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生活するのにお金がいるから、冒険します。

サニアの町について、ギルドへの報告も済んだ一行は宿屋に戻っていた。

 酒場で盛り上がったあと、部屋に帰ってきてみんな即寝た。


 特に、リンとシュウは心身共に限界だったらしく、服を着替えるのも忘れて寝てしまった。

 流石に見兼ねて、二人を寝巻に着替えさせて、シーツを掛けてあげた。

 ガントは、もちろん放置だ。

 寝る部屋が違うので、見なければ気にならない。


 俺は、やっぱ風呂入りたいなと浴室に向かった。

 シャワーは無かったが、大きな浴槽に綺麗なお湯が貯められていた。

 桶を使い、お湯を掬ってからタオルを浸し、それで身体の汚れを落としてから、湯船に浸かった。ちなみに浴槽と桶は木製だ。

 この世界に石鹸とかあるのかな?と、素朴な疑問を考えつつ、温まる。


 今日までの事を少し振り返る。


 この世界”アストラ”に落とされて、ペットはニケ以外脱走し、再度捕まえに行った。

 カルマと死闘を繰り広げ、それでも本気では無かったと知った時はショックだったが、主と認めてくれているのは確かだ。

 この世界の事を、今の自分の事をカルマから聞いたときは驚いたが、同時に年甲斐もなく、ワクワクした。


 ガントから声をかけられ、防具の材料取りに坑道へ向かいキマイラを倒した。おかげで、防具を新調出来て嬉しかった。

 情報をもっと集めるためにサニアの町へ向かおうとして、ライとサナティ兄妹に出会った。

 精霊魔法も使い勝手良さそうだったな。

 まだスキル枠が1枠空いてるから、今度習得してみよう。


 リンとシュウの救出依頼を受けて、塔に向う。

 救出したついでに地獄の番犬ケルベロスを討伐し、地獄の塔を攻略。

 そこから、サニアを再び目指しギルドへ登録完了し、3人にアストラと自分たちに何が起こったか説明し、仲間になって今に至る。


「怒涛の数日間だった。しかし、まだ1週間経ってないのか…」


 色々とあり過ぎて、かなり前に来た気がするがまだそんなに経ってない。

 ある意味で、充実しているとも言えるか。


 ザバーっとお湯を掬い、顔を洗ぐ。

 この心地よい温かさ、お湯の感触、気持ちのよさは、どれも本物だ。

 

 ファミリーか…。自分で言っててなんだけど、小っ恥ずかしいな。


 だけど、そう言って仲間にしておかないと、あの子達が何処かで命を落とすのは目に見えていた。


 これから先、そんな奴らが結構出てくるかも知れないな。

 全員を助けるほどお人好しでは無いし慈善家でもない。

 しかし、自立出来ないような子達は、大人としてサポートしてあげたいとは思うのだ。

 だから…、


「よし!まずは拠点にできるマイホーム購入だな!お金稼ぐぞー!」


 ザバーっと、風呂からあがり一人で勝手に決めていた。


 翌朝は、宿屋の部屋で朝食をとった。

 社会人だった名残か、朝七時くらいには目が覚める。

 

 朝はトースト派だったが、こっちでは焼き立てパンしか出ないし、トースターが無い。

 美味しいので、別にいいが家を買ったらガントに作らせよう。

 あ!あいつ、大工あったな。

 建てるとこからやるか…?


「何悪い顔して考え込んでんだ?…あ、バレたって、顔してんじゃねーよ!」


 おいおい!と笑いながらガントが起きてきた。


「おはよ~、パパ、ガントさん」

 リンも、ふわわっと小さなあくびをしながら起きてきた。


「ねぇねぇ、着ているのが寝巻になってるけど、パパがしてくれた?」

 着ている寝巻を摘んで聞いてきた。


「おはよう、リン。ああそうだよ、あのままじゃ体痛くなりそうだったしな。良く寝れたか?」


 そういいながら、ミルクを木のコップに注ぎ、リンに、渡した。


 笑顔でうん、有難うっ!といいながら、ソファーにすわってコクコクと飲んだ。

 目の前に沢山のフルーツや、パンや、ウインナーやベーコンの焼いたもの、卵焼きなどがあり、目を輝かせていた。


「お腹すいたろう、食べちゃいなー」


「はーい、いただきま~す!」


 行儀よく手を合わせてから、リンはパクパクと食べ始めた。

 ガントは、既に食べ始めていたが、こちらを、見て一言。


「なんか、本当の父娘(おやこ)みたいだな」


 ブフッ!…ガントが余計なことを言うので吹いてしまった。

 飲んでたのが水で良かった。


 リンは、本当ですかっ!?と嬉しそうだ。

 そんなに、父親に似てるのかな…。


「そういや、リンっていくつだ?」


 自分の娘よりは幼く見える。

 と言うことは小学生か。


「今年で、11歳になりました!」


 シュタっと手を上げて、元気に返事をするリン。


「じゃあ、5年生か?今の姿からだとランドセル背負ってるイメージが沸かないなぁ」


「あ、私の学校は私立なので、ランドセルでは無いです。背負ったことないからちょっと憧れますけど」


 なるほど私立か。と言う事はどこぞの附属小学生だったわけか。

 通りでお行儀がいいわけだ。


「シュウは?…って、あいつまだ寝てるのか。せっかくのパンとスープが冷めちまうな。ガント、シュウを起こしてきてくれ」


「あいよー、おーーーい」


 と言いながら、寝室に起こしに行く。


 しばらくして、ガントと一緒にシュウが起きてきた。


「ふああぃ、おはよ~」


 超寝癖つけて起きてきた。どこの戦闘民族だ。


 リンが、隣に座るように促して、ブラシで寝癖を直してあげてる。

 リンの方がお姉さんに見えるな。


「あれぇ、俺こんなの着てたかなぁ。まぁいいか。いただきまーす」


 まだ、寝惚けたままパンを噛じってる。


「ほら、これも食いな」


 といって、卵焼きとウインナーとベーコンを皿に取って渡した。


「結婚してたやつって、そういう事自然に出来るんだな」


 と、ガントは素直に関心してた。

 今度は動じないぞ。

 というか…


「お前はして無かったのか?」


 ガントは、う…と言いにくそうにしてから、


「まぁ、する予定だったけどなー。プロポーズをして、フラれたんだよ。ははは」


 と、乾いた笑いをして遠い目をしてた。

 …うん、そっとしておいてやろう。


 ちなみにガントは不細工ではない。

 男臭い顔をしているので好みは分かれそうだが、渋めのスポーツマン顔だ。

 こっちの世界ならモテるんじゃないか?言わないけど。


「そうだ、シュウは今いくつだ?リンと一緒か?」


 もぐもぐと、食べながら、ん?とこっちを見てから答えた。


「俺は、リンの1個上。十二歳の六年生だよ」


「同じ学校なのか?」


 首を横に振る。


「俺は、普通の学校。リンの家みたいにお金持ちじゃないし」


「私のうち、普通だよぅ!」


「いやいや、うちなんて海外旅行とか行ったことないよ?それも、年に2回とかさ」


 リンは、別にたまたまだよー!と言うが、ここはシュウの方が正しそうだ。


「で、二人はどこで知り合ったんだ?」


「もちろん、LBOだよ。たまたまイベントで一緒にパーティ組んだんだ。その時に仲良くなって一緒にスキルあげとかしてたんだ」


 なるほど、シュウは言動は荒いがコミュ力はありそうだもんなぁ。

 あ、ライ達にに話し掛けたのもシュウか。


「なるほど、それからずっと一緒にいたわけか」


 そうそうと、首を縦にふりつつ、


「そうだよ。リンと冒険すると楽しいからね。いつも一緒」


「うん、私もシュウと冒険すると色んなとこに行けて楽しいよ!」


 リンも、フルーツを頬張りながら笑顔で同意してる。

 二人共、育ち盛りだからか華奢な割に結構食べるな。


「そうかそうか、そんじゃ、食べ終わったら軽い運動がてら、冒険するか」


「おー、おっちゃんいいね!いこういこう!」


「こら、おっちゃん言うな!」


 俺のことは、ユートさん呼ぶんだぞと念を押すが、分かったよユートおじさん、と言う始末だった。


「それと、今週はここに泊まるけど、ずっとここと言うわけにいかないからさ、一旦どこかに家を借りようと思ってるんだ。だから、毎日ある程度稼いでくるからな」


 はーい!と、子供たちはいい返事をする。


 丁度、みんな食べ終わったみたい。


「あ、じゃあ、着替える前に私お風呂〜!」


 リンはそう言うと、我先にと風呂に向かっていった。

 さすが女の子だね。


「じゃ、俺もそのあと入るー」


 シュウも、昨日入れなかったので入りたいようだ。


「ガントはどうする?」


「ああ、俺は寝る前に体を拭いてから寝たからな。帰ってきてからゆっくり入らせて貰うよ」


「了解だ。じゃ、今のうちに厩舎へ行ってくる。俺のペット達が転送されて来てるはずだから、確認してくる」


 じゃあ、武器の整備とかしておくぞとガントが言ってくれたので、預けてから出掛けた。


 町の南側には、川が流れていて、小さな畑とか水車とかがある。その一画には大きな厩舎があった。


「ここかな。すみませーん。誰か居ますかー?」


 そう、大声で呼び掛けると中から人が出て来た。

 タンクトップ一枚に、下はだぼっとしたワークパンツを履いた女性が出て来た。

 よく日に焼け露出した肌と、強調されている胸が中々に凶悪だ。


「はいはーい。何か用ですかー?」


 美人と言うわけではないが、快活そうで人懐っこい顔がこちらを覗き込んだ。

 このくらいの方が案外モテたりする。


「パドの村でこっちにペットの転送を頼んだユートと言うんだが、届いてるかい?」


 はいはい、ちょっと待って下さいねー。と言って奥に何かを取りに行った。


 戻ってくると、手に水晶玉が台座に乗っている物を持ってきた。

 ペット転送クリスタルだ。


「じゃ、本人確認とるので、これに手を当ててー」


 言われるままに、クリスタルの上に手を置いた。

 すると、中に青い光が灯る。


「はい、確認おっけーです。このまま、ここの厩舎に預けます?」


「ああ、しばらく町に滞在するから、頼むよ。時々、連れ出したりするから、これを付けておいてくれ」


 そう言うと、ギルドで発行されたペット用のプレートを渡した。


「分かりました〜!料金は前払いで1週間毎にお支払いです。返金は有りませんので宜しくでーす」


 前金で、1頭銀貨一枚と言われ4頭分を2週間だと言って金貨一枚渡す。釣りはチップだよと言うのも忘れない。

 これで、良く面倒を見てくれるだろう。


「わあ、有難うございまーす!あ!パドにいる叔父さんがよく言ってたお得意様って、ユートさんだね。こちらでもご贔屓に〜!」


 あぁ、こちらこそな。と言って別れた。

 しかし、あの厩舎の主人の姪っこか、世間は狭いんだな。


「ただいま〜、みんな準備できたか?」


 帰ってみると、みんな装備をしているとこだった。


「あぁ、武器はバッチリだ。嬢ちゃんとシュウも装備すれば出れるぞ。ユートも早く鎧を着て来な」


 ガントは、武器を渡しつつそう言った。

 ガント製のキマイラの鎧を着用し、双剣とボーガン、矢筒を装備してから、皆を集める。


「今回だが、行くのは一番近くのダンジョンの白羊はくようの洞窟だ。ここから、ニケとカルマで1時間も掛からない距離にある」


 そう言うと、地図を広げて町の北東を指した。


「ここは、比較的大人しめな魔獣が多く生息していて、楽に攻略出来ると思う。そこでだ、リンとシュウのスキル熟練度上げのため、二人に基本戦って貰う。いいかい?」


 そう言って、二人に目線を合わせた。


「はい!」「分かった!」


 二人ともいい返事だ。


「俺とガントは、後ろに控えているし、危なくなったらサポートするから安心しな。但し、無茶は絶対するなよ?昨日説明した通り、死んだら終わりだ。何より、怪我は痛いぞ〜?」


 そう、脅しながら先走りも厳禁と念を押した。

 二人とも昨日の気を失うほどの激痛を思い出し、ウンウンと首を縦に振った。


 町の門に向かい、衛兵にプレート見せてから外に出た。

 ご武運を!とか真面目な顔で言われてびっくりした。


「よーし、ガントとシュウはニケに乗ってくれ。俺とリンはカルマに乗っていく。かなり速度あげるからあんまり顔を上げるなよ?」


「了解!」「「はーい」」


 いい返事を貰えたとこで、カルマ出発を促した。


「承知した。ニケよ我と勝負だ!」


 クアアアアアッ!

 二匹は、超高速で移動を開始した。



 ───40分後、4人は目的地前に到着した。


 時速100km以上で走った結果、予想よりも早く着いたが、全員ちょっとグロッキーだった。


「お、お前ら、手加減という言葉をしらないのか…?」


 ニケとカルマに対し、爆走しすぎと言うと。


「主よ、これでも半分くらいですよ」


 は?お前等はポ●シェか何か?


 気を取り直して、白羊の洞窟へ。

 但し、カルマとニケはここでお留守番だ。


 例のごとく腕章と、今回はギルドから貰ったペット用のプレートも付ける。

 流石にSランクのプレート付けてて、いちゃもんつける奴はいないと思うが、襲って来るやつがいたら、反撃していいと伝えた。


 また、ぼーっとさせるのも勿体無いので、どうせならと2匹に戦闘訓練させる事にした。

 魔法無し、スキル無しでやる事!殺さない事!洞窟を壊さない事!と付け加えて。


「じゃ、行ってくるな。ふたりもここで頑張れよ!」


「承知」「クアッ!」


 返事したのを確認し、中に入った。


「じゃ、リンとシュウ。武器をとってから前に出て。訓練だからな、指示通りにやれよ?」


「「はいっ!」」


 お、いい気合いの入り方だな。


 この洞窟は地下へ向かって階層が出来ていて、最初の洞窟入口から細い道が続き、その先に数カ所のフロアが有るらしい。

 一番奥には下っていく坂があり、そこを降りると次のフロアとなる。

 そこから先は、蟻の巣のような構造になっている。

 一応、最深部まで攻略が終わっているらしいので、真下に降りる部屋とかは丈夫なロープなり、梯子なりが有るらしい。


「さて、行くぞ!」


 早速、ダンジョンに入っていく。

 最初のフロアは、魔獣は少ない。

 出てきたのは、ランクD魔獣のジャイアントスネークだけだ。


 シャアァァッと、飛び付いてきたがシュウが大剣で、でやぁっ!っと薙ぎ払い体を真っ二つにし、リンも負けじとていっ、やあっ!と細いロングソードでバラバラにしていった。


「まだまだ序盤だからな、この位は楽勝だな」


 そう言いつつ、先に進ませる。


 道中の材料集めは、非戦闘員のガントに任せる。


 何の問題もなく2階層目に到達。

 ここから4層までは、D〜Cランクの魔獣が出るが、相手として低すぎるのでサクサクと進ませる。

 さすがに、Bランクだけあって苦労せずにほとんどが一撃ないし、1ターンで倒す。

 二人を見ながら分析してたが、シュウは一撃必殺が真髄のパワーファイターだと分かった。大剣だからそうとは思っていたが、子供の体から発せられるとは思えない力で一刀両断していく。


 リンは、高速で剣を繰り出しかつ、命中重視に舞い踊る様に戦う、正確無比のスピード型剣士。攻撃も受け流すことも無く全て回避している。


 二人とも、自己スタイルがしっかりハマってて、強いと勘違いしていたのも分かる気がする。

 たが、お互いに相手と連携した動きは見せていない所をみると、そこに穴が有りそうである。


 順調に進む事1時間。今現在は5層にちょうど到達したところで、休憩にした。

 持ってきておいた水筒を皆に渡す。


「なかなか、順調そうだなぁ。おかげで材料がたんまりだぜ」


 ワハハと言いながら、バックパックを指差す。


「ガントが全部持ってくれるから、俺も集中出来て助かるよ」


 まだ、補助魔法すら使ってないが、たまに指示出したり、指摘したりしていたので、神経は使っている。


 俺は、ふうっと一息ついてから、ここからが本番だと二人に伝えた。

 ここからは、C〜Bランクの魔獣が出る。

 つまりは、二人の同格ということだ。

 場合によっては、危険を伴うので気を引き締めないとな。


「よしっ、きたぞ。シュウは、前面に立って薙ぎ払いでけん制!リンは、体制崩した魔物の隙きを狙え!」


 相手は、ランクCのケイブリザード数匹だ。

 すばしっこく、何処にでも張り付ける厄介な奴だ。


「うおりゃあー!」


 ぶんっと大剣一閃、当たったケイブリザードが真っ二つになる。

 仲間がやられて、後方に構えてた数匹を見つけて、リンが踏み込む。


「たぁっ!えい、やーーっ!」


 下段から斜めに切り上げて、反動を使って半回転しつつ横薙ぎ、そこからの袈裟懸けに斬り込む。


 なかなかの胆力と技量だ。

 攻撃開始から剣が紅く光っていたので、あれは剣技スキルだな。


 俺は通常攻撃を底上げするのと、派生スキルのために戦闘術タクティクスを取っているが、戦闘職の場合には更に武技アーツとか、空間支配ゾーンや、空中戦闘術エアリアルとか、物理戦特化スキルを覚えていく。

 Bランクなら、9つスキル習得出来るので、戦闘の幅がかなり広いはず。


「とどめー!!」


 ズバーーッと、シュウが気合い一閃、残ってた2匹を両断した。


「こんなもんかなー。…っと、邪魔だよっと」


 二人の戦闘を指示しながら見守ってたが、上からトカゲが飛んできたので双剣の片方で首を落としておいた。

 戦闘を終えた二人は、そんな蚊を払うかの仕草で倒したユートを見て一言。


「「Sランクってズルい」」


 そのまま順調に進み、6階層に辿り着いた。

 運がいいのか悪いのかまだBランクに会わないな。

 と、思った矢先だった。


 前方に魔物が()()()()()

 あそこに、縦穴でもあるんかな。

 現れたのは、Bランク魔獣のアルケニー。半人半蜘蛛型の魔獣だ。

 強さはそこそこだが、見た目がなー。

 凶悪犯みたいな顔の女性の上半身裸で、下半身が蜘蛛という魔物で、その鳴き声も悍ましい。

 今もキシャーーっとか言ってる。


 それが、ボトボトと数匹落ちてきた。


 シュウとリンを見たら、初めて遭遇したのか、顔が引き攣っていた。


「シュウは前衛、リンが後衛だ。全体を見ないと糸にやられるぞ」


 分かった!といいつつ、視界が通る位置に立ち相手取る。


「スキル武技アーツ、〈連武〉、〈天恵〉、〈剛力〉!!」


 シュウが武技スキルを3つ同時に発動した。

 効果は、

 〈連武〉:発動すると流れるように連続で技を発動出来る。

 〈天恵〉:意識を高め、相手の行動を先読みする。

 〈剛力〉:力を大幅に上げる。上昇率は、スキル熟練度に依存する。

 という感じだ。


「はあっ!とりゃあぁっ!!でりゃあっ!!」


 シュウは、アルケニー目掛けて、中段に一閃、下段二連撃、上段から縦に回転しての一撃を繰り出した。 


 ギギギーッ!!と呻きながら一体が倒れた。

 すかさず、後ろからリンが飛び出して、技を繰出す。

 空中でくるくるコマのように3回転しての3連攻撃を横にいたアルケニーに命中させた!さらに、下段から斜めに一気に斬り上げて、そのアルケニーを絶命させる。


「うん、なかなかいいじゃないか!」


 やはり、センスはいいんだよなー。

 下手に個人戦が上手い分、連携必要無かっただけだな。慣れさせたらもっと上のランクも行けるな。


「これでっー!」


「終わっり!」


 最後の一匹を左右から二人同時に攻撃して見事に仕留めた。


「お疲れ様!二人とも、大分連携が様になってきている。数をこなして物にしていこう」


「「はいっ!」」


 うん、いい返事だ。シュウも大分素直に聞いてくれてるな。


 アルケニーが落ちてきた穴を見てみると、丁度上に巣があるようだった。

 まだ、生まれていないアルケニーの繭が丁度10個ほどみえた。


「スキル神秘ミスティック発動!火炎、爆発属性付与」


 スキルにより、ボーガンの、矢に火炎と爆発の属性を付与して、繭に撃ちんだ。


「恨みは無いが、露払いさせてもらう!!」


 バシュッバシュッバシュッと撃ち出した矢は、着弾と共に大爆炎を巻き起こした。


 となりで、落ちてきた繭に当たったらしいガントが、うわっちぃ!とか奇声を発していたが、気のせいだろう。


「これで一安心だな。後ろから奇襲とか勘弁だからな」


「よーしゃねーなぁ」


 ガントが火の粉を振り落として、そんな事をいうが、


「馬鹿を言うな、油断したら俺等だって簡単に死ぬんだからな?」


 そんなバカな…!みたいな目で見るが、そうなってからでは遅い。


 シュウとリンにも、変な情けは絶対かけるなよ?ここは、ダンジョンだと、念を押した。

 二人は真剣な顔でコクコクと頷くのだった。


 その先の部屋には魔物は居なかったが、下への道があった。

 そこで、もう一度水分補給して気持ちを整えてから、下へ降りていった。


 7階層。ここはダンジョンの名前の由来である、白羊が生息する場所だ。

 大体、最初にソレを見るとうわぁ…って気持ちになるが、俺以外の3人も例外じゃなかった。


 そいつは、真っ白なフカフカの綿みたいな毛で覆われていて、顔はまんま羊だ。

 だが、()()()()()()()、盛り上がった胸筋と腹筋、地面まで伸びた丸太の様な腕をもった怪物だった。


「パパ…あれって魔獣ですか?!」


「ああ、悪魔とか言われたほうが納得だが、歴っとした獣だよ…」


 リンの顔は引き攣っていた。


「うわぁ、なんか戦いたく無いなぁ」


 と、流石のシュウもドン引きだった。


「あれが白羊か、確かに羊だけどよぉ。でもあれの、素材って高価なんだよなぁ。解体やんの俺なんだよな…」


 そんな事を言っている間に、白羊達はこちらに気がついた。

 何故か、各々ポーズを取り出し筋肉アピールしてきた!!

 ユート達は、特大のダメージを受けた!!(精神的に)


「…。スキル〈連続魔法〉、シャドウジャベリン、ライトニング!アークライトバーストぉぉぉぉっ!!!」


 プチッときて、辺りを魔法で爆撃していく!

 いきなりの魔法に、白羊達はワタワタと逃げ惑う!


「死に晒せ〜!『ピー』野郎どもがあぁぁ!」


 おま、おおおい!落ち着けエエエ!と、ガントに羽交い締めされて止められた。

 離せっ!抹殺、いやこの世から存在を消してやるうぅ!!と、あまりにムカついて暴走してしまった。


「パ、…パパ?」


 リンが呆然とこちらを見てる。


「おじさ…ユートさん落ち着いて!!」


 はっ!しまった!

 シュウにまで止められて、やっと我に返った。


 …こ、こほん。

 さて、訓練始めようか!と無理やりな笑顔で二人を送り出した。

 最初の爆撃で、半分くらい誅殺したので、結果的にちょうどいい数になった。

 まぁ、これくらいなら大丈夫だろう。


「気をつけろよ。あいつら見た目通り力だけはあるからな?スピードも遅くはないから、一対一にはならないように戦うんだ!」


「「はいっ!」」


 空気にシリアスを取り戻し、二人は言われたとおりに戦う。

 さっきよりも、連携の精度が上がっている。目覚しい成長だ。


「スキル武技アーツ、〈連武〉、〈天恵〉、〈剛力〉!」


 シュウがスキルを使うと、


「スキル武技アーツ、〈連武〉〈天恵〉、〈瞬足〉!!」


 〈瞬足〉:移動力が極大に上がり、瞬時に移動が可能。スキル熟練度で移動可能距離が上昇。

 と、リンもタイミングを合わせて発動する。

 二人の剣閃が縦横無尽に飛び交った。


 フロアに、10数匹残っていた白羊は、あっという間に細切れにされていった。

 

 「いやぁ、最初はどうなるかと思ったが、結果は大成功だな。既に解体されてるから、回収が楽だぜ…」


 そう言いながら、素材をテキパキと剥いでいった。

 肉も、食肉らしく、内蔵以外は全部回収してた。


「バックパックもストレージも一杯だし、今日はここまでだな。よし、お疲れ様!帰りも油断するなよ?来るときより少ないが、出てくるからな」


 はーい!と、二人が返事をして、ガントは、任せたなと言って荷物を背負い直した。


 帰りは、サクサクと進んだ。

 来る時に殲滅してきていたのもあるが、荷物がいっぱいなので、なるべく戦闘を避けて戻ってきたのが大きいが。


 入り口まで戻ってきたのが、丁度夕日が出る頃だった。

 夕日をバックに、白と黒がクロスする!

 ドガッ、バキッ、シュバババッ、ドゴーンと絶え間なく轟音が響き渡る。


 ええと、一体何事だ!?

 良くみると、地面には大きな蹄の形をしたクレーターや、猫の手の形をしたクレーターや、鋭い何かで大きく切り刻まれた跡やら、凄まじい戦闘の跡があった。


「ストップ!ストーーっプ!!!」


 ユートがそう言うと黒い影と白い風がピタッととまり、ユートの前に来て着地した。

 ニケと、カルマである。


「一体どうやったら、こうなる!?」


「はい、主の命により、今の今まで戦闘訓練をしていたのです」


 訓練ってレベルじゃないよねこれ?殺す気でやってるだろっ!


「もちろん、本気でやってましたよ。ただし、お互いに約束を守り、魔法もスキルも使っておりませんが」


 え、まじで?!じゃあ、このクレーターはなんだ?明らかに大きさがあってないぞ?と、聞くと…


「これは、闘気です。純粋な魔力をぶつけ合って生まれた結果ですよ…フフフ」


 フフフじゃないから!

 ニケも胸を張ってクアッ!じゃない!

 しかし、魔法でもスキルでもない魔力攻撃か。

 相変わらず、規格外なやつらだ。


 しかし、何かで使えるかもと思いつつも、地形を変える規模で戦ってた2匹をキッチリ30分お説教しておくのだった。



いつもご覧になって戴きましてありがとうございます。

また、ブックマークをしていただいて、本当に励みになっています。重ねて有難うございます。


今回は、リンとシュウがダンジョンで成長する話でした。

これからは、もっと活躍してくれると信じています。

次も、新しいとこにいきます!


次回更新は、8/25 24:00までにしたいと思います。

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