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たとえどんな世界でも  作者: 進藤 真道
第1章 努力するとは決めたんだけど、一体何すりゃいいんだろ?
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第9話 9月3日/家族と友と想い人

 部屋のカーテンを開け、朝日を浴びて伸びを一つ。動くと身体は痛いけど、我慢すれば問題無く動けるみたいだ。

 いつもより早く目が覚めたようで、昇り立ての朝日が窓の外から部屋を薄っすらと照らしている。

 昨日は風呂にも入らず寝たしな、ちょっと早めだけど学校に行く準備すっか。とやる気を出していると、腹が鳴った。


 腹減った。そういや、夕飯も食わずに寝たんだな。


 俺はまだ誰も起きてないリビングへ行き、冷蔵庫を漁る。

 母ちゃんは昨日、夕飯は朝飯の残りにするって言ってたのに、朝飯は冷蔵庫に残っていなかった。代わりに昨日の夕飯の残りであろう煮物と唐揚げが乗った皿に、昴へ、と書いた紙が添えられていた物が入っていた……。母ちゃん、夕飯作ってくれてたんだな。


 感謝!


 飯をゆっくりと食った後、怪我の様子を確認するため、脱衣所の鏡の前で全裸になる。


 うん、擦り傷・切り傷・打撲跡等あるが服着ちまえばそんなに目立たないな。

 顔は……綺麗じゃん。もっと腫れるものかと思ってたけど、やるじゃん俺。


 怪我の具合を確認した後は風呂に入る。

 めっちゃしみた。


 風呂に入ると身体の節々が痛かったので、ちょっと早めに風呂から上がる。その後、長袖でも隠せないような小さな傷達には絆創膏を貼っていった。

 そんなこんなでいつもより長い時間をかけ学校へ行く準備を進める。


 ◇


 空腹、良し。身だしなみ、良し。学校の準備、よーしっ。

 よしよし、早めに動いてよかったな。そろそろ家を出れば、ギリギリ遅刻せずに済みそうだ。


 学校へ行く準備を終え玄関に向かう。すると玄関には母ちゃんが居た。


「昴、ご飯は食べたみたいだったね。食べたら洗い物しておいてよねまったく」

「やべ、忘れてた。今日は洗っておいて、時間ないから行ってきます!」


 そういや、昨日帰ってきてから親の顔も見てなかったな……。でも、今日は朝から怪我の処置とか風呂とか飯とか忙しくて時間が無いんだ。

 行ってきますと伝えると、母ちゃんはそれ以上何も言わずリビングへと入っていった。

 母ちゃんにあった事で、父ちゃんにもあっていないことを思い出す。玄関で靴を履きながら、リビングにいるであろう父ちゃんに向かって声をかける。


「父ちゃん、行ってきまーす」


 リビングへ聞こえるように大きな声で言うと、父ちゃんが玄関まで出てきた。


「まて、昴。昨日は飯に呼んでも寝てるし、所々傷が見えるし、母さんは心配してたんだぞ。何があったんだ」


 一般的なサラリーマンやってる父ちゃんだが、その超能力を生かして占い師でもなんでもやれば世界的に有名になれるんじゃないかと思っている。


 うちの母ちゃんは本心を隠すのが上手い。

 母ちゃんが本当に怒っている時や実は悲しんでいる時に、俺は地雷を踏むような発言をする事が多々ある。

 さっきのだって心配の裏返しで口が悪くなってしまったという、ツンデレだったのかもしれない。

 でも、父ちゃんは違う。たまに、うちの父ちゃんはエスパーのようだと思う事があるのだ。

 父ちゃんは、母ちゃんが思っている事など見ていればわかるというようにどんな時でも、母ちゃんが何かを隠しているとそれを見抜き、フォローを忘れない。

 今回も父ちゃんが母ちゃんが心配してたって言うんだから間違いないんだろう。今度時間があったら父ちゃんと母ちゃんの馴れ初めも聞いてみたいな。

 俺の両親はどっちも凄い。憧れの夫婦だ。

 俺も水原とそんな関係になるために……色々勉強しなきゃな!

 あとあれ、ツンデレだったんだな母ちゃん。


 ともあれ家を出ようとしていたのだ。話は短めに切り上げたい。

 この怪我がなんだって質問だったよな……。


「名誉の負傷だよ!」

「……名誉の負傷か。ならよーし!母さんには問題ないって行っておく。走って転ぶなよ」

「おう!」


 父ちゃんには最低限の返事をして家を出た。俺が何か説明を求められた時、最低限の説明で伝わるのは父ちゃんと中吉ぐらいだ。本当に察しが良いってのはありがたい。

 両親にちゃんと朝の挨拶が出来たので心が少し軽くなる。昨日普段ならしない無茶をした事も相まって、なんだか今日はいい日になる気がした。

 そんな楽しい気持ちのまま、学校へ駆け出した。


 ————————

 ——————

 ——……。


 教室に着くと、すぐに丸井さんが挨拶してきた。


「お、内海君元気そうでよかった!おはよ!」

「おう、おはよ。心配かけたかな、この通り俺は元気です!」


 丸井さんはいつでも元気だ。朝からそんな元気な声を聞くと、テンションが上がる。

 俺たちは昨日のことですっかり打ち解けている。この挨拶は当人達にとっては何でもないものだった。

 しかし周りは、クラスのマスコット的な存在の丸井さんと無気力でクラスでも地味な俺が、仲よさそうに話していることが驚きだったようだ。

 俺と何かあったのかと、丸井さんの周りには数人の女子が集まりだす。

 女子は恋バナが好きだ。俺との関係もそっち方向でいじるかもしれない。


 丸井さん、瀬戸が好きなのに……ご愁傷様です。


 そう心で思いながら自分の席に向かうと、水原がもう席に座っていた。そして、こっちを観ながらニヤニヤと笑っている。


 えっと……どうしたんだろ?

 そうだ、昨日の反省を生かして話しかけなきゃ!


「えーと、水原さん、あのー、おはよ!」

「おはよ。いやー、内海くんって丸井さんと仲がいいんだねぇ。昨日偶然二人で笑いあってる姿みちゃったよ」


 ——あー!中吉が言ってたな!なんだこの娘、すごい勘違いをしてないか!?

 よりにもよって、ヤンキーが去っていった後にあそこを通りがかったってことか。


 コンビニの裏で異性の同級生と笑い合う。確かに勘違いしそうな青春くさい字面をしてる。


「いや、違くて!そうじゃなくて!」


 俺が水原の誤解を解こうとした時、友達にあらぬ疑いをかけられていたであろう丸井さんの方から大きな声がする。


「オレは1つの愛に生きてるんです!浮気なんてしません!」


 そう!丸井さんは瀬戸が好きなんだもんな。ナイス援護射撃だ!


「……内海くーん?彼女があそこまで言ってて言い訳とは情けないぞ?」


 ……水原の勘違いが加速している。

 ちょっと待って!あれは俺の事じゃない!俺の事で弄られたであろう丸井さんが瀬戸への想いを叫んでいるんだ!


 頭ではあれこれ説明が思い浮かぶが、好きな子に勘違いをされた俺は、どもってまともに話すことができない。


「えぇ!!いや、あの……」


 誤解を解こうと喋ろうとするがこの説明……いや、現実を見よう。

 こんな説明にもなっていないテンパっているだけの反応で、なにかを確信したかのようにニヤニヤしている水原の誤解は解けない。

 更にテンパってしまった俺は、続く言葉が上手く出てこなかった。


「照れない照れない。いやー初々しいねぇ。っと、先生来たよ」


 ……おいおい、完全に誤解されとるやんけ。

 昨日の頑張りが、あの充実感溢れるヤンキーとの死闘が、こんな誤解を招くなんて。


 どうすれば水原の誤解が解けるのか考えている内に授業は進んでいく。


 最善の誤解の解き方だ。どうすればいいんだ。セリフを考えろ。いや、最善じゃなくてもいい。どうやって言えばあの確信めいた何かを感じている水原の誤解が解けるんだ。


 いくら考えても上手い答えは見つからない。そんなこんなを考えていると1限目が終わる。休み時間になっていることにも気付かない程に集中していた。

 席から動かず悩んでいると、中吉からちょっとこっちに来いと声がかかる。

 そこではじめて、もう休み時間になっていたことに気付く。そんなに色々考えたのに現状の打開策は皆無だ。なにも思いついていないため、足取りは重く、とぼとぼと中吉の席へと向かった。


「昨日の今日だからな、お前が気になって見てたけど……朝のあの会話、水原さんにだいぶ悲しい誤解を受けてるな」

「そうなんだよ……。俺どうやって誤解とけばいいのかな」

「次は移動教室だろ。今すぐ話があるとかなんとか言って一緒に移動しろ。あの子多分そう言うの言われて断らない人だと思うんだよなー。そこで誤解解いとけ」


 そう言うと中吉は背中をドンっと押してくれた。

 背中の心地よい痛みは、なんか勇気が出た。


 そっか、次は移動教室だから、今すぐ話があるとかなんとか言って一緒に移動して、あの子多分そう言うの言われて断らない人だと思うから、そこで誤解解いとけばいいんだな!


「水原さーん、ちょっと話あるんだけど、次の教室まで一緒に行こ」

「いいよー」


 上手くいっタァ!

 さて、じゃあ一緒に行って誤解を解くゾゥ!……ちょっと待て中吉!今、どう話して誤解解こうか考えてたんであって、その悩みは解決してねぇ!何だよ中吉の、あの背中ドンっは、すげぇ魔力だ……。

 なんか話す事は全く纏まってないのに、スムーズに水原と一緒に移動教室に行くことになったぞ。


 ◇


 水原と一緒に教室を出て1階の渡り廊下を渡る。その間無言である。


「ねぇ、内海くん。話って何さ」


 どう誤解を解く話を切り出すかを悩んでいたのだが、水原は無言に耐え切れなくなったのか、そう聞いてきた。


 いや、話したい事はあるんだけどね?頭の整理が全然できてないよ!

 あーもう!どうにかしなければ!どうにかしなければ!


 どうにかしなければと言う気持ちが先行して、勢いに任せて大声で中身のない発言をしてしまった。


「朝のあれ!本当に違うんだって!」


 急に大声出したからだろう。渡り廊下を渡っている他の生徒達の視線がこちらに集まる。


 違うってことは朝も言ったよ。それで、わかってもらえなかったんだって……なんか、他の生徒達にジロジロみられてるよ。


 周りの視線に気付き狼狽うろたえ、キョロキョロと辺りを見回す。

 こんなとこで話せるか!


「あのっ!えっと、ここじゃなんだから、ちょっと付いてきて!」


「えぇ!ちょっと内海くーん!?本当にどうしたのさー」


 俺の急な奇行に水原は驚いている。しかしそんな事、今はテンパっているのだ。俺には理解できていない。

 渡り廊下から水原の腕を掴み、中庭へと出て更に歩き出す。

 目指すは誰も居ない所だ。


 えーと誰も居ないところ、誰も居ないところ。

 お、ここなんて丁度いいじゃないか。


 渡り廊下から少し歩くと校舎裏に着く。校舎裏には一本大きな木が立っており、そこの下ならば校舎の窓からもこちらが見えない死角になるだろう。そう思い俺達は、()()()()()()()に来ていた。

 ここならゆっくり話すことができると思い足を止める。


 ここからは勢いだ!流れに身を任せて会話を乗り切れ俺!


「いや、本当にどうしたのさ内海くん」

「いや、丸井さんのやつは……本当に違うんだって!」

「……んー、照れてるわけじゃない、のかな?そんな事よりさっきまでの奇行は何さ!私は凄く混乱しているんだけど」


 照れてるわけじゃないって、わかってくれたみたいだ……。

 誤解が溶けたことに安心した。水原の言葉を頭で反芻する。


 さっきの奇行は何さ!さっきの奇行は何さ!さっきの奇行は……。

 ヤバい!今の俺は変質者みたいだ!


 焦って水原の前で奇行をしていた事に気が付いた。気が付けば更に焦る。この場を取り繕うために何か喋らないとと思って——つい口を滑らせた。


「いや、さっきのも違うんだ。焦ってたんだって、だって俺は水原が好きなんだから!」


 史上最悪のやらかしをかました。

 自分でも思っても見なかった告白をして、まるで世界が固まったみたいだ……。

 水原は驚いた顔で固まってる、って本当に止まってる!?

 視界がぐにゃぐにゃと歪んでいく。


 そんな世界が歪んでいく中で、男か女かもわからない、酷く中性的な声が頭に直接響いてきた。


「君は今、告白をしたね!僕は君達の恋の手助けをしよう!」


 そんな言葉が聴こえてきたと思ったら、歪んでいた景色から、その歪みがなくなっていく。

 歪みが消えた時、俺のいる場所は校舎裏なんかじゃなくなっていた。視界に映る景色は一面の白色。

 なにも見当たらない、ただただ白いことしかわからない。そんな景色が広がっていた。

あらぬ誤解にテンパって口を滑らせなんと告白

内海昴はどこまで空回るのか

そして頭の中に響いた謎の声の正体とは


次回『たとえどんな世界でも』

第10話 神様の事情


《原色高等学校幻の八不思議》

次回を読まない生徒は、幸せになれない

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