プロローグ 博士と研究員
–◯◯研究員–
「帰還者達が何故力を完全に発揮できないのかわかりますか」
パソコンの明かりだけが照らす薄暗い部屋で彼女は言った。
歳下の彼女は天然が入っているにもかかわらず天才と呼ばれる部類の人間だ。この事象について深い見識を持っているに違いない。
「世界が違うから……じゃ無いのかな」
「そう、世界があの人達に力を貸していないんだよ。この世界には存在しない魔力や闘気、聖気なんて物を操って奇跡を起こそうとしてるから。帰還者達は自分の体内でそれらを生成し、奇跡を起こしている。無いものの力を、異世界なんてこの世界と違うものの力を、自分でもよく分かってないプロセスで無理やり作り出してるんだもん。元々それらが溢れた世界にいた時より力が弱くなって当然だよねー。効率が悪いよ効率がー」
そう言うと彼女はまたパソコンの操作を続ける。
彼女は言っていい事と悪い事の区別もつかないのだろうか……彼女はまだ17歳、昔高校教師を目指していた私が彼女の下で働いているなんて、世界は本当に皮肉が好きなようだ。
彼女はそれらの奇跡が起こす暴動に、また各町に貼られた結界を出ると現れる化物に、誰もが対抗出来る研究をしているはずだ。
銃火器をも避ける馬鹿げたスピードを持つ殺人者、戦車ほどの鉄をも食い破る化物、そんなモノに対抗する研究を行っている彼女が奇跡の力を研究していることは、異世界に行かなかった人々は誰もが知っている。
そんな彼女が奇跡の力は作り出し操るには効率の悪いものだと明言した。我々の希望の星である、彼女がだ。
キーボードを叩く音だけが響く中、私は彼女の見解を聞き、胸を抱えて叫びたい思いを押し殺していた。
そんな中、彼女が大きな動作でエンターキーを叩く。
その表情は……笑っている?
「——きたきたきた!これだよ、この力こそオレ達が帰還者にも、化物にも負けない為の力さ!」
「奇跡の力に……負けない?これまでの人類が作ってきた対人用兵器じゃ太刀打ちなんてできないんだぞ。元々この世界にあった力?そんな物がどこにあるって言うんだっ!」
「……あのねー蘭さん。古来より人はこの力で強くなるって言われてるんだよー。どこにあるって……ここだよ、こーこ」
彼女特有の楽観的な思考に怒りを殺し切れずに叫んだ私に対し、彼女は呆れたように話す。
……私の胸を指しながら。
「……おっ、ぱい?そんな物で誰がどう強くなるって言うんだ!」
「お、お、おおおおっぱいぃぃぃぃ!?オレはそんなこと言ってないよっ!」
「……え」
どうやら私はひどい勘違いをしたらしい。
互いに顔を赤く染め、嫌な沈黙が流れる。
「……ごほん!あのね、出口蘭研究員!昔から人は、父の為、母の為、兄弟の為、祖父母の為、友達の為——恋人の為なら、強くなれるって相場は決まってるんだよ。オレが指したのは“心„!使う力の名前は——“愛„。ラブパワーだよ!」
丸井博士はドヤ顔をしてそう言った。
凄い満足そうな顔をしているところ悪いが、おっぱい同様、私には、凡人には少し理解できない内容だった。
“愛„の力
それこそが内海昴の異世界生活で鍵となる
そんなこと知らない内海昴はゲームのような世界に大はしゃぎ
そんな彼はふとタンポポをみつけるのだった
次回『たとえどんな世界でも』
第2章 1話
異世界魔法【ダンデライオン】
“愛„の力が知りたければ次話も読め




