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たとえどんな世界でも  作者: 進藤 真道
最終章 俺の努力は実るのか!答えは君の返事次第
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共同生活

 居候内海昴の朝は遅い


「昴くん。いい加減起きな!あと、そろそろ料理の一つでも覚えなよ!」


 カーテンを開けると朝日が差し込んで気持ちいい……なんて時間はとうの昔で、昴くんは私が朝ご飯を作り終えても布団から出てくる気配も無いので起こしに行かなくちゃならない。

 これは彼が居候になってから毎日のように続いている朝の光景だ。


「左凪さん……あと、五分……」

「ベタな言い回しはやめろ!はい、さっさと起きる!」


 リビングで寝ている昴くんの布団を無理やり取り上げて彼を起こすのにも慣れたものだ。

 本当に昴くんは朝が弱い。

 布団を剥がれた昴くんはもぞもぞと身体を動かしだす。


「左凪さん……容赦ねぇ。おはよ」

「はい、おはよ。ご飯用意できてるから食べて」


 昴くんは寝ぼけ眼のまま、ゆったりと起き上がり洗面所へと向かう。

 居候のくせに彼の行動はいつだってマイペースだ。


 この後、私は学校に行かなければならない。それだって毎日やってることで大変なことだけれど、昴くんの生活はもっとストレスにあふれていると思う。

 この後、彼は家で暇を潰しているはずだ。毎日毎日家で暇を潰しているはずだ。

 全然ストレスとは無縁の生活だと思うだろうか。でも昴くんは、家の外に出ないんじゃ無い。聞けば、彼は異世界でモンスターと戦ったりしてたんだからもっと身体を動かしたいんじゃ無いかと思う。それでも昴くんは家の外に出ることが出来ないのだ。


 内海昴くん。彼はこの世界で元々身寄りの無い人間だった。そして神隠しにあうように、剣と魔法の異世界に転移した。

 剣と魔法の世界でモンスターや現地の人間との戦いを通して、世界で起きている大きな問題を一つ解決した彼は、そこで帰還を神に許されたらしい。

 この世界に戻ってきた時には、自分の世話になっていた施設の住所や自分の名前をスラスラと言えた彼だったが、一緒にその住所まで送っていくと、その住所には施設が無かった。

 彼はここがまだ異世界なんじゃ無いかと疑っていたが、真相はもっと残酷だった。

 彼は異世界との時間軸の差によって見事に浦島太郎になってしまっていたのだ。

 彼が異世界に居たのは数ヶ月、この世界では30年が過ぎていた。

 彼には失踪宣告がなされて、この世界で死亡した人間にされていた。30年前と変わらぬ姿で失踪宣告の取り消しは不可能だと判断し、身分を証明するものは何もなくなった。

 そんな不条理は同じ異世界転移仲間として見過ごせなかった。

 こんな経緯から昴くんを内緒の居候にしたのだ。それまではお互いに内海くん水原さんなんて呼んでたんだけど、一緒に住むのだその日から私たちは昴くん左凪さんと呼び合うようになっていた。


 最初は炊事洗濯は全てやると意気込んでくれた昴くんだったのだけど、異世界で食堂経営した身としては彼の作る料理は余りにもお粗末で、料理だけは私がする事にした。

 更に、同い年である昴くんに私の衣類は洗濯させたく無い。

 内緒の居候なのでゴミ出しにも行かせられない。

 買い物も控えて貰っている。

 つまり、昴くんは炊事洗濯全てなど任せられなかった。


 ずっと家で過ごすのは苦痛だろうが仕方がない。

 リビングにあるパソコンを共用として使えるようにしておいたら、良くそれを触っているようになった。

 昴くんは隠してるみたいだけど、私が帰ってくるといつもパソコンの前に座っていて急いでなにかを隠すように消しているのでパソコンに夢中なのはバレバレだ。そこまで隠しているのだからきっと恥ずかしいことだろうから履歴なんかは観ていない。怪しげなサイトにハマってなきゃいいんだけど……。


 いつも家にいなきゃいけない昴くんは大変だと確かに思う。でも、それにしたってやりようはあると思うんだが……昴くんは現状に甘んじて料理は私がするようになってからリベンジをすることもなく過ごしている。

 朝が弱いのも仕方ないとは思うけど、もう少し努力をしてほしい。


 昴くんにイライラすることもある。

 だけど、作ったご飯を美味しそうに食べてくれる。

 そしてにこにこ笑い、ありがとうと素直に言う昴くんを見ると、なぜか全てを許してしまうのだ。


 まぁ、食器は洗ってくれるしね。


 そんな生活を1ヶ月も過ごしたある日、私は風邪をひいてしまったようだ。

 体がだるくて布団から出たくない。

 いつもの時間に昴くんを起こしにリビングに行くことも億劫で私は、二度寝した。


 —内海昴—


 目を覚ますと違和感を感じた。

 時計を見るといつもより3時間は遅い時間に目覚めた事がわかる。

 それにしては部屋が暗い。

 カーテンがまだ閉まりきっている事に気が付く。

 カーテンを開けると部屋の中が明るく照らされていく。

 一人暮らしの女の子の部屋が目に入ってくる。最近ようやく馴染んできた光景だ。

 まだ違和感は消えない。まだ寝ぼけている頭を無理やり起こして考える。すると目を閉じた事で敏感になった器官によってそれに気づく事ができた。

 いつものすげぇ美味そうな朝飯の匂いがしない。それによくよく考えれば、左凪さんが俺を起こしに来ていない。

 冷蔵庫に貼ってある小さなカレンダーを確認するが今日は平日だ。昨日のうちに今日が学校が休みだなんて話は聞いていない。

 途端に不安になりいつもなら絶対に触らない左凪さんの寝室の扉をノックする。


「左凪さーん大丈夫?おーい、左凪さーん」


 左凪さんの返事はない。

 一体どうしたのか、俺の不安はどんどん大きくなっていく。


「左凪さん!ねぇ、左凪さん!左凪!」


 左凪さんから返事はない。もうなりふり構っていられず、寝室の扉を勢いよく開く。

 左凪さんは布団の中で寝ていた。

 その顔は紅く汗が噴き出ている。荒く息をしている彼女の額に触れるとこちらの手もじんわりと熱くなってくる。触っても反応が無いし、寝ているようだ。


 俺は左凪さんを置いてリビングへ向かった。リビングの収納を漁っていると使い捨てのマスクと体温計を見つける。

 一応の予防でマスクを着けたら次は冷蔵庫だ。冷蔵庫にあったスポーツ飲料をキッチンに出しておき、冷凍庫を開ける。氷枕が無いので製氷機に水を入れておく。

 後は何すりゃいいんだろ……。

 ひとまず左凪さんに体温計を入れて米を炊いておいた。


「左凪さーん、入るよー」


 スポーツ飲料とコップを持って部屋に入ると左凪さんはまだ寝ていた。

 ベッドの横に座り何か出来ないかと考えているとさっき彼女の脇に体温計を入れた事を思い出した。


 そうだそうだ。何度くらいなんだろ……。

 純粋に彼女を心配して左凪さんの服の首元から脇へと手を入れる。

 ……左凪さんと目があった。


「あっ、目が覚めた?左凪さん、身体は大丈夫?」


 しばらく左凪さんは無言だった。

 何故か嫌な予感がして俺の身体は動かない。


「うん……人が身体がだるい時にあんたは何やってんのさぁ!」


 左凪さんはそう叫びながら服の中さに入っている俺の手を払いのけ、俺へと強烈そうなビンタを放った。

 俺はその渾身の一撃を、避けてしまった。


 あちゃ……異世界での特訓がこんなところで癖となって出てしまうとは……。

 左凪さんの顔は明らかに羞恥と怒りに満ちている。よくよく考えれば寝ている女の子の服へ無遠慮に手を入れていたのだ、さっきのビンタは甘んじて受けるべきだった気がする。


「ごめん左凪さん、癖で……」

「癖って何さ!あんたには弱ってる異性を見ると服の中に手を突っ込む癖があるのか!」

「ち、ちがっ——」


 左凪さんは身体が重いだろうに布団から勢い良く飛び出て立ち上がり、そして服の中に入っていた体温計が床へと落ちた。


「——あっ」


 —水原左凪—


 床に落ちた体温計を眺める。38.8℃と表示されている。

 昴くんの近くにはスポーツ飲料とコップが置いてあった。

 看病してくれてたんだ。

 冷静になると身体がフラつきベッドへと座り込んでしまった。


「……あー、ごめん。私、なんか恥ずかしい勘違いしたっぽい」

「……いや、俺も無遠慮過ぎたよ。ごめん」


 その後昴くんは用意したスポーツ飲料を注いでくれて、タオルを用意してくれて、私は身体を拭いた。私が熱いと言うと即席の氷枕を作ってくれたし、その日は優しく声をかけてくれた。

 本当にテキパキと看病をしてくれた。

 一番驚いたのはおかゆを作ってくれた事だ。ちゃんと出汁を取ってくれた味がした。


 次の日すっかり元気になり学校に行ったのだが、無断欠席を先生に怒られてしまった。

 なんか前にもこんな事があった気がするのだが……思い出せなかった。


 家に帰ると昴くんはいつも通り慌てた様子でパソコンの画面をいじっていた。また何か隠したみたいだ。


 昨日の事で少し気になっていたのだ。昴くんは私に内緒でどんな物を見ているのだろうと。悪いとは思ったのだが、昴くんがトイレへと行った隙にパソコンの履歴欄を見た。

 そこには・主夫・料理 やり方・掃除 方法・看病 しかたなどの検索ワードが並んでいた。それも昨日今日の検索ワードじゃない。昴くんはここに来てからずっとパソコンを使っていいと言った日から私の役に立てるように勉強していたのだと気がついた。

 今日の検索ワードは病み上がり 気をつける事、なんてのも調べてたみたいだ。

 彼は頑張っていた。全然現状に甘んじてなんていなかった。

 履歴の中にはヒモでも出来る彼女のために出来る事、なんてものもあった。

 少し可笑しくて笑っちゃったけど……彼が、愛しく思えた。


 突如頭に声が響く

 声の聞こえてきている最中に昴くんは慌ててトイレから出てきた。

 私は昴くんと目を合わせながらその声を聞いた。


「そろそろいいかな。第1段階は合格。水原左凪、内海昴、君達は記憶が無くてもお互いを想い合い、好きだと思うことが出来た。んじゃこの世界から出るためにしなくちゃならない事を教えるよ、2人ともベランダに出て。あと、記憶は戻しておいてあげようね」

「えっ……」


 頭の中に間違いなく自分のものだとわかる記憶が思い出されていく。


 ◇


「おめでとう水原左凪。君の異世界生活を観てても内海昴は君のことを好きなままだったよ」


 食堂経営で半年の異世界生活を終えた私は、あの真っ白な空間で神様と話したのだ。そこには、少しだけ離れた場所に昴くんもいた。


「水原さん!」

「内海くん!」


 神様がくれた祝福の言葉をよそに久し振りに逢えた昴くんと直ぐにでも話がしたくて、私は昴くんの方へ走ったのだが、いくら走っても昴くんとの距離は縮まらない。

 昴くんもこちらに向かって走っているように見えるのに、それでも距離は縮まらないのだ。


「まあ、ちょっと待ちなよ。晴れて君達は互いの生活を観ても両想いなわけだ。けれども、ここで終わっちゃただの浮かれてる新婚気分のカップルと変わらない」


 神様は、自分のサポートはこれからが本番だと言わんばかりの意味深な言い回しをする。


「やっぱり一度、共同生活をしてみないとね」

「……共同生活、ですか?」

「そう。でも今の君達が互いを観ても色眼鏡を通しちゃうからね。最後の世界は飛びっきりの共同生活を提供するよ」


 昴くんと飛びっきりの共同生活……なんかワクワクする響きである。


「と、言うわけで君達の記憶は僕が少しだけいじっちゃいます。お互いに色眼鏡を通さずに一緒に生活してね。最後のミッションは来たるべき時が来たらちゃんと教えるから、自然体で相手との生活を楽しんできてねー」


 ◇


 記憶をいじる。

 神様はたしかにそう言っていた。

 げんに私はこの世界をもとの世界と勘違いをしていた。昴くんとも初対面のつもりで一緒に生活をしていた。

 記憶が戻って行く感覚と本当だと信じていたものがどう考えても作られたものだった事実に絵も言えぬ感覚になる。

 昴くんも今、記憶を思い出したところなのだろうか。

 私と昴くんは目を合わせながら一緒に声を上げた。


「「神様……こえぇー!」」

「昴くん!私本当は実家暮らしだよ!」

「いやいやいや、俺も両親生きてるし!うぉー、俺一生家の中で過ごすのかなぁなんて考えてたよ!」

「ふたりともー!盛り上がってるところ悪いけど、ベランダ出てよー!」


 神様を置いてけぼりで盛り上がってしまった。

 私たちはもう一度顔を合わせて笑い合う。


「行こっか」

「おう」


 神様に言われた通りベランダに出ると身体が浮いた。


「これからこの世界から出る方法を表示します。それが出来たら僕のサポートはお終いだよ。頑張ってね!」


 身体はゆっくりと空へと上昇し続ける中、昴くんの姿が見えることが私に安心をくれる。

 見えている昴くんの姿は、神様が喋り終わると3つ程変化があった。

 背中には純白の翼が生え、頭の上には金色の輪っかが浮いている。そして輪っかの上にはお決まりの目的の表示が出ていた。


 [1組カップルを作ればこの世界から出られます]


「ねぇ、昴くん。……身体が浮き出した時には驚いだんだけどさ、なんか、今の昴くん飛んでて当然みたいな姿になってるよ?」


 私の言葉を聞き昴くんは自分の変化に気が付いたみたいだ。自分の背中を見て頭の上を触り驚いている。

 そして、昴くんの翼が羽ばたき出したと思ったら、昴くんは空を縦横無尽に飛び始めた。


「左凪さん、すごいよこれ!自由自在だ!思った通りに動くんだ!あとさ、左凪さん気付いて無いみたいだけど、左凪さんもおんなじ羽が生えてるよ」


 私は昴くんの言葉によって背中を見て頭の上を触る。

 ……昴くんの変化に驚いて気付かなかったけど、確かに昴くんと同じものがあった。

 翼に意識を向けて昴くんのいる場所まで飛びたいと思うと、翼は羽ばたき始める。思い通りに空を飛べた。


「なにこれ昴くん!めっちゃ楽しい!」

「でしょ?空にも登る気分ってやつだ!」


 昴くんは顔を紅潮させながら興奮気味な声色でそう言うが、顔は朗らかに笑いアクロバットに飛び回っている。

次回『たとえどんな世界でも』

最終章 最終話

たとえどんな世界でも

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