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たとえどんな世界でも  作者: 進藤 真道
第1章 努力するとは決めたんだけど、一体何すりゃいいんだろ?
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第6話 勢いに身を任せ

 よし、だいぶ鮮明に思い出したぞ。

 この記憶から、今後水原と会話をするための糸口を見つけ出すんだ。


 俺は受験生なのに、授業中に気になるあの子のため思考を巡らせる。


 考えてみたら、二度しか水原と会話をしたことがないんだ。

 しかも、図書館からの帰り道は、かなり情けない無気力boyな姿を見せちゃってんぞ。いっぱいどもってたしな。

 ……うーん、挽回したい。希望の将来と大学でも考えて、それを水原に発表しに行くか。

 君のお陰でこんな立派になったんだぜ、頼っても良いんだぜ。

 みたいな感じで!

 うーん、気持ち悪い奴な気がしないでもない……いや、でもやってみっか!

 やらずに終わるより、やってみて失敗しろ。

 by妄想の失恋より得た教訓だ。


 水原と次に話す話題は決まったな。

 なら次は、どこで話すかだ。水原はどこにいるんだろう?

 まず水原は、夏休みに一人で図書館で勉強をしていた。

 なら家よりも外で勉強をするのが好きなのかも知れない。

 それも友達とじゃなくて一人でだ!

 学校が始まったんだし、図書館じゃなくて学校の図書室に行って勉強するんじゃないか。


 そうだよ、水原は図書室に一人で勉強をしに行っている可能性がある……と、色々無茶苦茶な考えをしている時間と、水原と今後どうやって話せばいいのかを考えている時間を合わせて今日の授業は全て終わっていた。

 そして全ては終わってから気付くのだ。


 俺の席、水原と隣じゃん。

 もう水原いねえや。

 昨日休んでた話とか、今日はネタになるタイムリーな話が出来たはずじゃん!なんだよ図書室って……もっと地の利を活かせよ俺、と。


 告白もせずに失恋をした時。あ、今朝の話な。

 あの時は、悲しかったし悔しかった。

 でも今みたいに過ぎたことに対して、のちにこうしておけば良かったって思い付くのはよくよく考えると良い事だな。

 今後の糧になる。

 隣の席なんだから、明日はここで声掛けよ……いや、努力は積み重ねだ。

 取り敢えず今は放課後なんだ。

 せっかく色々考えたんだし、もしかしたら図書室に水原はいるかもしれない、図書室に行ってみよう。


 俺の考えは纏まる。

 纏まった考えをもとに行動を開始する。

 しかし、その行動は出鼻をくじかれた。席を立とうとすると、中吉がこちらに向かいながら声をかけてきたんだ。


「よう、昴。帰ろうぜー」


 中吉とは家が近い。

 朝はこいつの趣味のせいで一緒に登校した事はないが、帰りはいつも一緒に帰っていた。俺たちにはかけがえのない時間だ。

 しかし、友情と愛情を天秤にかけるわけじゃないが、水原と居られる卒業式までは、一緒に帰れない。


 すまない、中吉。


「中吉、俺は今日からやる事が出来たんだ。図書室に寄ってくるから先に帰っててくれ」

「やること?へー、だからお前今日はイキイキした眼をしてんだな。なんか知らんけど頑張れよ。じゃあまた明日な」


 うん、アッサリしてるね。


 天秤がどうとか比喩を出してまで正当化した俺の恋慕は、どうしたの一言もなく流された。


 あと、ちょっと人を好きになっただけなのに、ここ数日お前はヤル気が異様に無いやつだったって、直接的にも間接的にも色んな人から言われてる気がする。

 母ちゃんにはよく言われてたんだけど、身内だからオーバーに言ってると思ってたよ。

 こんなに言われるなんて、少し反省しよ……。


「……応援ありがとな、はじめて頑張ってみようと思うことに出会ったんだ。頑張って見るよ。じゃな」


 親友へ挨拶を済ませると、俺は駆け足で図書室へ向かった。

 向かっている最中は少し緊張もした。何もかもが人生で初めての経験で、舞い上がっているのは自分でもわかっている。

 図書室につくと、胸が高鳴っているのがわかる。

 心地よい緊張しながらながら水原を探す。


 水原は居なかった。


 こ、こんな事もあるさ。

 何故か絶対に水原が居るくらいの気持ちになってた。

 中吉にかっこいいこと言って駆け出したからかな……。


 気持ちを一度リセットし、考えをまとめ直した。

 もしや水原は図書館が好きな子なんじゃなかろうか。

 図書館にも行って見よう。そう考えてすぐに図書室から飛び出し学校を出て、20分かかる図書館への道のりを10分で走りきる。思い付いたら即行動なのだ。

 図書館へとたどり着いた俺の息は荒く、心臓はドキドキが止まらない……。


 図書室まで駆け足で走ったのに、図書館までを全力疾走って……これ走り過ぎでの動悸どうき、息切れだよ!


 ちなみに水原は居なかった。


 トボトボと家路を歩く。

 明日は絶対に学校の中で話をしてやる。なんて考えていると、帰り道を間違えた。

 曲がるべき道を、曲がりそこねたらしい。

 今歩いている道はいつもの道では通らない、学校から一番近いコンビニがある道だ。


 うわぁ、中吉の家の近くじゃん。遠回りしてるよ……。


「……めろ……っ!……は今……家に帰るんだぁ……!」


 距離が離れていたためか所々聴こえなかったが、何やらコンビニの裏手が騒がしい。

 不穏な空気が気になり、コンビニの裏を遠目にのぞいて見る。

 そこには学ランを着崩したリーゼントとツンツンヘアー、あとその二人に囲まれた女子が一人いた。囲まれていてよく見えないが、女子はうちの制服を着ているみたいだ。


 ……テンプレやんけぇ!

 お?ここは颯爽と助けに入った俺によりヤンキーが去っていく。そして助けた彼女はなんと水原だったのだって展開やろ!


 これから先のサクセスストーリーに心が弾む。

 ヤンキーに怖さなど感じず、指をボキボキと鳴らしながらその集団に近づいていく。

 近づくとツンツンヘアーが女子に話している内容がはっきりと聞き取れた。


「ええやんけ姉ちゃん、ちょっと俺達とお茶しよ言うてるだけやろ。あぁ?」


 昭和ヤンキーやんけぇ!


 これはテンプレ度が上がった、絡まれてるのは水原に違いない。

 テンプレならサクセスストーリーの道を歩む事は間違いない。

 妄想のご都合展開に期待は膨らみ、ヤル気最高潮だ。

 そんな脳内お花畑の花達が、一瞬で冬の寒さに枯れていく……現実とはそういうものだったと後悔する。

 現実で起きたのは、絡まれてる女子と目があうこと。

 絡まれていたのはクラスメイトの丸井有子まるいありすさんだ。水原じゃなかった。

考えを捨てる事は良くないが考え過ぎも良くない

絶好の機会を逃し奔走する内海昴

彼は勢い良くヤンキーに向かって行った

彼の空回りは続く


次回『たとえどんな世界でも』

第7話 昭和ヤンキー《護武輪頭》


《原色高等学校幻の八不思議》

次回を読まない生徒は、幸せになれない

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