呪詛王の都市へ強襲 ②
「さぁっ、ユート!楽しい戦いのお時間だぜええええっ!!」
喜々とした顔をして、怒号と共に襲い掛かってくるグラム。
いや、なんでだよ!楽しくなんかないぞ!?
そんな俺にお構いなく、凶悪なフォルムの斧がブオオッ!と音を立てて襲い掛かってきた。
それを新しい愛剣ソル・マーニで難なくはじき返す。
見た目と違い、かなりの攻撃力を持つ剣なので驚いたに違いない。
チッと舌打ちをしてから更に追撃をしてくる。
流石に同じ攻撃はしてこないようだ。
すぐさまに、武技を使い肉体強化をしたみたいだな。
うっすらと赤い光を纏っているから、金剛でも使ったのだろう。
先ほどよりも、一撃が重くなったがそれでも問題ない。
こちらもまだ本気で戦っているわけじゃ無いし、今はお互いじゃれ合っている程度だ。
「そらそらっ!どうした!?その程度じゃねーだろうっ!もっと本気で来いよユート!」
「はっ、断る!何が楽しくて、おっさん同士で遊ばないといけないんだよ。それに、お前の相手はアイツだろ?」
「ああん?何言ってやがる!お前以外に俺とやり合えるヤツなんて…」
ドゴオオオオンッ!!!
突然グラムの目の前を何かが通り抜け、地面に大穴を空けた。
一瞬で広場が滅茶苦茶になっている。
その中心には衝撃と摩擦によってなのか、燃え上がる一本の槍が突き刺さっていた。
「おいおい。グラムはどうでもいいけど、町はあんまり壊すなよ?あとで住民に恨まれるぞ?」
「そんなもの、後でどうにでもなるでしょう?それよりも、お久しぶりねグラム。今日と言う今日は、もう容赦しないからね?今まで私が受けた苦しみをその身をもって贖ってもらうからっ」
「お、おまえセツナか?なんか妙に色っぽくなったな?ははーん、さてはユートに…」
「セリオン、ブレス攻撃!」
『任せろ。アイスブラスター!』
グラムが言い終わる前に、相棒のセリオンから氷属性ブレスがグラムに向って撃ちこまれる。
無数に散らば目られた氷の飛礫と、触れるだけ凍り付くブレスが容赦なく襲い掛かる。
流石にすぐに回避するが、グラムが居た場所は更に地面が抉られてあたり一面が凍り付いた。
「あっぶねぇな。何すんだてめー!ちょっと会わないうちにえらく綺麗になったから、からかっただけだろっ!」
「ふん、今さらあなたにおだてられても嬉しくもなんとも無いわ」
セツナはセリオンの上からグラムを睨みつけ、すぐに呆れたような顔に変えてため息をつく。
「そうね、ユート殿はあなたと違って良い暮らしを提供してくれたから、荒れ果てた生活させられたあの時よりも綺麗にもなるってもんだわ。それにユート殿は優しいし、みんなを守れるくらい強いし、お金もちゃんと稼いでるし、いい筋肉しているし、ちょっと酔った勢いで誘惑しても揺るがないくらい身持ちが堅いし。本当、もうちょっと揺らいでもいいのに!」
「あ、あのセツナ…さん?」
なんか怒りMAXになってて、色々と口走ってませんか?
え、俺誘惑されてたんか!?なんか俺に矛先向いているし。
まぁ身に覚えは…、無くはないが本気にしてなかったよ。
「それにね、この際だからハッキリ言うけど。あなたより、ユートの方が百倍イケメンだから!」
「なっ、て、てめぇ!それをこんな所で言うかよ!ちくしょー、ボコボコにしてあとで〇〇〇とか×××とか△★■とかして泣きながら後悔させてやる!!」
「そういう、下品な所が全くダメなのよあなたは!やれるもんならやって見なさいよっ!返り討ちにしてあげるわ!セリオン行くわよ!」
セリオンに戦いの号令をだしつつ、自身も剣を抜く。
セツナも自身の武技を発動し、身体強化する。
その手に持つ剣も光を放っている。
「さあ、いくわよグラム?今までありがとうね。そして、死ーーーーーーーねええええええええええええええええええっっ!<グランドクロス>ッッ!!」
ああ、もうストレートに死●って言っちゃったし。
かなりプッツンきているね。
まぁ、聞いてた話だと殺意が湧いても仕方ないレベルだししょうがないな。
それを皮切りに二人の決闘が始まった。
お互いに頭に血が上ったように見えたが、さすが戦闘に関しては二人とも一流なだけはある。
一撃一撃が的確で、必ず急所狙った攻撃をしている。
しかしその表情は、獰猛な猛獣が獲物を襲う時の顔だ。
グラムもセツナもお互いの手の内を知り尽くしているからこそ、一切の手加減の無い攻撃をしている。
「くっそ、思ったよりもやる様になってるじゃねーかっ!」
「いつまでも、あの時のままだと思わない事ね!それに、一対一で戦っているだとか思っているんじゃないでしょうね?セリオン!」
「なっ、てめー!」
『凍てつけ<アブソリュートゼロ>!!』
絶対零度の冷気がグラムに纏わりつく。
セリオンも自らを鍛える為セツナと幾度ともなくクエストに出ていた。
そのおかげであの時の数倍の強さを身に付けている。
そのセリオンの繰り出すスキルの効果は絶大だ。
「くっそ、ボス級の飛竜とかありかよ!」
『我は飛竜ではない、白き氷竜帝セリオン。そこらのドラゴンと一緒にされては困るな』
そういいつつ、あたり一面に魔法陣を展開する。
そこから無数の氷の槍がグラム目掛けて撃ち出された。
「ぐぅ、がぁあっ!!」
躱しきれず氷の槍に体を抉られるグラム。
すかさず回復ポーションを飲んで治療をして治しているようだが、そこに大きな隙が生まれる。
そんなチャンスを逃すセツナでは無かった。
「プレイヤーを目の前にして、それは悪手ねグラム!〈デンドエンド〉!」
セツナから無数の剣閃が繰り出された。
そのどれもが正確に急所を突く。
一瞬の油断を許したグラムは捌き切れずその防御を突破されてしまった。
「ぐあああっ!くそ!くそ!!!」
あまりの威力に吹き飛ぶグラム。
しかし、その勢いを利用して距離を取る事に成功したようだな。
流石戦い慣れているな。
「お前相手に切り札使うなんて、俺も随分やきが回ったもんだぜ。だが、四の五の言っている場合じゃねーなこりゃ」
素早く取り出したポーションを体に振りかけると、手に持っていた斧を迷わず投げ放った。
「そこのデカ物じゃあ、躱せねーだろっ!〈スカイドライブ〉!!」
スキルの効果により、高速回転した斧がセリオンの胴体を目掛けて襲い掛かる。
しかもまるで意思がある様に、躱そうとするセリオンを追尾していった。
咄嗟にその鋭い爪で斧を防ごうとして、右腕が吹き飛んだ。
グオオオンッ!!
思わず咆哮を上げるセリオン。
すぐさま回復ポーションをセリオンに振りかけるセツナ。
そして、一瞬出来た時間がグラムの狙いだった。
「全てを打ち払い、全てを断ち切る神剣よ、俺に力を貸せ!〈封印解除〉!!」
グラムがいつの間にか取り出した古びた長剣を点に掲げ叫んだ。
その似合わない恰好はともかく、眩く光り出した剣は間違いなく何かある。
「セツナ!その剣はヤバイぞ!!」
「分かっているわっ!やらせるかああああああっ!!〈神速剣〉!」
セツナの最高スキル、発動した瞬間に相手を切り裂く必殺の剣。
それは間違いなくグラムを切り裂くはずだった。
しかし、ガキンっと金属に弾かれるような音が響きその攻撃が防がれた事を告げられた。
「え、効いてない!?」
「はっはっはっはっは!今の俺には、そんなチャチな攻撃じゃきかねーぜ!」
そこに居たのは、金と黒の光に包まれたグラムであった。
…いや、どっかの戦闘民族かよっ!と心の中で突っ込んだのだった。
───
「くそ、ワタシとしたことがあんな奴に後れを取るとは!このままではカーズ様になんと言われるか」
グラムを召喚し、ユートに嗾けた隙に転移のアイテムを使って戦場を離脱したロペは王宮に戻ってきていた。
ロペにとって、グラムはあくまで駒でありたとえ死んだとしても優秀な屍兵の肉体が一体増えるだけとしか考えていない。
逆にいえば、あの全くいうことを聞かない野蛮な男には死んでもらったほうがありがたいとすら考えていた。
「出来るなら奴の手下を一人くらい倒してくれれば、良いのですがねぇ」
ロペは無能ではない。
先ほどの戦闘では一瞬冷静さを失いかけたが、それでもユート達の戦闘力が上がっていることに気が付いた。
この短期間でここまで戦闘能力を上げるものなど、聞いたことがない。
しかし、実際に戦ってわかってしまった。
このままでは、自分は負けてしまう事を。
「口惜しいことですが、ワタシ一人ではどうにもならないですね。しかし、ワタシ以上に強いものなどここの国には一人しかいない。ですが、あの方に出てもらうワケには…」
「珍しいねロペ。こんなところに来るだなんて何の用かな?」
ロペの前に急にひとりの人物が現れる。
ロペの感知能力を掻い潜り現れた人物。
そんな人物をロペは一人しか知らない。
「こ、これは閣下。気配を消してお近づきなさるなど、人が悪いでございますよー!」
とびっきりの愛想笑いを浮かべつつそう述べるロペ。
その背中には表情と反して冷たい汗が流れる。
「ふん、相変わらず気持ち悪い笑顔しているね~。どう?例の奴らとの戦況は…って、聞くまでもないよね、君がここにいるんだから」
ロペの性格なら、倒したら呼ばなくても勝手に報告しに来るだろう。
それも意気揚々と。
そうせずに、こんなところをうろついているということは、結果は見えている。
呪詛王カーズは、そう言っているのだ。
「ははは!いえいえ、これから次の作戦を実行しようとしているところですよ!先ずは屍魔獣を奴らにぶつけて…」
「僕にそんなウソをついて、通じると思っているのか?お前は僕をなめているのか?」
「!!?ははーっ!申し訳ございません!!」
カーズはロペに向けて、殺意の視線を送る。
身の危険を感じたロペは、すぐさまその場にひれ伏して陳謝する。
「まぁ、相手があの『覇王』とかいう奴ならしょうがない。どれ、僕が様子を見に行ってやろうか。案内しろロペ」
「はっ、仰せのままに」
せっかく逃げて対策を練る時間を稼ぎに戻ってきたのに、よりによって自身の主人によって叶わなくなり戦場に強制的に戻されるロペであった。
───
グラムが金と黒の光に包まれパワーアップしてきた。
その右手に握られた剣も光り輝いている。
セツナの攻撃が悉く弾かれてしまって効いていないな。
あの状態のままだと、勝ち目は薄いか?
「はっはっは!そんな程度の攻撃じゃかすり傷もつかねーぜ?イっちまいなセツナ!」
「相変わらず、あなたは下品なのよ!でええええああああああああああっ<剣閃>!!」
裂帛の気合で剣技を放つセツナ。
しかし、グラムには全く通じていない。
セリオンも合わせてブレスを放つが、それも全て無効化されてしまっていた。
「ははんっ!まずはそこのトカゲからだ。<竜殺し>発動!」
グラムの剣に黒いオーラが纏わりつく。
なんだあれ、嫌な予感がするな。
「セリオン!それを食らうな!拙い気がする!」
「おせーんだよっ!〈黒閃〉!!」
グラムが剣を振り払うと、その黒い閃光がセツナとセリオンに襲い掛かった。
「あぅっ!?きゃああああああっ!!」
『ぐぬおおっ!これは躱しきれん!』
危険を感じ、咄嗟に回避をするも躱しきれずにセリオンの片翼が吹き飛ぶ。
それによりバランスを失ったセリオンは、そのまま墜落してしまう。
ドオオオオオオオオオンと背中から落ちたセリオンは苦悶を浮かべて呻いている。
セツナは何とか宙に身を翻し地面と激突を免れたが、先ほどの攻撃で少なくないダメージを被ったようだ。
「セツナ、セリオン無事か!?水の精霊の力により全てを癒せ。〈霊水〉!」
水の大精霊より授かった治癒スキルにより二人をすぐに回復する。
…うん、凄いなこれ。あっという間に治ったね。
MP消費はかなり高いけど、なんとセリオンの翼も元通りに治った。
「ちっ、高位治癒スキルもあるとか相変わらず分けわからん構成だなユート。本当にテイマーなのかぁ?」
「うーん。今じゃ『覇王』とか言われているけど、本職はちゃんとテイマーだよ」
「『覇王』だぁ?そんなのLBOには無かっただろうがっ!もう素直にテイマー名乗るのやめちまいなよ?」
「うるせーわ。そっちこそ、そろそろ職業を山賊とかにした方がいいんじゃないか?似合うと思うぞ?」
お互いに軽口を叩き合いながらも、剣と剣と打ち合う。
SSランク同士の戦いだけあり、その衝撃だけであたりに重い衝撃波が生まれている。
「ユート殿!そいつの相手は私に!」
「気持ちは分かるが下がっていろ!今のセツナじゃ分が悪い!」
正直に言うと、セツナの気持ちにケリを付けさせるためにグラムの相手をさせたかったが、今のパワーアップした状態のグラムは、俺が〈幻体龍神〉を使った時と同じくらい強い。
セツナが弱いわけじゃ無いが、ここまで底上げされたステータスを持つグラム相手では最悪命を落としかねない。
グラムはどうなっても構わないが、セツナには死んで欲しくない。
なので、確実に勝てる保証が無い限り任せるわけにはいかなかった。
「まぁ、適当にボコったら最後は任せるからそれまで待ってろ。存分にぶん殴らせてやるからさ」
俺にそこまで言われたらセツナも頷くしかなかったようだ。
まぁ、苦笑いしていたけどな。
「いつまでその余裕が続くかな!今の俺なら、お前の事を真っ二つにする事すら容易いんだぜ!」
「前の戦いの時には、使わなかったという事はさ。…そのチカラ使いこなせてなかったんだろ?そんなので今の俺に勝てると思うなよ?イドラ、俺に力を貸せ!〈幻体龍神〉!」
覇王のチカラが全て解放された状態で、このスキルを使うのは初だったが、使ってみてびっくりだわ。
すぐに〈幻惑術〉で幻体、いわゆる自分の分身体を創り出してみたが、なんと4体も出せるようになっていた。
『覇王』のおかげで、どうやら本来のステータスよりもかなり増えているようだ。
同時に〈闘神〉を発動させて更に底上げをする。
元が増えているから、その増加量もかなりのものだ。
しかし、そんな俺を見てグラムも黙って見ているわけではなかった。
「ステータスアップ出来るのは自分だけだと思うなよ?武技解放!〈金剛力〉!〈金剛盾〉!」
グラムの体が更に金色に光る。
どうやら最高位の武技を発動したようだ。
さすが本職戦士だけあり、強化系は最高熟練度まであげているのか。
うーん、自分の強化に気を取られて俺の行動に気が付いていないようだな。
俺は幻体を出現させるとすぐに〈幻惑術〉のスキルである隠蔽により姿を消している。
もしグラムが心眼スキルを極めていても、消えた跡では俺の幻惑スキルは見破るのは難しい筈だ。
「さぁ、食らうがいい!一刀両断、〈ジ・エンド〉!」
んなっ、なんだあれ?
俺の知らないスキルだな。
いや、あれは見たことがある!
「主よ、それは喰らってはなりませんっ!!」
次の瞬間、俺の体は空間毎真っ二つにされるのであった。
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