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たとえどんな世界でも  作者: 進藤 真道
第2章 付き合う為に剣を振れって!?……俺の努力は正しいの?
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第20話 “愛„を“力„へ

 半身のみになった中吉は動かない。


「あっけないものだろう。人はこんなにも簡単に、死ぬ」


 俺の頭上からは声が聞こえてくる。そうか、中吉は死んだのか……。

 中吉は、中学の時に俺を救ってくれた。

 中吉は、ヤンキーにボコボコにされた俺を家まで送り届けてくれた。

 中吉は、この世界でも俺を助けてくれた。

 俺は、中吉に守られてばかりだな。

 友愛を起動キーにしたからか、中吉に対して友情を感じない。

 助かった。良かった。もしも正常な俺だったら、親友のこんな情けなくてむごたらしい姿を見て狂ったかもしれない。俺は冷静にそう考えていた、つもりだった。

 でも中吉への想いが無くなっても、記憶が、俺の中にある中吉との思い出が、俺の頭を埋め尽くしていく。

 俺の頬に熱い何かが伝った。


 中吉は最高の親友だったかも知れない。中吉は誰よりも頼りになる男だったかも知れない。

 中吉は——。


「一人づつ殺して泣き叫ぶ姿でも見てやろうと思っていたが……壊れたか」


 全く動かない俺を見て、ドラゴンは俺を壊れたと言った。

 そんな事はない。俺は冷静だ。こんな情け無い……親友が、誰よりも頼りになる男が……。

 ドラゴンの言う通りなのかも知れない。いくら感情が否定しても、俺の記憶が中吉を親友だと思い出させる。


 頭の中がぐちゃぐちゃで中吉から目が離せないでいると、ドラゴンの爪が俺へと振り下ろされる。

 冷静なつもりでも心に空虚なものを感じている俺は、もう死んでもいいか……。なんて考えていた。


 ドラゴンは俺をいたぶるのが目的だろう。俺の全身をかすめるように何度も攻撃をしかけてくる。俺は動く気なんて無かった。もう逃げられないと諦めていた。死んでもよかった。

 ドラゴンの攻撃は直撃する事はなかった。骨は折れない。鈍い痛みもない。ただ、全身が熱い。身体から血が吹き出る。

 気付けば、俺の身体はどこもかしこも切り傷だらけだ。ドラゴンの攻撃は確かに痛い。でも俺の頭の中は、中吉との思い出が際限無さいげんなよみがえってきてそれどころじゃない。


「ここまでやっても反応がないか。つまらんな……もう、死ね」


 ドラゴンの爪が振り下ろされる。今度こそ殺すつもりだろう。死ねと言う声に、冷静なつもりの俺は反応してドラゴンの声がする頭上を見上げた。振り下ろされてきている爪の軌道は俺の頭から股までを真っ二つに切り裂くものだった。

 避けなければいけない、と冷静な俺が思う。このまま動かなければ、俺は中吉のもとへ行けるのだろう、と心の奥で俺が呼びかけてくる。

 俺は振り下ろされた爪に這わせる様にア・モーレの向きを変え、手首のスナップで向きをそらせ、いなした。

 身体は勝手に、自然に動いた。俺自身がその行動に、勝手に動いた身体に驚いているんだ。ドラゴンの驚く声も聞こえる。しかし、ドラゴンの声よりも、頭の中に響く中吉の声が俺の心を震わせた。


「スバル。窓拭きの手首のスナップ、だいぶ決まって来てるじゃないか!雑巾のスナップは相手の攻撃をいなす動きだ!」


 そっか、中吉……またお前が守ってくれたんだな。

 ア・モーレを動かしドラゴンの爪を反らせた動きは、()()()()()()の賜物だった。

 ……そうだな中吉。まだ俺、死ねないよな。

 “りんグ„の欠陥により感じなくなっているはずの中吉への想いが、思い出す記憶からどんどん溢れてくるのがわかった。

 頬に絶え間なく伝っていたのは、涙だ。

 正常な俺だったら狂っていたかも知れない、じゃない。こんな状況で冷静なつもりの俺の方が狂ってる。

 こんな時は、感情がぐちゃぐちゃで、溢れて、訳が分からなくなるのが正常で良いんだ。


 だって、中吉は誰よりも頼りになる最高の親友だったのだから。


 想え。中吉を想え。感情が消えたって、思い出せ。反芻はんすうしろ。この想いは“りんグ„にだって消させやしない。

 そうだ。恋愛の起動キーでわかってたじゃないか。

 俺はぐちゃぐちゃな頭の中で、丸井さんの前で恋愛の起動を成功させた時のことを思い出した。

 感情がなくなったって、俺が本当にそれを大切じゃなくなるわけじゃない。消えていくことを意識し、覚悟すれば、この感情の変化でも自分の本当の大切を見失わずにいられるはずなんだ。だからこそ——。

 ——恋……愛……?


 そうか、友愛・恋愛、起動キー、赤い石による起動キーの制限……まだ試して無かったな。

 中吉の事を大切な親友だったと思い出し、俺はドラゴンの事が許せなくなった。コイツを倒したかった。かたきちたかった。力が足りないこともわかっていた。

 でも今、光明が差した。

 俺がまだ試していなかったこと。それは“りんグ„の複数起動キーによる起動だ。

 どうなるかは分からない。でも、このドラゴンを生かしておけない。俺の全てを賭けても、コイツはここで倒さなきゃいけない。

 俺は愛の範囲を指定する制限起動キーを、友愛で既に起動している“りんグ„に向け叫んだ。


「恋愛!家族愛!隣人愛!博愛——」

「——やはり狂ったか。何を突然叫んでいる!」


 “りんグ„に負荷がかかっているのか、起動キーに制限をかけている赤い石にひびが入る。でも、いつもとは比べものにならない力が湧いてくる。

 ドラゴンは完全に狂った俺を殺すつもりだ。尻尾を俺に直撃させる気だろう。激しい風切り音をさせながら尻尾は俺に向けて横に薙がれていた。

 そのスピードはひどく遅いものに感じられた。

 俺はそんな遅い尻尾をア・モーレで切り裂く。上段から一振りだ。攻撃をした事で“りんグ„に更なる負荷がかかったのだろうか、赤い石に大きな亀裂が走った。

 でもそんな事は関係なく、ドラゴンの尻尾は容易たやすく切れた。

 絶望しか感じられなかったドラゴンが雑魚に見える。弱すぎる。


「な、なんだと……」


 ドラゴンは今の状況についていけていないようだ。これなられる。

 ドラゴンに向けて俺はア・モーレを構えた。

 その時、“りんグ„に付いていた制御装置である赤い石が、砕けた。手に持っていたはずのア・モーレは消え、“りんグ„の力は解除されていた。

 制御装置が無くなった。丁度いい。俺は笑っているのだろうか。死の象徴とまで恐怖を与えたドラゴンを倒せそうな事に歓喜していたのだろうか。

 俺は、更に力が欲しかった。ドラゴンを完膚無きまでに潰すほどの大きな力が。

 制御装置が無くなった今、起動キーを制限するものはない。


「“愛„!」


 丸井さんが危険だと言った最強の起動キーを、俺は叫んだ。

 身体に、初めて“りんグ„を使った時ほどの力がみなぎってくる。さっきの力なんて比べものにならない。これならコイツを圧倒できる——。

 ——俺が力に興奮し歓喜するその瞬間、俺の感情から、俺の世界から、()()()()()


 世界が黒く見える。世界がどうしようもない救いのないものに思える。

 せいが、ひどみにくく感じる……。

 ……俺は、何のために戦っているんだ?

 恋愛を使った時に感じた、足元が安定しない感覚どころじゃない。なんで自分が生きているのかすらわからない。

 しかし目の前のドラゴンを見て、俺の気持ちは固まる。身体の中に一本揺るぎない芯が出来る感覚を感じる。

 コイツは俺を恐怖させたんだ。コイツを殺すために俺は戦っているんだ。

 じわじわと、なぶり殺してやる。

 俺には力がある。

 そうだ、俺には力がある。コイツを殺したら、こんな世界救いのない世界は俺が全て壊してやろう。こんな世界があるから俺が不幸になるんだ。

 こんなくだらない世界——。


 尻尾を切ってやったのに、ドラゴンはまだ自分を格上だと思っているらしい。滑稽だ。「こんなはずはない」「あり得ない」と現実逃避したドラゴンが喚き散らす。

 ドラゴンの攻撃は続いた。更になにかをわめき散らしているが、俺には興味ない。俺には力があるのだから。

 ドラゴンに実力差を見せつけ、絶望させるためだけに俺は動いた。俺から攻撃を仕掛ける事は無い。ドラゴンがその馬鹿でかいだけの手足で攻撃を仕掛けてくるたびに、俺はドラゴンの手の爪を、足の爪を、その攻撃をいなし、かわし、反撃した。

 一本一本ゆっくりとその爪を剥いでいった。

 ア・モーレを一振りするたびに“りんグ„に亀裂が入った。もうこの力を使える時間も長くは無かった。しかし、そんな事は関係無かった。俺はドラゴンに恐怖を与える事、じわじわとなぶり殺すことを喜びとして生きているんだ。

 ドラゴンの手足、20本の爪全てを剥いだ時、ドラゴンは静かに声を上げた。


「なんなんだお前は、その力は……まさか、“愛„か!……いや、あり得ない。この世界に“愛„を使いこなすものがいるなんて聞いた事がない。お前はさっきの雑魚と同じ、ただのクソガキの筈ダァァァ!」


 なんだ、コイツ“愛„の力を知っているのか?

 ドラゴンの話を聞いて、俺のこいつへの憎悪を芯としたその心がブレた。

 ……そうだ、“愛„だ。俺のこの力は、“愛„だ!


「お前には幸せに生きて欲しいんだよ!好きな子のために生きて欲しいんだ!」


 中吉の最後の言葉を思い出す。力に溺れていた。自分を見失っていた。俺は何のために戦っているかだって。寝ぼけるな俺!

 忘れるな、中吉への想いを、丸井さんや先生への想いをそして、水原への想いを!

 ドラゴンの攻撃は見えているんだ。無茶な“愛„の解放のせいか“りんグ„が壊れかけてる。でも、もう間違えない。コイツを倒すだけでいい。後数回だけ、俺にア・モーレを振らせてくれ……それまででいい。“りんグ„……もってくれ。

 俺はこいつを最短の時間で倒さなきゃ行けない。みんなのために、こいつは絶対に倒さなきゃいけない。


「剣に思いを乗せるなら絶対にヨイトマケなんだけどなぁ」


 記憶の中の中吉が俺にそう呼びかける。そうだ。想いを力に変えるなら、あと数回しか攻撃出来ないなら、今の俺に出来る最大限の攻撃をしなければならない。

 ……中吉。やっぱり、思いを叫ぶならヨイトマケだよな。

 狂うな。

 叫べ。

 愛を叫べ。

 この世界の愛を、あらん限り叫べ!

 想いをア・モーレに乗せろ。この感情が力に変換されるよりもっと早く、狂う事なく叫べ!

 俺は吠える。さっきまでの情けない俺に、愛を見失っていた糞みたいな俺に、喝を入れる。

 俺はヨイトマケに魂を込めて、今出来る最大限の想いを乗せて、ア・モーレを横薙ぎに振る。


「先生と丸井さんのためなら……エンヤコーラだっ!」


 俺の叫び声とともに振られたその一撃で、ドラゴンの足は胴体から切り離された。


「ふ、ふざけるナァァァ!」


 ドラゴンは痛みを感じないのだろうか。その声に苦痛の表情は無く、ただただ怒りが感じられた。ドラゴンは両足を失い俺へと倒れ込んでくる。倒れこむまま、俺にその巨大な拳を振ってくる。


「中吉のためならエンヤコーラだぁっ!」


 俺は中吉への想いを込めて叫び、ドラゴンの拳をア・モーレの横っ腹で弾き返す。中吉への想いは抑えが効かず勢いをつけ過ぎた。ア・モーレまでぶん投げてしまった。

 “りんグ„は今にも分解しそうなほどになっている。


「こんなやつに、私の最高傑作が負けるわけがないんダァァァ!」


 ドラゴンはそう叫びながら、翼で空へと飛び上がる。

 逃がすわけにはいかない。俺はア・モーレも持たずに周りにある瓦礫の山を駆け上がり、跳んだ。俺はドラゴンの顔の前まで飛び上がった。

 空に行けば逃げ切れると確信していたのだろう。目の前に俺が来た事でドラゴンの表情の変化が初めてわかった。

 ドラゴンの口元が苦々しく噛み締められる。


「馬鹿な馬鹿な馬鹿ナァァァ!」


 ドラゴンはその巨体に相応しいあり得ないデカさの口を大きく開く。その口で、ちっぽけな俺に噛み付きに来たつもりだろう。

 俺はドラゴンの口が開かれるその時、ドラゴンの口の上に乗り更に跳躍しドラゴンの頭上に乗った。


「水原のためなら……エンヤコーラだオラァァァァァ!」


 俺はその頭を、素手で思いっきり叩き潰した。

 ドラゴンが空から落下する。俺はドラゴンの上に乗り、ドラゴンが地面へと落ちたあと、ドラゴンの頭から降りた。

 “りんグ„が粉々に砕け散った。

 ドラゴンは足は無く、腕は曲がってはいけない方向に曲がり、顔はひしゃげている。

 ……オレは、ドラゴンを倒したんだ。


 もう動かないドラゴンの目の前で放心していると、ドラゴンは口を動かすことなく……また喋りだした。


「愛の力が、これほどとはな。しかし、まだ私が死んだわけじゃ無い!」

苦戦の末にドラゴンを破った内海昴

荒岩中吉が前面に押し出された戦い

女主人公水原左凪より荒岩中吉や丸井有子のほうが目立つ現状

水原左凪は女主人公である事を精一杯アピールしなければならない


次回『たとえどんな世界でも』

第2章 21話

想いに気が付いたから


“愛„の力が知りたければ次話も読め

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