第11話 内海昴は観られていた その2
その次に内海くんに会ったのは、夏休みが明けてから……私が始業式をすっぽかして登校した、あの日だ。
その日は、本当に色々な事があった。
まず、始業式をすっぽかしたのは大問題だし。その日の朝はなんと、あの甲子園出場の立役者、野球部キャプテンの瀬戸くんに告白されたのだ。
瀬戸くんの事はよくわからないんだけど、彼は告白する相手を間違えている気がしてならなかった。
それから、いつもなら内海くんは授業中ぼーっと過ごしているのに、その日は違った。
彼は授業中も真剣にノートを書いている。
本当にどうしたんだろうと気になっていたのだが、その理由は放課後にすぐわかることになった。
放課後は私が先生に無断欠席をした事を謝りに行き、ついでに進路相談も済ませてから家に帰った。
帰る途中で喉が渇いて、私はコンビニで水を買った。
買い物を済ませてコンビニを出ると、コンビニの裏手側から内海くんの笑い声が聞こえてきた。気になった私はコンビニの裏手を覗き込む。
内海くんと……丸井さん?
二人は地面に座りながら楽しそうに笑っていた。
私は二人に話しかけず家に帰った。
その日の勉強は、進みが遅かった。
◇
次の日の朝、内海くんは丸井さんと仲よさそうに挨拶を済ませながら教室に入ってきた。
挨拶は簡単なものだったが、クラスの気をすごく引いているようだ。あっという間に丸井さんの周りを女子が囲み混んでいる。
そんな中、内海くんがこっちに来る。席がこちらの方にあるのだから当然だ。
それなのに、内海くんが自分の席に向かって来ているだけなのに、私は少しだけ焦っていた。なぜだかはわからないが、私は少し悲しい表情をしていた気がする。しかし、私は取り繕うように、この場にあった表情を作らねばと、咄嗟にニヤニヤとした表情を作る。
すると、彼は私にも挨拶をしてきた。
「えーと、水原さん、あのー、おはよ!」
やっぱり彼は変わっていた。前までの彼なら私に挨拶するなんて考えられない。
昨日の事で何となくわかってたけど、内海くんが最近変わったのって、丸井さんが関係してたんだ。
そう考えると全てが納得出来るのだ。
それにしても、丸井さんとの話し方と私との話し方……全然違うじゃん……このやろ。
私は急いで作ったその顔で、テンションを上げながら彼をイジる。
「おはよ。いやー、内海くんって丸井さんと仲がいいんだねぇ。昨日偶然二人で笑いあってる姿みちゃったよ」
「いや、違くて!そうじゃなくて!」
彼は恥ずかしいのか必死になって否定してくる。そんな時、丸井さんの方から大きな声が聞こえてきた。
「オレは1つの愛に生きてるんです!浮気なんてしません!」
そっか、そう言えば丸井さんって、前まで瀬戸くんが好きだって言ってたんだけ……周りの女子達に「瀬戸はどうした!」「心は二股か?」とかイジられちゃったのかな?
こんなところで愛を叫ぶことになるなんて……ご愁傷様です。
丸井さんはあんなにしっかりとクラス中に公言しているのだ。目の前の男は器が小さい。
「……内海くーん?彼女があそこまで言ってて言い訳とは情けないぞ?」
「……えぇ!!いや!あの……」
今までの彼では考えられないほどうろたえている。照れて言葉が出なくなる程うろたえるのも、一種の愛の表現だろうか。
丸井さん……愛されてるなぁ。
私の口から言葉がスルスルと出てきた。
「照れない照れない。いやー初々しいねぇ。っと、先生来たよ」
授業が始まった。今日の授業では彼の事を見ないようにしようと思った。そう言えば、私は結構彼の事を見ていたんだなと気付いた。
一限目が終わると彼は友達に呼ばれていなくなったかと思うと、私の所に来て一緒に移動教室に行かないかと誘ってきた。
断る理由もなかったので一緒に行く事になったのだが、渡り廊下に出るまで彼は無言だった。
無言に耐えきれなくなった私は、彼に質問をした。
「ねぇ、内海くん。話って何さ」
私がそう言うと、彼は大きな声で言った。
「朝のあれ!本当に違うんだって!」
突然の大声に私が驚いていると、彼は続けざまに話す。
「あのっ!えっと、ここじゃなんだから、ちょっと付いてきて!」
理解が追い付かないまま、内海くんは私の腕を掴み進み出す。
「えぇ!ちょっと内海くーん!?本当にどうしたのさー」
ずんずん歩き出した彼が止まったのは、周りに人気が無くなった所、校舎裏の樹の下だった。
ようやく止まった……。
「いや、本当にどうしたのさ内海くん」
「いや、丸井さんのやつは……本当に違うんだって!」
彼はまた同じ事を私に伝えてくる。その表情は真剣だ……えっと、こんなに必死に否定するって事は、丸井さんとの事は本当に私の勘違いなのかな?
それよりも、急にここまで連れてくるんだ!びっくりしたよ私は!
私は感じた通りの事を伝える。
「……んー、照れてるわけじゃない、のかな?そんな事よりさっきまでの奇行は何さ!私は凄く混乱しているんだけど」
「いや、さっきのも違うんだ。焦ってたんだって、だって俺は水原が好きなんだから!」
びっくりした……突然大声を出した事より、腕を掴まれて急にここまで連れてこられた事より、びっくりした。
◇
私はどう言おうか焦っていると、なんだか聞き覚えのある声が聞こえてきて、私は見覚えのある真っ白な空間に立っていた。
聞き覚えのある声は、再度私に話しかける。
「ありゃ?水原左凪じゃないか!君ならもう説明は不要だね!記憶を開けてあげよう」
その声が聞こえてきた瞬間——私は、瀬戸くんに告白された後の事を思い出した。
ここは、七不思議の神様が作った場所だ。
瀬戸くんの時と同じなら、ここで私は神様と出会い、その後、異世界に行っている内海くんを観ることになる。
「うん!全て思い出したみたいだね。あっ!僕気に入った姿を見付けてね!その姿で君の前に現れたいから、先にこれを見てきて!」
今回神様は、ここで姿は見せないらしい。
突然辺りの景色が変わる。
目の前に現れたのは予想していた通りの大きなスクリーン。映画館だ。
そこで私は、内海くんが異世界に行くまでの神様との会話を見た。
この映画館がまた不思議で、観ているのは事の全てなのだが、体感時間が異様に短い。
前回、瀬戸くんの異世界に行っている状況を見た時なんて、ノーカット丸一年の瀬戸くんの生活を見させられたのに、体感時間は8時間程だった。
それでもあの時間は苦痛だった。B級映画も裸足で逃げ出す内容だったし……思い出せば、瀬戸くんはやっぱり告白する相手を間違えてたと思う。
今回の内海くんが異世界に行くまでの神様との会話なんて、本当に一瞬だった。
内海くん……気が仰天すると、お百姓言葉がでるのか!やっぱり内海くんは面白いな!
観終わると私の前に神様が姿を現わした。内海くんの前に出てきた可愛い女の子の姿をしている。
私は呆れながら神様に話しかける。
「……気に入った姿って、それですか……はぁ。神様が恋愛のサポートをしてくれるって言うのは嬉しいんですけど……これ現実で一日経つんですよね……帰してくれませんか?瀬戸くんの時も本当に時間を無駄にした気しかしなかったし……」
「えー!そんなこと言わないでよ!お見合いだと思ってさ!ね?瀬戸蒼の時と一緒にしないで。内海昴の想いは本当だよ?君も観たでしょ?彼の一番可愛いと思う姿」
恋愛の神様はニヤニヤと笑いながら私にそんな事を言ってきた。
私は瀬戸くんの時の事を思い出す。
彼は自分の事が一番好きだったんだよね……内海くんは……そっか、丸井さんとのことは、本当に私の誤解だったのか。
「いや!それでも、あの後始業式すっぽかしてたり、大変だったんですよ!」
「でも、それをしなきゃ君、あの瀬戸蒼を諦めさせるほどちゃんとフル事が出来なかったんじゃない?それに君……内海昴の事もっと知りたいでしょ?」
……私は、何も言わずに内海くんの異世界生活を観る事にした。
◇
ほうら、B級映画も裸足で逃げ出す内容だ。体感時間で三分程の内海くんの二日間を見終えた私の感想がこれだ。
でも、内海くんは、意外と熱くてカッコいい人だった。そんな内海くんと一緒に何かが出来る丸井さんがちょっとだけ羨ましい。
心的負荷のかかった彼は、ちょっと怖かったし頼りなかったけど、ちゃんとそれを乗り越えてた。
それから友達の中吉くんとは、本当に信頼し合っているみたい。
自分より強い相手でも、友達のためなら頑張れる人なんだ……。
あと、定期的に私の事が好きなのに勘違いされて、テンパってあそこで告白してしまったんだと言う話を、彼は真剣な表情でする。これを聞くのはなんだか少し恥ずかしい。
……内海くん、なんだかすみません。
これから彼は、一度死を覚悟した程のモンスター達とどう戦って行くのだろうか。彼は、これからどう困難に立ち向かって行くんだろうか。
うん……もうちょっとだけ、観ててもいいかもしれない。
私がスクリーンから目を離してちょっとそんな考えをしていたら、目を戻すと、内海くんは変な事をしていた。
これからどんな話になっていくんだろうか
そんな引きを彼女は作ってしまった
次回予告で書くことがあまり無い
困る作者
そんなことはつゆ知らず歌を歌いだす内海昴
次回『たとえどんな世界でも』
第2章 12話
剣の特訓?
“愛„の力が知りたければ次話も読め




