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たとえどんな世界でも  作者: 進藤 真道
第2章 付き合う為に剣を振れって!?……俺の努力は正しいの?
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第23話 力の融合

 おっさんは時に笑顔、時に苦しそうにゆっくりと語っていた。


「どうだ。私は頑張っているだろう」


 最後おっさんは顔に笑みを浮かべ、そう締めくくった。


 愛するモノが世界に何一つ無く、この世界全てに怨みを向ける。

 ドラゴンとの戦いで俺は同じ事を思った。おっさんの気持ちも少しはわかる。でも、勇者全てが悪い訳じゃない。無能力者の中にも現状を変えるために頑張ってる人達がいる。

 その全てを殺してしまうなんて、間違ってる。


「おっさんは間違ってるよ。なぁ、それよりも修羅院の研究資料ってのはどこにあるんだ」


 修羅院の研究資料。

 この世の全てのモンスターを自決させる方法がある。モンスターがいなくなれば、この世界の大きな問題の一つが解決する。過去のおっさんと同じく、俺はその発見を喜んでいた。資料が気になって仕方がなかった。


「その資料は、裏山に埋めたよ。私だけにわかるような目印を付けてね。しかし、そんなものは関係無い!君はここで死ぬ。あれは私が見直したい時に見られればそれでいいものだ」

「俺が勝ったら、その資料の場所を教えてくれないか。おっさんの間違った努力は俺が叩き潰すよ」

「……私がする事はいつもそうだ。怒られることはあっても褒められることなんてそうない。この話を聞いても理解は得られないのか……大人にもなってないガキには早すぎる話だったな。大人ってのは結構大変なんだぞ」


 俺がいくら戦うと告げてもおっさんは話題をそらす。自分から仕掛ければおっさんとの戦いは始まるだろう。倒さなければならない相手だとわかってはいる。しかし、ここに来るまでに冷静さを取り戻した俺に、人との殺し合いを自分から始める勇気が出なかった。

 それが間違いだった。


「君は優しい男なのだろうね。君、名前はなんと言うんだい」


 おっさんはいやらしい笑みを貼り付けた顔で俺に尋ねる。


「内海昴だ。おっさんはなんて名前なんだ」

「内海スバルくんか。覚えておくよ。君のお陰で私の目標は達成されるだろう。私の名前は水原一巳みずはらかずみ——」


 おっさんは自分の名前を名乗りイかれた様に笑い出した。


「スバルくん、君がここに来た時にはヒヤヒヤしていたよ。私の最高傑作であるドラゴンを倒すほどの男が、ドラゴンの力がまだ身体に馴染んでない時に来たんだからね……しかし、もう馴染んだ」


 おっさんの長話は時間稼ぎだったみたいだ。おっさんの身体からはドラゴンと同等のプレッシャーを感じ、施設内の空気が一変する。ここにきてすぐにおっさんと戦えば簡単に勝つことが出来たかもしれない。俺は勇気が無くて、戦いが引き伸ばされている状況を甘んじて受け止めていた。それこそが間違いだった。おっさんが力を十全に引き出し切れる状況を作り出してしまった。


 だが、そんな事よりも驚くべきことがある。

 水原一巳。水原左凪が言っていた言葉は一言一句間違えずに覚えている。


「仕事なんて、出来て当然、怒られることはあっても褒められることなんてそうない、結構大変なんだから。あっ、これはお父さんが良く家で愚痴ってるのさ」


 水原……一巳。水原。


「……私がする事はいつもそうだ。怒られることはあっても褒められることなんてそうない。この話を聞いても理解は得られないのか……大人にもなってないガキには早すぎる話だったな。大人ってのは結構大変なんだぞ」


 ……このおっさんは、水原の父ちゃんなのか。確信めいた疑問が俺の口から溢れでる。


「おっさん、娘ってのは……水原左凪か」

「スバルくん……なぜその名を知っている」


 俺の質問でおっさんの威圧感が増す。そして、確信めいた疑問は確かな答えへとたどり着く。

 このおっさんは水原の父ちゃんだ。


「水原左凪は俺の好きな娘だ」

「そうか。この辺りに住んでいる同年代の男の子だもんなぁ……。娘を好きか、そうか……なら、君を殺すのは娘への“愛„を試すのに丁度いいじゃないか。君の戦いを見て気付いたんだ。“愛„は、生物創造なんかしなくても、純粋な力に変える事の出来るものなんだろう」


 おっさんはどういう方法かは知らないがドラゴンの力をその身に宿し、馴染ませたのだろう。

 そして、そこへ更に水原左凪むすめへの“愛„を、俺と同じで力へと変換させる。


 俺は強くなった。ドラゴンを倒す力を操った。改良型“りんグ„を起動させてドラゴンがまた出てきても負けてやるつもりなんて無かった。

 なのに目の前のただのおっさんは、強くなる前の俺が初めてドラゴンと出会った時の様に、数段上の実力を感じさせた……。

 ——でも、おっさんが水原の父ちゃんなら。その力がドラゴンの力と水原への歪んだ“愛„の力の融合した力であるなら、俺はなおのこと負ける訳には行かなくなった。


 おっさんの目の前に立っているだけで逃げ出したくなるほどのプレッシャーの中、俺は友愛で起動させた“りんグ„の力を解除する。


「おっさんがその力で戦うなら、これは礼儀だ……。恋愛」


 俺は“りんグ„を恋愛で起動した。

 水原は世界が滅びることなんて望む娘じゃ無いはずだ。水原のためなんて言って世界が滅びたら、それをしたのが実の父だなんて事になったら、水原はきっと悲しむ。


 こんな歪んだ愛に、負ける訳には行かない。


「君はドラゴンとの戦いでも様々な愛を呟いていたね……そうか、それが君の力を使う時の条件な訳だ。つまり、私を左凪への“愛„で倒そうと、そういうつもりなんだね。ふざけるな!」


 おっさんの威圧感は凄まじかったが、おっさんはまだその力で身体を動かすことに慣れていない様だ。

 おっさんは言葉通り縦横無尽に俺へと殴りかかってくる。

 久し振りの感覚だ。速すぎておっさんの身体が線の様に見える。

 でも、俺はア・モーレでおっさんの攻撃をなんとか逸らし続けることが出来ている。中吉のお陰だ。


 暴風の様な攻撃の中でおっさんは俺に水原への“愛„を叫び散らす。


「左凪は、勇者に殺された!いや、左凪を殺したのは理不尽なこの世界だ!左凪は可愛い子だった!純粋な子だった!」


 わかるよ、おっさん。わかるよ。


「左凪は私の天使だったんだ!左凪のためなら、私は命を捨てても構わなかった!」


 間違いない。その通りだおっさん。


「私が左凪への“愛„で負けるはずが無いだろうが!左凪が死んでからものうのうと生きて、左凪がいない事で世界を滅ぼそうともしない君ごときに、左凪を愛する資格なんて無い!」


 水原が、愛する人がいなくなる事でこの世界を壊そうと考える気持ちもわかるよ……おっさん。

 おっさんが歪んだ“愛„を叫ぶ事におっさんのスピードは速くなり、俺は攻撃をさばききれなくなっていく。

 俺は徐々に身体に傷が増えていく。


「左凪より大切な命なんてあるか!?その命を奪った人間が、人類が許されていいのか!?私のしていることは左凪だって喜ぶはずだ!」


 おっさんの攻撃がとうとう全く見えなくなる……。

 おっさん……それが違うんだ。

異世界の力を使わず„りんグ„すらも使わずに“愛„の力で内海昴を圧倒する水原父

歪んだ“愛„の力は真っ直ぐな“愛„の力をも凌駕するのか


次回『たとえどんな世界でも』

第2章 24話

左凪の思い


“愛„の力が知りたければ次話も読め

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