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たとえどんな世界でも  作者: 進藤 真道
第2章 付き合う為に剣を振れって!?……俺の努力は正しいの?
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第18話 研究の結果

 —丸井 有子—


 スバルくんに実戦を見せてもらった次の日。オレは、研究所で改良型“りんグ„の製作に取り掛かっていた。


 “りんグ„は無能力者のために作っている物だ。世界総人口のたった2%のためのものだ。

 2%が無能力者と言っても、その数はおよそ1億人を超える。

 量産はまだ行われてはいないが、量産ラインは出来上がっていた。パーツはあるのだ。

 その“りんグ„のパーツを変える必要はない。改良型”りんグ„に必要なことは、プログラムの再構成だ。


 “りんグ„の研究はスバルくんの熱心な活動報告により、飛躍的に進んでいる。欠陥の指摘も使用者ならではの視点から貰えた。

 この1ヶ月で、“りんグ„のあらは洗い直せている。

 今日するべきは、愛情を力に変換するプロセスの見直しのみだ。


 欠陥を聞いた時にオレは閃いたんだ。

 これまでの“りんグ„は出力の向上に目を向けすぎていたのかもしれない。アプローチの方向性が間違っていたんだ。

 感情の全てを一瞬で力に変えるほどの変換スピードが、持続性と出力の最大値を抑え込んでいたのかもしれない。

 この力において、感情はまさにガソリンだ。エンジンの質ばかりに気を取られ、有限であるガソリンの循環性を阻害していたんだ。

 ならばどうすれば良いか。愛を力に変える事はこの研究の基盤だ。そこをいじることは出来ない。では、あえて失われていく感情を実感できるほどに変換のスピードを緩やかにするとどうだろうか。失われて行く事を実感した時、人はそれを更に感じる事が出来るのではないか。そして、新たなる感情が芽生えていくのでは無いか……。

 現状の“りんグ„の変換スピードではそれは難しい。ならばこその改良型“りんグ„だ。


 オレは早速作業に取り掛かる。

 こんなの簡単だ。今まで散々より強くするためにどうすれば良いのかと触れていた部分だからだ。


 数時間でオレの作業は終わった。あとは研究所にある製造ラインが、自動で試作の改良型“りんグ„を吐き出すのを待つだけだ——。

 ほっと一息つくと、辺りが騒がしいのに気付く。何かあったのだろうか。

 オレは研究所内の会話に耳をそばだてる。


「それは確定している情報なのか」「恐らく。いや、大量の勇者が凄いスピードで大移動をしているのは間違いない話です」「なぜなのかは、確定していないんだな、博士はあと一歩のところで改良型“りんグ„を完成させるんだ。避難するには根拠が足りん」「しかし……」


 なにやら不穏な話をしている。

 オレがその話がなんなのかをゴリさん達に聞きに行こうとすると、研究所のエレベーターから、ゴリ曽我部さんが大声をあげながら出て来た。


「確定情報です!現在、商店街に巨大なドラゴン型のモンスターが出現しています。ドラゴンは結界の一部を破壊して町に侵入して来たもよう。恐らくスバルくんの言っていたドラゴンでしょう!」

「結界が!?ゴリ曽我部さん、それは大変じゃないか!」


 オレが口を挟むとゴリ曽我部さんは続けてドラゴンの恐ろしさを語る。


「はい。ドラゴンは勇者達が50人で編成を組んでも討伐することは叶わず。それはおろか、50人の勇者が壊滅したと聞き、町の勇者達は現在ドラゴンから逃げるため、一般市民を置いて大移動を開始しています。現在位置が商店街ならここも近い。我々も避難しましょう!」

「そうだね……総員、逃げるよ!」


 オレがそう言うと、研究員達は各々の研究データを掻き集め始める。一分一秒を争うかもしれない現状でも、研究の成果だけは手放せないんだ。しかし、それも直ぐに終わる。一人また一人といなくなっていく研究所で、最後に準備が出来たのは、オレだった。


 改良型“りんグ„が出来上がるのを待っていたからだ。

 ……できた。

 ラインから吐き出されたできたてのそれを掴んで、オレも逃げるために急いだ。

 エレベーターに乗り込み、外へと出る廊下に辿り着くと、そこには蘭さんが待っていた。


「遅いぞ、博士」

「蘭さんこそ!早く逃げないと!」

「お前を待っていた。改良型“りんグ„を持ってでてくるお前を」


 蘭さんの目が怖い。ゆっくりと蘭さんが近づいてくる。

 間違いない。オレから改良型“りんグ„を奪い取る気だ。蘭さんは味方のはずなのに、なんで……。

 いや、蘭さんがこんな事をするのは何か事情があるはずだ。


「……蘭さん、オレに隠し事してるでしょ」

「いいからそれを渡せ」

「出口蘭研究員!上司命令だよ話して!」


 蘭さんの動きが一瞬止まる。でも、蘭さんはオレに近づくのはやめなかった。


「……悪いが今はそれも聞けん」


 ……やっぱり、蘭さんは味方だ。

 オレが上司命令だって言っても聞けないほどのなにかが、オレがこれを持っていることで起こるんだ。

 さっきゴリ曽我部さんの報告を聞いた時に、ふと頭をよぎった最悪の事態が実際に起きているんじゃないか。


 スバルくん、ドラゴンと戦ってるんじゃないか。


「蘭さん……お願いだよ。話して」


 オレは蘭さんにお願いをする。オレの身を案じてくれてるんじゃないか。オレの代わりになにか危険な事をしようとしているんじゃないか。オレの代わりに……。


 廊下を静寂が支配する。

 その時、外から轟音が鳴り響いた。床が激しく揺れる。俺の視線は、蘭さんから動かさなかった。

 蘭さんは観念したようにぽつりぽつりと話し出した。


「……ここで長話をするのも、危ないか……私の行動で、逆に察しが着いてしまったみたいだな。商店街からドラゴンが動かない。ドラゴンと戦っていた奴らがいた。清掃の勇者中吉くんだ。彼の側には、少年がもう一人いたらしい。そして、さっき最新の情報が流れてきた。中吉くんが、恐らく死んだ。ドラゴンは、無傷らしい」


 清掃の勇者くんと一緒にいる少年なんてスバルくんに決まってる。清掃の勇者くんの方が今のスバルくんより絶対に強いはずだ。

 やっぱり、清掃の勇者くんは死んだんだ……。清掃の勇者くんが先に死ぬってことは……。


 ◇


「俺、死のうと思ってた時期があったんです。それも、つい最近まで」


 そう言った清掃の勇者くんの話はよく覚えている。

 彼は、スバルくんがドラゴンの報告に来た次の日、研究所を訪れてたんだ。

荒岩中吉もドラゴンと戦うために準備をしていた

そしてその口から語られる彼の心情とは一体


次回『たとえどんな世界でも』

第2章 19話

研究の成果


“愛„の力が知りたければ次話も読め

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