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天使の塔へ(1)

白羊の塔を攻略し終えた一行は、町に戻ってきた。

その後に、ユートが試したいと思ったこととは…。

 白羊の洞窟からニケとカルマに乗り、高速移動で町に帰ってきた。


 帰りは、試しに「7割で!」って言ったら、シュウとリンは気を失ってた。

 俺とガントは、何かがこみ上げるのを必死に耐えるので精一杯だった。

 

 着いたときには既に夜になろうとしていたが、ギルドはやっていたので換金だけ済ましてきた。


 ガントは、白羊の毛でいい服が作れそうだと言っていたが、設備が無いので、糸車だけ借りて羊毛を紡ぐまでにしてた。


「なぁ、家買ったらよ、工房と鍛冶場だけは頼んだからな!」


 と、要求してきた。

 良いけど、自分で作れよ?と言ったら、マジで何言ってる?みたいな顔になってた。


「だって、お前は大工あるじゃん?」


 って、言ったら本気で言ってるのか!設計図無いと無理だからな!と返された。


 なるほど、それは盲点だった。

 そこは、外注出すかね。

 CADとかあれば描けなくもないけど、流石にフリーハンドじゃ無理だ。


 朝食以外は、頼まないと宿屋ではご飯は出ないので、着替えてから定番の酒場に来る。

 今日の稼ぎは、全員で金貨2枚と銀貨3枚銅貨二十枚だった。

 まだ、金貨100枚以上あるから特に生活に困らないが、家を建てるなら一日金貨十枚は稼がないと、内装とかが作れない。あと工房とかも。


 しかし、今日は訓練を兼ねてだったので、まずまずといったとこだな。

 明日は、ギルドの依頼も合わせて違う所にいこう。

 クラスアップクエストを受けさせるにも、スキルは上げないといけないし、ステータスも上げておきたい。

 そうなると、やはり討伐依頼になるか。

 明日の朝、Aランククエストを中心に探してみようか。


「うん、そうだねっ!」


 と、いきなりリンに言われて読心術でもあるのかと疑ったが、


「パパ、声に出てたよ?」


 と言われて、ああ!いま説明しようと思ってたんだよ!と、微妙なごまかしをしつつ、赤面するだけだった。


「それじゃ、今日はお疲れ様!明日も宜しく頼むな!」


「「はーい!」」「おー!」


 みんなで、ジョッキをカツンとあててゴクゴクと喉を潤した。


 クハー、この一杯に生きてるわーとおっさんのような事を言う。

 いや、オッサンだけどね。


「よーし、飯食おうか」


 今日は、酒場にも卸した羊肉を頼んでみた。怖いものみたさというか、味を知りたかった。

 他にも数種類頼んで各自お腹を満たしていった。


「あの羊肉…意外と美味いな。歯応えが強くなってるけど、味はまんま羊肉なのな」


 ガントが驚いたという顔で、そう言うので自分も早速食べてみる。


「ほぅ、これは美味いな。しかもクセがない。調理にもよるんだろうけど、人気があるのも分かる気がするな」


 あのポーズを取るモンスターと知らなければだが…

 メキメキメキッ…おっといかん、あのムカツク姿を思い出したら、ジョッキを持つ手に力が入りすぎた。


「それで、明日は何処に行くの?」


 シュウは、明日の予定が気になり聞いてきた。顔にはわくわくが張り付いてる。


「明日は…、んー、まだ決めてない」


 ええー?決まってないのー?って、顔をしているから少し訂正しておく。


「正確には、明日の朝にギルドにいって決める。朝に張り出されたクエストを見て、稼ぎのいい依頼を受けてから出ようと思ってるのさ」


「ああ、なるほど。依頼金も貰えて一石二鳥ってわけか」


「そそ、早く家の資金増やしたいしな。金目的だけなら、魔族討伐とかで一攫千金とかもあるけどさ。やろうと思えば、やれる自信はあるけど…。正直、戦争はやりたく無いからな。やっぱ、ダンジョン潜ってこそ冒険者だろ?」


 ウンウンと、リンも頷いている。


「そうだ。明日は早くから出るからな。風呂入ったら早く寝ろよ?」


「うん、分かった、ユートさん」「はーい、分かりました、パパ!」


 うんうん、素直でよろしい。


 素直な二人を眺めてから、ガントがお前違う調教スキルに目覚めたか?…とか口走ったので、ナイフを柄の方向けてシュバッと投げといた。

 グペッ!と怪奇音を出して後ろに倒れた。

 うん、我ながらナイスコントロール。


「さーて、飯も食ったし、そろそろ部屋に帰ろう」


 お金をテーブルで支払い、宿屋に戻った。(ガントは、酒場のお姉さんの往復ビンタで起きた。)

 一番風呂をリンに譲り、二番目は俺ー!とシュウが言っていた。


 ガントは、

 「じゃあその間に整備だけ済ませておくわ。お前らの武器防具も整備必要なら、俺の部屋に持ってきてくれ。朝には終わらせておいてやる」


 と言ってくれたので、武器と防具を預けておいた。


 みんなが風呂に入ってる間に、馬小屋に行きニケとカルマとクロに白羊の肉を与えた。

 3匹とも、基本は肉食なので餌には困らない。


 カルマには、人の魂を食べさせてもらえば1年は大丈夫ですよ?と、真顔で言われて困ったが。

 悪人でもいたら、考えてやるとだけ言った。


 実は、次に行く場所は決めてある。

 但し、2箇所ダンジョンがあるので依頼次第でどっちに行くか決めるだけである。

 その前に、やっておきたいことがあった。

 ギルドに伝言を頼んでおいたのでそろそろ来るはずだ。


「こんばんわー、いらっしゃいますか?」


 褐色の肌に黒髪ロングの美女が、中を覗き込んだ。


「あぁ、ここだよ。済まないなこんなとこに来てもらって」


 訪れたサナティに、謝辞をのべつつニケの前まで来て座ってもらう。


「それで、ギルドからご依頼があるから来て欲しいと聞いて来ましたが…」


 ちょっと、不安そうに、こんなとこで何を…と下から覗き込まれる。

 そんな顔で見られると、ちょっと違う欲求が湧きかけたので、照れ隠しにコホンと咳払いしてから説明を始める。


「サナティには、このニケをどう感じる?具体的には、何に見える?」


 んー?と、ニケを眺めてから


「とっても素敵で大きな魔獣さんでしょうか…?」


 なるほど、外見だけならばそれは正解だ。


「うん、それも正解だ。たが、精霊魔法の”エレメントアイ”を、つかって観察した場合はどうだ?」


 え?まってくださいねと詠唱を始めた。


「我に授かりし精霊の目よ、彼の者の姿を映し出せ!エレメントアイ!!」


 ぱぁっと、かざした手のひらが、光りニケを包み込んだ。

 ニケは、クエッ?と首を傾げた。


「これは…、このニケ様は、精霊王の使いである、大精霊のおひとりと出ています」


 そんな、神獣レベルの存在がなぜここに…と、呆けてしまった。


 エレメントアイ:対象の属性や状態を確認する精霊魔法。相手が精神生命の場合、その正体を見破る。


「そう。そうなんだよ。一応魔獣の存在でもあるから、テイマースキルも魔獣のが効くんだが、本来は精霊なんだ。そこでだ…」


「え?あ、はい」


「サナティに精霊魔法を教えて欲しいんだ」


 なるほど、そういう事ですか、と笑顔になる。


「そういう事なら、喜んで協力致します!」


 スキルの習得にはいくつか方法がある。


 ひとつは、書物による知識つけて学習する方法。

 これは一般的でLBOの時は、()()()()()使()()()()で習得出来るお手軽方法だったが、アストラの場合はちゃんと本を読んで理解しないといけないようだった。

 しかも、書物は高価なので今は買えない。


 もう一つは、NPCにお金を払って覚える方法。

 これは、LBOでは最も簡単に習得出来る方法だが、書物よりは最初の熟練度が低いので簡単に上げれるスキルしかやらない。

 そして、ここにはNPCはいない。全員が生身の人間なのでこの方法は既に無い。


 最後は、才能持ちの誰かから伝授されて獲得する方法。

 LBOでは、相手がプレイヤーでないと出来なかったが、ギルド職員に試しに『伝授』できる人物がいるかと聞いたら、サナティさんなら可能ではと言われたのだ。

 この場合に獲得する熟練度は、相手の熟練度の半分くらいだ。


 サナティは、ライが精霊魔法の素質があると言っていたのでもしやとは思っていたが、知り合いになれたのは本当に運がいいと言える。


「では、私と両手を合わせてください」


 琥珀色に透き通った瞳が見詰めてくる。

 一瞬、見惚れそうになるが、いかんいかんと、気を引き締め直した。


「こうか?」


 と、手を合わせた。良く考えたら若い女性と手を合せるなんて何年ぶりだ?とか、不真面目な事を考えてたら、バチンッと両手が弾けた。


「うおっ!?」


「きゃっ!あ、…す、すいません!エレメントアイを発動した…ま…ま?え?」


 サナティが、空を見て驚いた顔をしている。

 そんなに、びっくりする事だったかと、首を傾げると。


「ユートさん…貴方はいったい…」


 そう、いいかけた時、カルマが急に起きて二人の間に割り込んだ!


「貴様、主に何をしている!!」


 結構、本気で怒っている?いつも冷静なだけに、危険を感じ宥めるようにカルマを止めた!


「カルマ!待て!彼女には悪気は無い!これは命令だ!」


 カルマは、グッ、と声を詰まらし立ち止まった。

 元の草ベットに戻らせるが、視線はずっと彼女を見ている。


「いったい、どうしたと言うんだ?」


 カルマに気圧されて、恐怖に腰を抜かしてしまったサナティを抱き起こした。


「すまない、うちのペットが驚かせてしまった。悪気は無いんだ。許してほしい」


「そんな、私が悪いんです。意識してないとはいえ、あなたの事を()()しまったから」


 と言うことは、俺の何かが見えたって事か?


「一体何が視えたのか、教えてくれないか?」


 柔らかい表情に戻し、真っ直ぐサナティを見詰めた。


「怒らないでいただけますか?」


「ああ、もちろんさ。正直に教えてくれ」


 こくりと、頷く。


「観測された結果は、属性は無のままですが、正体の看過が発生しました」


 え、と言うことは…


「啓示された内容は、『元人間。今は、人非ざる人。神に創られし人という生命を超えた存在である』という結果でした」


 な、なんだとぉ!いつの間に人間辞めてたんだ!

 あ、これカルマは知ってたんだな。


 ん、そうかさっき弾かれたのは、カルマの”ディスペル”だったんだな。


「なるほど、そういう事か…」


「ユートさん、…貴方は一体何者なんですか?」


 んー、と考えてから。


「俺にもわからん!」


「え?」


「え?」


「自分のことですよ?」


「そうだけど?」


「なんで、分からないんですか!」


 困ったなぁという顔をつくる。


「まぁ、しいて言うなら…異世界から来た…おっさんテイマーかな」


 はははっと笑っといた。


「なんの説明にもなって無いじゃないですかっ!」


 もうっ!と、言ってプイっとそっぽを向いてしまった。

 いや、それカワイイんだけど。


「あれ…異世界って、いいました?」


 片目を開けて、こっちを伺いながらふと思い出したと聞いてくる。


「ああ、そうだよー。こことは似ているけど、違う世界から来たみたいなんだ。あ、でも面倒事嫌だから内緒にしてくれない?」


 たのむっ!と両手を合わせてお願いする。


「んー、分かりました!そもそも、恩人であるユートさんを困らせる様な事はしませんよ!」


「そう言って貰って助かる!有難う!」


 いつの間にかカルマも視線を外し、眠りについていた。


 少し、お互いに落ち着いてから、ここに来た経緯とか話せる範囲で話をした。


「そうだったんですね、そんな大変な時に私達を助けてくれたのですね」


「まぁ、でも結果的にリンとシュウもパーティーに入ってくれてるし、良かったよ」


「しかし、取り乱してすいませんでした。私は、私が見たユートさんを信じます。だから、何者であるかなんて元々関係ないことでしたね。じゃあ、早速伝承の続きをいたしましょう」


「あぁ、有難う!宜しく頼むな!」


 再び、手を合わせる。

 お互いに、精神を集中し、目を瞑った。


「我は、精霊に仕え、精霊に認められし精霊師サナティ。我の呼び掛けに応え、新たなる精霊の子ユートに、精霊師の力を授けん!スキル伝承!」


 二人の周りに精霊が集まってくる。それがサナティを通してユートに流れ込んできた。

 その時だった。

 ニケがむくっと起き上がり、パアアアァッと光出した。

 そして、その光がユートを包み込んだ!


「こ、これは…!!」


 頭の中に声が聞こえてきた。


『主様に、大精霊たる我の祝福を与えます…』


 声が聞こえたあと、包み込んでいた光がユートの中に吸い込まれていった。


「…-トさん、ユートさん、大丈夫ですか!?」


 手を話した後も、ずっと目を瞑っているユートに、心配になったサナティは声を掛けてきた。


「あ、あぁ、大丈夫。大丈夫だよ。習得したよ」


「あぁ、本当ですか!良かった。失敗したらどうしようかと」


 ステータス紋に触れて、スキル熟練度を確認する。…やっぱり。


精霊術スピリチュアルだけど、熟練度が80まであがったよ」


「ええっ、私とほぼ同じじゃないですかっ!」


 そんなに高くなるはずが…と困惑している。


「それが、スキル習得する際にニケから祝福を授かったみたいだ」


そんな事が…とつぶやくも、なるほど大精霊であるなら有り得ますねと納得したようだ。


「そして、これで本当の目的である派生スキルの精霊支配スピリットルーラーを修得したよ。有難う!」


「いいえ、この程度でお役に立てたのであれば本当に良かったです」


 にこやかに笑い、サナティはそういうのだった。


「夜分に済まなかったな。あと…さっきの事だけど、あの子達には言わないでくれ。まだ、自分達の存在とか受け容れる事が難しいだろうから」


「分かりました。約束いたします。何かまたお手伝い出来そうな事があればいつでも仰ってください。いつでも」


「ありがとう、そう言ってくれて助かるよ。その時は遠慮なくそうしてもらうよ」


 はい!と笑顔で返したあと、ニケの近くまでいき、大精霊ニケ様のご加護がありますように…。

 と祈りを捧げてから、またといって去って行った。


 さて、確かめないといけないことがあるな。


「ニケ、お前と話できるのか?」


 さっき、ニケの声を聞いたと思う。もし、間違いで無ければたが。

 すると…


『主様、やっと私の声を聞くことが出来る様になりましたね』


「おお、これは精霊術スピリチュアルを習得したからか?」


『その通りです。私の声は主様にしか、聞くことは出来ませんが、これからはカルマ殿と同様に私と話をすることが可能に為りました』


「なるほどね。じゃあ、今度色々と教えてくれ。この世界の事ももっと知らないといけないし。お前のことも知っておかないといけない」


『分かりました。今度、ふたりで空を飛びながらでも話を致しましょう』


「ああ、よろしくな!じゃあ、明日の事もあるし戻るな。祝福有難う、感謝してるよ」


『はい、これからも宜しくお願いします』


 部屋に戻ったら、ガントと風呂から上がったとこだった。

 リンとシュウは、明日早いからともう部屋に戻って寝てるらしい。


「おう、戻ったか。ペット達の世話も大変だな」


 やっと帰ったかという顔しつつ、しかし物好きだなぁと言っていた。


「ああ、だが愛情を注げば注ぐほど良い事が起きるから、苦と感じることはないよ」


「俺の道具磨きと一緒だな!」


 なるほどなと、納得したようだ。

 ガントの道具に対する思い入れもかなりのものだったし、通じるものがあるようだ。

 じゃぁ、お休みと言ってガントも去って行った。


 つぎの朝、今日も宿屋で豪勢な朝食を揃ってから食べた。

 本日のおすすめメニューはポーチドエッグだ。

 普通にうまかった。

 そのあと、装備とアイテム類を準備してから全員でギルドに向かった。


「お早う御座います、ユート様。今日はどのようなご用件で?」


 受付カウンターに、ミルバが居たので早速いいクエストがないか確認してもらう。


「おはよう。今日は、稼ぎのいいクエストがないか見に来たんだ。【天使の塔】か、【迷宮ラビリンス】で依頼がないか?」


 それでしたらと、奥から数枚依頼書を取り出した。


「ユートさんのランクと、昨日登録していただいたパーティーの構成から考えると…こちらとこちらですね」


 と依頼書は見せてくれた。


 内容は、


 <討伐依頼>

 場所:【天使の塔】

 依頼対象:Bランク天使プリンシパリティを15体以上(証明のための素材、同部位を15個)

 報酬:金貨2枚 追加報酬:16体以上から1体銀貨1枚

 期限:なし


 <討伐依頼>

 場所:【天使の塔】

 依頼対象:Aランク天使ヴァーチャーを10体以上(証明のための素材、同部位を10個)

 報酬:金貨12枚 追加報酬:11体以上から1体金貨1枚

 期限:なし


 <討伐依頼>

 場所:【迷宮ラビリンス

 依頼対象:Aランク死霊リッチを10体以上(証明のための素材、同部位を10個)

 報酬:金貨12枚 追加報酬:11体以上から1体金貨1枚

 期限:なし

 

 という感じだった。

 天使の塔なら、2種類受けてそのまま籠れるか。


 それならば、今回は天使の塔だな。

 しかも、まだ天使の塔は未攻略ダンジョンらしく、到達階を増やし、生息モンスターの情報を持ち帰ればそれに見合う報酬が出るということだった。


 無理をするつもりがないが、天使相手ならカルマがいる。

 それに光にも耐性を持っているニケならば、かなり優位に戦えるはずだ。


 それに、これらのダンジョンのレアモンスターが戦士および剣士のランクアップ対象だったりするから、都合もいい。

 というか、知っていたので狙ってた。


 だが、LBOと同じとは限らないので一応ギルド職員に確認して、稀に発生することがありますと、

証言を貰っている。


 よし、決まりだ、今回は天使の塔だ。


「ミルバ、【天使の塔】の2枚を受けていく。印証を押してくれ」


「2つともですか!?畏まりました。期限がないとは言え、あんまり遅いとキャンセル扱いになり、後ほどペナルティが課されることもありますので、ご注意くださいね」


 親切に失敗したり、ほっぽり出したりしたときのリスクを教えてくれた。


「ああ、分かったよ。親切にありがとう。うまくいったら、今度飯でも奢るよ」


 え!いいんですか?!とか言いながら、目を輝かせる。

 そんなので喜ぶとは思っていなかったので、正直びっくりした。

 まぁいいか、飯くらいお財布には響かない。

 そんなことを考えている間に承認作業が終わり、クエストが発行された。


「じゃあ、行ってくる。2~3日不在にするかも知れないから、その間に来なくても心配しないでくれ」


「わかりました。他の職員にもそのように伝えておきます。必ずご無事でお帰りくださいね。ご飯楽しみにしています!」


 ああ、わかったよと言って、カウンターを後にした。後ろでどこで奢ってもらおうかなーと楽しそうな声が聞こえた気がした。


 ついでに、壁に貼っているクエストをざっと見たが、こちらは急ぎの案件ばかりなので、今は受けれないし、いいクエストは今は無さそうだった。


「お、出てきたな。どうだ、いいのはあったか?」


 ガントがギルドから出てきた俺を見つけるなり、尋ねてきた。


「ああ、丁度いいのがあった、ここだ。素材も集めるし、しばらくはこのダンジョンに籠るぞ」


 そういうと、依頼書を見せた。


「おー、本格的なとこだな。天使の羽とか結構いい値段つくから、素材採取は俺に任せろ」


「ああ、頼んだぞ。頼りにしてるぞ。シュウとリンも、今回は”白羊”よりも強い相手になる。気を抜くなよ?」


「はい、パパ!」

「うん、分かったよ」


 二人からもいい返事を貰えた。


 そのあと、厩舎に寄った。


「やぁ。いらっしゃい」


 厩舎の娘が、出てきて挨拶した。今回はお仲間さんと一緒なんですねと言いながら、ご用件は?と聞いてくる。


「ゲンブとフィアを連れていく。2~3日くらい出かけてくるからその間ピューイとシロは頼んだな」


「わかりましたー!ちょっと待っててくださいね」


 そういうと、奥のほうに行きしばらくするとゲンブとフィアを連れてきた。


 リンが厩舎の娘をみて、私もああいう風に育つかなと呟いてたが、聞いてないふりをする。

 君の成長は、まだまだ先の話だよと心の中では言ったが。


 厩舎の娘から、ゲンブとフィアを受け取り、すぐに出発した。


 カルマには、フィアを可愛いといって離さなかったので、そのまま抱っこさせながら、リンと乗った。

 ニケには、ガントとシュウを乗せ、ゲンブはいつも通り吊るして移動することにした。


 ここから天使の塔までは、2時間くらいの予定だ。

 距離にして、大体200kmくらいで町からは北東の位置にある。

 途中に、障害物になりそうなものはないので、どこにも立ち寄る予定はない。

 入口まではノンストップで行くので、そのつもりでと皆に伝えから高速移動を開始した。



 ───2時間後、時間きっかりに到着した。


 他のメンバーも高速移動にやっと慣れてきたようで、グロッキーになる輩はいなかったようだ。


 俺も、慣れてきたので途中景色を楽しめて良かった。

 最近、空の旅が出来ていないのでちょっと寂しい気もするが、そのうちいくらでも出来るので今は諦めておく。


「さて、ここがA級ダンジョンの【天使の塔】だ。上級ランクの冒険者の絶好の稼ぎ場にもなっているが、その分、被害が一番出ているものここだ。全員油断しないように」

 全員が、真剣な顔で頷いた。


「今日の隊列だが、訓練ではないから、前衛にカルマとニケと俺。中衛にシュウとリンとゲンブ。後衛にガントとクロとフィアだ。ゲンブは浮いて移動するから、移動速度は心配しなくていい。それに、防御だけなら一番高いから気にしないでいいからな。全員、俺の指示に従うように」


 全員が、了解の返事をして早速中に入る。


 【天使の塔】は、その名前の通りに天使が巣くうダンジョンだ。

 おとぎ話の天使とは違い、その攻撃性はまさにモンスターだ。

 神の使徒というよりは、大きな羽を生やした人型に近い魔物で、Bランクの天使までは知性は低い。

 俺は、一応テイム出来るが、今までスキル上げ以外ではちゃんとペットにしたことはない。

 

 ダンジョンの構造だが、おおよそ30階まであるらしい。

 20階以上は、雲に覆われているので見通すことは出来ないが、昔に飛竜で外周を調べて確認を行ったらしい。

 調べたドラゴンライダーは、襲ってきた上級天使に撃ち落されて、報告終えたあとに息絶えたという話が残っているらしいので、その後に調べるものはいなかった。


 現在、内部の攻略済なのは20階までということだった。

 そこで出るのが、ランクAのヴァーチャーという天使だ。

 今回の依頼対象なので、そこまでは行くつもりである。

 何回か挑戦して、ボスに挑みに行ってみたいが、このメンバーではまだ無理だな。


 入口前で、水分補給とペット達に餌をあげてから早速突入した。


 1階層は、さすがに楽勝レベルだった。

 まだ、天使すら出ない。

 そのまま5階層まではランクC相当しか出ないので、カルマとニケが肉弾戦だけで屠っていった。


「いつみても、すごいですね」


 リンがその戦いっぷりを見て感嘆をもらした。


「本当だな、俺らじゃあそこまで早くは倒せないね。悔しいけど完敗だよ」


 シュウも、苦笑いしながら前衛だけで殲滅されていくモンスターを見てため息をついた。


「おおう、手が空いてるなら、素材をゲンブに詰め込むの手伝ってくれ!」


 一番忙しそうにしているガントがSOSを二人にだして、手伝わせてた。

 ちなみに、フィアとクロは最初から手伝っていた。

 普段寝てる割には意外と働き者だよなと思った。


 なお、3人にはバレないようにだが、索敵と道案内はニケに聞いて進んでいた。


『主様、次は右です。ただし、そっちからエンジェルが3体来るので、こっちから仕掛けます』


「ならば、我も左からエンジェルを倒しておきましょう」


 二人同時にダッシュし始め、相手が気が付く前に、前足で吹き飛ばして倒した。

 

 安全確認を取ってから素材採取するのだが、天使達は他のモンスターとは違い、倒したら肉体のほとんどが灰になる。

 残るのは、羽部分と、コアみたいな魔石が落ちるが肉は落ちないようだ。

 どちらも、低レベルでもお金になるので、しっかりと回収してもらった。


 六層に入り、やっと新しい天使が現れる。

 ランクB天使アークエンジェルだ。普通のエンジェルと違い、連携を取るようになる。

 手に持った槍や大剣で攻撃したかと思うと、次には魔法で支援している。

 

「やっと歯ごたえが出てきたな。カルマ、ニケ気にするな蹴散らしてしまえ」


 そう指示を出すと。


「承知、我にお任せください」


『受け賜りました。私にお任せを』


 と、二人揃って頼もしい返事が返ってきた。

  

 中衛をしているリンとシュウは、ずっと暇そうにしているのだった…。


いつもご覧になって戴きましてありがとうございます。

また、ブックマークをしていただいて、本当に励みになっています。重ねて有難うございます。


今回は、ついにニケが喋りました。

カルマが言ってたのは、この事だったんです。


新しいダンジョンにも来ましたので、なるべく早く次を更新していきます。


次回更新予定は、8/27 24:00迄を予定しています。

次回もよろしくお願いします!

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