第7話 未知の力
間違いない。俺の目の前に立っている女性は、俺たちの担任、出口蘭先生だ。
出口先生が、この指輪を渡してくれた人なのか。
……しかし、失敗したな。この世界では初対面のはずの出口先生を、いきなりフルネームで呼んでしまった。先生は俺にさっきの力について教えてくれる予定の様だが……。
警戒されてないかな。
俺の心配をよそに、出口先生は俺に名前を呼ばれた事など気にかけていないようだ。
それどころか、先生の口から更に気になる発言が飛び出す。
「私の名前を知っているとは珍しいな。この力の研究では、丸井博士の名前が有名なのは知っていたが、私の名も有名になったのかな?……それにしても、先生か……。私がそう呼ばれる日が来るなんてな……」
丸井博士?研究?
先生の口から丸井の名字を聞くと、丸井有子の事を言っているのではないかと思ってしまう。
あの子、頭は良いんだけど、博士って感じのキャラじゃないよな。
……でも、この世界に来てから知り合いにポンポンあってるし……、ありえる。
いやぁ、それにしたって丸井博士は無いよなぁ。
結局先生は、俺を警戒することなどなかった。むしろ俺が言った、先生という肩書きに引っかかりを覚えている様だ。
「まぁなんにせよ、先程の力が丸井博士ひきいる研究チームによるものだと気づいたみたいだね」
俺は研究や丸井博士の事など知らないが、丸井さんの事を考えていたため、先生に生返事を返した。
「ええ、まぁ……」
「そうか。なら私達が、無能力者でも勇者の様な力を得られないかを研究していることもわかっているだろう。君の先程の力は素晴らしかった……。アレが、その力だ。もう一度言うよ。あの力に付いて、もっと詳しく知りたいと思わないか?」
先生は、俺にこの力について教えてくれるつもりらしい。
俺には今後、力が必要だ。
俺のこの世界での目標は、BOSSと表示してあったおっさんを倒す事だ。誰かと戦う予定があるのなら、こんな馬鹿げた力に溢れた世界なら、俺にも力が必要なんだ。
俺は先生に、この力について教えてもらうことにした。
「先生、教えて下さい。俺にはこの力が必要です。俺はこの力のことを、もっと知りたい」
「だから、先生ではないんだけどなぁ。……まあいいか、やる気はあるみたいだしね。じゃあ私について来てくるといい、えーとスバル君と中吉君でいいのかな?」
名前を呼ばれ少しだけ驚くが、考えてみると先生はゴブリンズと俺たちの騒ぎを見てたんだよな。俺たちの名前も聞いてたのか。
これから俺に力について教えてくれる先生だ。俺と中吉は先生に名乗りなおす。
「内海昴です、よろしくお願いします」
「荒岩中吉だ」
「よろしくスバルくん、中吉くん。私の事は知っているかもしれないが、出口蘭だ。異世界に行けなかった人々のための研究をしている。ではついてきてくれ。その力の説明をするにふさわしい場所へ案内しよう」
先生はそういうと俺たちに背を向けて歩き出す。
付いて行けば良いんだよな。
俺は今、自分で立つ事が難しいほどの倦怠感に襲われている。中吉に肩を貸してもらいながら、先生の後ろを追った。
それにしても、先生が俺に説明をしてくれるのなら、それはもう授業だな。
異世界に来てまで中吉と一緒に先生の授業を聞くことになるとは……。
◇
俺達は商店街を抜けてしばらく歩き住宅街へと出る。先生は、なんの変哲も無い一軒家の前で止まるとインターホンを押した。
「丸井博士、被験者候補の少年を商店街で見つけ、同行してもらいました。入れてください」
「あっ、蘭さん、もう見つけて来たの!?凄い早いね!いいよ、入って入って!」
インターホン越しからは何とも軽い、聞いたことのある声が聞こえてくる。
……丸井博士……有子さんで間違いなさそうだなこれ……それに聞き流せない言葉があったぞ!?
インターホンが切れると家のドアが開くのではなく、正面のドアから見える小さな庭の地面が開いて行く。まさかの地下施設だ。
先生はついてきてくれと言うと先に進んでしまう。
俺はその背中に、先ほど気になった発言を投げかける。
「あの……先生、被験者候補ってなんですか?」
「その指輪を使うために、我々の研究を手伝って欲しいってことさ。詳細は博士が説明してくれるはずだ。……すまない、そこまで案内するからもうすこしだけ、何も聞かずについてきてくれ。……さぁこれが私達の研究所だよ」
俺と中吉は階段を降りきり、全面透明な板張りの廊下へと出る。
先生が研究所と言いながら指したのは、廊下の下だった。
廊下の下には、いかにも近未来的な科学研究所と言った風景が広がっている。その中で先生の様に、白衣を着た、おそらく研究員であろう人達が働いている。
その中には見知った人間がちらほらと見える。
研究員達は、この辺りの地域から集めたのかな、それにしてもハラコウで教師だった面々が多いな。
教師とは、人に教える事の出来る、その分野を理解している人間だ。この辺りの地域で知識者を研究員として募れば、彼らが選ばれるのは必然かもしれない。
えっと、化学のゴリ松に生物のゴリ川だろ、それに数学のゴリ林に……いやいや!それらを専攻している人間がいるのはわかる。なんか近未来的科学研究所っぽいし!
……でも、現国のゴリ曽我部!お前は明らかに役立たずだろう!?現国のお前がこの研究所で何の分野が担当できるんだよ!?
◇
廊下を進むと正面にエレベーターがあり、俺たちは更に地下へと降りた。
エレベーターが開くと、そこは子供の一人部屋くらいの大きさの部屋があった。
エレベーターが直接一つの部屋に繋がっているなんて珍しい。
部屋の中は暗かった。エレベーターの中の明かりが、その部屋を照らしている。
部屋にはエレベーター以外に扉が一つ、その扉には入るなキケンの文字。
部屋の中にはタンスとベッド、それから机がある。机の上にはパソコンが一台あり、その机の前には、白衣を着た少女が一人いる。
彼女が丸井博士……丸井さんだろう。
なんか、暗い部屋に白衣の博士が一人って、それっぽいな。天才っぽくてカッコいい。
「博士、被験者候補を連れてきました」
先生がそう言うと、エレベーターの扉が閉まり、辺りはパソコンの明かりだけとなった。物々しい雰囲気が辺りを包む。
その雰囲気の中でパソコンの前の彼女が回転式の椅子の座面をくるりと回し、俺たちの方を向きながらこう言った。
「ありがと蘭さん。オレは丸井アリス。ここの総責任者で、みんなからは博士って呼ばれてるよ。……あれ?君達は驚かないんだね?オレ、よく初対面の人に顔見せた時には、肩書きに反して幼すぎる!とか驚かれるんだけどな?」
……いかにも天才ぽい登場シーンだし、まだ17歳の少女がここの総責任者!?とか驚く様な良い自己紹介なのだろうが……。
部屋は暗いし、パソコンが逆光になり丸井さんの姿はまるで見えない。自分の見た目をいじる自己紹介には、まるで不向きな環境だ。
「博士……この部屋が暗くて博士の姿がよく見えてませんよ……」
先生が軽く溜息を吐き、部屋の電気をつける。
急に明るくなった部屋で、俺は眩しさをこらえながら丸井さんの姿を見ようとする。
すると彼女は、椅子に座りながら手で顔を覆い、悶えていた。
「うぉん!眩しいっ!眩しすぎるよ蘭さん!急に電気つけないでくれよ!」
「博士はもっと明かりに慣れてください……最近、暗い中での生活カッコいい!とか言ってるから肝心な時に威厳が保てないんですよ……」
うん、この姿を見て威厳もなにもないね。
そんな中、手で顔を覆ったままの丸井さんは更にダメっぷりを見せつけてくる。
「ごほん!そんな事はない!オレは立派なお姉さんだよー。眩しいからこのまま話すね!ね、明るくなったし、これで被験者候補くんにも顔見えたでしょ!幼くてびっくりしたかぁ!」
「あのなぁ、顔隠してて見えるわけないだろ……」
先生は深く溜息を吐いて丸井さんに注意する。
先生……敬語が崩れてるけど良いのかな?いや、きっと先生がこの子の面倒見てるんだよね……たいへんだなぁ。
「はっ!蘭さんやっぱり天才!」
丸井さんは手を顔から離し、ようやくその顔を見せる。
丸井さんはどうだと言わんばかりの満足げな顔をしていた。
やっぱり丸井さんだった。オレの感想はそれだけだ。
「……なんだよー、驚かないのかよ……まあいいや君達が……ん!?君達が被験者候補なのかな?蘭さん!どういう事、“らぶりんグ„は一つしか無かったよね!?なんで二人いるのさ!驚かすのはやめてよー初対面の人にオレの威厳を疑われるじゃないか」
「片方は友人だ……被験者候補はこっちの彼だけだ。彼は力を使った後、歩けない程消耗したらしい。友人の中吉君も彼の事が心配だろうからついてきてもらったんだ……それから博士、もう博士の威厳は地の底だよ」
研究所にいたのは丸井有子
天然が入っている丸井有子
まともな説明が丸井有子に出来るとは思えない
頑張れ丸井!負けるな有子!
次回『たとえどんな世界でも』
第2章 8話
博士と研究員の“愛„講座
“愛„の力が知りたければ次話も読め




