第14話 出口先生と内海くん
「エエヤ♪エーエヤ♪エーエ♪エーエヤ♪」
あれから1ヶ月、あのドラゴンとはその後出会う事なく、ドラゴンはあれ以来、近隣で見かけられたという情報も聞かない。
俺は特訓に明け暮れていた。
俺はアレを倒さなければならないのだ。
この1ヶ月は、積極的に結界の外へ行き、モンスターとの実戦も行なっている。モンスターとの戦いはもう怖くはない。
でも、アレの重圧に比べれば蛇もバッタも何もかもが雑魚だろ。
こんなやつらと戦っていて、俺はアレに勝てる様になるのだろうか……そもそも、アレを倒す事と水原と付き合えることに何の因果関係があると言うのか。
俺は天を仰ぎ、神様の事を思い浮かべながら、頭の中で神様に話しかける。
神様、俺間違いなく水原の事は好きです。水原と付き合えなくなるかもしれないと思ったら、ギブアップもせずにここまでやってこれてます……でも、最近はこの世界のために頑張っている丸井さんや、俺のために頑張ってる中吉のために俺も頑張ろうって考える様にもなってきました……これ、本当に水原と付き合うために必要な試練なんでしょうか……
俺は、神に祈るほどスランプに陥っていた。弱音が吐きたかった。
最近では、モンスターとも戦える様になってきたのに、全然俺がアレに勝てる未来が見えて来ない。
特訓においては、舟歌のリズムも音程も完璧になっていた。声もこの一ヶ月で響きが良くなって来ている……しかし、何か足りないのだ。
俺は、本当に強くなっているのだろうか……。
◇
ドラゴンが去った後、研究所から帰ると、俺は中吉にアレは俺の倒すべき相手の一つだったと告げていた。
それからの中吉は、自分の特訓に力を入れる様になっていた。ドラゴンを見た次の日から、中吉の家の掃除は全て俺に任されている。
魔王に比べたらあんなやつ、楽勝だと息巻いていた。全力の力が出せないのが、ちょっとつらいかもしれないけどなと言っていた中吉は、顔が笑っていても声は笑っていなかった。
覚悟を決めた男の笑い顔だと思った。
こいつは、俺と一緒にアレと戦ってくれるつもりだ。
俺だって、中吉に頼ってばかりではいられない。俺は更に強くなるため、頻回に研究所を訪れ、“りんグ„のメンテナンスをしてもらい、少しでも“りんグ„の改良に役立ててもらうため、実戦の報告を行う様になっていた。
研究所に俺が出向くと、迎えてくれたのは先生だった。
「やあスバルくん、最近は熱心に来てくれてるね」
「俺は、強くなりたいんです。それに、定期的な報告は被験者の義務でしょう?」
俺がそう言うと、先生は真剣な顔つきになる。
「そうか、いつもすまないねスバルくん……そんな君にご褒美をあげよう!どうだい、今から私とデートでもしないか!」
真剣な顔で何言ってんだこの先生は……。
俺はその話を流して今日の報告を行った。先生は「つれないねぇ」なんて言っていたが、あれは、冗談だろ。
今日の報告が終わったが、この1ヶ月で俺は、“りんグ„を使った実戦の中で気になる点が出て来ていた。
「そうか、“りんグ„を使っている時は、中吉君のことが煩わしく感じるようになる、か」
先生は顎に手を当て、俺の話を聞きながら何かを考えている様だ。
しばらくの間沈黙が続いたが、先生は何かに気が付いたのか顎に当てた手を外し、俺に向き直り話し出した。
「これは、丸井博士の言葉じゃなくて、あくまで私の見解なんだけどね。愛を力に変換している“りんグ„は、もしかして、その感情をも力に変えてしまっているんじゃないだろうか」
「どういうことですか、先生」
「君は今、“りんグ„を使う際、中吉くんとの友情を力に変えている。それを言葉のまま取ると、そういう結果も生まれうるんじゃないかと、思ったんだよ……」
成る程、もしそれが本当なら重大な欠陥だ。
“りんグ„はまだ未完成品、もしこのままの形で無能力者達に配れば……。
こんな世界だ、無能力者達に厳しい世界だ。
隣人は殆どが勇者、そんな中で無能力者達は対等な生活が送れるだろうか?
俺はこちらに来てすぐにゴブリンズ達を怒らせた。その時には命の危険を感じたんだ。
隣人に怒ることも、怒らせることもできない。対等な関係なんて作れるわけがない。媚びへつらって生きているかもしれない。
無能力者達は、そんな生活の中で複数のものに愛しさを注げるだろうか、なにかを愛する感情は、その心には唯一のこっている心の支えかも知れない。
そんなものを、力を使っている間は失う可能性が今の“りんグ„にはある。
戦いの中で世界に絶望することもあるのかも知れない……。
「そうか……もしかしてゴリ山は、力に溺れたんじゃなくて。力を使い過ぎて、戦いの中での感情に引っ張られ過ぎた?そして、心の支えを失ったのかも知れないな」
俺がそう呟くと、先生は悲しそうな顔をしていた。
「いい意見が聞けた。ありがとうスバルくん……スバルくん、この報告なんだが、改良型“りんグ„の研究に活かせる様、博士には君からしてもらえないか?博士は今、部屋にいる」
「俺が?丸井さんは忙しいんじゃないですか?俺より先生の方が——」
「いや、君が行ってきてくれ。博士はここ一ヶ月、研究室に篭りっぱなしなんだ。インターホンの対応も我々に任せ、報告以外の話も聞く耳持たなくってね……報告するついでに、外にでも出してやってくれないか?今の博士には、休みは必要だ。同年代の君と外に出る方が、博士も気が休まるだろう」
俺が言って、そんなに集中している丸井さんが外に出るのだろうか。
しかし、先生は有無も言わさず俺の背中をエレベーターまで押していく。
俺は断ることが出来なかった。
そのまま俺は研究室を出て、丸井さんのいる部屋へと向かった。
————————
——————
——……。
「行ったか……。博士もスバルくんもまだ子供だ……君達は結果を急ぎ過ぎている。力に対して、思いつめ過ぎている……。スバルくん、君にも休息が必要なはずだよ」
これはデートフラグじゃないか
ラブコメらしさを取り戻す『たとえどんな世界でも』
そうなんですこの話ラブコメのつもりで書いてるんです
次回『たとえどんな世界でも』
第2章 15話
丸井博士と内海くん
“愛„の力が知りたければ次話も読め




