星の大精霊ステラ
ギギギギギギギギ・・・・・
永年開かれなかった扉が開く。
ゆっくりと開いた扉の先は、それまでとは全くと言っていいほど景色が違った。
「わぁ、まるで宇宙を見ているみたいだねパパ」
リンが言う通り、扉の先は宇宙空間のような真っ暗い中にキラキラと星空が広がる世界だった。
「これは一体どこまで広がっているんだ?」
扉から異世界に繋がっているかのような感覚を覚えつつ、恐る恐る一歩を踏み出す。
…うん、見えないけど地面はあるようだ。
強いて言うなら全面がスクリーンになっていて、そこに宇宙空間が映し出されているかのようだ。
その中心には、淡く輝く半透明の球体が浮かんでいた。
よく見ると、中には子供くらいの大きさの人の形をしたものが浮いている。
俺ら全員が中に入ると、ギギギギ…っと音を立てて、ゆっくりと扉が閉まった。
それと同時に、球体の中にいる少年から声が聴こえてきた。
『ボクの世界へようこそ。まずは、ここに辿り着いた君達を祝して傷を癒してあげようね。〈スターライト〉!』
球体の中の少年がそう言うと、俺らの周りにキラキラと光る粒子が降り注いだ。
おの粒子に触れた瞬間、すべての傷が無くなり体力も回復する。
女性陣は『わぁ、綺麗…』とうっとりしていたが、俺だけがその異常さに警戒していた。
一瞬で全員が傷も体力も、そして魔力でさえ回復している。
こんな芸当が出来る人物。
間違いなく、星の大精霊本人であろう。
『君が覇王のユートだね。母様達から話は聞いているよ。さあ、聖女達と共に僕の前に来てよ。そうそう、そっちの闇と風の化身も一緒にね』
言われるままに俺らは球体のまで歩いていく。
一応何があってもいいように警戒は解いていない。
しかし、その心配は杞憂に終わり事になった。
『うん、緊張感を持つ事は良い事だとボクも思うよ。でも、そんな警戒してもこの空間では意味が無いよ。やろうと思えば君達の命を終わらせる事も可能だし、その逆も可能なんだ。もちろん、そんな意味が無い事はしないよ。ボクはずっと、覇王である君を待っていたんだ』
そこで球体の中で目を閉じていた少年が目を開いた。
その瞳は金と銀が散りばめられた不思議な光彩をしていた。
その瞳で見られるだけで、不思議な気分になる。
『ボクの名前は『ステラ』。母様たちからこの星を管理する使命を与えられた、星の精霊だよ。宜しくね』
「星の大精霊ステラ。俺はユートだ、宜しくな。母様達と言うのは白の女神と黒の女神か?」
『ああ、そうだよ。僕は最初に創られた精霊でね、この星の命そのものでもあるんだ。この星、『アストラ』の管理を母様達から任されているんだよ』
すると、宇宙空間を現したような部屋中に、世界での出来事が映像として表示されていく。
まるでSF映画を見えているようだな。
「なるほどな。しかし、この部屋はまるで宇宙空間みたいだな」
『あはは。流石異世界からやって来た人間だね。星の外があるという定義を知っているんだね」
「ユートさん、宇宙って何でしょうか?」
「ああ、サナティには分からないか。俺達の見ている空に輝く星は、その一つ一つがこのアストラと同じかそれ以上に大きなものなんだ。それが無数に集まり存在する世界、それを宇宙と言うんだよ」
「えーと、難し過ぎて良く分からないです」
「ははは、そうだよね。このアストラの空を超えると、この部屋のように真っ暗な世界が広がっていて、そこから見たアストラやその他の星がこのように見えるんだよ」
『その通りだよ。ボクはこの星のすべてを見る事が可能だから、星の外側も見えるんだ』
そうして、悲しそうにまた目を閉じるステラ。
『当然、星の内側の事を今映しているように見えている。君たちがここまでに何をしてきたのかも、どうやって現れたのかもね』
「じゃあ、俺達がこの世界に生まれた瞬間を知っているのか?」
自然とごくりと唾を飲み込み、ステラの言葉を待つ。
その内容次第では、俺が知りたかった内容が分からるからだ。
『うん、知っているさ。ボクはこの星を管理しているから、他の世界から混入された異物を検知する事が出来る。そう、例えば君達やそこに居るクロノスなんかね』
「クロノスも、異世界から来たのか?!」
「ん-、正確にはオイラは異世界から帰ってきたんだにゃ。ある事が原因で、暫く違う世界に行っていたんだにゃ」
『ある事って、君は前の獣王と戦って負けて死んでしまっただけじゃ無い…。本当に困った奴だよ』
「にゃっ!?なんでそれをバラすかにゃ!あれはちょっと手加減しすぎたんだにゃ!」
『相手が獣王なのに、スキル無しで挑むとかどれだけ無謀か自分でも分かってただろうに…。本当、戦闘狂だよね』
「あの時はそのしないとハンデにならなかったんだにゃ。いや~、あの戦いは楽しかったにゃ~」
と虚空を見つめウットリしている。
思った以上にヤバイ奴だった事を再認識させられてしまう。
まさか、ラーザニアよりも戦闘狂だとは…。
間違っても決闘とか受けないようにしよう。
「ま、でも今はそれどころじゃないから、そんな事しないけどにゃ」
と、こっちを見てニヤっとするクロノス。
いや、そう言う目でこっち見ないでクダサイ。
『なるほど、君の愛しの姫が封印されてしまったんだね』
「愛しのっていうのは引っかかるけど、そういう事だにゃ。何かしらないかい兄弟?」
『ボクが兄弟と言えるのは、もはやノームだけだよ。それ以外はみんな代変わりしたか、本質を変えてしまった。君に至っては、精霊ですらないじゃないか』
「そうなんだにゃ。まー、色々とありすぎてちょこっと存在が変わってしまったんだにゃ」
『てっとり早いのは、本体を取りに行けばいいんだろうけど。もしや、自分の神殿に入れなかったとか?』
「そうなんだにゃ。時の神殿に入ろうとしたけど、もう別の存在になったせいで、鍵が開かなかったんだにゃ。なので、今はこの希望の箱を開く為に大罪を集めている所なんだにゃ」
『へぇ、面白い物を持っているんだね。それはルキデウスが持ち込んだスキルとも別の体系みたいだ。元々僕らが持つ権能に近いね』
その不思議な瞳で中を覗く様に見てくるステラ。
彼のチカラでクロノスのスキルを見る事が出来るのだろうか。
「最初は良く分からなかったけど、相棒が能力を解放していくうちに理解したんだにゃ。このスキルは、ルキデウスの持ち込んだ大罪スキルを吸収する事で機能を増やせるスキルだと。だから、全て解放すれば相棒を目覚めさせる事が出来る筈なんだにゃ」
『クロノスの言いたいことは大体分かったよ。でも、最期の鍵はルキデウスの側近が持っているみたいだよ』
「そんな事まで分かるのかにゃ!?もしやと思ってきたけど、流石ステラだにゃ!それで誰が持っているんだにゃ?」
『個体名までは、分からないよ。でも、魔王城にいるみたいだから行ってみたらいいんじゃないの?さて…、話を戻すけど、ユート。君が知りたいことだけど…』
ステラの最後の言葉を聞いて、すこしガックリしていたがそれでも『次の目的地が決まった事だけでも良しとするかにゃ』と呟いていたので、概ね目的を果たしたようだ。
そして、いよいよ俺がずっと知りたかった事を訊けるようだ。
ステラはこちらをジッと見つめて、なるほどと呟いてから話を続けた。
『君たちは、母様達によって魂だけ転移させられて、この世界に元々存在した者達を使って創りかえられた特異な存在だ。この世界にいた元々の人間はその瞬間に存在ごと消滅して、君達という存在に置き換えられているんだ。だから、異世界から来た人々であり、この世界の住人でもある』
「やはりそうなのか。俺の元となった、この世界のユートに聞いたがこの体は元々この世界の人々の者だったんだな」
『そうだよ。だから肉体の構造はこの世界の人々と一緒だよ。それと、この世界で完全に死んでしまった場合は、この世界の土となり、魂はこの世界の中で新しく生まれ変わるからね』
「じゃあ、俺達はもう元の世界には帰れないのか?」
『帰っても、肉体は別にあるから意味ないんじゃないかな?母様達に魂だけ送り帰して貰えるなら可能かもしれないけどね。あのルキデウスは、そうやってこの星に来たみたいだし』
「情報生命体というのは実体を持たないのか?だとしたらルキデウスは、今も実体を持たないのか?」
女神の話や、クロノスの話からすると実体を持っているように思える。
自在に切り替える事が可能なんだろうか?
『うーん、彼はボクが生まれてくる前にやって来たからね。母様達から与えられた情報以外には、この星で観測した彼しかわからないけど…。今は実体を持っている筈だよ。だけど、元がそうだからその肉体を滅ぼしても、元の情報生命体に戻るだけなんだろうなぁ』
「そんなのどうやって倒すんだよ…。女神様も無茶な事をお願いするよな…」
思わずぼやいてしまう。
女神からのお願いは大まかに言うと3つある。
1つ目は、大精霊に会って加護を受けてくる事。
2つ目は、女神が封印されている場所へ来て女神の封印を解く事。
3つ目は、この世界の侵略者であるルキデウスを排除する事。
これらを達成するために、俺は呼ばれたのだと言う。
それにしてもステラに会ってなかったら分からない事多かったと思うんだが?
最初から星の大精霊に会って来いとなぜ言わないんだろう?
それも光の神殿に行って白の女神に会えば分かる事だろう。
そもそも、光の精霊と光の神殿はどこにあるんだ?
あの白の女神、肝心な場所を詳しく教えてくれなかったよな?
いや、あの光の精霊が居た場所になんか覚えがあるような…。
何処だっただろうか?
「そういえば、光の神殿はどこにあるんだ?」
『あれ?君はその資格を手に入れた筈だけど気が付いてなかったのかい?光の神殿は天使が棲む場所にあるんだよ。あそこの最上階に神殿があるんだ。でも、そこに行くには守護者たちを倒さないといけないんだけど、最初の守護者は既に倒しただろう?』
そう言いながら俺の装備している腕輪を見るステラ。
そう言えばこの腕輪を鑑定した時に確かこう書かれていた。
『この腕輪を持つものは、塔の主への挑戦権を得る。これを持つものは、さらに上層階へと繋がる扉が開くことが出来るであろう』
なるほど、この腕輪は光の大精霊の守護者への鍵だったわけか。
なるほど、女神が居た場所、あれは『天使の塔』だったのか。
今まで何で気が付かなかったんだろうか。
あの時の熾天使が言ってた主というのは、『光の大精霊』だっただったという事だろう。
段々と霞み掛かっていた記憶が鮮明になっていく感じがする。
しかし、またあの天使達と戦うのかと思うと少し憂鬱だな。
まぁ、あの時よりもかなり強くなっている筈だし少しは楽になっているだろう。
それにあの時手に入れたこの腕輪のおかげで階層から再開出来るから、そこまで攻略に時間が掛からないと思いたい。
しかし、忘れてはいけない事がある。
そう、俺の大事な相棒を殺した『アイツ』だ。
あの戦闘狂の事だ、王都を襲ってきたヘラから情報を聞いて待ち構えている可能性は否定出来ない。
奴ならやりかねないからな。
だがもし万が一、『アイツ』が現れたとしても次は無様に負けるような事は無い。
何故なら、俺達はあの時よりも格段に強くなったからだ。
『アイツ』も強くなっているかもしれないが、だとしても負ける気にならない。
「主よ、もし奴がもう一度現れたとしても今度は負けませぬ。だから、安心してください」
「そうです、彼が次に現れた時は必ず勝利に導いて見せますから。あの時私達は誓ったのです、二度と主様にあのような思いを抱かせぬと!」
どうやら、俺が何を考えているかを見抜いたようだ。
なんとも優秀過ぎるふたりだよ。
「ああ、もちろんさ。俺も今度は尻尾を巻いて逃げるような事はしないからな?」
「「承知」」
もう迷いはない。
次の目的地は、あの『天使の塔』だ。
『場所は分かったみたいだね。じゃあ、折角来た君達にボクの祝福を渡そう。──ボクはこの星を司る精霊ステラ!ボクが与える祝福は天に昇る大きな光、そして夜空を照らす神秘の光。この二つの祝福を覇王たるユートに与える!』
ステラがそう唱えると、彼から金色の光と銀色の光が俺に降り注いだ。
うぐぐぐぐぐ!?
な、なんだ?!
祝福ってわりになんだか少し苦しい感じかするんですが!
【スキル『サンライト』を獲得しました】
【スキル『ムーンライト』を獲得しました】
『サンライト』:天にある星より降り注ぐ光により、パーティーメンバー全員の肉体を活性化させてすべてのステータスを向上させる。
『ムーンライト』:夜に地を照らす星の光により、パーティーメンバー全員の傷を癒しHPおよびすべての状態異常を回復する。
スキルの内容はこんな感じだった。
スキルを覚えたら、さっきの苦しい感じは嘘のようになくなっていた。
「…あれ、加護じゃなくて祝福?」
『祝福というのは、加護の上位版だと思ってくれていいよ。並みの人間に授けると肉体が弾け飛んじゃうんだけど、今の君なら大丈夫だからね』
さらっとなんて怖いもん渡してきたんだ。
だからあんな苦しい感じがしたのか。
弾け飛ばなくて良かったわ俺の体。
「覇王のスキルはもうこれ以上覚醒しないのかな?」
『うん、覇王のスキルは全て解放されているよ。後は母様が最後の解放をすれば完了だよ』
「なるほどな。じゃあ、ここには本当に女神の情報を貰いに来ただけか」
『さて、もちろん聖女には加護を授けるよ。滅多に人が来ないから人間の聖女でここの加護を受けるのは初めてじゃないかな?さあ、いくよ~』
キラキラと輝く光がアリア、リン、サナティに降り注いだ。
すると、同じく3人が光り輝いていく。
「わあ、綺麗な光だね」
「これが星の大精霊様の加護なのですね、凄い力を感じますわ」
「凄いですね。これが星の大精霊様のチカラ」
リンがアリアがサナティが同時に加護のチカラを発動した。
すると、3人の周りに金色に輝くドームが出来上がる。
「これは…、バリアか?」
『ああ、君の居た世界ではそう言うのかな?そう、星属性で張られた障壁だね。それは『星の盾』というスキルで、あらゆる事象から身を護る事が出来るよ。意識をすれば大きさを変えれるから、仲間を守ったりも出来るよ』
「ん?俺の貰った祝福にはそんな機能ないぞ?」
『君は『覇王の盾』があるだろう?あれを持っていると、なぜかこのスキル習得出来ないんだよ~』
「ええー、じゃあ俺には使えないスキルなのか…」
かなりガッカリだ。
あらゆる事象から身を護るとか、『アイツ』が使う次元を裂く攻撃を防げそうだったのになぁ。
…試して失敗したら死ぬから基本は躱すけどね。
『どっちにしろ聖女と覇王は一緒にいなければならないし、お互い協力しあってよ』
「しかしさ。…こんな地底の底まで来てこれだけ?」
『これだけとは?』
「確かに知りたい情報は手に入れたし、新しいスキルも手に入れたけどさ、ここに来るまで結構大変だった割に得られるものが少ない無いと」
『ユートは中々に強欲だね。そんな事を憚らずに言う人間は初めて会ったよ。人が知りえない情報を得た事と人間では通常得られないスキルを獲得ってだけでも、かなりの偉業なんだよ?それでも他に何か欲しいの?』
「もちろんだ!」
ステラは少し考え込んでから、『あっ!』みたいな顔をした。
少し演技掛かっていた気がするから、元から用意していたんじゃないだろうか?
『それなら、いいモノがあるよ?』
すると何処からか一対の小剣を取り出したのだった。
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