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前編:72 hours immortal combat(3)


「そういえば、六郷さん前の学校ではどんな銃使ってたん?」コノミが聞いた。

「学校指定のM16A2に、選抜射手に選ばれたので、スコープを」スコープのメーカーを聞かれたが、答えられなかった。

 キャリングハンドルに直接取り付けるやつ、とミユが言うと純正か、とケンジロウが言った。

「EMPグレネードは?」サチが聞く。

「擲弾手が使っていただけで、自分で使ったのは……先日の襲撃で、自衛隊の方から一個もらったのを。ネストを攻撃した時に、使いました」

「マジか……EMP一つだけでネストを襲撃して捕虜を救出したのか。正気じゃねえ」

 ハルタカが言うと、閃光手榴弾や破砕手榴弾もいくつかあったとミユはつけ加えた。

「そうじゃねえよ。今聞いた装備だと、不死兵を倒すチャンスは一度きりじゃねえか。あとは足止めと牽制しかできねえ……自衛隊のサポートもなかったんだろ?」

「行動の直前に、自衛隊の偵察ドローンへ、あらかじめ決めておいた救出ポイントを伝えました。捕虜にもそこへ向かうよう指示しました」

 だからそういう話じゃねえって、と思いながらもハルタカはミユの話を聞いた。

「不死兵を倒せればそれが理想ですが、捕まった人を救助して、自衛隊の救助部隊に引き渡す事ができれば、時間稼ぎでも問題ないと」

 唖然としているハルタカに代わって、ケンジロウが口を開いた。

「民間即応部隊の理念そのものって感じだな……やってることはその真逆なのに。一般的には、自殺行為だ。仲間たちや、研修中の一年にこれを見習えとはとても言えない」

 ケンジロウは言いながらミユやナオを追い抜いて武器庫のドアを開けた。

「民間即応部隊の本分を逸脱するようなことをするなら、……まあ、よくあることだが……充分な装備が必要だ。できないと判断したら、自分を責めなくていい。無茶して六郷が死んだら、お父さんが悲しむんだろ?」


 武器庫の中も、ミユが前にいた学校と変わらないように見えた。奥のガンロッカーとは壁や鉄格子、防弾ガラスで仕切られ、銃や弾薬を武器係とやりとりするカウンターだけ開いている。

「話は聞かせてもらったわルーキーちゃん。こっち来なさい……わたしは英語教師兼武器係の、雑色リイサ。よろしくね」

 ガンロッカーに通じる鉄のドアを開けたのは、やや小柄な、ミユと同じくらいの背の女性だった。

 ミユが戸惑っている間にも、ケンジロウやハルタカが何事もないかのようにドアをくぐってガンロッカーに入っていく。

「あんたいい子すぎ。もうちょっとワルくなんなよ。そうすれば不良なんて怖くなくなるよ」

 コノミに背中を押され、ミユもガンロッカーに入った。

……前の学校のガンロッカーは、外側からでも全容が見える程度の広さだった。銃も、学校指定のライフルに機関銃と擲弾筒ぐらい。

 ところがここは、まるで古今東西の銃が揃っているようだ……隊員数は一個分隊の定数にも満たないというのに、前の学校の何倍もの広さと数だ。

「一応、前の学校ではマークスマン(選抜射手)だったって言うから、そんな感じのを組んでおいたわ。特にこれというのがなかったら、これを使って」

 机の上に置いてあるのは、スコープの乗ったM16……しかしハンドガードの形状は見たこともない形で、ライトなどを取り付けるレールマウントを、そこに取り付けるらしい。

 キャリングハンドルも最初から取り付けられておらず、機関部上面に配されたレールマウントに、スコープが直接取り付けられていた。

 スコープの大きさは純正のものと変わらないように見えるが、調整するダイヤルの数も多いように見えた。

「あの……最新の軍用銃は、使ってはいけないのでは」

 なるほど、真面目か。思いながらもリイサは銃を手に取った。

「確かに、改正銃刀法ではそうなっているわね。文部科学省の縄張り意識とか、そういうやつね……まあだけど運用はガバガバよ。例えばこの銃」

 とりあえずのミユの銃。

「登録上は形落ちのM16A1だから。シリアルナンバーの打たれたロワーレシーバーだけ、ね。他の部品は民間のパーツを使っているわ……特殊部隊も使ってる、信頼と実績のメーカーのをね」

 ミユは銃を受け取って構えてみる。前の学校の銃よりも、軽くてバランスもいい。スコープの視界もクリアだ。

「あとさっちゃんのグレネードランチャーとかね。中国製で中国軍が使っているけど、アメリカ軍の40ミリグレネード仕様になっているのは、採用されていない」

「わかりました。これにします」礼をしながら、ミユは銃をリイサに返した。

 それを見ながらサチは思った。あれは話を聞いていない顔だ。聞く必要もないけど。

「私は銃のことはよくわかりません。ですがこれは、使いやすくて、よく当たりそうです。使い方もわかっているので、今不死兵が現れても対応できます」

 リイサがすごくつまらなさそうな顔をしているのは、ミユ以外誰の目にも明らかだった。

「わかったわよ。とりあえず仮登録しておくから、放課後手続きとかが終わったら京浜島行って試射とゼロイン済ませてきなさい」

 そのまま武器庫から出ようとするミユをナオが呼び止めた。

「ごはんまだでしょ?ここで食べてきなよ」机のそばにパイプ椅子を置き、自分の分も用意してナオはそこに座った。

 サチも自分のパイプ椅子を用意してミユの近くに座る。男子二人とコノミはずらりと並べられた銃をを見ては時々手に取って何やら話をしている。

「六郷さん銃とか嫌いなの?」サチが聞いた。

 はいでもいいえでもない、少し当惑した顔をしている。考えながら、コンビニの袋から昼食を取り出す。水とツナサンド、それに野菜ジュース。

「……どのみち自衛隊に入れば、使う銃は89式ですから」

「警備会社とか、一般企業の武装職員とかだったら、学校で使ってた銃でもマッチド認定された、とか実績があって使い慣れた、とか使えるよ?弾は自腹になるけど」

「パークとかはまだわかるのですが、マッチドとか、しまいにはギフトとか、言われると……あまりにオカルトめいていて、わからないです。わからないものは、あてにできません」

「そっかぁ……。自衛隊を目指すのって、お父さんに言われたの?」

 言葉に出す前に、ミユは首を横に降った。

「逆にお父さんに反対された?」首を横に。

 そっかぁ。サチが視線を男子たちの方に向けると、ミユは昼食を食べ始めた。

 野菜ジュースを途中で飲みつつ二枚目のツナサンドを食べ終えたところで、サチがミユに向き直った。

「いや……ね、自衛隊がダメとかそういう話じゃないの。……六郷さん、"それしかない"って、ちょっと寂しいなって」

 要領を得たような得ないような、不思議な表情でサチを見つめる。視線を落として野菜ジュースに取り組むが、すぐになくなってしまった。

「寂しい……が、わかりません。母と妹が死んでから、父はずっと塞ぎこんでいて、私もずっと、こうで。それにはもう、慣れたつもりです」

 手をつけていない最後の一枚を包装から出さないまま、コンビニ袋にしまう。

「"これしかない"の、他に何かあれば……何があれば、寂しく、なくなるのでしょうか。不死兵に家族を殺されて、それでも笑える人がいるのはわかります。でもそれはどうしているのか、考えたことも、なかったです」

「話は聞かせてもらったわ」どすん、と机にライフルを置きながらリイサが言った。

「何かを変えてみなさいよ。ちょっと寄り道とか。あなたなら、ちょっと寄り道してもあなたの目指す道は外れたりしないんじゃない?」

 ミユの前に書類とペンを置きながらリイサは続けた。

「仮にやっぱりこの銃がいいってなったとしても、言われるままにただこれってのと、色々選んでやっぱりこれってのは、たぶん何か違うと思うわ」

 首をかしげながらも、書類を脇にどかしてミユは立ち上がった。

 もし自分で銃を選ぶのなら。自衛隊が使っている89式。学校指定のM16。もっといいものって?威力?火力?

 考えたこともなかった。無い物ねだりをしてもしょうがないと思っているから。母や妹が、帰ってこないのと同じように。

……お母さんが、妹が、"それしかない"から、お父さんは、苦しんでいるのだと、なんとなくわかった気がします。

 アサルトライフル、自動小銃のところにある銃を手に取り、一通りの操作をやってみて、構えてみる。

……家族揃って笑っていたときがあったということも、もう忘れてしまいそうです。笑いたいとか、笑ってほしいとかは、わかりません。

 三挺か四挺ほどいじったところで、他の銃を持ってみる気がなくなったのを感じた。何か違う。違うって、何が。わからない。

……それが寂しいということで、別の道や寄り道ができるとして、それがいいことなのかも、わかりません。だって、それしかないのだから。

……ただ……お父さん。辛い顔や悲しい顔は、もうしてほしくないのです。

 スナイパーライフル、も、ちょっと違う。足が止まったのは、古い軍用銃の棚だった。

「不死兵の銃?」ナオが聞いた。

「……弾薬の節約のためにと、不死兵から奪った銃をいくつか使いました。MPは射程が短くて、Stgは重かったです。ライフルが一番、しっくりきました」

……私は、何かを変えてみるのを、やってみようと思います。それでなにかがわかれば、お父さんと私が、辛くなくなる、何かを、

「目を閉じてみて」ぽん、と、軽く叩くように、ナオがミユの肩に手を置いた。

「"生の輝きは、暗闇の中にある"……以前聞いたアドバイスなんだ。わたしバカだから、まだよくわかんないんだけどさ、……見えるもの、らしいよ。マッチドを引いたさっちゃんやイダテンの話だと」

 いつ目を閉じればいいのか。持った時?構えてみて?サチを見るが、困ったような苦笑いを浮かべていた。

 古いライフルはかなりしっくり来るのだが、現在のライフルより長いものが多い……短いものを選んで、手に取ってみる。

 ふと手に取ったそれは、機関部の右側に飛び出した弾倉らしきものが印象的だった。その上につまみというか取手のようなものがある。

 取手を動かしてみると、そこから弾倉らしきものが根本から折れるようにパカッと開いた。

 着脱式の弾倉でもない。ここからクリップを入れる……?リイサが、ガンラックの下の引き出しから弾の箱を取り出す。使用済みの空薬莢だ。

「クラッグ・ヨルゲンセンM1898カービン。アメリカ軍が初めて採用した、無煙火薬を使う銃の改良型、のカービンモデル」

 ちゃりん、ちゃりん。リイサが銃の側面の開いた部分に、一発づつ弾を入れていく。そのまま側面の、弾倉のようなもの……給弾ドアを閉じる。

「クリップがなくても弾を装填できる……訳だけと、逆に一発一発手で装填しなくちゃいけない点が不評だったという話よ」

 ミユがボルトを操作すると、たしかに弾がその下から顔を覗かせていた。ボルトを閉じる……が、弾が薬室に送られない。

 壊れている……?リイサを見ると、リイサは銃の左側面のレバーを指さした。操作してからボルトを操作すると、今度はちゃんと弾が薬室に送られていった。

「これはカットオフレバー。これを使うと弾倉の弾が送られなくなるの。塹壕から撃ったりする時には、マガジンの弾を温存するって感じだったそうよ」

「へえ……これのついてるショットガンってないんすか?」ハルタカが横から聞いてきた。

「バックショットとスラッグや電解弾を使い分ける時に、どうしても一発無駄にしなきゃいけないのがなんか嫌で」

 ミユがカービンを構えたままボルトを操作すると、弾き出された空薬莢をナオがキャッチした。カットオフレバーを操作してもう一回。

 ナオが空薬莢をキャッチ。ナオの差し出す手の中に空薬莢があるのを視界の端にとらえると、ミユはそこから空薬莢を取ってイジェクションポートから装填した。

 銃を傾け、側面の給弾ドアを開ける。照準の先から目を離さないまま空薬莢を受け取り、弾倉にこめていく。

 手間がかかる。使い勝手も速射性も、他の銃に比べてもむしろ劣っている。しかしそれが、生まれた時から持っていたかのように体になじんで、歩き方を知っているように、この銃をどう使ってどう戦えばいいのかを知っている。

 ちいん。最後の一発が排出されナオがキャッチする。ナオはそのまま箱にしまった。

「もういいかな?」

 心地よい夢から覚めたような、満ち足りた感じと、物足りなさ。

 かすかなまどろみの中で、答えを待っナオの息遣いが、朝日のように射し込んでくるようにミユは感じた。

「……目を閉じた、覚えはないのですが」そっと肩から銃床を外し、銃を降ろす。「見えた、……気がしました」

 サチがケンジロウの方を見る。あれは。サチは知っている。

「間違いない。審査を受ければ確実に認定される。……あれがマッチドだ」

「はえー。銃と一緒にスレイトハンドのパークがついたみてえだ。初めて触った銃でこれかよ」

 ハルタカが言うと、銃をガンラックに戻しながらミユが言う。「すいません……スレイトハンドはすでに持っています」

「それにしたって、初見でこれはパークのご利益ってだけじゃねえべ?すげえよ、見直したよ」

 ていうかさ。急に小さくなったハルタカの声をミユは聞き逃すところだった。

「その、さっきは、……すまなかった。なんかお父さんお父さん言ってるのさ、なんか、ほんとはすげえ大変なんだなって……」

 ハルタカが言葉に詰まると、今度はコノミが口を開いた。

「なんかさ……よかったね。六郷さんが自分を変えるチャンスをつかんだんだなって感じがして……あたしも謝るよ。不良なんかにかまけている余裕なんて、なかったんだね」

 これが本当にマッチドなのかもわからないが、そんなに喜んだり、感動したりするものだろうか。ほめられた事は、素直に嬉しいが。

「六郷が持ってるスレイトハンドはクラス1だろう?仮にこれがマッチドでなかったとしても、クラス2のスレイトハンドプロは楽勝で取れる。その腕前なら」

 練習した覚えもないことでここまで褒められると、素直に喜んでいいのかわからない。でも、自然に顔がほころぶ。

「笑った……よかったね。笑えたことを忘れそうだって言ってたけど、笑えるじゃない」

「」

 言った覚えがないのだけれど。

 いや、でも、そんな事を考えながら……銃を……選んで……

「あー、それと」サチとミユを交互に見ながらケンジロウが言う。「お父さんのことになると、思っていることを口に出す癖は、治した方がいい」

 硬直したミユの顔がたちどころに真っ赤になる。あの、いつから。

「お母さんと妹が"これしかない"からお父さんが苦しんでいる……から、何かわかれば苦しくなくなる……くらい?まで」

 要するに全部だ。

「言っちゃったね」ナオがミユの肩の上に置いた手が、軽く肩をもみほぐす。「言いたくなかった?」

 少しの間言葉に詰まっていたミユは、首を大きく横に振った。

「言うタイミングじゃ、なかったんだ」小さくうなづく。

「……まあ、そうだよね。だけど。気持ちを口に出してくれるのは、わたしとしては、ありがたいよ」

 わたしバカだからさ。意外に多く、ナオが口にする言葉。……ケンジロウが、険しい顔でナオを見つめているのがミユの視界の端に写った。

「じゃあこれで仮決定ってことでいいかしら?」用紙をミユに渡してリイサが言う。

「放課後までにはスコープを用意しておくから、リーダーと京浜島行って試射とゼロイン。あとは当分、ナオちゃんが面倒見てくれるから、要望があれば遠慮なく言って。なんなら、お父さんに言うつもりで」

 リイサが時計を見るまでもなく、始業のチャイムが鳴った。「最後に一つ朗報……クラッグヨルゲンセンの30-40クラッグ弾、電解弾がギリ使えるわね。これも早速用意するわ」

 よっしゃ、とハルタカがガッツポーズをした。

「六郷さん、めっちゃモッてるねえ。電解弾使える銃をマッテドで、初日で引き当てるなんて」

 ミユの背中をバンバン叩きながらコノミが言った。電解弾……?ハルタカも言っていたが、聞き覚えのない弾だ。

「簡単に言うと、銃弾サイズのEMPグレネードよ」サチが続けた。「ナオと組むならちょうどいいわね……六郷さん、つまりこれで、不死兵を倒せるのよ」




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