第21話 想いに気付いたから
—水原 左凪—
内海くんは、なんか変な掛け声でドラゴンを倒した。
中吉くんが死んじゃったのを観て、私は悲鳴を上げてしまった。
内海くんが泣いてるのを観て、私も泣いていた。
内海くんが変な特訓をやりだした時にはやっぱり内海くんは変で面白いと思ったのに、変な掛け声でドラゴンを倒した時、私はその画に熱中していた。
内海くんはカッコいい。
私はこんな人に愛されているのだと思ったら顔が熱くなる。
そこで今までそうかなと思っていた私の中の感情が確信に変わる。
私、内海くんが好きだ。
私が内海くんへの想いに気が付いた時に、ドラゴンはまた喋りだした。
内海くんは間違いなくドラゴンに勝ったはずなのに……。
私はスクリーンから目が離せない。
「私はこれでより強くなれる。しかし、この身体はもう動かんな……力の回収だけはさせてもらおう」
それを聞いて、私は良かったと思った。内海くんはちゃんとドラゴンを倒したのだ。内海くんはもう休めるのだ。
ドラゴンは誰かに操られているんだろう。この身体はとか、私の最高傑作がとか言ってたし間違いない。
その後ドラゴンの身体からは光の玉が出て来た。光の玉はそのまま飛んでいった。
そしてそれは、私も内海くんもよく知ってる場所に落ちた。
ドラゴンが破壊し尽くして、商店街は瓦礫の山だ。遠くの景色までよく見える。
内海くんも落ちた場所は確認できただろう。光の玉が落ちた場所は、倒壊したハラコウだった。
内海くんはボロボロだ。出血が止まっているのは不思議パワーのお陰だろうか。でも、武器も壊れてるんだ。もう戦えるはずが無い。
はずが無いんだけど……内海くんは学校の方へ歩きだした。
内海くんは絶対に無茶をしている。でも、それがどれほどのものか私には全くわからない。私は不思議パワーも体験していなければ実際に傷付いているわけでもない。なんたって私は映画を観ているだけなのだ。ただの観客だ。
ふと思い立ち、私は神様に聞いてみた。
「あの、神様。内海くんの傷ってすごく痛そうだけどどれくらい痛いんですか」
「……体験したい?」
神様は試すように私に聞いてくる。
彼の頑張りを凄いと思ったから、少しでもそれを画面の中だけじゃなくて共有したかったから、私は頷いた。
突如身体が裂けそうな感覚を感じる。
私は座っている椅子から転げ落ちて悶えた。
「限界だね。やめるよー」
神様がそう言うと、身体を襲った激痛が引いていく……舐めてた。不思議パワーとか全然意味無い。傷が無いから、内海くんは歩いてたから、私は安易に彼を感じようとした。
これは、無理だ。
「神様!止めて!内海くん死んじゃう!」
「……内海昴は心からどころか全くギブアップなんて考えてないよ。ルール違反だ」
私は必死に叫んだつもりだが、普段は軽いこのちっちゃくて可愛い姿の神様は、真顔で私の思いに淡々と返事をする。
その真顔には重圧があった。絶対に聞き入れて貰えないんだと悟った。
私はますますスクリーンから目が離せなくなる。
すると、スクリーンの中で歩いている内海くんに一人の女の子が駆け寄って来た。丸井さんだ。
「スバルくん!……ドラゴン倒したんだね!……へへっ、間に合わなかったかぁ」
丸井さんが何に間に合わなかったのかはわからなかった。でもスクリーン越しに見える丸井さんは、心底ホッとしたような顔をしている。きっと間に合わない方が良いもので焦っていたのだろう。
内海くんは優しい声で丸井さんに返事をした。でも、その身体の痛みを知っている私にはその言葉は受け入れ難いものだった。
「うん。倒したよ。でもなんか、ハラコウにドラゴンを作ったやつがいるみたいなんだ。俺、そこに行かなきゃ」
丸井さんはよたよたと背を向けて歩く内海くんを見て、顔をこわばらせる。
指に指輪が無いことにも気が付いたみたいだ。
「行かなきゃ、ダメなの?」
「あぁ。中吉が俺に、幸せに生きろって言ったんだ。あと、好きな子のために生きろって……俺の好きな子が前、やりたいことやって好きなように生きる為にも、今は意外と大切だって言ってたんだ——」
「——スバルくん」
「俺は、あの中吉がいたこの世界を救いたい。あのドラゴン作ったやつが逃げないうちに、今行かなきゃ。……俺は気持ちよく生きていきたいからさ」
無理だ。ダメだ。そんな身体じゃ死んじゃう。私はそんな重い言葉を言ったつもりはない。やめて内海くん……。
私は内海くんの意見を尊重することなんて出来なかった。でも、丸井さんは違ったみたいだ。
「スバルくんは、止まらないんだね……じゃあオレ、間に合ったのか」
そう言って丸井さんは内海くんの前に回り込み、白衣のポケットから指輪を取り出して、内海くんの指にはめた。
「改良型“りんグ„だよ内海くん。これでそんなやつぶっ飛ばしちゃえよ!」
丸井さんは今にも泣きそうな顔で笑ってる。丸井さんの心情はわからない。でも、彼女も内海くんのことが好きなはずだと言うことはこの映画を観ていてよく知ってた。なのに、彼女は内海くんを止めなかった。
「丸井さん、本当にありがとう……友愛」
内海くんはこの映画で何度も唱えていたそのワードを唱えた。
内海くんは随分と驚いた顔をしている。改良型ってのはそんなになにかが違うのか、私にはわからない。
「改良型の最終テストだよ。ね、スバルくん。オレのこと好き?」
ちょっと前に観たシーンと同じ事を丸井さんが聞く。
すると内海くんは、なにか納得したような顔で、自信満々に答えた。
「うん。丸井さん、大好きだよ」
丸井さんの顔は少しだけ切なそうになったが、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「……よーし!完璧だ!これで自信持って送り出せる。ね、ね、オレがスバルくんが来た日に言ったこと、覚えてる?スバルくんは強くなったよ。だから、俺の願いは後1つだけだ……死なないでくれ!またねスバルくん」
「任せろ!俺は絶対に幸せになるんだ!」
二人は通じ合っている……。
内海くんが凄いスピードでハラコウ目指して走って行く。丸井さんはその場から動かずに手を振っていた。
内海くんを俯瞰で観てるこのスクリーンだからこそ気付けた。
内海くんが背を向けて走り出した時、丸井さんは静かに涙を流していた。
辛かったんだ。丸井さんもきっと止めたかったんだ。でも、丸井さんは内海くんを送り出した。
敵わない気がした。いい子ちゃんぶった丸井さんにイラついた。やっぱり私は性格が悪いんだと思った。
丸井さんは内海くんの隣にちゃんと立ててるのに、私はそんな内海くんの隣に立つ資格がない気がした。
内海くんが好きになったから思うんだ。
私は内海くんに好かれている。
でも私は、内海くんには相応しくないかもしれない。
私がそう思うのなんて関係なく、スクリーンの映像は動いていく。
内海くんはあっという間に倒壊したハラコウの前にたどり着いた。
心の折れるヒロイン水原左凪
メインヒロインっぽい丸井有子
ただただシリアスに突き進む男主人公内海昴
彼の前に現れたのはモンスターを作り出した修羅院をよく知るものだった
次回『たとえどんな世界でも』
第2章 22話
修羅院の求めたもの
“愛„の力が知りたければ次話も読め




