第9話 ◯◯の勇者
「出来る限り、愛に溢れた生活をして欲しい」
危険な仕事、被験者か……ゴリ山がまさか俺の前の被験者だったなんてな。もし、リングになにか事故が起これば、俺もあの時のゴリ山みたいになるわけだ……。
それにしても、無能力者か、俺は一応異世界に行った人間と言えば、異世界に行った人間なんだけどな……この二日間でわかってた事だけど、やっぱり俺にチートなんて無いんだ。
やっぱり危険なのかもしれない、やらなきゃいいかもしれない、でも、俺の答えは決まってる。
俺はこれから、この二人のサポートがあろうと無かろうと、倒すべきBOSSがいる。
どうあがいても、俺はこの世界で戦わなくっちゃいけないんだ。
俺は心の中で覚悟を決めて、丸井さんと先生にその思いを伝える。
「俺にも事情があります。俺は力が必要なんです……先生、丸井さん、俺は……被験者になります!」
俺がそう言うと、先生達の説明の時にはなにも言わなかった中吉が、ここに来て初めて口を開いた。
「おいスバル!ちゃんと話聞いてたのかよ!まだ研究途中の、未知の力なんだぞ、危険なんだ!お前の敵なら俺が倒してやる!だから——」
「——中吉……それじゃあダメだ……言ったよな?これは俺が水原に告白した結果起きた、俺の試練なんだ。それに聞いてたか。さっきの戦いで使った力は、愛の力なんだってよ。今の俺には、おあつらえむきじゃないか……これで、俺の想いがどれくらい本気なのか、俺自身が理解できる」
「スバル……」
この力が愛の力だって言うなら上等だ。俺はこいつに、俺のここに来た理由を、この想いの全てをぶつけることが出来る。
俺たちの会話を聞いていた丸井さんは、少し悲しげな顔になり、そしてとても真剣な顔つきになり、俺に聞いてきた。
「事情って、それに力が必要ってなに?君を被験者に選んで、なってくれと頼んでるのはこっちの方だ。でも、前回の被験者での失敗は、心のケアだったとオレ達は思ってる。君がよければ、被験者になる前に、オレ達にその話を聞かせてくれないか」
前回の被験者の失敗か。
さっきの先生との掛け合いと、俺の世界の丸井さんが天然なことで、彼女の事を軽く見ていたが……彼女はここの責任者なんだよな。
ゴリ山の事だって、その責任を一番重く受け止めているのは彼女だろう。さっきの話の中でも、先生はそこらへんの丸井さんの弱い部分をサポートしている様に見えた。
愛の力なんて目に見えないものを発見するくらいに、異世界の奇跡の力に対抗しうるものを探したんだろう。その努力が、どれほど大変だったかなんて俺には想像もつかない。
彼女には被験者に対する責任がある。
彼女には被験者の死と向き合う覚悟がある。
彼女には被験者の死を悲しむ優しい心がある。
今の丸井博士の顔は、威厳十分だ。ちゃんと責任者の顔だ。丸井博士は力の無い人のために、この世界のために、真剣に研究をしてるんだ。
そんな丸井博士に俺が事情を隠す理由なんてない。俺は、昨日中吉に話したように、全てを包み隠さず話した。
◇
俺が異世界人だという事は意外にもすんなりと納得してもらえた。俺が人口管理腕時計をしていなかったからだ。
腕時計は異世界転移による人口減少対策に作られたものだ。その時、世界中に装着が義務付けられた腕時計を、俺はしていない。
人口管理腕時計ができる前の時期に異世界転移をしたため、帰還してからも、腕時計をしていない人間はちらほら見かけるらしい。しかし、一度も異世界に行けなかった、無能力な人間は本来なら例外なく腕時計をしているはずなのだ。
この矛盾が、俺が異世界人であると言う話を納得してもらえた理由だ。
出口先生が俺たちの担任だったと話した時に、先生は声も出さずに少し泣いていた。先生は25歳の時に、両親が異世界転移で消え、教師になる事を諦めたらしい。
丸井さんが瀬戸狂だと話した時には、瀬戸って誰だ?と言われた。
丸井さんも異世界転移が社会現象になるまで、高一までは、ハラコウに通っていた。でも、この世界の丸井さんはまだ、瀬戸にあっていない。おそらく瀬戸は、ハラコウに入学する前に異世界転移をしたのだろう。との事だ。
先生は、俺が先生と呼ぶ事を許可してくれた。博士は自分から丸井さんと呼んでくれと言ってきた。
俺の状況を説明している時に、俺にとって都合の悪いことがわかった。
それは、ゴブリンズとの戦いで使った、あの圧倒的な力のことだ。
俺の状況を説明する際に恋愛の神様の話をしている時に、先生の顔が変わった。
先生が言うには、俺を測定器で見た時に、俺の身体には確かに被験者になり得るほどの愛の力があったらしい。
しかし、あの時の俺には俺の身体の外にまで、愛の力が溢れていた。それは、今まで測定したことのない程の愛の力だったと言っていた。
しかし、今の俺の身体には被験者になり得るだけの愛の力は測定できても、外に溢れる力は測定できないようだ。おそらくだがそれは、恋愛の神様に直接あったからか、はたまた恋愛の神様の力により転移したからかわからないが、俺には恋愛の神様の力の残滓が残っていて、その力を使った為に、あれほどの力が出たのでは無いかと言う話になった。
恋愛の神様ほどの愛の力だったからこそ、リングも壊れずに、勇者を圧倒出来る程の力が、まさに今のリングでは奇跡としか言いようのない力が出たのではないかということだ。
そこで一度リングを使ってみたが、俺の本来の力は勇者と同等程度らしい。
もう、二人の勇者を相手にして圧倒することなど出来はしないのだ……。
これが、都合の悪い話。
でも、力が落ちた事は悪いことばかりじゃなかった。リングの力を解除した時に、あの強烈な倦怠感が俺を襲う事は無かった。あれも、過ぎた力を使った代償のようなもので、本来の力で起こる現象では無かったのだ。
俺の事情、現状にいたる経緯は、話終わった。
その後は、研究所で気になったことやリングについて聞きたいことを聞いた。
リング……会話では伝わらなかったけど“りんグ„って書くのか……“らぶりんグ„……だせぇ……
それから、そこの入るなキケンの扉……そうですか、トイレですか。
あと、現国のゴリ曽我部、アイツは現代の恋心に関して、文献を漁る役割を持っていることがわかった。
研究所の中を丸井さんと先生に案内してもらっている時にゴリ曽我部と話す機会があったのだが……もぅマヂ無理。げんだぃのゥチ達は、ココロがわからなぃ……とか言ってた。……ゴリ曽我部は今、最新の現代文における女性の心理について研究をしているらしい……ゴリ曽我部、お前頑張ってるよ。
◇
研究所の中の案内もしてもらい、俺と中吉は今日は帰る事になった。
研究所から帰る時、丸井さんは俺に激励の言葉をくれた。
「君は最初に強すぎる力を体験してしまった。だからオレ達は君が力を過信して無茶をしないかが心配だ……君に倒さなければいけない敵がいる事はわかった!君がこの世界から消えてしまう人だということもわかった!でも、スバルくんには、愛の溢れる生活を、幸せな結末を迎えてほしい……スバルくん……無茶だけはしないでくれ……君には、オレ達がいる!君には清掃の勇者くんもいる!勇者は異世界で百戦錬磨の人間だ。君が勇者ほどの力を持っていても、その力を自在に使いこなせるかどうかは君のこれからにかかっている。つよくなれ!鍛えてもらえ!勇者にはそれぞれ呼び名がある!そこには異世界で得た奇跡の力を入れて呼ぶ様になっている!だがそれは異世界の力だ!オレは、スバルくんには、この世界の勇者になってほしい!強くなって、そして……死なないでくれ……オレからは以上だよ。またね!スバルくん」
最後、丸井さんはその顔を歪め、その目はうるんでいた。
……丸井さんの想いは、確かに受け取ったよ。
◇
俺は中吉の家に帰る道中、中吉と今日の出来事について話し合った。
中吉は明日から俺を鍛えてくれると約束してくれた。
俺はその道中でふとこんな事を思った。
中吉は清掃の勇者って呼ばれてるんだよなぁ……他の勇者もそれぞれ◯◯の勇者って呼ばれてるって話だ。
ならゴブリンズの二人は、ヤンキーの勇者な訳だし、週刊少年……おっと自主規制を入れなきゃな。
ゴブリンズの二人はきっと、週刊少年チャン×××の勇者だな。
被験者になる事を決めた内海昴
なかなか登場しないヒロイン水原左凪
9月1日の瀬戸蒼と水原左凪の物語が今始まる
次回『たとえどんな世界でも』
閑話 神様のサポート〜瀬戸くんの場合〜その1
どうでも良い話が9割だが1割真面目でお送りします




