第1話 異世界魔法【ダンデライオン】
–内海 昴–
学校の校舎裏から真っ白な空間、映画館、度重なる転移を経験した俺は気付けば薄暗い森の中に居た。
……ここ、が異世界。
そう言えば映画で見たけど、ここはゲームみたいな世界なんだよな、映画では魔王とか勇者とか言ってた。
神様はRPGが得意だからそんな世界にしたって言ってたな。
必殺技って言ったら詠唱だよな!
よーし、心に思い付いたままに呪文でも唱えてみるか!
森の植物を見渡す。樹の種類など分からない。雑草を見渡す。
あっ、たんぽぽだ。良し、そこのたんぽぽから力を借りる魔法だ!
「蒲公英の種のように白く、花のように雄々しく、世界の理を超えて今、我は願わん。永遠の旅路の果てに——我に力をもたらさん!【ダンデライオン】」
俺は声高々に、適当に呪文を叫ぶ。
俺の身体は綿のように軽くなり空へと跳びたつ、更に身体中にライオンのような猛々しい力を感じた。
なんて事は起こらない……そっかー、着眼点が違ったかなぁ。
俺の身体に変化はなく、何かいつもと違う力を感じる事もない。
水原と恋人になるためのサポートでこの世界に送られてきたみたいだけど、自分が何を出来るかもどうすればいいのかもさっぱりわからん。
神様はわかるようにしておくって言ってたけどなー。
「誰かー、助けてー!」
俺が森の中でウンウンと考えを巡らせていると近くで誰かの叫ぶ声が聞こえてきた。反射的に声のした方へ走り出す。
イベントだろこれ、ゲームの定番だよ。
叫び声の元へ俺が駆けつけると、見覚えのある人が体長1メートルはあるバッタにマウントを取られている場面だった。
バッタが叫ぶその人を頭からゴリゴリと音を立てて食って行く。
辺りには血の匂いが充満している。
薄暗くてよくは見えなかったが、初めて人の中を見た。
バッタの食事があまりに乱暴だったからだろうか、俺の頬に人の身体から弾け折れた骨が掠る。
え、痛い、血が出た。痛い。
思考がまとまらない。
何だこれ。異世界ってゲームみたいなもんじゃないの。そっか、RPGの戦闘って現実だとこんな化け物と直接戦わなきゃいけないんだー。あの人誰だっけ。ハラコウの教師?先生が何でこの世界に。あの先生の名前も担当科目も思い出せないなー。あんま関わりなかったからな。てゆうか血の匂い、臭い、死んだ、死ぬ、死?
さっきの事でわかってる。俺は呪文の使い方も知らない。
森を走ってきてよく分かってる。俺の身体能力は何一つ変わっていない。
俺はその場で吐いた、思考は相変わらずまとまらない。バッタの目がこちらを見た——死ぬ……絶対に死ぬ。
「お゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
教師の亡骸を口から離し、身体を俺の方へと向けるバッタ、バッタはゆっくりと俺の方へと近付いて来る。俺は無様に叫び声を上げることしか出来なかった……。
バッタの口が目の前に迫る。俺の頭の中には走馬灯が駆け巡る——あっ、そうだ、あの教師、1年の時担任だったゴリ山だ——。
「大丈夫か!」
バッタの後ろから声が聞こえたと思ったら、バッタの身体が消えて行く。
「……ぇ」
「間一髪だったみたいだな!」
バッタの姿が消えて無くなると一人の男が歩いてくる。
全身を作業服に身を包み、片手にモップ、腰には剣の様に箒を挿しているその男は、俺のよく知る友人、荒岩中吉だった。
「中……吉……」
「あぁ、何で俺の名前知ってんだよ、誰だお前」
言葉が出ない、人が死んで、化物にあって、中吉が助けてくれて、でも此処は異世界のはずで、中吉が俺の事を知らないって言って……なんなんだよこれ……気持ち悪い。
「だんまりかよ。……ちっ……すげぇ顔色が悪いじゃねぇか。そんなんじゃ戦えねぇだろ。町に戻るぞ、いいな、ついて来い!」
こんな所には居たくなかった。俺は言われるがまま中吉の後ろに付いて歩いた。
しばらく中吉の後ろを歩く事で段々と落ち着いてくる……俺、生き残ったんだ。
生の実感を噛み締めていると、またどこからか化け物が出てくるんじゃないかと心配になってくる。
目の前の中吉、今の俺の生命線がこの男である事は間違いない。
俺の知っている中吉とは雰囲気が違う、スレていると言うかなんか、凄く怖いのだ。
コイツは何で異世界に居るんだ。この世界は一体何なんだ。
「なぁ中吉。……俺は内海昴って言うんだ。本当に知らないのか」
「ス、バル……内海スバルだと!?……いや、面影がある……マジなのか……お前、何歳だ!生年月日は!俺ん家の場所とー。あと、俺の趣味を言ってみろ!」
中吉が焦った様子で矢継ぎ早に質問を重ねる。
俺はその全て答えた。
「おいおい、コレはマジなんじゃねえか。スバル、お前中学の時に死んだはずじゃなかったか。……いや、異世界転生……トラックに轢かれたら異世界に居たとか聞いた事あんぞ」
中吉は俺の答えを聞いた後、大声で自問自答を始めたと思ったら急に泣き出した。
「お前、マジでスバルなんだな……。町に着いたらパーティーしようぜ。お前の復活祝いだ!そうと決まれば急いで帰ろうか、俺たちの町に!」
中吉は泣きながら笑っていた。復活祝いとか言ってるが俺は死んだつもりは無い。コイツは俺の知っている中吉じゃないのか。
その後中吉は何かを話しかけて来ていたが俺には答える余裕がなかった。
どれ程歩いただろうか、森を抜けると目の前に崩壊した校舎が建っていた。
——ハラコウだ。って事はさっきの森は裏山なのか。
疑問は増えるばかりだ。
……なぁ、神様……ここは本当に異世界なのか。
いや、俺の世界にあんな化け物は居なかったしハラコウは老朽化こそしていたが崩壊なんてしていない。
俺は神様が言っていた事を必死で思い出す。
「あとコレは別にルールじゃ無いんだけど、人間が金属食ってて腕に目がある世界とか、人間なんてそもそもいない世界とかあるけど、そんな所に行っても相手に自分の事伝わりにくいでしょ。だから君の行く世界は、今住んでる世界にすごーく似てる、別の世界にしとくからね!」
「苦しゅうないぞよ!君の得意な事を探ってみたけど……内海昴くん、得意って言えるようなものが全然ないよねー。かろうじてRPGゲームがちょっと得意みたいだからRPGゲームみたいに剣とか魔法とか使ってる、君のいない世界を見つけて参りました!」
今住んでる世界にすごーく似てる、別の世界にしとくからね!|
君のいない世界を見つけて参りました!
「は、はは、はははは」
自然と俺の口から乾いた笑いが出てくる。
成る程、こんな世界なら人はパンや米を食ってて顔に目が付いてるだろうさ。
ここは、俺のすでに死んでいる、俺の住んでいた世界に酷く類似した、似ても似つかない異世界だ。
神様の言葉を思い出す事で俺はこの世界に来た流れを思い出した。
……水原に、逢いたい——。
死んだゴリ山
パラレルワールドの荒岩中吉に救われた内海昴
モップを持って登場した荒岩中吉の戦いとは
次回『たとえどんな世界でも』
第2章 2話
モップと箒と雑巾と
“愛„の力が知りたければ次話も読め




