閑話 神様のサポート〜瀬戸くんの場合〜その2
—瀬戸 蒼—
俺は異世界へとたどり着くと、その世界に歓喜した。
俺の来た異世界は、スポーツがうまい奴が偉い世界だったんだ。
そして、すぐに絶望することになった……。
◇
この異世界にはハラコウがあり、知っている奴らがちらほらと見つかる不思議な世界だったのだが、俺はハラコウに在籍していなかった。
ハラコウ野球部のキャプテンは、俺のはずだ。でも、この世界のハラコウ野球部のキャプテンは、副キャプテンだったはずの猿渡が務めていた。
しかもその猿渡の頭の上には、奇怪な文字が“表示„されている。
[ライバル!!こいつの所属してるチームを倒したらこの世界から出られます]と。
(猿渡程度がライバル?笑わせてくれる)
俺はスポーツが強いやつが偉いというこの世界のルールにのっとり、俺の在学を認めさせるため、そして、突然現れた雑魚のライバルを一蹴するために校内の紅白戦に無理やり参加した。
おれは活躍をしようとした。したのだが、俺の野球に対する天才的センスはその試合では発揮されなかった。グローブを持つと、バットを握ると、身体から力が抜けていく。
俺からふっかけた勝負だったのだが、ろくに活躍することもできない。
その不甲斐ない姿に猿渡にはゴミだのカスだの時間の無駄だの暴言を投げつけられまくった。
アイツ、ホームゲームなのを良いことにワザと何回かデッドボールを投げて来やがったし……。
そんなスポーツマンとして程度の低い激戦になった紅白戦だったが、俺は試合の途中で外されることになった。
試合の途中で、バットがすっぽ抜けてピッチャーの猿渡に当ててしまったことで、猿渡はそのまま医務室へと運ばれ、俺はそのまま追い出されたのだ。
(ちくしょう……水原が観ていると深層心理の俺は言っていたんだ。今この時も、水原左凪は俺の事を見ているはずなのに……それなのに……。情けねぇ……)
ハラコウから自宅へと帰る道すがら、俺は試合で力が抜けたことについて考えた。
野球は最高に好きだ。だからこそわかった。
おそらく俺は、この世界では野球をどれだけやっても上手くなる事は出来ない。
俺は野球を失った、と。
けれども俺の中に、甲子園の後から忘れかけていたスポーツに対する情熱が沸々と蘇って来るのがわかった。
野球が出来なくても、俺はこの世界に屈することなど無い。
(俺は、天才なんだから)
家のある場所に着いたのは良かったのだが、俺の家はそこには無かった。近所の人は変わらずいた。
俺の家が無いのはなぜなのか事情を近所の人に聞くと、どうやら俺はこの世界では死んだ存在らしい。両親は息子を亡くした事でこの土地を離れた、そういうことのようだ。
この世界で頼るものは何も無かった。身分を証明するものも無い。ついでに言えば財布も金もない。
しかし、この世界はスポーツができるやつが偉いんだ。
世界に、俺を認めさせてやる。
俺は家に着くまでの間に見た公園でサッカーをやっていた小学生くらいのガキどもの集団の所へ向かった。
俺の身体の感覚は変わってはいない。野球をやる時だけ、俺は力が出せなくなる。それだけなんだ。
俺はガキどもにサッカーで勝負を挑んだ。ルールは、鉄棒と滑り台をゴールとし、試合時間は10分間、俺は一人しかいなかったが相手はガキ、3対1で戦うことにした。
ガキには負けたら食料とサッカーボールを寄越すように要求した。強いやつが偉いなら、スポーツで負けたやつは勝ったやつの言うことをきくはずだと思ったのだが、案の定ガキはその条件を飲んだ。
野球ができなくてもいい。俺はスポーツマンだ。スポーツはなんだっていい、俺の身体能力を認めさせたかった。ガキどもからボールを手に入れることで野球からサッカーへの転向を図ろうとした。
もちろん俺も賭けるものを提示した。
俺が今履いている、メジャーの一流選手も履いているトレーニングシューズだ。
ガキどもは兄貴にいいプレゼントができたと喜んでいた。負けるつもりはないらしい……。
ボコボコにやられた。
今回の負けは言い訳出来ない。野球と違い不可思議な力は働かなかった。身体は確かに動いたのだが、野球とはまるで身体の動かし方が違うしボールの制御も出来なければ、相手からボールを奪うことも難しかったのだ。
しかもコイツら、サッカーを知らない俺でもわかるくらいめちゃくちゃ上手いのだ。このスポーツの世界では、ガキの頃からスポーツの英才教育を受けることが当たり前なのかもしれない。
こんなガキにすら自分が勝てないのだと理解してしまった。
俺は靴をガキに渡すことになったが代わりにガキどもに気に入られた。
サッカーボールはガキどもが公園にいる間は俺も使用していいことになった。
俺はガキどもとサッカーをしながら、夜は公園で過ごした。
2日経った頃ガキの一人、翔太が俺の異変に気付いた。俺はこの2日間、翔太達とサッカーのハードな練習をしながら、公園の水しか飲んでいなかった。
翔太はお母さんには内緒で、俺にお菓子を持ってきてくれる様になった。
(……俺は近所のノラ生物では無いんだが。いや、似たようなものか……)
気がつくと、翔太以外にも六利のやつも童子のやつも、坊やテツのやつまで、俺に食料を持ってきてくれるようになっていた。
俺はこの恩義に報いるため、夜の間もサッカーボールを転がし感覚を掴み、野球で培った身体の動かし方の中で活かせるところを探し、練習に明け暮れた——。
——1ヶ月の時が経ったころ、俺の足の皮は別人の様に硬くなっていた。
理由は簡単だ。
俺は、裸足のままだった。
1ヶ月の時の中で翔太達とだいぶまともな試合が出来るようになっていた俺は、ハラコウに再戦を申し込みに行った。競技はもちろんサッカーだ。
俺は、チームの足を引っ張ってしまっていただろう。しかし、今度の試合ではチームから途中で外される事は無かった。試合終了間近まで、俺は裸足で駆けた。
諦めなかった俺にシュートチャンスが回ってきた。俺の渾身のシュートはゴールポストのギリギリのラインを飛んで行ったが、シュートコースが狭められていたそのシュートは、キーパーに止められてしまった。
また、ダメだった。
俺が帰ろうとすると、監督が俺に声をかけてくれた。
「おまえは、この試合で誰よりも熱があった。お前を我が校の生徒として受け入れよう」
俺は監督の養子となり、寮に住むことになった。
ハラコウには寮なんてなかったはずなんだが、なんとこのスポーツの世界では全国から優秀な学生を取りに行くのは学校として当然のことであり、学生寮の無い高校なんて無いらしい。
俺は学生寮で1ヶ月振りに風呂へと入った。
そこから俺はハラコウサッカー部に入部し、練習を続けた。この世界のハラコウサッカー部は全国大会の常連であり、俺は入部して1年も経たないうち全国大会に行く事になった。
俺はまだチームのスタティングメンバーにもなれていない。
しかし、全国大会だ。スポーツで上を目指す者として燃えないわけがない。
チームの誰よりもサッカーが下手な俺は、ひたすらにサッカーボールと生活を続けて上手くなろうとしていった——。
忘れないで欲しいのはこの物語の主人公は内海昴と水原左凪なのだ
しかし次回も瀬戸蒼は走り続ける
スポーツに打ち込む彼はカッコいいのだ
次回『たとえどんな世界でも』
閑話 神様のサポート〜瀬戸くんの場合〜その3
どうでも良い真面目な話10割でお送りします




