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たとえどんな世界でも  作者: 進藤 真道
第1章 努力するとは決めたんだけど、一体何すりゃいいんだろ?
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第4話 初めての会話

 –内海 昴–


 この2日間で頭はこんがらがるばかりだ。水原は本当にいるのかいないのか。

 先生も中吉も水原を知らないと言ったのに、水原が登校して来た途端に中吉は手のひらを返して水原を知っていると言った。

 HRが始まると、今度は先生が水原へ自然に話しかけている。

 俺の脳は、水原が登校してきた事で二人が手のひらを返したように水原の存在を認めている怪奇現象が理解出来なかった。


 ……でもいいんだ。


 状況は全く整理出来てないけど、水原は確かにクラスメイトで、俺の知ってる外見で、声で、俺の隣にいる。


 ここで先程決めた覚悟を、妄想の失恋で得た経験を、ここに活かすと誓った。


 この恋を、告白もせずに終わらせたりなんかしない。

 水原には、いつかちゃんと告白をするんだ——。


 授業が始まっても水原の事で頭がいっぱいだ。今日の授業は卒業までの残り時間と今後水原と付き合うために自分になにが出来るのかを考え、それらを思い付くだけ書き出した。


 卒業式が3月。つまりあと7ヶ月。

 彼女は受験勉強でいつまで忙しいのかな?いや、こんな事は今一人で考えていてもわかる事じゃ無い。後に考えろ、後回しだ。

 学内のイベントは、3年生が参加するもんなんてなんも残ってないよな。学園祭は2年生主体だろ。あと、なんかあるだろうか。無いよな。

 学園祭に3年生は本当になにもしないのだろうか。いやいや、3年生がってか、俺が動く予定が無いな。これも無しだ。

 なら学内のイベントだな。バレンタインデーか。バレンタインデーに逆チョコか?……いや、イベントに頼るのはよそう。

 俺が普段参加していなかったことに参加するとして、なんやかんやでうまい事いくって想像はできん。

 ならどうする?

 今のトレンドは、受験先の大学と受験勉強だ。その話題は良いぞ!

 ……俺、近場のFラン大学志望だ。これ、水原には一度似た話をしちゃってるなぁ、そんな話が話題になるかなぁ……。そうだ、ここから志望校の変更を……やりたいことが無いのにそんなことしてなんになる。

 好きだが、水原と同じ学校に行きたいってことは無いぞ。

 水原、看護師になりたいって言ってたしなぁ。俺には難しそうだ。

 ルックスや人付き合いなら磨けるかもしれない。そこらへんを重点的に良くしていこうか。

 いや、水原の好みもよくわからねえ。ルックスを磨くために肉体改造とか先行してやって「ちょっと太った可愛い人が大好き♡」とか言わらたら、泣いちゃうかもしれない。

 ……あれ、つまり恋愛の為の努力って、何すりゃいいんだろ。


 久し振りに頭を使ったが、恋愛なんて未知の世界の前では無力だった。何をすればいいのかがさっぱりわからない。

 でも動かないのはダメだ。

 ぐるぐる動く考えの中で、取り敢えず何度も話しかけてみようという結論に至った。

 ゲームなら、会話はお互いを知るための必要イベントだ!


 しかし、水原と会話かぁ。一体何を話せばいいのかなぁ……。


 彼女を好きになったのは夏休みだ。

 だから、彼女と会話をした事が無いわけでは無い。

 その時はたしかにスムーズな会話を繰り広げた気がするのだ。


 思い出せ、水原と俺には夏休みに出会いがあったんだ。

 思い出せ、その出来事から今度彼女と何を話すかを考えるんだ!


 ————————

 ——————

 ——……。


 彼女と初めて話したのはあのクソ暑い日、甲子園の初戦、応援スタンドでの事だった。


 ……暑い。帰りたい。


 夏の日差しが、三倍増しに感じるほど暑い球場の中、吹奏楽部が大きな音で演奏している。野球部の奴らはそれに負けない大声で応援している。


 暑い上、暑苦しい。

 興味ない。帰りたい。暑い。

 暑い。

 暑い。

 …………。


 彼女が好きになるまでの俺は、無気力なやつだった。あの時はそれに輪を掛けて気力がなかっただろう。

 熱射病で倒れる一歩手前だったんだ。

 興味の無い試合を騒がしい中で見させられている。帰りたい暑い、それ以外考えられないような地獄の時間に、彼女は話しかけてきた。


「内海くん大丈夫?いっつも死んだ目してるけど今日はさらに酷いよ?」


 水原に始めて声をかけられたのは、熱射病一歩手前で何も考える事が出来なくなっていたこの時だった。

 そんな極限状態で、何か気を聞いた答えを返せただろうか。


「あつい……」


 ダメだ。思い返せばろくな返事してないな。


「ほんとに大丈夫!?声も死んでるよ!水飲んでる?あとこれ、食べな!」


 水原は応援中にふらふらになっていた俺に声をかけて、自分の持ってきた水と梅干しを無理やり口へ入れてくれた。

 あれは驚いたよな。

 3年生になって隣の席になった彼女だが、その後も俺たちに会話なんてなくて、この夏だって接点なんか生まれるとは思ってなかった。

 何をされたのかよくわからなかったが、水を飲んで少し身体が冷えて、梅干しの酸っぱさに少しずつ思考がクリアになっていったんだ。

 そこで初めて、俺を気にかけて水と梅干しをくれたのが隣の席の水原左凪みずはらさなぎだと気付いた。

 だが、これまでなんの接点もなかった人だ。正直言って名前もちょっと自信はなかった。


「——ありがと。えと、ミズハラ?さん」


 水原にお礼を言った。恐る恐る名前を呼びながら言った。

 お礼を言った時点で頭はだいぶクリアになってきていたのだが、水原にはまだ体調が悪く見えたらしい。

 もしかしたら恐る恐る名前を呼んだのが、目がかすんでるとか、意識が朦朧もうろうとしてる、だとか思われたのかもしれない。

 水原は、そんな自分の名前もろくに覚えていなかった俺に、更に気をかけてくれた。


「あんた、ちょっと休憩してきた方がいいと思うよ」


 水原はそう言うと肩を貸してくれて、スタンドの入り口の日陰まで連れて行ってくれたんだ。


 その後、一人になって急にドキドキし出したんだよな。

 さっきまで感じていた女の子のいい匂いと、優しくされたという記憶を思いだして……。

 その時だ、次に会った時はもっとちゃんとお礼を言おうと、そう決意したんだ。

意外と簡単に不思議現象を受け入れた拍子抜け系主人公内海昴

突然始まった回想シーン

水原左凪は意外と毒舌キャラだった

回想シーンはまだまだ続くぞ


次回『たとえどんな世界でも』

第5話 君を好きになった理由


《原色高等学校幻の八不思議》

次回を読まない生徒は、幸せになれない

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