第3話 水原さんと瀬戸くんと
–水原 左凪–
私は瀬戸くんを振った後、スッキリした気持ちで教室の中に入っていった。
これから始まる新学期、なんかいいことありそうだなー。
席で荷物の整理をしていると出口先生が教室に入ってきて、朝のHRが始まった。
「おい、水原。お前昨日無断で休んだだろ。休む時はちゃんと電話をするんだぞ。それにしても、うちの学校の無断欠勤率の高さはなんなんだ全く……」
HRが始まったなりに、先生に怒られた。
あれ、今日って何月何日?
黒板をよく見ると、ちゃーんと9月2日の文字が書いてある。
私、始業式すっぽかしてるじゃん。うわー完璧にやらかしたよ。
なんだよ『スッキリ、これからなんかいいことありそうだなー』って!
あー、お母さんが昨日カレンダーめくってたから間違い無いと思ったのに……。でもウチのお母さん、基本的にズボラだからなー。
私は先生に怒られたから自問自答を続け、私は1日も遅刻をしたのだと理解した。
「……すみません先生、今日を始業式だと勘違いしてました」
そう言うと教室の中で笑いが起こる。「みずはらー、しっかりしろよー」だとか「わたしも休めばよかったー」だとか言ってクラスが盛り上がっている。
「おいおい、故意じゃなくて無自覚の無断欠席だったのか。……受験も近いんだぞ。みんなー、夏休みボケはほどほどになー」
出口先生は私の返事に呆れてるみたいだった。
はぁ……新学期はついてないかも。
◇
–瀬戸 蒼–
水原にこっぴどく振られた後、校舎裏でひとしきり叫び終わった後、しばしの時間をぼーっとして過ごしていた。
その時間の中で頭の中はパンクしそうなほど今の振られ方のフォローを考えている。
俺のための、俺へのフォローだ!
さっき告白をしたはずなのに、なぜか今は水原の事を少しでも良いと思う気持ちが全く無くなっていた。
いいさ、俺には野球がある!プロからも声がかかるかもしれないし、俺を欲しがる大学だってきっとあるはずだ!みんなが受験勉強をしている間、野球も出来ないし。彼女でも作れたらいいなと思っただけさ。全然悔しくなんてない!ないったらない!
あー、なんか無性にサッカーしたくなってきた。
一瞬の時間の中で、数日とも思える思考を巡らせた。
そして、自分を慰めるのに頭をフル回転させて、俺は今、立ち直った!
水原はもう教室に行ったよな。
……俺も、教室に行こう。
校舎裏から下駄箱へ、そして教室に行くまでの間に、俺の周りには学校のモブどもが集まり、声をかけてくる。
やれやれ、ヒーローは辛いな。
「おはよー瀬戸君」
「よう、瀬戸。夏の大会は凄かったな!」
「瀬戸君なんで昨日学校に来なかったの、心配したんだよ」
全体の雰囲気を読み取り好印象をキープするために、学年問わず声をかけてくる奴ら全てに笑顔で返事をしていく。
俺は出来る男なのだ。
「おはよう」
「凄くはないよ、優勝は……出来なかったしね」
「昨日学校を休んだ?えっと、学校は今日からだよね」
ん、何か変な質問があったぞ。
昨日俺が学校に来なかった?学校は今日からだろう。
「瀬戸君夏休みボケー?今日は9月2日、学校は昨日から始まってるよー」
どういう事だ、俺は確かに9月1日に登校したはずだ。
『下駄箱ラブレターからの七不思議を使った相手への告白の意識付け!そこから出会い頭に告白をして、相手が戸惑っているあいだに抱きしめて、運動部的な情熱的アピールまで決めてやろう大作戦』は、決行までの1週間、考えに考えぬいた作戦だったんだ!
今日の日のため、毎日カレンダーに印を付けていた。
最初の『携帯で連絡を取り友達から始めて最後には告白!大作戦』からブラッシュアップにブラッシュアップを重ねて、最高の作戦を立てたのだから。
最高の作戦の出来栄えに気が高ぶっていた俺は、この1週間毎日、確実に始業式の日までのカウントダウンをしていた!
……っ!そうか!わかったぞ!告白の後、一瞬だと思っていたあの時間。
あの時間は数日とも思える思考をしたんだ。
あの時間は、本当に1日中思考を続けていたのか。
やると決めた事には没頭できるのが自分の美点だと思っていだが。
まさか思考する事で、1日中校舎裏にいたことに、自分で気付けないなんて……。
俺は自分の才能が恐ろしい。
集中の天才だな俺!
◇
瀬戸蒼はこの学校を初の甲子園へと導いた立役者であり、顔良し運動神経良しの人気者だったが致命的な欠点がある。
ナルシストで馬鹿なのだ。
9月1日
水原左凪と瀬戸蒼は間違い無くその日に登校してきていた
しかし教室に着くと今日は9月2日
一体これはどういう事なのか
その不思議現象を内海昴はどう捉えるのか
次回『たとえどんな世界でも』
第4話 初めての会話
《原色高等学校幻の八不思議》
次回を読まない生徒は、幸せになれない