生活するのにお金がいるから、冒険します。
サニアの町について、ギルドへの報告も済んだ一行は宿屋に戻っていた。
酒場で盛り上がったあと、部屋に帰ってきてみんな即寝た。
特に、リンとシュウは心身共に限界だったらしく、服を着替えるのも忘れて寝てしまった。
流石に見兼ねて、二人を寝巻に着替えさせて、シーツを掛けてあげた。
ガントは、もちろん放置だ。
寝る部屋が違うので、見なければ気にならない。
俺は、やっぱ風呂入りたいなと浴室に向かった。
シャワーは無かったが、大きな浴槽に綺麗なお湯が貯められていた。
桶を使い、お湯を掬ってからタオルを浸し、それで身体の汚れを落としてから、湯船に浸かった。ちなみに浴槽と桶は木製だ。
この世界に石鹸とかあるのかな?と、素朴な疑問を考えつつ、温まる。
今日までの事を少し振り返る。
この世界”アストラ”に落とされて、ペットはニケ以外脱走し、再度捕まえに行った。
カルマと死闘を繰り広げ、それでも本気では無かったと知った時はショックだったが、主と認めてくれているのは確かだ。
この世界の事を、今の自分の事をカルマから聞いたときは驚いたが、同時に年甲斐もなく、ワクワクした。
ガントから声をかけられ、防具の材料取りに坑道へ向かいキマイラを倒した。おかげで、防具を新調出来て嬉しかった。
情報をもっと集めるためにサニアの町へ向かおうとして、ライとサナティ兄妹に出会った。
精霊魔法も使い勝手良さそうだったな。
まだスキル枠が1枠空いてるから、今度習得してみよう。
リンとシュウの救出依頼を受けて、塔に向う。
救出したついでに地獄の番犬ケルベロスを討伐し、地獄の塔を攻略。
そこから、サニアを再び目指しギルドへ登録完了し、3人にアストラと自分たちに何が起こったか説明し、仲間になって今に至る。
「怒涛の数日間だった。しかし、まだ1週間経ってないのか…」
色々とあり過ぎて、かなり前に来た気がするがまだそんなに経ってない。
ある意味で、充実しているとも言えるか。
ザバーっとお湯を掬い、顔を洗ぐ。
この心地よい温かさ、お湯の感触、気持ちのよさは、どれも本物だ。
ファミリーか…。自分で言っててなんだけど、小っ恥ずかしいな。
だけど、そう言って仲間にしておかないと、あの子達が何処かで命を落とすのは目に見えていた。
これから先、そんな奴らが結構出てくるかも知れないな。
全員を助けるほどお人好しでは無いし慈善家でもない。
しかし、自立出来ないような子達は、大人としてサポートしてあげたいとは思うのだ。
だから…、
「よし!まずは拠点にできるマイホーム購入だな!お金稼ぐぞー!」
ザバーっと、風呂からあがり一人で勝手に決めていた。
翌朝は、宿屋の部屋で朝食をとった。
社会人だった名残か、朝七時くらいには目が覚める。
朝はトースト派だったが、こっちでは焼き立てパンしか出ないし、トースターが無い。
美味しいので、別にいいが家を買ったらガントに作らせよう。
あ!あいつ、大工あったな。
建てるとこからやるか…?
「何悪い顔して考え込んでんだ?…あ、バレたって、顔してんじゃねーよ!」
おいおい!と笑いながらガントが起きてきた。
「おはよ~、パパ、ガントさん」
リンも、ふわわっと小さなあくびをしながら起きてきた。
「ねぇねぇ、着ているのが寝巻になってるけど、パパがしてくれた?」
着ている寝巻を摘んで聞いてきた。
「おはよう、リン。ああそうだよ、あのままじゃ体痛くなりそうだったしな。良く寝れたか?」
そういいながら、ミルクを木のコップに注ぎ、リンに、渡した。
笑顔でうん、有難うっ!といいながら、ソファーにすわってコクコクと飲んだ。
目の前に沢山のフルーツや、パンや、ウインナーやベーコンの焼いたもの、卵焼きなどがあり、目を輝かせていた。
「お腹すいたろう、食べちゃいなー」
「はーい、いただきま~す!」
行儀よく手を合わせてから、リンはパクパクと食べ始めた。
ガントは、既に食べ始めていたが、こちらを、見て一言。
「なんか、本当の父娘みたいだな」
ブフッ!…ガントが余計なことを言うので吹いてしまった。
飲んでたのが水で良かった。
リンは、本当ですかっ!?と嬉しそうだ。
そんなに、父親に似てるのかな…。
「そういや、リンっていくつだ?」
自分の娘よりは幼く見える。
と言うことは小学生か。
「今年で、11歳になりました!」
シュタっと手を上げて、元気に返事をするリン。
「じゃあ、5年生か?今の姿からだとランドセル背負ってるイメージが沸かないなぁ」
「あ、私の学校は私立なので、ランドセルでは無いです。背負ったことないからちょっと憧れますけど」
なるほど私立か。と言う事はどこぞの附属小学生だったわけか。
通りでお行儀がいいわけだ。
「シュウは?…って、あいつまだ寝てるのか。せっかくのパンとスープが冷めちまうな。ガント、シュウを起こしてきてくれ」
「あいよー、おーーーい」
と言いながら、寝室に起こしに行く。
しばらくして、ガントと一緒にシュウが起きてきた。
「ふああぃ、おはよ~」
超寝癖つけて起きてきた。どこの戦闘民族だ。
リンが、隣に座るように促して、ブラシで寝癖を直してあげてる。
リンの方がお姉さんに見えるな。
「あれぇ、俺こんなの着てたかなぁ。まぁいいか。いただきまーす」
まだ、寝惚けたままパンを噛じってる。
「ほら、これも食いな」
といって、卵焼きとウインナーとベーコンを皿に取って渡した。
「結婚してたやつって、そういう事自然に出来るんだな」
と、ガントは素直に関心してた。
今度は動じないぞ。
というか…
「お前はして無かったのか?」
ガントは、う…と言いにくそうにしてから、
「まぁ、する予定だったけどなー。プロポーズをして、フラれたんだよ。ははは」
と、乾いた笑いをして遠い目をしてた。
…うん、そっとしておいてやろう。
ちなみにガントは不細工ではない。
男臭い顔をしているので好みは分かれそうだが、渋めのスポーツマン顔だ。
こっちの世界ならモテるんじゃないか?言わないけど。
「そうだ、シュウは今いくつだ?リンと一緒か?」
もぐもぐと、食べながら、ん?とこっちを見てから答えた。
「俺は、リンの1個上。十二歳の六年生だよ」
「同じ学校なのか?」
首を横に振る。
「俺は、普通の学校。リンの家みたいにお金持ちじゃないし」
「私のうち、普通だよぅ!」
「いやいや、うちなんて海外旅行とか行ったことないよ?それも、年に2回とかさ」
リンは、別にたまたまだよー!と言うが、ここはシュウの方が正しそうだ。
「で、二人はどこで知り合ったんだ?」
「もちろん、LBOだよ。たまたまイベントで一緒にパーティ組んだんだ。その時に仲良くなって一緒にスキルあげとかしてたんだ」
なるほど、シュウは言動は荒いがコミュ力はありそうだもんなぁ。
あ、ライ達にに話し掛けたのもシュウか。
「なるほど、それからずっと一緒にいたわけか」
そうそうと、首を縦にふりつつ、
「そうだよ。リンと冒険すると楽しいからね。いつも一緒」
「うん、私もシュウと冒険すると色んなとこに行けて楽しいよ!」
リンも、フルーツを頬張りながら笑顔で同意してる。
二人共、育ち盛りだからか華奢な割に結構食べるな。
「そうかそうか、そんじゃ、食べ終わったら軽い運動がてら、冒険するか」
「おー、おっちゃんいいね!いこういこう!」
「こら、おっちゃん言うな!」
俺のことは、ユートさん呼ぶんだぞと念を押すが、分かったよユートおじさん、と言う始末だった。
「それと、今週はここに泊まるけど、ずっとここと言うわけにいかないからさ、一旦どこかに家を借りようと思ってるんだ。だから、毎日ある程度稼いでくるからな」
はーい!と、子供たちはいい返事をする。
丁度、みんな食べ終わったみたい。
「あ、じゃあ、着替える前に私お風呂〜!」
リンはそう言うと、我先にと風呂に向かっていった。
さすが女の子だね。
「じゃ、俺もそのあと入るー」
シュウも、昨日入れなかったので入りたいようだ。
「ガントはどうする?」
「ああ、俺は寝る前に体を拭いてから寝たからな。帰ってきてからゆっくり入らせて貰うよ」
「了解だ。じゃ、今のうちに厩舎へ行ってくる。俺のペット達が転送されて来てるはずだから、確認してくる」
じゃあ、武器の整備とかしておくぞとガントが言ってくれたので、預けてから出掛けた。
町の南側には、川が流れていて、小さな畑とか水車とかがある。その一画には大きな厩舎があった。
「ここかな。すみませーん。誰か居ますかー?」
そう、大声で呼び掛けると中から人が出て来た。
タンクトップ一枚に、下はだぼっとしたワークパンツを履いた女性が出て来た。
よく日に焼け露出した肌と、強調されている胸が中々に凶悪だ。
「はいはーい。何か用ですかー?」
美人と言うわけではないが、快活そうで人懐っこい顔がこちらを覗き込んだ。
このくらいの方が案外モテたりする。
「パドの村でこっちにペットの転送を頼んだユートと言うんだが、届いてるかい?」
はいはい、ちょっと待って下さいねー。と言って奥に何かを取りに行った。
戻ってくると、手に水晶玉が台座に乗っている物を持ってきた。
ペット転送クリスタルだ。
「じゃ、本人確認とるので、これに手を当ててー」
言われるままに、クリスタルの上に手を置いた。
すると、中に青い光が灯る。
「はい、確認おっけーです。このまま、ここの厩舎に預けます?」
「ああ、しばらく町に滞在するから、頼むよ。時々、連れ出したりするから、これを付けておいてくれ」
そう言うと、ギルドで発行されたペット用のプレートを渡した。
「分かりました〜!料金は前払いで1週間毎にお支払いです。返金は有りませんので宜しくでーす」
前金で、1頭銀貨一枚と言われ4頭分を2週間だと言って金貨一枚渡す。釣りはチップだよと言うのも忘れない。
これで、良く面倒を見てくれるだろう。
「わあ、有難うございまーす!あ!パドにいる叔父さんがよく言ってたお得意様って、ユートさんだね。こちらでもご贔屓に〜!」
あぁ、こちらこそな。と言って別れた。
しかし、あの厩舎の主人の姪っこか、世間は狭いんだな。
「ただいま〜、みんな準備できたか?」
帰ってみると、みんな装備をしているとこだった。
「あぁ、武器はバッチリだ。嬢ちゃんとシュウも装備すれば出れるぞ。ユートも早く鎧を着て来な」
ガントは、武器を渡しつつそう言った。
ガント製のキマイラの鎧を着用し、双剣とボーガン、矢筒を装備してから、皆を集める。
「今回だが、行くのは一番近くのダンジョンの白羊の洞窟だ。ここから、ニケとカルマで1時間も掛からない距離にある」
そう言うと、地図を広げて町の北東を指した。
「ここは、比較的大人しめな魔獣が多く生息していて、楽に攻略出来ると思う。そこでだ、リンとシュウのスキル熟練度上げのため、二人に基本戦って貰う。いいかい?」
そう言って、二人に目線を合わせた。
「はい!」「分かった!」
二人ともいい返事だ。
「俺とガントは、後ろに控えているし、危なくなったらサポートするから安心しな。但し、無茶は絶対するなよ?昨日説明した通り、死んだら終わりだ。何より、怪我は痛いぞ〜?」
そう、脅しながら先走りも厳禁と念を押した。
二人とも昨日の気を失うほどの激痛を思い出し、ウンウンと首を縦に振った。
町の門に向かい、衛兵にプレート見せてから外に出た。
ご武運を!とか真面目な顔で言われてびっくりした。
「よーし、ガントとシュウはニケに乗ってくれ。俺とリンはカルマに乗っていく。かなり速度あげるからあんまり顔を上げるなよ?」
「了解!」「「はーい」」
いい返事を貰えたとこで、カルマ出発を促した。
「承知した。ニケよ我と勝負だ!」
クアアアアアッ!
二匹は、超高速で移動を開始した。
───40分後、4人は目的地前に到着した。
時速100km以上で走った結果、予想よりも早く着いたが、全員ちょっとグロッキーだった。
「お、お前ら、手加減という言葉をしらないのか…?」
ニケとカルマに対し、爆走しすぎと言うと。
「主よ、これでも半分くらいですよ」
は?お前等はポ●シェか何か?
気を取り直して、白羊の洞窟へ。
但し、カルマとニケはここでお留守番だ。
例のごとく腕章と、今回はギルドから貰ったペット用のプレートも付ける。
流石にSランクのプレート付けてて、いちゃもんつける奴はいないと思うが、襲って来るやつがいたら、反撃していいと伝えた。
また、ぼーっとさせるのも勿体無いので、どうせならと2匹に戦闘訓練させる事にした。
魔法無し、スキル無しでやる事!殺さない事!洞窟を壊さない事!と付け加えて。
「じゃ、行ってくるな。ふたりもここで頑張れよ!」
「承知」「クアッ!」
返事したのを確認し、中に入った。
「じゃ、リンとシュウ。武器をとってから前に出て。訓練だからな、指示通りにやれよ?」
「「はいっ!」」
お、いい気合いの入り方だな。
この洞窟は地下へ向かって階層が出来ていて、最初の洞窟入口から細い道が続き、その先に数カ所のフロアが有るらしい。
一番奥には下っていく坂があり、そこを降りると次のフロアとなる。
そこから先は、蟻の巣のような構造になっている。
一応、最深部まで攻略が終わっているらしいので、真下に降りる部屋とかは丈夫なロープなり、梯子なりが有るらしい。
「さて、行くぞ!」
早速、ダンジョンに入っていく。
最初のフロアは、魔獣は少ない。
出てきたのは、ランクD魔獣のジャイアントスネークだけだ。
シャアァァッと、飛び付いてきたがシュウが大剣で、でやぁっ!っと薙ぎ払い体を真っ二つにし、リンも負けじとていっ、やあっ!と細いロングソードでバラバラにしていった。
「まだまだ序盤だからな、この位は楽勝だな」
そう言いつつ、先に進ませる。
道中の材料集めは、非戦闘員のガントに任せる。
何の問題もなく2階層目に到達。
ここから4層までは、D〜Cランクの魔獣が出るが、相手として低すぎるのでサクサクと進ませる。
さすがに、Bランクだけあって苦労せずにほとんどが一撃ないし、1ターンで倒す。
二人を見ながら分析してたが、シュウは一撃必殺が真髄のパワーファイターだと分かった。大剣だからそうとは思っていたが、子供の体から発せられるとは思えない力で一刀両断していく。
リンは、高速で剣を繰り出しかつ、命中重視に舞い踊る様に戦う、正確無比のスピード型剣士。攻撃も受け流すことも無く全て回避している。
二人とも、自己スタイルがしっかりハマってて、強いと勘違いしていたのも分かる気がする。
たが、お互いに相手と連携した動きは見せていない所をみると、そこに穴が有りそうである。
順調に進む事1時間。今現在は5層にちょうど到達したところで、休憩にした。
持ってきておいた水筒を皆に渡す。
「なかなか、順調そうだなぁ。おかげで材料がたんまりだぜ」
ワハハと言いながら、バックパックを指差す。
「ガントが全部持ってくれるから、俺も集中出来て助かるよ」
まだ、補助魔法すら使ってないが、たまに指示出したり、指摘したりしていたので、神経は使っている。
俺は、ふうっと一息ついてから、ここからが本番だと二人に伝えた。
ここからは、C〜Bランクの魔獣が出る。
つまりは、二人の同格ということだ。
場合によっては、危険を伴うので気を引き締めないとな。
「よしっ、きたぞ。シュウは、前面に立って薙ぎ払いでけん制!リンは、体制崩した魔物の隙きを狙え!」
相手は、ランクCのケイブリザード数匹だ。
すばしっこく、何処にでも張り付ける厄介な奴だ。
「うおりゃあー!」
ぶんっと大剣一閃、当たったケイブリザードが真っ二つになる。
仲間がやられて、後方に構えてた数匹を見つけて、リンが踏み込む。
「たぁっ!えい、やーーっ!」
下段から斜めに切り上げて、反動を使って半回転しつつ横薙ぎ、そこからの袈裟懸けに斬り込む。
なかなかの胆力と技量だ。
攻撃開始から剣が紅く光っていたので、あれは剣技スキルだな。
俺は通常攻撃を底上げするのと、派生スキルのために戦闘術を取っているが、戦闘職の場合には更に武技とか、空間支配や、空中戦闘術とか、物理戦特化スキルを覚えていく。
Bランクなら、9つスキル習得出来るので、戦闘の幅がかなり広いはず。
「とどめー!!」
ズバーーッと、シュウが気合い一閃、残ってた2匹を両断した。
「こんなもんかなー。…っと、邪魔だよっと」
二人の戦闘を指示しながら見守ってたが、上からトカゲが飛んできたので双剣の片方で首を落としておいた。
戦闘を終えた二人は、そんな蚊を払うかの仕草で倒したユートを見て一言。
「「Sランクってズルい」」
そのまま順調に進み、6階層に辿り着いた。
運がいいのか悪いのかまだBランクに会わないな。
と、思った矢先だった。
前方に魔物が落ちてきた。
あそこに、縦穴でもあるんかな。
現れたのは、Bランク魔獣のアルケニー。半人半蜘蛛型の魔獣だ。
強さはそこそこだが、見た目がなー。
凶悪犯みたいな顔の女性の上半身裸で、下半身が蜘蛛という魔物で、その鳴き声も悍ましい。
今もキシャーーっとか言ってる。
それが、ボトボトと数匹落ちてきた。
シュウとリンを見たら、初めて遭遇したのか、顔が引き攣っていた。
「シュウは前衛、リンが後衛だ。全体を見ないと糸にやられるぞ」
分かった!といいつつ、視界が通る位置に立ち相手取る。
「スキル武技、〈連武〉、〈天恵〉、〈剛力〉!!」
シュウが武技スキルを3つ同時に発動した。
効果は、
〈連武〉:発動すると流れるように連続で技を発動出来る。
〈天恵〉:意識を高め、相手の行動を先読みする。
〈剛力〉:力を大幅に上げる。上昇率は、スキル熟練度に依存する。
という感じだ。
「はあっ!とりゃあぁっ!!でりゃあっ!!」
シュウは、アルケニー目掛けて、中段に一閃、下段二連撃、上段から縦に回転しての一撃を繰り出した。
ギギギーッ!!と呻きながら一体が倒れた。
すかさず、後ろからリンが飛び出して、技を繰出す。
空中でくるくるコマのように3回転しての3連攻撃を横にいたアルケニーに命中させた!さらに、下段から斜めに一気に斬り上げて、そのアルケニーを絶命させる。
「うん、なかなかいいじゃないか!」
やはり、センスはいいんだよなー。
下手に個人戦が上手い分、連携必要無かっただけだな。慣れさせたらもっと上のランクも行けるな。
「これでっー!」
「終わっり!」
最後の一匹を左右から二人同時に攻撃して見事に仕留めた。
「お疲れ様!二人とも、大分連携が様になってきている。数をこなして物にしていこう」
「「はいっ!」」
うん、いい返事だ。シュウも大分素直に聞いてくれてるな。
アルケニーが落ちてきた穴を見てみると、丁度上に巣があるようだった。
まだ、生まれていないアルケニーの繭が丁度10個ほどみえた。
「スキル神秘発動!火炎、爆発属性付与」
スキルにより、ボーガンの、矢に火炎と爆発の属性を付与して、繭に撃ちんだ。
「恨みは無いが、露払いさせてもらう!!」
バシュッバシュッバシュッと撃ち出した矢は、着弾と共に大爆炎を巻き起こした。
となりで、落ちてきた繭に当たったらしいガントが、うわっちぃ!とか奇声を発していたが、気のせいだろう。
「これで一安心だな。後ろから奇襲とか勘弁だからな」
「よーしゃねーなぁ」
ガントが火の粉を振り落として、そんな事をいうが、
「馬鹿を言うな、油断したら俺等だって簡単に死ぬんだからな?」
そんなバカな…!みたいな目で見るが、そうなってからでは遅い。
シュウとリンにも、変な情けは絶対かけるなよ?ここは、ダンジョンだと、念を押した。
二人は真剣な顔でコクコクと頷くのだった。
その先の部屋には魔物は居なかったが、下への道があった。
そこで、もう一度水分補給して気持ちを整えてから、下へ降りていった。
7階層。ここはダンジョンの名前の由来である、白羊が生息する場所だ。
大体、最初にソレを見るとうわぁ…って気持ちになるが、俺以外の3人も例外じゃなかった。
そいつは、真っ白なフカフカの綿みたいな毛で覆われていて、顔はまんま羊だ。
だが、二本の脚で立ち、盛り上がった胸筋と腹筋、地面まで伸びた丸太の様な腕をもった怪物だった。
「パパ…あれって魔獣ですか?!」
「ああ、悪魔とか言われたほうが納得だが、歴っとした獣だよ…」
リンの顔は引き攣っていた。
「うわぁ、なんか戦いたく無いなぁ」
と、流石のシュウもドン引きだった。
「あれが白羊か、確かに羊だけどよぉ。でもあれの、素材って高価なんだよなぁ。解体やんの俺なんだよな…」
そんな事を言っている間に、白羊達はこちらに気がついた。
何故か、各々ポーズを取り出し筋肉アピールしてきた!!
ユート達は、特大のダメージを受けた!!(精神的に)
「…。スキル〈連続魔法〉、シャドウジャベリン、ライトニング!アークライトバーストぉぉぉぉっ!!!」
プチッときて、辺りを魔法で爆撃していく!
いきなりの魔法に、白羊達はワタワタと逃げ惑う!
「死に晒せ〜!『ピー』野郎どもがあぁぁ!」
おま、おおおい!落ち着けエエエ!と、ガントに羽交い締めされて止められた。
離せっ!抹殺、いやこの世から存在を消してやるうぅ!!と、あまりにムカついて暴走してしまった。
「パ、…パパ?」
リンが呆然とこちらを見てる。
「おじさ…ユートさん落ち着いて!!」
はっ!しまった!
シュウにまで止められて、やっと我に返った。
…こ、こほん。
さて、訓練始めようか!と無理やりな笑顔で二人を送り出した。
最初の爆撃で、半分くらい誅殺したので、結果的にちょうどいい数になった。
まぁ、これくらいなら大丈夫だろう。
「気をつけろよ。あいつら見た目通り力だけはあるからな?スピードも遅くはないから、一対一にはならないように戦うんだ!」
「「はいっ!」」
空気にシリアスを取り戻し、二人は言われたとおりに戦う。
さっきよりも、連携の精度が上がっている。目覚しい成長だ。
「スキル武技、〈連武〉、〈天恵〉、〈剛力〉!」
シュウがスキルを使うと、
「スキル武技、〈連武〉〈天恵〉、〈瞬足〉!!」
〈瞬足〉:移動力が極大に上がり、瞬時に移動が可能。スキル熟練度で移動可能距離が上昇。
と、リンもタイミングを合わせて発動する。
二人の剣閃が縦横無尽に飛び交った。
フロアに、10数匹残っていた白羊は、あっという間に細切れにされていった。
「いやぁ、最初はどうなるかと思ったが、結果は大成功だな。既に解体されてるから、回収が楽だぜ…」
そう言いながら、素材をテキパキと剥いでいった。
肉も、食肉らしく、内蔵以外は全部回収してた。
「バックパックもストレージも一杯だし、今日はここまでだな。よし、お疲れ様!帰りも油断するなよ?来るときより少ないが、出てくるからな」
はーい!と、二人が返事をして、ガントは、任せたなと言って荷物を背負い直した。
帰りは、サクサクと進んだ。
来る時に殲滅してきていたのもあるが、荷物がいっぱいなので、なるべく戦闘を避けて戻ってきたのが大きいが。
入り口まで戻ってきたのが、丁度夕日が出る頃だった。
夕日をバックに、白と黒がクロスする!
ドガッ、バキッ、シュバババッ、ドゴーンと絶え間なく轟音が響き渡る。
ええと、一体何事だ!?
良くみると、地面には大きな蹄の形をしたクレーターや、猫の手の形をしたクレーターや、鋭い何かで大きく切り刻まれた跡やら、凄まじい戦闘の跡があった。
「ストップ!ストーーっプ!!!」
ユートがそう言うと黒い影と白い風がピタッととまり、ユートの前に来て着地した。
ニケと、カルマである。
「一体どうやったら、こうなる!?」
「はい、主の命により、今の今まで戦闘訓練をしていたのです」
訓練ってレベルじゃないよねこれ?殺す気でやってるだろっ!
「もちろん、本気でやってましたよ。ただし、お互いに約束を守り、魔法もスキルも使っておりませんが」
え、まじで?!じゃあ、このクレーターはなんだ?明らかに大きさがあってないぞ?と、聞くと…
「これは、闘気です。純粋な魔力をぶつけ合って生まれた結果ですよ…フフフ」
フフフじゃないから!
ニケも胸を張ってクアッ!じゃない!
しかし、魔法でもスキルでもない魔力攻撃か。
相変わらず、規格外なやつらだ。
しかし、何かで使えるかもと思いつつも、地形を変える規模で戦ってた2匹をキッチリ30分お説教しておくのだった。
いつもご覧になって戴きましてありがとうございます。
また、ブックマークをしていただいて、本当に励みになっています。重ねて有難うございます。
今回は、リンとシュウがダンジョンで成長する話でした。
これからは、もっと活躍してくれると信じています。
次も、新しいとこにいきます!
次回更新は、8/25 24:00までにしたいと思います。




