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自伝  作者: 夢の宛先
5/5

文月

体育祭という一大イベントも生憎の雨天により午前のみで終わり、1学期の日数も少なくなってきた今日、学校横にある村営のグラウンドでは、ボールの跳ねる音と、男子学生の応援歌が響いていた。

3年生である僕らは、辛うじてボールに触れることが許されていたが、とはいえ大会の登録メンバーとは違うコートで練習を行うに留まっていた。

なにせ、明日は県中体連大会当日なのだから。

隣のコートでは登録メンバーたちが紅白戦に身を投じている。

ディフェンスから回ってきたボールがキャプテンに渡る。

彼はミッドフィルダーというポジションで、身長は周りより1段小さいが、運動量では誰にも負けない。

やはり紅白戦だというのに凄い運動量だ。

それに比べて、他のメンバーは緩くパスを回し、入りもしない位置からのシュートなどを打っている。

もちろん、大事な大会の前日である以上、100%の力を出すのはよくない。

しかし、この練習の緩さは今日に限ったことではないのだ。

今日ですら、練習の開始時刻であるはずの4時半には誰も準備が終わっておらず、顧問がやってくる5時にやっと練習が始まったくらいだ。

まあ、そんな連中にポジションを奪われている自分が言えたことではないのだが。

そんなチームに嫌気がさしたか、はたまた最初からやる気がなかったか、30人以上いた同級生も、今では20人ちょっとだ。

こちらのコートでは予定していた練習が大方終わり、応援練習をサボり出した後輩への指導へ向かう。

我が中学校では、強豪だったころからの伝統として応援歌があるはずなのだが、1月ぶりの応援で後輩たちもうろ覚えとなっていた。

仕方なく記憶を手繰り寄せて、わざわざ歌詞カードまで作ってきてやったというのに、サボるとは何事だ。

などと思いながら遊んでいる1年生に注意する。

丁度、登録メンバーの方も試合が決まったようで、練習を切り上げる。

そして、スパイクを脱ぎながら物思いに耽る。

自分自身は10月に行われる選手権まで在籍するつもりなので関係ないのだが、ほとんどの同級生はこの大会で引退を考えているらしい。

確かに、今は部活生として大事な時期であるが、それ以上に受験という進路に最も関わる大事な時期だ。

僕は通ったことがないので聞いた話だが、塾の時間もこれまで以上に長くなるのだとか。

というわけで、事実上、このメンバーでサッカーが出来るのも明日で最後になる。

試合に出られない事は悔しいが、半ば惰性で続けているようなものだったし、明日ぐらいは本気で応援してやろう。

そんなことを考えながら、帰路につく。


翌日の試合は、例に違わず残念な結果となった。

試合に出ていたメンバーも、最後の試合なだけあって真剣だったようで、今までに見たことがない位に悔しがっていて、特にキャプテンは、目に涙を浮かべていた。

試合後のミーティングでは、それぞれのメンバーが一人ずつ引退の有無を表明していった。

結局、引退しないという選択をしたのは、レギュラーメンバーから2人、選外のメンバーから2人、合わせて4人となった。

もちろん、その中に僕はいるし、キャプテンもいた。

流石に10人は残るだろうと思っていたが、予想外の結果に驚きを隠せなかった。

まあ、よく考えてみれば、それで残るような連中では無かったのかもしれないが。

この日から、3年生がたったの4人しかいない、新生サッカー部が始動したのであった。


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