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intermission:3 minutes inferno

intermission:3 minutes inferno



 いくら呼吸をしても、楽にならない。手足がしびれるような、冷たくなるような。

 体に全然血が回っていない。もう相当、血を失っている……傷口は塞がっても、流れ出した血は作られていない。

 ぱぱぱぱぱぱっ。銃声がやけに遠くに聞こえる。息の苦しさよりも強い衝撃。

 撃たれた。MPだ。反射的に銃を構える。二発叩き込む……肩に伝わる反動。自分の銃声は、荒い息に混じって聞こえない。

 不死兵の胸の奥が、かすかに青く光る。頭を外した……幸い心臓と背骨には当たっているので、しばらくは動けないだろう。

 万能止血軟膏。まだ一本ある。パッケージを開け、撃たれた所を手探りで探す。腰の少し上。一番痛いところに、チューブを押しつけ軟膏を流し込む。

 自分に吹き付ける風の流れ。流れに乗って、流れを蹴って、来る。やつが。

 それは子供がシーツをかぶって変装するおばけのようにも見えた。だがこいつは、音もなく襲いかかり、切りつけ、噛み付いてくる。

 電解弾を撃ち込む。ぽつぽつと青い光が漏れ、どう見ても人間のものではないその姿を断片的に映す。

 銃の反動と違う衝撃。指先の感覚がなくなり、手からそのまま銃が落ちる。拾ってももう弾がない。

 風を起こして有利な場所へ。それとも逃げる……?任されたのに。一人でできるって。

 気の乱れで風も乱れる。体を立て直そうとするが、頭から血が引いていく感覚……そのまま気を失いそうになる。

 衝撃。全身に感じる。落ちた。飛べない。ギフトの力も、もうちゃんと引き出せない。

 セカンドチャンス。パークバッジの合成音声。そうだまだこれがある……何に使うのとナオが笑っていた、マグナム拳銃。電解弾が使える数少ない拳銃。

 右手で銃をつかめない。左手で銃をつかんで抜く……パークバッジの効果か、息苦しさを感じない。

 ぼやけていた視界がすうっと晴れて、こちらに向かって歩いてくる不死兵の姿がはっきり見える。

 慌てて不死兵が銃を構える。だがその前に、拳銃の照星に不死兵の頭を重ねる。

 腕を殴られるような反動。頭を撃ち抜かれた不死兵がのけぞって、そのまま崩れ落ちる。

 その隣の不死兵。慌ててMPを撃つが、外したようだ。集中すればぼやけた姿がはっきり見える。まだやれる。まだ弾はある。

 不死兵が連射の反動を押さえ込もうとするよりは速く、拳銃の反動でぐにゃぐにゃになった腕を構え直し、まっすぐ構える。

 反動。倒れる不死兵。

 弾はまだある。四発、五発……?奴が来なければ、その分不死兵を倒せる。

 奴は倒せない。他の子なら……?ナオがいれば?

 ギフトがあるのに。今度は私が、ナオを守るって、決めたのに。一人でできるって、頑張れって、ナオが言ってたのに。

 それが、こんな。

 ざくっ。

 力を込めて銃を握っているはずなのに、手が自然と垂れ下がる。何かが……背中を、肩を押している。

 押しているんじゃない。振り返ってわかった……ライフルの先端に装着された、銃剣。刺されたんだ。

 頭を掴まれている。肩の後ろに突き刺さった銃剣が引き抜かれる……ざくっ。今度は、首の付け根。

 パークの反動か、あんなにはっきりしていた視界がもう真っ暗だ。ごりっ、ぐりっと、首を乱暴にされる感覚だけがはっきりとわかる。

 気がつけば、胸が引き裂かれそうなほど息苦しかったのを、もう感じていない。

 みぞおちに感じる冷たい感触は、別の銃剣がまさに今胸を引き裂いているということなのに。

 自分の体の一部が、引き出される。銃剣ほどでないが鋭い感触が、腹の中にあった自分の体を、突き刺し、引っ張り、引きちぎっていく。

 手のようなものが、体の中の大きな塊をつかんだ。それを引っ張られると。まるで糸か何かがつながっているかのように、体の奥が引っ張られる。

 心臓だ。

 ぶつっ、ぶちっと、心臓と体をつないでいたものが引きちぎられる。止血軟膏は、もうなかったっけ。

 もう……死ぬんだ。

 やだよ、こんなの。うまくできなかった。やれるって、ナオが言ってたのに。

 ナオの期待に応えられなかった。頑張れって、ナオが言ってたのに。もうわたしより強いって、ナオが言ってくれたのに、こんな、

 額に鋭い感触、強い圧力。

 かぁん、かぁん。

 ぼやけていたはずの意識にもはっきりと感じる、頭を割られる感覚。いちばん大事な所に、刃が突き刺さる。

 こわいよ、こわいよ。

 たすけて。

 たすけて、ナオ。

 ナオ。



……引き抜かれたはずの心臓が、胸を突き破りそうなほど暴れ回っている。目を開けていても真っ暗だった視界に、弱い朝日が射し込む。

 引き出されたはずのはらわたから、切り裂かれたはずののどを通って、苦くて熱いものがあふれ出す。止める間もなく、掛け布団の上にこぼれる。

 こんなことがたまにあるから、あまり遅い時間に何も口にしないようにしているのに。

 あれは自分の体じゃない。息が治まり、ショックが引いていく。

 あれは、

 本当のものかは知りようがない。だがあそこに残っていた、あれと、同じような。

 あの声は、間違いなく。

「……アツミ……」


 風呂場で軽く掛け布団の汚れを落として、カバーを洗濯機にかける。その間に、軽く近所を走り込む。

 まだ五時前。曇り空のような薄暗い中、まだ街灯がついていて町中は明るい。

 少しペースを上げすぎ、息切れがする。この息苦しさは、自分のものだ。

 シャワーで汗を流して、ようやく落ち着いた気がする。まだ食欲はないが、弁当の支度はする。

 両親に電話しようか。まだ起きていない。


 プラムLチームの詰所。かばんが置いてある。馬潟高校のものではない。

 ロッカーは……六番が使用中。

 装備をつけて武器庫へ向かう。申請書に記入して、訓練用の弾薬を出してもらう。

「六郷さんは?」

「カービンで近距離の練習をしたいって言ってたんだけど、注文した弾が届くまではちょっと控えてほしいなって。代わりにハンドガンの練習をしてもらってる」

 射撃場から聞こえる銃声の間隔はゆっくりだ。……ナオが射撃場に入ると、ちょうどミユは撃ち終えて弾倉を交換するところだった。

「おはようございます。拳銃は始めてで……まずは抜き方と撃ち方を、と。一秒を切るのが目安とのことですが、まだ慣れません」

 ミユが拳銃をホルスターに収める。レッグホルスターをつけるため、スカートの丈を短くしていた。

 周りの子でも、このくらい短くするのは普通にいる。ミユ言うところの不良なら、もっと短い。

 ただそれが、昨日一日見ただけだが、クソ真面目で垢抜けないミユがしていることに、なぜだか軽く胸が動揺した。

 ナオの視線にミユも気付いたのか、少し恥ずかしそうな顔をする。

「どうしても嫌ならヒップホルスターにする?競技用のホルスターに、ベルトから腰まで高さを合わせる奴があって、そこにカイデックスホルスターをつける方法もあるんだって」

 どういうことかわからないらしく、少し考えてから後で詳しく、とミユは答えた。

 スマートフォンのタイマーを作動させ、手を降ろした状態からブザーとともに、銃を抜いて胸の前で構えて前に突き出し、撃つ。

「1.56。初めてにしちゃ、さっちゃんより速いじゃん。構えも教科書通りだし、ヘッドショットもきれいに決まってる。及第点は出せるね」

 左右を警戒し、胸元に銃を引き寄せ、ホルスターにしまう。教科書通りで、まだ少し硬い動き。


 撃った後は、的に集中しすぎちゃうことがあるんだって。不死兵はあんまり一人で活動しないから、周りを注意するのは大事なんだって。

 そうなんだ。すごいね、ナオちゃん。やってみる。


「……それじゃ集中したまま、銃を左右に振ってるだけだよ。銃口の先しか見てない。ちゃんと周りを見て」

 ナオはターゲット用紙を何枚か取ると、ミユの両隣のレーンにも取り付けた。

「真ん中、右、左。わたしが合図したら、そこを撃つ。撃った後、また合図を出すよ。出さないかもしれない」

 ミユの正面の用紙も交換する。

「見事なヘッドショットだね……昨日の話でもちょくちょく言ってたけど、ほんと頭しか狙わない感じだね」

「だめでしょうか」

「基本それで間違いはないんだけどね」近くの棚からサイコロを取り出しつつナオが言った。

「頭は小さくて狙いにくいし、ヘルメットで守られている。拳銃だと防がれることも多いよ。……頭しか効かない訳じゃない。どこを撃ってもダメージはあるし、痛がりもする」

 それが、銃で撃っても死なない不死兵を銃で撃つ意義ってものだよ。ターゲットを設置しながらナオが言った。


 射撃の練習って、いいよね。

 え?……うん。銃を撃ってると、ストレスなんか吹っ飛ぶよね。

 うん……集中して狙ってると、他の事を考えなくって、いいから。

……不死兵なんか出てこなくていい。ここでずうっと、ナオちゃんと、銃を撃っていたい。

 でも不死兵をやっつけないと、お父さんの仇は取れないじゃん。お母さんだって、よくなるかもじゃん。

……うん、そうだね。だから練習する。

 だから、教えて。ナオちゃん。


「おはよーっす。早いねルーキー、結構撃ち込んでるみたいじゃん。……てかハンドガン初日ってマジ?もうさっちゃんより速いじゃん。速いねルーキー」

 コノミが来たところでナオが指示すると、ミユは弾倉を抜き銃に残った弾を排出した。その動きも、まるで使い慣れた人のようであった。

「先生がこれをルーキーに渡せって……先生の私物だけど、プレゼントだってさ」

 弾を抜いた拳銃をミユがテーブルに置くと、ナオがミユのレッグホルスターを外した。腿に巻いたストラップを外し、ベルトを取り外す。

「さっき言ってたのはこれ。お昼にイダテンに買ってきてもらおうと思ってたんだけどね」

 銃を収める部分はレッグホルスターと同じ。違うのは支持方法だ。

 レッグホルスターは、ベルトからストラップでホルスターを吊って足にストラップを巻いて固定している。

 このホルスターは、ベルトに取り付けた基部から金属製の棒が伸びており、その先にホルスターが取り付けてある。

 手を降ろせば自然に手が届く位置、動いても邪魔にならない角度。調整すると、まるでホルスターが腰の脇に浮いているよう。

 弾を抜いたままの拳銃を収めてみる。レッグホルスターと変わらない抜きやすさで、足やスカートの邪魔にならない。

 ナオがミユのカービンを手渡す。構えた状態から……スリングも替えた方がいいねとナオが言う……手を離して、拳銃を抜く。

 左手と肩で、カービンを支えられている。拳銃の構えも問題ない。次は拳銃に弾を装填して、実際に撃つ。

「……うん。後は始業時刻まで、この辺を繰り返し練習していこっか。近距離で電解弾を弾かれたら、拳銃でとどめを刺す。カービンが間に合わない時も、これを使う」

 ミユのカービンから手を離すと、ナオは空の弾倉にローダーを装着して弾を込め始めた。

「基本的にわたしがフォローするから、仮に今日不死兵が現れても連れていけそうだね。即戦力、期待してるよ?」


 はいっ!池上ナオ、長原アツミ、いつでも出撃できます!

 あっ、だ、大丈夫です。

 大丈夫だよアツミ。わたしがちゃんとフォローするから。わたしが足で引っかき回して、アツミが射撃で牽制する……このコンビなら、無敵だよ。

 うん。ナオちゃんと一緒なら、恐くない。不死兵だって、やっつけられるね。


「おはよー。もう早弁?というか、もう八時過ぎだよ?」

 そう言いながらかばんを持って……つまり今来たらしい……サチが話しかけてきた。

 ミユとコノミはもう自分の教室へ戻った。他のメンバーも射撃場に顔を出しては、少しの間ミユの練習を見学して自分の教室に向かっていた。

「ちょっと朝ごはん食べてこなかったから、今ね」

 コンビニエンスストアで買ったらしいヨーグルトと野菜ジュース。野菜ジュースは、昨日ミユが飲んでいたのと同じもの。

「ナオちゃんたまにそういう時あるよね。……ミユちゃんが来て、なんか思い出すところがあるんだ、前の学校のこと」

「まあね」一言言うとナオはヨーグルトに向き直る。サチは腕章とエルボーパッド、ニーパッドをその間に装着した。

「……似てる気がしてさ。……死んだ友達に。時々、恐いくらい」

 サチに話しかけるようにも、独り言をつぶやいたようにも思える小さな声でナオが言った。

 サチは聞いていないようにも、聞いていたようにも思える表情をして、詰め所を出た。


 ここがアツミのアパート?引っ越しの準備とかで、一時的に借りてるとかじゃなくて?

 うん。風呂なしトイレ共同で四万だって。お風呂は、銭湯があるから。

 なんぼなんでも、もうちょっといいとこなかったの?奨学金だからって、六万くらいは家賃に回してもバチが当たらないと思うよ?

 学校に近いし……ここには、寝に来るだけだから。

 ごはんは外で食べてくるし、講習も遅くまで受けられる。……遅く帰っても怒られないし、早く帰っても、うるさく言われないから。

 大丈夫だよ。

……本当に?

……うん。

 暇な時はさ、遊びに行くよ。わたしも料理は得意じゃないけどさ、一緒に、なんか作って食べようよ。外食ばっかじゃ、高いしバランス悪いでしょ?

 訓練や講習もさ、つきあうよ。アツミと訓練なら、遅く帰っても親は心配しないから。

 あと勉強も教えてよ。わたしバカだからさ、中間テスト自信ないんだよね。

……ねえ、心配だよ。アツミ。不安があるなら、何でも言って。本当に大丈夫?

……

……ナオちゃん。

 ナオでいいよ。

……ナオ。

 うん。

 ナオ。

 うん。

 ナオ……ナオ。

 ナオ、ナオ。ナオ……ナオ。ナオ、ナオ、ナオ、ナオ!ナオ!ナオ!

 ちょっ……どうしたの、アツミ?

 ナオ、ナオ、……わかんない。でも……ナオって呼ぶと、ナオって言うと、苦しくなくなるから!ナオ、ナオ!

……

 大丈夫じゃない。だいじょうぶじゃない。私……もうなんにもない!お父さんもいない、お母さんもいなくなった!おうちも処分して、……もうわたし、なんにもない!

 ナオ、ナオ!もうナオしかいない!ナオが私の全部!ナオがくれたものが、わたしのぜんぶ!

……そんな、大げさだよ。奨学金だって、集めたパークだって、全部アツミががんばったからじゃん。誰かにもらったって言うなら、協会でしょ。

 ちがう、ちがう!ナオ!ナオが誘ってくれなかったら、わたしどうしたらいいかわからなかった!わたしずっと、お母さんに怒られて、ひとりでいた!

 ナオが声かけてくれたから、不死兵をやっつけようって言ってくれたから、ナオが私のいていいところを、つくってくれた!

 だから、ナオ、ナオ……そばにいて。ナオがいなくちゃ、私、なんにもできない。ナオ、ナオ……

……そんなことないよ。アツミ今までがんばってきたじゃん。アツミはなんだってできる。頑張れば、ひとりでも。

 そうじゃないの。ナオ、ナオ……



 アツミはひとりでできるよ。わかってたよ。ずうっと、わかってた。

 でもなんでだろうね。それを見てるのが、寂しくなって、妬ましくなったのは。

 仲間もできて、パークのクラスもわたしより多くなって、ギフトももらって。

 アツミはひとりでできるよ。わたしなんか、もういらないんだ。



 先生!池上がちょっと、具合が悪いので、保健室に連れて行きます!

 おい池上しっかりしろ!


 体温、正常。血圧、脈拍、至って正常。ため息をつきながら、ケンジロウは体温計を台に戻した。

「よりにもよって授業中に居眠りしてて思い出すとか、なんだそれは?なんというか……」

 ごめん。言いながらナオが起き上がる。ベッドから出ようとするのは、ケンジロウが止めた。

「わからんでもない……履歴書を読んで、嫌な予感はしたんだ。境遇だけ見ると……似てるよな、長原に」

 ケンジロウはナオに、ゼリー飲料のパウチを渡した。アミノ酸、ローヤルゼリー配合。

「サチが心配してたぞ……元気が出ない時のとっておきだそうだ」

 こんなのばっかり飲んでたらまた太るよ、ってさっちゃんに言っといて。くすくす笑いながらナオが言うと、もう言ったとケンジロウは答えた。

「六郷は長原と違う。俺やサチもいて、チームのみんなもいる。あんなことにはならない」

「ありがと……でも、わたしが何も変わってない」

「だから、じゃないが……お目付役の俺がいる。もし今度おまえがやらかしたら、ちゃんと査問会から裁判にかけて、罰が与えられるようにしてやるから安心しろ」

 誰も望んでないがな。言いながらケンジロウは立ち上がった。



……ひどい耳鳴り。全身が痛い。特に腰。何かが突き刺さったような、深くて強い痛み。

 駅のホームで電車を待っていたはずだ。次の営業先へ。電車はもう、前の駅を出発したはずだと。

 電車を待っていて、上の改札のあたりで、大きな爆発音がした。周囲のどよめき。誰が悲鳴を上げた。

 そして、大きな音と強い衝撃がいっぺんに襲いかかってきた。覚えているのはそこまでだった。

 階段から、男が一人別の男に支えられてホームに降りてきた。二人とも大柄だ。

 不死兵の襲撃……?ここは……?けが人が集められている。

 元気な方の男は、具合の悪そうな男をホームに置いて、改札の方に戻っていった。

 自分たちの周りにも、大柄な男たちがいて、銃を持っている。そしてみんな、……

……血まみれだ。

 こいつらが、不死兵だ。

 不死兵の一人が、けが人の一人を引きずって具合の悪い不死兵の前に連れてきた。

 半狂乱になって暴れるけが人を押さえつけると、不死兵は銃剣を抜いてけが人の首を切りつけた。

 すかさず、具合の悪い不死兵が傷口にむさぼりついて噴き出す血を飲みだした。

 不死兵が元気を取り戻しているのがよくわかる……不死兵が傷口から口を離すと、銃剣を持った不死兵がいったん下がらせて、ほぼ死にかけているけが人の腹を銃剣で切り裂いた。

 新たにできた血だまりに顔を突っ込んで内臓をむさぼる不死兵。

 その間に、銃剣を持った不死兵は犠牲者の額に銃剣を突き立てると、用意してあるハンマーで打ちつけ頭を割り始めた。

 頭蓋骨をこじ開けると、銃剣を持った不死兵は別の死体に向かった。骨と肉塊に手足がついているだけのものに。

 銃剣の血糊を拭き取り、砥石のようなもので銃剣を研ぎ直す。手慣れた手つきで死体の腕を切り離すと、銃剣とハンマーで骨を割った。

 そしてそばにあった容器を手に取ると、それを腕に……塩だ。料理番組で使っていたりする、ソルトミルとペッパーミルだ。

 この不死兵は、炊事兵なのだ。

 炊事兵は死体の手足を手早く切り分け、骨を割って塩コショウを振ると周りの不死兵に配っていった。

 仕上げに肋骨を切り離し背骨を取り出し、手際よく割っていく。背骨に不死兵が群がると、炊事兵は残った部位から肉を切り取ってつまみ食いをしていた。

 見回すとホームのあちこちで、線路の上で、不死兵たちが人々を殺して、解体して食べている。

 食べ終わった不死兵は銃を取り、駅構内へ向かっていく。入れ替わりに別の不死兵が、ホームに降りてきて食事を取る。

 こんな地獄が。自衛隊は、民間即応部隊は何をしているんだ。

 ホームにまた何人か不死兵が降りてきた。降りてきた不死兵がマシンガンを置くと、ホームの不死兵がそれを整備する。

 まだ服が汚れていない不死兵が、ホームに座り込む。……炊事兵がこちらを指さした。

 いやだ!死にたくない!……暴れようとしても力が入らない。不死兵が体をつかんで引き起こす……

 膝から下が力なく振り回される。足首の少し上、アキレス腱のあたりが切られていた。

 体をよじらせ、声の限りに泣き叫んで抵抗する。しかし体は、有無を言わさず飢えた不死兵の前に引きずり出される。

 無我夢中で暴れているはずだったが、背後で炊事兵が銃剣を研ぐ音が聞こえた。

 首の横を冷たい感触が走る。待ちきれないとばかりに、目の前の不死兵が飛びかかってきた。





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