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たとえどんな世界でも  作者: 進藤 真道
第1章 努力するとは決めたんだけど、一体何すりゃいいんだろ?
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第1話 9月1日/消えた水原

 –内海 昴–


「みんな静かにしろー。……よし。夏休みにみんなは頑張る事が出来ただろうか。これからの時期は受験のラストスパートだ。しっかりと自分に勝って勉強に打ち込んでいくんだぞ。ただし、夏休みに頑張りすぎて今日は丸井のやつが風邪をひいて休んだみたいだ。みんなも頑張るのはいいが、程々にな。こんを詰めすぎないように、だけどしっかりやるんだぞ」


 教室では担任の出口でぐち らん先生が何事も無いようにHRを始めていく。

 隣の席は何度見ても空席だ。


 あれ、俺の想い人みずはらさなぎは?

 休んだ生徒の話が出てるんだから、ここは水原の話も出るところじゃないのか。


 俺の思いは先生に伝わる事は無かった。

 その後も出口先生の話は続いたが水原の話が出る雰囲気はなく、受験対策のありがたいお言葉が続いた。

 俺には先生の話が、ありがたい受験対策のお言葉が耳に残る事は無く。ぽかんと空いている隣の席が気になって仕方がなかった。


 遅刻、病気、転校か。いや、もしかしたら事故!?

 なんで先生は水原の事を話してくれないんだろう。そんな事を真面目に考えていたんだ。先生の話が耳に入ってくるはずがなかった。

 どうしたんだろう、水原……。


 ◇


 今日の授業が全て終わっても、水原が登校してくる事はなかった。水原の身に起こっている事は遅刻ではなさそうだ。

 しかし、夏休み明けの日にクラスメイトが一人休んでいるんだ。教室内で誰か一人くらいは「水原さんどうしたんだろうな」とか話題を出してもいいだろう。

 俺が耳にしていないだけなのかもしれないが、今日1日聞こえてきた話題の中に水原の話は全く出ていなかった。


 そのかわり、教室内では瀬戸蒼せとそうとやらの話題がチラホラと聞こえてきた。普段なら特に気にすることもない話題なのだがその内容が少しおかしい。

 この夏の学校のヒーロー、甲子園への立役者で野球部のキャプテン瀬戸蒼と。


 今年の夏は学校側が初の甲子園だと張り切り、全校生徒を強制でバスに乗せてわざわざ球場まで行った。

 俺は興味もない野球を炎天下の中で見させられた。

 あの頃から女子の中では野球部員の話題(カッコいいとか付き合いたいだとか)と言うのは良く出るようになってたのだが、キャプテンの瀬戸……そんな奴は記憶にはいない。

 キャプテンなら地元新聞ではでかでかと取り上げられただろう。


 あんなに話題になってるのに覚えてないってことあるか?んー、そんな奴いたかなぁ。

 そんな不可思議な気持ちになっていると女子達の話が気になってくる。聞き耳を立てて女子の話の続きを聞いてみる。


「瀬戸君、学校に来てないらしいよ。で、先生になんで瀬戸君が来てないのかを聞きに言った子がいたらしいんだけど、先生がおかしくなってるって言うのよ。なんでも、先生『瀬戸って誰だ、今日は誰も休んでない』なんて言ったらしいわよ」


 その話が聞こえてきて、頭には雷が落ちたかの様な衝撃が走る。


 そうか、生徒が休んだ理由が気になるなら担任の先生に何があったのかを聞きに行けばいいんだ!


 俺は夏休みの最中、偶然起きたイベントで恋をした。水原とは何か予定を立てるように親しい訳じゃ無い。

 だからこそ、夏休みの最中に水原とあう予定など全くなかった。

 夏休みが明けるこの時を数日前から楽しみにしていたんだ。

 朝から水原の事を考えてた。

 今日を1日中悶々と過ごし、事故だ転校だと最悪の事態まで考えてしまっていた。

 兎にも角にも水原に何があったのかを知りたくって、いても立ってもいられない。

 好きな子が休んだ理由を先生に聞きに行くなんて、普段なら絶対にしない。


 でも、何でもやってみるって決めたんだ!

 汚名上等!

 男は、バカで、勢いで動くくらいがカッコイイって、小さい頃から読んでる少年マンガの主人公達が証明してんだ!


 勢いに任せて行動したらぁ!


 100%勢いに任せ、職員室にいる出口先生のところへ来た。


「失礼します。出口先生はおられますか!」

「どうした内海、お前って無気力なタイプの人間だったろ!?そんなお前からは想像出来ないほど凄い気迫を感じるんだが……」


 先生に酷いことを言われた。でも、そんな事で怯むような事は全く無い。


「先生、俺は夏休みに無気力系を捨てています。それよりも今日クラスの生徒が休んでいましたよね。でも彼女の話を先生はまったくしなくって……彼女、重い病気かなにかなんですかね!?」

「……クラスメイトのことが気になって、その気迫を。ははぁ、お前恋でもしたか?」


 先生にイジられた。でも、今の俺ならそんな事で怯むような事は……あまり無い!


「お、俺の事はいいじゃないですか、それよりもどうなんです。彼女はなんで休んだんでしょうか」

「この時期にそんな真剣になるなんて、よっぽどの想いみたいだな。ま、いいだろ。教えてやる。今日休んだ生徒だったよな、つまり丸井の事か……私の話が聞こえないくらい休んでることが気になってしょうがなかったのか。私はちゃんと話したぞ。重症だな……」


 先生に勘違いされた。

 勢いで職員室に来て、勢いで会話していた。先生との会話で水原の名前も出し忘れていた。


 それにしても、とんでもない事言うなこの先生。

 俺があの丸井さんを好き?

 あの子はクラスでも特に熱狂的な◯◯ファンだ……あれ、◯◯って誰だっけか……確か、あの子が熱狂して好きな男子が同級生にいたはずなんだけど思い出せない。


 丸井さんは身長の高いオレっ娘だ。

 見た目はしっかりしてるし、学力も高く、テストではいつも100点を取る。

 頭も良いし、見た目はしっかりしてるのに、本当は全然しっかりしてなくて天然が入ってる。

 そのしっかりした外見ととぼけた内面のギャップでクラスのマスコット的な地位にいて、男女問わず人気がある子だ。


「……いや、先生そっちじゃ無くて、丸井さんの事なら俺もちゃんと聞いてましたよ。水原ですよ、水原左凪!」


 いくら人気でも、好きな男子がいると大きな声で公言している女子のことを好きにならない。


 まぁ、丸井さんは可愛いとは思うけど……お、俺は水原が好きなんじゃい!

 って、そんな場合じゃないよ。そうだよ水原だよ水原!


 無言である先生へと目を向けると、出口先生は先程までのにやにやと笑いながら俺をイジっていた顔とは打って変わって、ぽかんとしている。

 その口からは、ウチのクラスの担任とは思えない様な、信じられない言葉を口にした。


「ミズハラサナギ……誰だそれ。うちのクラスで今日休んだのは、丸井だけだぞ?」

見事不思議体験を経験した内海昴

彼は不思議体験を受け入れられず、これが夢である事に期待する

丸井さんに出口蘭先生、今回も新キャラ目白押しだが、次回も新キャラが登場する


次回『たとえどんな世界でも』

第2話 9月2日/失恋……そして!?


《原色高等学校幻の八不思議》

次回を読まない生徒は、幸せになれない

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