第6話 昭和番長《小鬼達》その2
動け!何かできることを探せ!動かなかったよりマシな結果を掴み取るんだ!
俺は2本に折れて地面に転がっているモップを拾い上げ、がむしゃらに振り回しながら打撃音のする方へ走りながら叫んだ。
「やめろぉぉぉぉぉ」
「あっ?なんだそりゃ?邪魔だ、どいてろ」
リーゼントの声がした途端、俺は腹に衝撃を受け立っていられなくなった。い、息が出来ない……痛い……なんだよ、何も出来ないじゃん俺……。
「スバル!!」
「よそ見してんじゃねえぞオラァァァァ」
——中吉!俺が無策につっ込んだからだ……あんなに早くて見えなかった中吉の姿が、今ははっきりと見える。動きが止まったんだ。
中吉は地面に膝を落とし、苦悶の表情で腹を抑えてる……。
俺に気を取られてツンツンの拳をまともに食らったんだ……。
何が動かないよりマシな結果だよ。自己満足じゃねぇか。中吉の邪魔して、何も出来ないどころか足引っ張って……。
俺に何の力も無いのなんてわかりきってたのにっ!!
中吉は今、座りながら攻撃を捌いているのだろう。しかし、時たま中吉の顔が、腕が、身体が跳ねる。
ゴブリンズの攻撃が当たってるんだ……。
もう戦いは一方的、中吉の頬には血が伝う。腕はアザだらけ、きっと服で隠れている部分も怪我をしているだろう。
何で俺はこんなに役立たずなんだろう。
俺の頬には涙が伝う。
この頬に流れているのが血じゃないのが悔しい!
役に立たない自分が憎い!
戦いに参加も出来ない弱い自分が情けない!
その時、人混みの中から白衣を着た女性が歩いてきて、俺の前に立った。
「君、何の能力も持ってないね。異世界に行けなかった組だろ……彼を助けたいかい?君には彼を助けるだけの力があるよ。私が力を貸そう、君が望むなら、ね」
具体的な話は何も見えてこない、説明不足も良いところな説明だ。
なんだよ、俺が中吉を助けることなんて出来る訳ないじゃ無いか、望んだらすぐ力が手に入るなんて馬鹿げてる。
——だから、俺は迷わず答えた。
「望むに決まってる!中吉を助けたい!」
「わかった!」
白衣の女性はポケットから指輪を取り出すと俺に投げ淡々と話す。
「それを合う指にはめて、友愛と叫べ。」
本当に訳がわからない。
「ゆう……あいっ!」
なんだこれ、身体中から感じたことのない力を外から取り込んできているのがわかる。
目の前には何処から現れたのか剣が1本、鞘に収まった状態で浮いている。
「凄い——想像を遥かに超えている!その力ならいける!……その剣を取ってあんなくだらない次元の戦い止めてこい!今回は対人戦だ、鞘は抜くなよ」
俺は迷わず剣を取る。
見える。ゴブリンズの動きが、その動きに対応してなんとか中吉が攻撃を捌いている動きが!
あっ、中吉が危ない!
リーゼントの蹴りを両手で受け流している中吉の後ろから、ツンツンがその顔に獰猛な笑みを浮かべて、拳に炎を纏わせて後頭部を狙っている——。
——今の俺なら間に合う。
俺は一瞬でツンツンと中吉の間に立ち、ツンツンの拳を鞘のついた剣で少し押し、足を軽く払う。
ツンツンは、腕を大きく後ろに弾かれ、足は地面から空へと向く方向を変え、受け身も取れずに頭からアスファルトに落ちた。
次はリーゼントだ。
「んだテメェ!邪魔だって言ってんだろうがぁ!」
俺はツンツンから目を離し、リーゼントの方へ振り返る。
振り返るとリーゼントの喧嘩キックが俺の眼前まで迫ってきている。
大丈夫だ、俺は何もしなくてもいいな。
「よそ見してんじゃねぇよっ。お返しだぁぁぁぁぁぁ」
中吉が叫びながらリーゼントへ攻撃をしようとしている。
リーゼントは、中吉が後ろから箒をバットの様にフルスイングしているのに気付いていなかった。
箒はリーゼントの横っ腹に当たり、リーゼントはそのまま3メートル程ぶっ飛ぶ。
「……んだよ、帰ってきたと思ったら。魔王よりも強え奴らがこの世界にいたなんて聞いてねぇぞ」
「……いや、俺たちの力が弱くなってるんだ。何でか自動回復の力も効きが悪りぃ……ちっ、引くぞ!」
「本調子になりゃテメらなんかに負けねぇんだよ!覚えてろよ!」
ツンツンは頭を抑え、リーゼントは横腹を抑えながら逃げていく。覚えてろよ!なんてベタなセリフを吐いた方がツンツンだ。
ゴブリンズが去ったあと俺は剣を手放し、膝を付いている中吉の元へ駆け寄りしゃがみこむ。
「スバル、俺カッコつけたのに、カッコ悪いところ見せちゃったな……」
「何言ってんだよ!助けてくれてありがとう。……カッコよかったに決まってんだろうが。……身体は大丈夫か?」
「あぁ……、このくらいの怪我ならすぐ治るよ。異世界の力ってのは凄えんだぜ!」
中吉は目を閉じて、集中しているのだろうか、見る見るうちに腕に付いていたアザや少し切れた頬の傷が綺麗になっていく。
異世界の力って本当に凄いんだな……。
と言うか、なんだ俺のこの力は。
俺にも内に秘めた潜在能力的な何かがあったってことなのか!?
……でも、この力はそれにしても強すぎないか?
しばらくすると、身体が強烈な脱力感に襲われる。
さっきまで感じていた力を今はまるで感じない、手放した剣は消えてしまったようだし、力を消費しきったみたいだ。
「無事友達を助けられたみたいだね。さて、ここからが本題だ。その力に付いてもっと詳しく知りたいと思わないか?」
白衣の女性がまた俺の前に立ち話しかけてきた。
問題が収束したからか、俺達を避けるように出来ていた円状のスペースもどんどん狭くなっていく。あんな事があったのに、商店街を歩く人達は我関せずで通り過ぎていく。
俺は怪我をした中吉の元へ身体を支えるつもりで向かったのに、すっかり怪我の跡も見えなくなった中吉に、倦怠感で立たなくなった俺は逆に身体を起こしてもらい立ち上がった。
立ち上がると白衣の女性の顔がよく見えた。
ん!?
俺はその女性の顔をまじまじと見つめる。
「……出口……蘭先生!?」
無事小鬼達を撃退した内海昴と荒岩中吉
内海昴に力を貸したのはクラスの担任出口蘭だった
出口蘭の異世界における授業
そして今、天才博士の正体が明らかに
次回『たとえどんな世界でも』
第2章 7話
未知の力
“愛„の力が知りたければ次話も読め




