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たとえどんな世界でも  作者: 進藤 真道
第1章 努力するとは決めたんだけど、一体何すりゃいいんだろ?
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第2話 9月2日/失恋……そして!?

「あれ…先生、ボケましたか。やだなーまだお若いのに何言ってるんですかー」


 ……俺が変みたいな状況じゃん。先生が水原を知らない?

 そんな事ある訳がない。水原は俺と同じく、先生のクラスの生徒なのだ。


「完璧に色ボケしてるお前に言われたくないわ、二次元だろそいつ!なんの手違いで次元の壁を夏休みの間に超えたのかは知らんが、そんな生徒は知らん。用事が済んだら帰って勉強でもしろ」


 ボケたかと聞いたからだろうか、出口先生は有無を言わせず職員室から俺を追い出した。


 あれ、なんでだ。

 どうして先生は水原の事を知らないなんていうんだろう。

 そう言えば、クラスの女子達も瀬戸を先生が知らないって言ってたーとかどうとか言ってた気が……うん、瀬戸って誰だよ。

 どうなってんだこれ。あ、学園七不思議、神隠し!?

 水原は神隠しにあって、みんなの記憶から消えてる……その瀬戸くんも同時に?わけわからんわ!


 ……今日はとりあえず帰るか。

 明日になれば何か変わるかもしれない。もしかしたら先生は、水原が明日には間違いなく来るとわかっていて、焦っている俺をからかっているだけなのかもしれない。


 教室へ戻り、鞄を持って家へと帰る。

 家に帰る道中も帰ってきてからも、先生に水原の事を聞いた時の、あの反応が気になって仕方がなかった。


「ミズハラサナギ……誰だそれ。うちのクラスで今日休んだのは、丸井だけだぞ?」


 嘘ついてる様には見えなかったんだよなー。


 この事が気になり、頭の中はずっと混乱状態だった。

 今夜は何食ったかも覚えてないし、いつもなら寝るまではRPGゲームでもやるんだがそんな気も起きない。

 〇〇コンプとかマルチエンディング全部見るとかやり込みプレイは苦手だが、いろんなゲームをするのが、普段の俺の癒しなのに。

 今日の俺は、その癒しすら思い出せないほどに思考疲れをしていた。


 水原は本当に居たのか……いや、俺は高校1年から水原と同じクラスのはずだ。

 俺は甲子園で間違い無く彼女とあっている。そうだよ、間違い無く水原はいるはずなんだ。

 ならやっぱり転校とか事故とか、まだ家族が公表してないから一般生徒には話せない様な重い事情があるのかな……。

 やべっ、もう会えないのかと想像したら涙でそう。

 何なんだよ一体……明日学校に行ったら今日の事は夢で、普通に水原が登校してくるといいなぁ。


 布団にくるまってからも、水原の事で頭は一杯だ。悶々とした時を過ごし、そして、そのまま眠りについた。


 ————————

 ——————

 ——……。


「昴、良い加減に起きな。なんか知らんが、早く学校に行く用事があるだとか言ってたじゃない!……おっ、起きたね、さっさと布団から出る!このまま布団から出なかったら二度寝して遅刻するよ!」


 ……うるさい……母ちゃんの声だ……。


 うちの母ちゃんは声がでかい。それに、息子に向かって息子の悪口を平気で言うような口の悪さまで持っている。

 この間も「聞いてよ昴。うちの息子の話なんだけどね。なーんか、無気力で……高校3年生だっていうのに、将来やりたいこともないし勉強する気もないみたいでねー。わたしは心配だよ」なんて調子だ。


 あと、うちの両親は仲がいい。喧嘩けんかをしないわけじゃないけど、お互いがお互いを認め合ってるような……正直言って少し羨ましい。

 息子にも、父ちゃんに対する愛情をわけてくれって感じだよ!


 ……それにしても眠たいなぁ……。


「だーかーらー、さっさと布団から出なっていったでしょ!起こした親の前で二度寝するってどんな器用さだよまったく。そんなんじゃ、本当に遅刻するよ!」


 そうだ、朝だ!

 布団から飛び起き時計を確認する。


「おはよう!ってもうこんな時間かよ。ありがと母ちゃん、俺すぐ出るわ」


 急いで学校へ行くために脳を覚醒させる。

 今日は水原が登校してくるかもしれない。昨日の事なんて何かの間違いだ。


 バタバタと着替え、鞄や身だしなみをチェックして朝の準備を済ませた。

 後は家を出るだけだ。

 家を出ようとした時、リビングの扉から顔を出した母ちゃんがビックリした顔をして声をかけてきた。


「もう行くの!?食わないなら朝食は夕飯に出すからねー」

「臨機応変な対応いつも助かってます!行ってきまーす」


 もう遅刻ギリギリだったよな!急げ急げ!

 母ちゃんに適当な返事をしながら学校へと急いだ。


「……うちの息子は登校2日目でもまだ夏休みぼけが残ってるみたいで、ほんと心配だよ……」


 全力でチャリをぎ学校に着く。駐輪場も下駄箱も何もかもを急ぎ足で駆け抜けた。

 家からかなり急いで教室までつく事ができたのだが……そこには誰も居なかった。


 あれ、何でこんなことになってるの。水原に続いて、今度はクラスメイト全員が神隠し……ってか、もしかして俺が神隠しにあってて、みんなは本当の世界で普通に生活してんのか!?


 クラスメイトが誰もいない教室で、一人困惑していると教室の扉が開いて人が入ってきた。


「おっ、珍しいじゃん。こんな時間からどうしたんだよ昴」


 入ってきたのは荒岩中吉あらいわちゅうきち

 小学校の頃からずっと一緒に遊び続けている、いわゆる親友だ。

 こいつは変な趣味を持っていて、朝は必ず誰よりも早く学校に来て、教室の細かい掃除をするのだ。

 掃除が趣味だと自分で言い切っているが、そう言ったたぐいの委員会には入った事がない。

 こいつが言うには、掃除は自己満足の世界だから、他人に指示したりされたりするのは、趣味の領域を超えて負担にしかならないんだって。俺はこの趣味に1回しか付き合ったことがない。

 掃除がそこまでこだわりのある趣味って、本当に中吉は理解できん。


 中吉がこんなギリギリの時間に登校してくるなんて珍しいこともあるものだ。いつものこいつなら、1時間は早く登校してきているはずなのだが……。


「どうしたって、お前こそどうしたんだよこんなギリギリの時間に登校してきて」

「いや、俺はいつも通りの時間に来てるぜ、遅刻って何だよ……あー。あれか、夏休みぼけか。お前、朝起きて何かしら急いで時計見て、時間を1時間勘違いしてんじゃないか」


 ……落ち着いて教室の掛け時計を見てみる。

 想像の時間より確かに1時間早い。


 何だよ母ちゃん!そんな時間に起こすなよ!

 あっ、そういや夏休み最後の日に「夏休みのせいで時間感覚が変になってるかもしれない!遅刻したくないから、もし起きてこなかったらいつもより早めに起こしてくれよ。学校で朝から一大イベントがあるんだ」って言った気がする……。


 一大イベントってのは教室の席で水原を待って、水原が登校して来たら少しでも多い時間話せるかもってイベントだ。

 そんなことは起こらなかった上に、色々意味のわからないことがあってすっかり忘れてた事だ。


 そうか、俺が母ちゃんに早く起こせって言ってたのか。


「そうだ中吉、今日って9月1日か!?」

「ボケすぎだろ昴……今日は登校2日目、9月2日だ。お前、昨日も出席してたじゃん。まぁなんか、ぼーっとしてたのは気付いてたけど、なんかあったのか」


 もしかしたら昨日の事は全部夢で、今日が登校初日で、水原のことを先生が知らないと言ったなんて真実は、とてもリアルな夢なんじゃないかと思ったが。

 夢はついえた……というか夢ルートはついえた……。

 先生と話したあの時間は、夢ではなかったらしい。


 先生のあの反応は嘘ついてそうな感じはなかったよなー。


 昨日まで考えていた中で、最悪の展開が現実なのではないかと考え出した。

 そう、水原なんてクラスメイトは()()()()()()()()んじゃないだろうか。


「そう、だよなー。今日は9月2日だよなぁ……なんかさ、昨日から色々あってさ、頭が混乱してるんだよ。……なぁ中吉。俺、クラスに好きな子がいた気がしたんだけど、その子は昨日休みだったんだよ。で、先生にその子がなんで休んだのかを聞きにいったんだ。そしたら先生、そんな子はいないって、言うんだよ……」


 ここまで話しても中吉から水原の名前は上がってこなかった。

 かわりに中吉は、変な勘違いをしやがった。


「あー。クラスの奴らが話してたな、先生が瀬戸ってやつがいない存在にされてるだとかどうとか……っ!瀬戸って、女子が言うには男のはずだろ、おまえ、そういう趣味だったのか」

「違うわ!でも、その瀬戸ってやつの話も変だよなー。結構な数の女子達がそいつの話をしていたけど、野球部のキャプテンは瀬戸なんて名前だったか」


 そこから俺たちは結構な時間を、謎の男瀬戸について話し合った。

 もちろん中吉は掃除をしながらだ。


「まぁ、瀬戸の話はもういいや。今度はお前のその好きな子の話を聴かせてくれよ」


 中吉は掃除も終わって、教室では生徒が増え、そこかしこから話し声が聞こえてきている。


 そうだよ、中吉にはまだ水原って知ってるかとは聞いてなかった……こいつは水原の事を覚えているのか?それともクラスメイトで昨日休んでたのは、やはり丸井さんだけだったのだろうか……めっちゃくちゃ気になる。


「あー。なんか色々ありすぎて、現実にはいない子なんじゃないかと疑い始めてきてるんだが……クラスメイトのな、いやクラスメイトかはもうわからん。俺は頭がおかしくなってるのかもしれないと思って聞いてくれ……。中吉、うちのクラスに()()()()って子はいたよな。その子なんだ」

「ミズハラサナギ?うちのクラスにそんな名前の子はいないぞ」


 昨日の先生と同じように、中吉はぽかんとした顔をしている。嘘をついている顔には見えない。


 あー、確定した。


 先生に続いて中吉も完璧にいないと言い切った。


 俺の妄想から産まれた子か。夏休みの間に俺が人恋しさをこじらせて作った妄想の女の子だな!

 やばいなー俺、努力するだって?

 妄想の子に人生で一番気合入れた決意しちまってたぞ。いや、妄想から産まれた子だから、かな。

 水原は本当に可愛くてカッコよくて眩しくて、俺の理想の女の子だった……。

 何はともあれ今日は、初の失恋記念日だなぁ……。

 たとえ妄想の中であったとしても、告白もできずに失恋するのはこたえる。努力するって決意するくらいに好きだったんだ。

 本当に好きだったんだ。


 今度、人を好きになったときは、絶対に振られるとしても、どんなにひどく振られそうだって告白してやる!

 告白も出来ずに失恋する事が、やらないで終わる物事が、もう会うこともできないのだとわかる事が……。

 それが、こんなにやるせない気持ちを生み出すなんて、そんな気持ちを味わうのは今回だけで充分だ。そう考えると妄想の中で初めてを失恋したのは無駄じゃない。

 全然無駄じゃなかったぞ、俺の妄想!俺は今度、人を好きになった時に、この失恋を活かすんだ!


 ——って、水原が登校してきた……。


 中吉の席の前で話し合っていた俺の視界には、教室の扉から俺の隣の席へ向かう水原の姿がはっきりと見えていた。


 あれ?なんで?どうして?


 混乱は留まることを知らない。訳がわからない。中吉に、さっきそんなクラスメイトはいないと言い切った中吉に、もう一度質問をする。


「お、おい中吉。あの俺の隣の席にいる子、見えるか」

「マジでボケてんなお前、水原左凪さんだろあれ。クラスメイトのこと幽霊みたいに言うなよ。朝からおかしいぞお前」


 おい!お前さっき、水原なんて知らないって言ってたろうが!

 おかしいのはお前だぁ!

水原左凪は実在するのかしないのか

彼女は幽霊なのか、はたまた超能力者か

新キャラ荒岩中吉の参戦により、物語のメインキャラクターは全て揃った

次回は学園のスターがその残念さを遺憾なく発揮する


次回『たとえどんな世界でも』

第3話 水原さんと瀬戸くんと


《原色高等学校幻の八不思議》

次回を読まない生徒は、幸せになれない

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