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たとえどんな世界でも  作者: 進藤 真道
第2章 付き合う為に剣を振れって!?……俺の努力は正しいの?
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第15話 丸井博士と内海くん

 先生に無理やり乗せられたエレベーターの扉が開くと、丸井さんの部屋に着いた。彼女の後ろ姿が見える。


 エレベーターの扉が閉まり、パソコンの明かりのみになった部屋にはキーボードの音だけが響いている。

 エレベーターは無音じゃない、でも丸井さんは無言だ。

 誰かが入ってきたことに気が付いていないのだろうか。

 俺は報告に来ただけなのだが、丸井さんを見ているとなんでかイジりたくなってきた……。これがクラスのマスコットの魔力だろうか。


 思い付いたら、事は慎重に運ばなくてはならないな。

 俺は丸井さんのすぐ後ろに立つ。まだ丸井さんは気が付かない。

 俺は丸井さんに話しかける事なく、その背後に立ち続けた。丸井さんが気が付いた時にビックリしてくれるだろうなと思ったのだ。

 彼女の反応は和む。どんな事に対しても全力で対応するのだ。

 ここに始めて来た時、出口先生と話していた丸井さんは面白かった。


 ……部屋には、キーボードを叩く音がいつまでも響き続けた。俺の期待した反応はないままだ。

 俺が入って来てから何分経っただろうか。

 丸井さんは時々頭を掻きむしったりため息を吐いたりはするのだが、全く俺には気付かなかった。

 作業に集中しきっているんだ。


 俺と丸井さんは、元の世界では全く接点がなかった。

 しかし彼女は人気者だったし、そんな俺の目にだって、丸井さんの姿が映る事は良くあった。

 だが、こんなに集中して作業をしている彼女は、俺の記憶の中にはいない……。


 確かに彼女には休みが必要なのかもしれない。

 俺はそんな集中している彼女の作業を邪魔しないように、なるべく驚かせないように話しかけた。


「あのー、丸井さん。俺“りんグ„の事で気になることがあって、その報告に来たんだけど……」

「うわぁぅお!えっ?えっ?いつ入って来たの!えっ?スバルくん!?」


 本当にこの子は……。

 驚かせようと思ったら驚かないのに、驚かせないように気を付けたら驚くんだもんなぁ。

 俺は丸井さんのお陰で大笑いしていた。


「え、え、なんか面白いことあったの?何かいいことあった?」


 彼女にとっては突然俺が現れたのだ。彼女は戸惑っているし見当違いな事を言っている。しかし、これまで真剣な彼女の姿を見ていた俺は、笑っては悪いと精一杯取り繕うが笑いをこらえきれなかった。


「……い、いや、何でもないんだ」


 このまま話してはまずい、と俺は気持ちを切り替えて話を続ける。


「丸井さん、“りんグ„について話したい事があるんだけど、せっかくだから外に行ってはなさないか」

「外かぁ。——じゃあオレ、実戦が見たい!報告は道中で聞くよ」


 意外とすんなりと丸井さんは外に出てくれるみたいだ。でも、実戦って……。

 丸井さんは奇跡の力の研究はしている無能力者のはずだ。

 危険なのに……やっぱり頭の中は研究でいっぱいなのかな。


 ◇


 俺と丸井さんは中吉の家から一番近い結界の前まで来ていた。

 ここまでの道中で“りんグ„の欠陥について話したが、先生の時同様楽しい話にはならなかった。「じゃあ、オレがゴリ山さんを殺したようなものだね……無能力者を守りたくてこの力の研究をしてきたのに」と丸井さんが言った時には、胸が締めつけられる思いだった。


「じゃあ丸井さんはここで待ってて」

「結界から出ないこと、私は見てるだけ、だね」


 結界を一歩出ればそこはモンスターの世界だ。力の無い丸井さんを連れて行くことは出来ない。

 俺は、丸井さんと約束をして結界の外へと出た。


「友愛」


 俺は結界の外へ出てモンスターを探しに行く。

 数分探したところで奴はいた。

 蜘蛛だ。


 俺は人の姿程の蜘蛛へと、足元に転がっていた石を投げつける。

 蜘蛛はこちらへと振り向き鳴き声をあげると、6本の脚を気持ち悪く動かしながら俺の方へと向かってくる。

 俺は身をかえし結界の近くまで走った。今の俺が全力で走れば蜘蛛を撒くことは出来る。でも、今回は撒いちゃダメだ。丸井さんにこの戦いを見せなければならない。付かず離れずの距離を保ちながら逃げるのはこれが初めてだ。


 蜘蛛は追いかけながら口から糸を噴射してくる。

 でも俺は距離を離しているのに全力で走ってもいないのだ。俺は後ろを確認しながら蜘蛛が糸を噴射してくるタイミングを見極め、それを避けながら逃げることが出来た。


 歩けば数分の距離も走れば1分もかからない。結界のすぐそばまで来た俺は本気で蜘蛛の周りを走る。

 蜘蛛は糸を所構わず噴射している。俺の姿を見失ったから、俺への牽制をしているつもりなんだろう。

 俺は辺りに糸を撒き散らしている蜘蛛の背後で、ゆっくりとア・モーレを一振りする。

 蜘蛛は、身体を真っ二つにされてもしばらくの間は脚を動かしていたが、やがて動かなくなる。


「……え、もうおわり?」


 丸井さんが結界の中で呆然ぼうぜんとしている。丸井さんは研究者で、研究室で過ごしている。モンスターとの戦いを見るのも初めてだと言っていた。

 丸井さんが想像してたモンスターとの戦いと、イメージと違ったのかな?

 君が見たいって言ったから連れてきたのに……もっと長い死闘でもして欲しかったのだろうか。

 俺が丸井さんの一言にイライラとしていると丸井さんがなぜ呆然としていたのかがわかった。


「速すぎて何も見えなかったよ!スバルくんはいったい何をしてたの!」


 なんだ、この世界に来たての俺と同じだ。さっきのがあまり見えてなかったのか。って事は今のは驚いていただけか。

 俺は丸井さんの呆然としていた理由がわかると、めんどくさいのだが今何をしていたのかを説明することにした。


 結界内に入り“りんグ„の力を解除すると、俺は丸井さんに今どんな事をしていたのかを身振り手振りを使って説明する。

 俺の行動と説明の一言一言に、丸井さんは驚き、感嘆の声を上げた。

 説明は楽しかった。


「——でね、そこの瓦礫の陰からあそこの瓦礫までこう隠れながら大きく回ってね、蜘蛛に見つからないように後ろに立てたから——」

「——そっか」

「丸井さん、どうしたの?」


 俺が身体を動かしながら説明をしていると、それまでテンションの高かった丸井さんが突然うつむき出した。


「今の一瞬でそんな事が出来てたんだよね。……“りんグ„は、ちゃんとスバルくんの力になってるんだね……。俺の研究は、むだじゃないんだよね」


 丸井さんはうつむきながら続ける。


「……オレね。“りんグ„は未完成品だから、それが外に出回ったら危ないからって、改良型“りんグ„の試作機を、失敗作品をたくさん作るのが怖かったんだ……。でも、ちゃんとスバルくんの力になってた!オレは嬉しい!」


 丸井さんはそう言い切ると、鼻をすすった後、顔を上げニコニコと笑っていた。


「よーし、すごくやる気出た!凄いことしてるスバルくんも見れたし、笑ってるスバルくんも見れたし、すっごい良かった!」


 ……丸井さんは、心配だったんだ。欠陥が見つかったと聞き、研究に疑問を持ってたんだ。ゴリ山のこともある。彼女は自分の研究の結果を、誰よりも信じられてなかったんだ。

 丸井さんには頼りっぱなしだ。でも、そんな俺でも丸井さんの研究は間違ってないって、彼女に証明する力になれた。俺はそう感じると嬉しくなり、一緒に笑顔になった。


「帰ったらすぐ改良版“りんグ„を本格的に作り始めるよ!感情が力に変換されきってるかも知れないんだよね。そこら辺もあるから、今日すぐにできるって訳じゃないけど、この1ヶ月の間、馬鹿みたいに構想を練ったんだ。すぐに作り上げてみせるさ、任せて!!」

「あぁ、ありがと丸井さん。丸井さんの研究のおかげで俺は戦える様になってるよ。……でも、俺にはもう少し力が必要なんだ。改良型“りんグ„楽しみにしてる!」


 丸井さんの研究結果は素晴らしいものだ。だけど、今の俺の力じゃドラゴンには勝てない。

 丸井さんの研究に頼るしかない自分が情けない。


「……スバルくん。——そっか、スバルくんはより強い力が……そうだったね。ね、ね、スバルくんは恋愛で“りんグ„を起動出来るように、なった?」


 恋愛は研究所で使ったきりで、この1ヶ月は試していない。でもあの時は分からなかったが、今ならわかる。

 この起動キーを使用した時、俺は水原への愛しさを失っていたんだ。何のために戦うのかが分からなくなり、気持ち悪くなったんだ。

 今ならそうなるとわかっていて使える。心の準備が出来る。


「……うん。使えると思うよ」


 俺は丸井さんの前で“りんグ„を起動した。


「恋愛」


 俺の身体に力が溢れてくる。

 大丈夫だ。俺は水原が好き。俺は水原が好き。俺は水原が好き。

 失われていく感情に対抗するべく、俺は心の中で念じ続ける。

 ……よし、大丈夫だ。

 俺は自分の芯を見失っていない。

 丸井さんは恋愛を使って倒れない俺を見て、感激してるようだ。


「スゴい……本当に使えるようになったんだね!ね、ね、スバルくん。オレのこと好き?」


 突然の丸井さんの質問に俺は慌てふためいてたと思う。

 丸井さんは可愛いし、一緒にいて面白い。嫌いじゃない……よな。うん。

 でも、俺は質問の意味はわからないけど、丸井さんがここで意味のない事はしないと思い直し、しっかりと答えた。


「えっと……うん。好きだよ」

「……そっか。ありがと……。なら、オレのことをもっと愛してくれ!“りんグ„は愛を力にするんだから、俺をもっと愛してくれたら、スバルくんはもっと強くなるよ!あっ、もう解除していいよ」


 俺が好きだと伝えると、丸井さんは寂しそうな顔になったけど、すぐに笑顔を取り戻した。

 俺は言われるまま力を解除した……。

 何だったんだ今の?


「ほら、オレもスバルくんのために改良型“りんグ„急いでつくらなきゃだし、帰ろ、スバルくん」

「……え、うん」


 本当に何だったんだろうか。

 でも、そうだよな。恋愛の謎は溶けたんだ。改良型“りんグ„が出来れば俺はもっと強くなれる。

 この愛が力になるなら、俺はもっと水原のどこが好きなのか、それを改良型“りんグ„ができる間に見つめなおすのもいいかもしれない。


 俺はもっと強くなれるかもしれない。その思いが膨らみ、明日はどう特訓をしようかなどを考えていると、丸井さんを研究所まで送り届けて帰るのはあっという間だった。


 —丸井博士—


 丸井博士の研究室


 “愛„は“力„だ。

 それが恋愛なら、恋愛を使えるようになったスバルくんなら、彼はより強くなれる。

 恋愛の力は無限大、友愛よりも強い力が産まれることでしょう……か。


「……欠陥があるんでしょ。……恋愛で“りんグ„起動してるのに、俺のこと好きって言うんだもんなぁ……。あーあ。オレじゃ、スバルくんのより強い力になれなかったかぁ……」


 キーボードの音すらしていない無音の研究室に、その言葉はよく響いた。

丸井有子は振られた

間接的にだが内海昴の心に自分がいない事に気付いた

しかし丸井有子には相応しい相手がちゃんといる

馬鹿だけど彼は熱血なのだ


次回『たとえどんな世界でも』

閑話 神様のサポート〜瀬戸くんの場合〜その2


どうでも良い話が9割だが1割真面目でお送りします

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