表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

epilogue:a few days peace

epilogue:a few days peace



 数時間後。

 もうだいぶ夜も更けて、自衛隊中央病院のロビーは静まり返っていた。窓口がまだ事務作業を行う明かりがついているくらいで、あとは非常灯と外の明かりだけがロビーを照らしていた。

 検査用の服を着たまま、ミユは所在なさげにロビーの椅子に座っていた。足にはガーゼが貼られている。足の骨に抗生物質を打った痕だ。

「おつかれー、ミユ」

 紙袋を持ってナオがロビーに来た。入口はもう閉まっているので、急患用の通用門から入ってきたのだという。

「検査の結果は?」

「抗生物質が効いているので、イッテンバッハ体は縮小しているとの事です。薬の処方箋も出してもらいました……二週間後にまた検査を受けることに」

 それまで出撃は、禁止だそうです。残念そうにミユはつぶやいた。

「じゃあもう検査は終わり?」

 ミユはうなずいた。「あの、そうだ。それで困った事が……」

「治療費を免除する書類なら、先生とタカヒロが作ってくれたよ」言いながらナオは窓口を指さした。もう書類は出したらしい。

「……はい。それで、その、……服が。もう破れて血が染みついていて、捨てた方がいいと」

 スカートも捨てられたようだ。替わりの服を看護士が探しているという。

「だろうと思った。それで悪いけど、副隊長権現でミユの家に上がらせてもらったよ」

 ナオは紙袋からミユの制服を取り出した。「まだ予備があるのね。うちの学校の制服、まだ当分着る気はないね?」

「高いですから」制服を受け取り、着ようとしたミユの手が止まった。「あの、それで……」

「下着も捨てられた」ナオが紙袋の底を探る。「だろうと思って、持ってきたよ。しかし色気がないね」

 別にそんなものは。言いかけたミユの顔が、とたんに真っ赤になる。

「ちょっ……先輩なんで、よりによってそれを持ってきたんですか!」

「だってこれが、一番可愛かったから」言いながらナオがそれを振り回す。アチョー。

 やめてください。ミユの声が震えていた。

「勝負下着か何かだった?」

「なんですかそれは。その……小学生の頃にはいてた奴で、まだ着られるから、捨てないでいただけです」

 聞くんじゃなかった。色気がなさすぎる……ナオは思った。


 書類に本人のサインが必要なところが結構多く、事務手続きにも意外に時間がかかった。薬はどこの薬局でももらえるとの事で、処方箋をもらって手続きを終えたのは、かなり遅くなってからだった。

「あの……財布も学校に置いたままなので、帰りの電車賃も」

 ナオはエレベーターに乗り込んだ。屋上のボタンを押し、杖を取り出す。「これなら、タダだよ」


 自衛隊中央病院の屋上はヘリポートになっている。ミユもここから来たので、最寄り駅もわからない状態てあった。

 ナオはギフテッドのドレスを着ていた。ギフテッドのドレスなら着替えの必要がないのにとミユは思ったが、ギフトが銃では、病院に持ち込めない。

「見てごらんミユ……わたしたちが、守った街だよ」

 東京の夜の街は輝いていた。道路の上を車が途切れることなく走っていて、コンビニエンスストアやガソリンスタンド、飲食店などの明かりがどこまでも続いているかのようであった。

「守れなかった人も大勢います」

 ロビーのテレビがまだついていた時に流れていたニュースの時点で、死者・行方不明者千五百人以上。JR、東急線ともに運行を再開したが、馬潟駅には停車せず復旧が続いているという。

「やれるだけの事はやった……よね?これからも、そうしていこう」

 ナオはミユの手を握った。

 いくよ。


……今日何曜日だったっけ。

水曜日……いや、まだ火曜日です。

そうだもう一つ大事な事があった……明日学校休みだって。

それだったら……明日調べて、免許の教習所を探さないと。

だったら馬潟駅の南口の方に、教習所があるよ。……まあ明日は休みだろうけどね。

そうですか……今日はもう、帰って休みたいです。

父にも電話をしないと……ニュースを見れば、私の担当区画だとわかるはずですから、無事の連絡を。

話さなくちゃいけないことが、たくさんある気がします。この戦いで、色々見て、感じて、考えたんです。

それを父に伝えたいと。

……別に変なことにはなってないんだよね。

なんですかそれは。

いやなんか、コノミが心配しててさ。

別に何もないですよ。

ならいいんだ。……せっかくだからスーパー寄ってなんか買ってこようか。十二時回ってないなら、まだやってるよ。

なんか作ってさ、一緒に食べよう。

ごはん食べるの?ナオの麻婆豆腐、おいしいんだよ!ちゃんとひき肉を炒めて作るの。

ちょっと高い奴だとそうなるだけだよ。……ごはんのパック、まだ残ってるかな。

そうだ!あの観覧車!復旧したら乗りに行こうよ!ナオとミユちゃんと、いっしょに。

……いいですね。遊園地にあまりいい思い出がなかったのですが、今なら楽しめるんじゃないかって。

そうだミユ、フライパンはある?ガスコンロがあるのは見たけど。

ないです。電子レンジと冷蔵庫くらいで。

じゃあ少し遠いけど、二十四時間営業のスーパーにいこっか。食器もないでしょ。

わかりました。

よし、じゃあそういうことで。

帰ろう、ミユ。

……はい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ