。
そんな私をシュウは、大丈夫だよ、俺が一緒に居るから。
と言ってくれて、本当に安心したのを今でも覚えてます。
そこから、ユートさん達と会うまでは、町の場所を探したり、素材集めてお金稼いだり。
金庫にお金があんまり無くてがっかりしたり。
ライさん達と討伐に行ったり。
そこで、魔物に囲まれて倒れちゃったりと、休む余裕がお互い無かったと思う。
白羊の洞窟は、練習とはいえずっと戦ってたし、天使の塔は、結構色んなことあって大変だったし、正直言うと冒険しない1日があるなんて考えてもみなかった。
そんな今日は、シュウとお買い物。
自分の物とかもあるけど、やっぱりパパことユートさんに感謝の気持ちを伝えたいので、何か良い物がないか物色してるとこです。
ユートさんには言えないですが、実は、自分の父をパパとは今は呼んでません。
確か、パパと呼んでいたのは小学校上がる前まででした。
───私の本名は、草壁 鈴。
とある都内私立大学初等部5年生。
年齢は11歳、女子です。
ここ、アストラに来るまでは普通の小学生だったと思う。
兄が、父にねだって買ってもらったLBOを、飽きたという兄から譲り受けたのがきっかけで、いつの間にか異世界へ来てしまいました。
習い事で、バレエと新体操を習っていたので体の柔らかさと、空中での姿勢とかには自信あったので、身軽な剣士を選んだのは今でも良いチョイスだったと思います。
あの初等部にお受験する迄は、比較的みんな優しかったです。
家族に良く甘えていたのを今でも思い出します。
当時は、パパとママだったのだけど、いつの間にかお父様とお母様と言わなければならなくて、そこから急に色々と家のルールが増えていきました。
なぜ、こんなにやらなければいけないのか何度も聞きましたが、あなたの将来の為よと言われるだけでした。
とっても窮屈で、つまらなくて、休まらない日々。
母も父も、昔のような優しい笑顔を、徐々に見せてくれなくなりました。
ここ2·3年は、毎日、毎日、忙しいからと言って、私の話はまともに聞いてくれなくなりました。
一ヶ月前にはついカッとなって口論になってしまい挙げ句。
「私のパパとママは、何処に行っちゃったの!?」
と言ってしまい、母に平手打ちされました。
あの日から、両親と口を聞いていません。
勿論、その事に後悔は有るのだけど。
でも…
こっちに来たとき、正直に言うと開放された!と思った。
アストラでならまだ、11歳の私が自分で生活出来るので、困る事も無かった。
この世界で手に入れた力で、モンスターを倒したりするとお金が入るし、そのお金でご飯も食べれた。
寝るところも借りれた。
クエストに、行けばもっと、お金手に入るからと言われたとき、特に心配もなかった。
地獄の塔へ行くと言ったとき、私は止め無かった。
正直なんとかなると思ってたし、シュウも結構強かったし、心配はしていなかった。
今まで、二人で倒せなかった敵は居なかった。
それが倒せない敵がいる所に連れて行かれれて無かったと、後でわかるのだけど。
そもそも、LBOのときにあんなトラップ有るなんて聞いたこと無かった。
自分でも結構調べてたけど、モンスター部屋なんて聞いたこと無かった。
あくまで、LBOではだけど。
そんなわけで、あの時は凄い恐怖を感じた。
だって、死ぬなんて想像もして無かったし、他の大人たちよりも自分達の方が強かったから、負けることを全く想像もしていなかったし。
目の前が真っ暗になる前に見たあの優しい笑顔。
あのユートさんの顔を見た時に、咄嗟に昔のパパを思い出した。
ああ、パパが助けに来てくれたと本当に思った。
そんなの有り得る筈がないのに…。
サニアに着いていつもの酒場で、ユートさんが私達をファミリーにしてくれると言ってくれた。
その時、本当のパパになってくれたんだって思って、とっても嬉しかったのを覚えてる。
あれからの毎日が本当に楽しい。
まだ、一週間くらいだけど、みんなでワイワイ冒険するのも、修行するのも、お互いを助け合ったり、自分よりも遥かに強い人達の戦闘を見るのも、どれも新鮮な体験だった。
途中、結構なスパルタだったりしたけど。
だから…
「感謝は、形で示さないとね!」
と、ウキウキで買い物をするのだった。
───買い物を終えたリンは、シュウと一緒にランチを食べることにした。
シュウも何か買ったようだけど、聞いたらナイショって言われてしまった。
シュウにしては珍しい行動だったけど、きっとユートさん達に何かあげるのかな?と思った。
お昼は、パスタのような物があるというお店に来ました。
普通の子供だとかなりの値段に相当するらしく、最初は訝しげに見られたけど、ギルドのプレートを付けているのを見て、なるほど、とすぐに接客してくれました。
今日は、鎧とかの装備は着けてないので、普段着の紺のワンピースを着てる。
滅多に着れないのと、アストラに来てからはまだ着たことが無かったのでちょっとウキウキした。
店員さんに、美味しいのなんですか?って、聞いたら営業スマイルで全部ですと言われちゃったので、うーんじゃあ、オススメは?と聞いた。
じゃあ、こちらのパスタですねと言われたのでそれでと頼んだ。
ん?こっちの世界でもパスタはパスタなんだね?
と、シュウに聞いたら、そんなの当たり前じゃん!と言われた。
たまに、この脳天気な性格が羨ましいと思う。
そういえば、あんまり聞いたことのない言葉って、聞いた気がしないかも。
特に、地球にもあるものとか。
そもそも、なんでこの世界の人と話せるんだろう?
そんな事を考えてたら、いつの間にか美味しそうなパスタが、届いていた。
地球でいうとトマトクリームパスタのようで、麺はやや平べったくなっていて、生パスタみたいでした。
もちもちして、大好きなんだよね生パスタ。
「ん~~~、美味し〜〜〜!!」
久々に食べるパスタに感動する。
しかも、地球の頃に食べたのより美味しいかも。
「ここ、パパにも教えてあげよ!」
と、つい声に出して言ってしまったが、意外にもシュウは、
「ああ、いいね!そしたら、美味しいのいっぱい食べれるな!」
と、いっぱい食べる算段をしたみたい。
もう、現金なんだから。
それから、二人でスキル談義をした。
特に、武技からの、コンビネーションは、話が尽きなかった。
これとこれなら繋がるとか、これが繋がればねーとか。
そのお陰で、お互い新しい組み合わせが出来たくらい盛り上がった。
「もっとさ、強くなりたいよ。テイマーのユートさんですら単体で倒せる敵を、ステータス差があるといってもさ、まだ手こずってるし。せめて、タイマンで負けないようにするには、ランクをもう一つ上げないと厳しいよなー」
「うんうん、そうだね。私もそれは思ってた。パパ達に今後も付いて行くには、今のランクじゃ無理だよね。逆にお荷物になっちゃうよ。そんなのは、私も嫌。絶対この先も一緒に行きたいから!」
リンにしては、かなり珍しく強い主張をしたのだが、本人は気が付いていなかった。
「でも、次のランクアップって、何をたおしたら上がるのかなー?」
「んー、私にも分かんない」
前なら、ネットで調べればすぐ分かったけど、今はそんな便利なものはない。
パパに聞こうかな?
いや、そんなことまで頼ってはいけないと思い直し、調べる方法を考えた。
「あ、そっか。ギルドで聞けばいいんだよねっ!」
「あ、そうだね。じゃ、あとで聞きに行こうか」
うんうんといいつつ、…今はご飯の後のデザートだよねって!と、チーズケーキを頼んで食べた。
───あのあと、さらに野イチゴのムースを食べて満足したあと、結構な時間雑談して、夕方前になった。
「もうちょっとで、日が落ちるなぁ。リン、さくっとギルドに寄って帰ろう」
「そうだね。早く帰らないとパパに怒られちゃうかも」
いや、関係ないし。
怖くないし!とか虚勢を張るシュウをからかいながら、ギルドに来た。
「あら!いらっしゃい、今日は2回目ね。急用?」
ミルバさんが、私達を見つけて声を掛けてくれた。
いつも、色々と気を掛けてくれる優しいお姉さん。
「うん、ちょっと聞きたいことがあって。いいですか?」
うんうん、私にわかる事ならなんでも聞いてーと、カウンターに呼んで椅子を引いてくれる。
「それで、どうしたの?」
「はい、昨日の天使の塔の攻略で、Aランクの敵とも戦ったんです。そろそろステータスがMAXになるし、ランクアップしたいと思ってて。どうやったらいいかなと」
そのままミルバに、天使の塔での戦いがいかに激しかったかを語り、このままでは役に立てないと嘆いてしまった。
「なるほどね、それならランクアップクエストを受けるのが一番早いわね。でも、ここの町でも中々いないのよ?Aランクなんて。まだ、早いんじゃないかしら?」
心配そうに、ミルバさんは尋ねてきた。
「ご心配有難うございます。でも、パ…ユートさん達に付いて行くには、今のままじゃ、駄目なんです」
私は、真剣な眼差しでミルバさんを見た。
「んー、分かったわ。でも、二人だけで決めちゃ駄目よ?クエストの対象は…」
ミルバさんは、丁寧に教えてくれました。
そこで、分かったのは、既にクエスト資格はあるという事。
これは、ステータス登録の更新もしてるので確定みたいです。
次に、討伐対象モンスターは、Aランクモンスターの中でもレアモンスターと言われる魔物で、しかも、一人で倒さないといけないこと。
これは、虚偽申告してもステータスに結果が刻まれるので、バレるからね?と、念を押された。
で、当然まだ倒したことの無い相手だったこと。
でもどうせだからと、そのままクエスト発行手続きをしてくれた。
普通のクエスト発行書は羊皮紙等を使うが、ランクアップクエストは遥か昔から在るのと、皆共通のクエストの為、使い回し出来るように、銀のプレートに刻まれたものだった。
無くしたら、罰金だからね?と割とプレッシャーかけられて言われた。
なお、討伐に失敗してその場で力尽きた場合は、このプレートを通して分かるらしいので、その場合は回収する専門家が回収するみたい、…遺体と一緒に。
「こう言ってはなんだけど、あなた方は死ぬことは無いわ。だって、あのユートさんが居てくれるんだもの。逆に、一緒じゃない時に挑戦しちゃ駄目よ。最も有利な状況で戦う、これも冒険者にとって大事な事だからね?」
クエストは、格好つける為にやる訳じゃないと教えてくれる。
格好つけてた訳じゃないけど、地獄の塔での事を思い出す。
今度は、ちゃんと人を頼ろうとシュウとも話をして決めた。
「色々と有難うございました!」
ミルバさんにお礼を言ってギルドを後にした。
今日は、ゆっくりと過ごす事が出来たお陰で、色々と頭の整理が出来たと思う。
たまには、一日ゆっくり考える時間が必要なのかな?と考えながら、パパにお話しする内容を考える私だった。
「お、帰ってきたな。おかえり、リン、シュウ」
帰ってくるのが当たり前のように、パパが笑顔で迎えてくれた。
それが、何よりも嬉しくて、幸せな事だと思うのでした。
「あ、はい!パパ、これプレゼント!」
ただいまーっと言いながら抱きついてから、手に持ってたプレゼントを差し出す。
「おお?俺に?有難う。開けていいか?」
「うん、見てー!」
そう言われて、ユートはガサゴソと紙袋に入った物を取り出す。
「あ、これは…。そういや、自分の顔なんて見てなかったなぁ」
そこに入ってたのは、良く顔が見える手鏡と、顔剃り用のナイフだった。
一緒に柔らかな手ぬぐいも入っていた。
「パパは、おヒゲ剃った方がカッコイイと思うの!だから…ね?」
「そうかそうか。じゃあ、剃らないとなっ。今夜早速使ってみるよ。有難うな!」
と、ユートに頭を撫でて貰えてとっても幸せな気分になるリンだった。
「えへへ…。あ、ガントさんにもあるよ!こっち!」
と、リンはガントにも差し出す。
「俺にもくれるのか!?いやー、嬢ちゃん有難うな!」
ガントさんに渡したのは、丈夫な革で出来たグローブ。
色んな道具を扱うガントさんにいいかなと思って択んだのです。
「コイツはいいな!手にしっくりくるよ。ありがとうな!」
ガントは男前な笑顔で、リンに感謝を伝えた。
「あ、俺も二人に買ってきたんだ!」
シュウも、二人にプレゼントを買ったみたい。
やっぱり、そうだったんだね!
シュウも、なんだかんだで二人に感謝してたみたいで良かった。
「お、コイツは蒸留酒じゃないか。良く見つけてきたなー!」
ガントさんは、酒場ではあまり見かけないお酒に喜んでいた。
シュウも、お酒のことなんて何処で知ったのだろ?
たまたま見つけたんだと言ってるけど本当かなぁ?
「俺には、木ノ実か?これは…なるほど、アイツらにってことか?」
「うん、ユートさんも食べれるけどさ、カルマや、ニケも肉ばかりじゃなくて、こう言うのも食べたいかなと。ちゃんと、食べても問題ないって言ってたよ!」
そっか、ニケちゃんやカルマさんにもいつも守ってもらってるもんね。
私も、今度何か差し入れしてこよー。
と、心の中で思うのでした。
その後は、皆でご飯をいつもの酒場で食べて、いつもどおりにお風呂に入って、ベットで寝た。
寝る前のお風呂でパパは早速おヒゲを剃ってみたらしく、つやつやになった顔を見て、凄く嬉しかった。
パパは、ちょっと照れくさそうにしてたけど。
夜ベットに入って、しばらく外の月(地球のよりも大きくて、しかも青く光って見える。)を見てたら、何故か少し寂しくなっちゃって、枕を持ってパパの部屋に忍び込んだ。
もう、寝てるかなと思ったらロウロクに火を灯して、備付の机に羊皮紙を広げて何かを見ていた。
「なんだ?寝れないのか?」
「うん、ちょっと目が冷めちゃって…、何を見てるんですか?」
真後ろまで近付いて覗き込んだ。
それは、この町の地図だった。
「ああ、この町の建物の配置を見てたのさ。家とか館とかの場所をある程度把握しておきたいからな」
私が見やすいように持ち上げてくれる。
「こうやって見ると、結構大きい町なんですね。まだ、行ってないとこいっぱい」
「そうだな。この町にいい物件があれば、この町の家が拠点になるから、覚えておいて損はないぞ?」
ニヤッとしながら、私の顔を覗く。
「!買うんですか?」
「んー、まだ物件見てないからな。明日ミルバに紹介して貰うつもりだ。一緒に行くか?」
用事が無ければだけど、と付け加えて聞いてくれた。
「んー、行きたい!けど、…楽しみに取っておきたいから、明日は鍛錬する。スキル上げもしておきたいし」
「そうかそうか。まだ、低いスキルあるんだってな。やっておいて損は無いな…。じゃ、買うの決まったら皆で見ようか」
「うん、それがいい!ふふふ、今から楽しみ!」
想像しただけで、わくわくしてきた。
「あぁ、いい家見つけて来るからな。さて…そろそろ俺も寝るよ」
そう言って、ロウソクの火を吹き消す。
辺りは、月の青い光だけが照らしている。
「ね…パパ」
きっと、物悲しげな顔をしていたと思う。
「なんだい?」
それを見て、一層優しい顔と声でそう聞いてくれた。
「一緒に寝ていい?」
だから、躊躇なくお願いした。
「うーん、いいけど、寝相良くないかもだぞ?」
「大丈夫、ベットは充分広いし、パパくらいなら動かせるから!」
冗談を言いながら笑うパパに、あまり無い力こぶを見せて言葉を返した。
「あはは、そりゃ頼もしい。うん、じゃぁ、一緒に寝ようか」
「うん、ありがとう!…うふふ、なんかこういうの久しぶり〜」
リンはベットに潜り込みユートにくっつきながら、本当のママとパパとまだ仲が良かった頃を思い出す。
二人は、地球の事を思い出しながら、眠気が来るまで会話を重ねた。
「俺も、久々かなー。もう何年前かな…」
「…パパの娘さんは、いくつ?」
「うんと、13歳だな」
「わぁ、お姉さんだ。…会ってみたいなぁ」
「そうだなぁ、会えたら喜ぶだろうな。妹が欲しいとか言ってたし」
「本当?!私も、お姉ちゃん欲しかった!」
「そうなのか?じゃあ、きっと仲良くなれるよ」
「うん、そうだといいなぁ…ふああ」
「あぁ、それじゃおやすみ…」
「うん、おやすみ。…パパ」
そして私達は、本当の父娘のように寄り添って、幸せそうに眠るのでした。
いつもご覧になって戴きましてありがとうございます。
また、ブックマークをしていただいて、本当に励みになっています。
重ねて有難うございます。
日々、見てくださる方が増えて、恐縮至極です。
今回の主人公は、リンでした。
奇しくも、主人公よりさきに元の世界での話を公開する結果になりました…。
他のメンバー主体の話も、どこかでちょこちょこと入れていきたいと思います。
次回更新は、9/15 25:00頃迄の予定です。
次回もよろしくお願いします!




