第13話 恋愛
アレが、中ボスって……。
俺はドラゴンがいなくなってから中吉の家で困惑していた。
中吉は結界を壊す恐れのあるモンスターが出た事を、結界を管理しているこの町の役場に報告しに行っている。
一人になると俺の中のネガティブな思考が顔を出す。
絶望的だ。勝てる気が全くしなかった。今の俺じゃダメなんだ。中ボスでアレってことは、ボスのおっさんはもしかして更に強いのかよ。
何か手段があるのか。いや、何があれば俺はアレに勝てるようになるってんだよ……。
そんな絶望の中、俺の頭に一筋の光明が差した。
神様が、絶対に勝てないような相手をボスに指名することがあるだろうか。
そう思えば、アレに絶対勝てない、なんて事は無いような気がする。
何か、何かがあれば、俺はアレと戦えるようになるのかもしれない。
俺はその何かを探すため、研究所へと向かった。
俺の力は研究所から貰ったものだ。“りんグ„は未完成だと言っていた。この力には、まだまだ先があるはずなんだ。
「失礼します。内海昴です」
「おお、スバルくん!どした?」
研究所に着き、インターホンを押すと丸井さんの声が出迎えてくれた。
「俺が倒さなきゃいけない相手の事が少しわかったので、その報告に来ました」
「そっか、おっけー。開けるから入って、オレ今、部屋じゃなくてみんなと一緒に研究所にいるからそこに来て」
丸井さんは自分の部屋を研究室、入り口の廊下の下にすぐ見える施設を研究所と呼び分けている。
俺は丸井さんのもとへと向かった。
◇
「結界を壊せるほどの力を持ったドラゴンか」
「ええ。ですから、俺は今以上の力が必要です。これ以上の強さを手に入れるには、俺はどうしたらいいんでしょうか……教えて下さい!」
俺がドラゴンについて報告すると、丸井さんは黙ってしまった。
俺には、これ以上の力は望めないのだろうか。厳しいのだろうか。
俺は、やはりアレに勝つことなど……。
一筋の光明が差したと期待して来た研究所で、俺は再び悲観的な思考に囚われようとしていた。
その時、黙っていた丸井さんがその重い口を開いた。
「……“りんグ„を改良する案は出てるんだよ。でも、それはまだ試作機すら出来てないんだよ、スバルくん」
俺は明日にもあのドラゴンと戦うかもしれないのだ。改良型の“りんグ„その構想はあるが、まだ着手出来てない。
そんないつ出来上がるかわからないもの、待つ事は出来ない。
「いや、彼をすぐに強くする方法ならありますよ、博士。起動キーを変えればいいんです。恋愛に」
助言は意外なところから出てきた。ゴリ曽我部だ。しかし、その助言は丸井さんによってすぐ否定されてしまう。
「恋愛……。何を言ってるんだよゴリ曽我部さん!恋愛は、ゴリ山さんが使っていた起動キーだよ!スバルくんになにか副作用でもあったら——」
「——恋愛の力は無限大、友愛よりも強い力が産まれることでしょう。これは、私が現代文の研究の中から導き出した。現代の愛情の真理です」
そうか、起動キーの変更……。
俺は最初に使った起動キーが友愛だったことから“りんグ„を友愛で起動させることが当たり前になっていた。だが、この“りんグ„に着いている赤い石は愛情の種類を限定するだけのもので、友愛のみに起動キーを縛っているわけじゃないんだ。
愛の強さが力の強さなら、俺の水原への想いを力にすれば——。
「スバルくんは、友愛でも勇者並みの力があるんだ!友達のことを、そこまで思える凄い人なんだ!そんなカッコいい心があるんだ!そんな危険、犯す必要ないんだ!!」
丸井さんは何か言っているが、俺は話を聞かず、恋愛で“りんグ„起動した。
「恋愛」
俺の身体には、友愛での起動以上の力がみなぎってくる。
確かにこれは、凄い。
だが、なんなんだろう。この気持ち悪さは……。
間違いなく俺はちゃんと立っているのに、足元が安定しない。身体から一本芯が無くなったような気持ち悪さだ。
「——スバルくん!」
丸井さんが心配そうな声で俺の名を呼ぶが、こんな感覚に俺は対抗できない。
俺はその場で膝をつく。
俺は、何のためにこんな訳の分からない世界にいるんだ?
「スバルくん!大丈夫!」
ア・モーレを掴まなかったからだろうか“りんグ„の力は自然と解除され、俺の胸は軽くなった。
足場は……ちゃんとある。
さっきまでの気持ち悪さが一瞬で引いていく感覚に、俺は安堵する。
何だったのかはわからないが、あの感覚はダメだ。
胸にポッカリと穴が空くようなあの感覚の中で、人が戦える訳が無い。
丸井さんは俺の隣で……怯えている?
「丸井さん、俺は大丈夫だよ」
「スバルくん!……良かった、良かった!」
丸井さんを心配させてしまった。
俺は、この力以外で強くならなくちゃならないのかもしれない。でも力は確かに友愛以上に感じたのだ。何か糸口が見つかれば……せめて、なぜこんな感覚になるかがわかれば……。
いつか、絶対に使いこなせるようになってやる。
「……心配かけちゃったみたいだね。この力は使えると確信しないと使わないことにするよ……でも、いつか絶対に使えるようになってみせる」
「うん、うん……オレも研究がんばるよ。スバルくんを危険な目に合わせないように、がんばるよ……」
丸井さんは安心したようで、よりいっそう研究に力を入れてくれると約束してくれた。
ゴリ曽我部は安易なことを言って俺を危険な目に合わせたと、丸井さんに減給を言い渡されそうだったのだが……俺の行動こそが安易だったと減給は勘弁してもらった。
丸井さんとの間にたった俺を、ゴリ曽我部はキラキラした目で見ていた。
やめろ。そんな目で見るな!
新たな力は危険すぎる力だった
焦りが拭えない内海昴
彼は特訓に打ち込み続ける
そんな彼を見て出口蘭はある提案を持ちかける
次回『たとえどんな世界でも』
第2章 14話
出口先生と内海くん
“愛„の力が知りたければ次話も読め




