生き方の先生
三題噺です
今回はちょっと書き方を変えました
ご先祖様はお腹を満たすのに狩りをしていたらしい。
僕も試したことは何度かある。
むしろ今でもたまに雀を見かけては狙いを定めている。
だが鈍臭いのは生まれてからずっと変わらず。
捨て子の僕が知る由もないが、どうせ親も鈍臭かったのだろう。
肉を噛みちぎった経験は、この歳までついぞなかった。
鈍臭い僕はある日倒れた。
もし空腹の限界があの場所でなかったら。
もしあの日雨が降らなかったら。
もしあそこに先生が通らなかったら。
僕はとっくにのたれ死んでいたに違いない。
なぜ僕は彼女を「先生」と呼ぶのかって?
そりゃもちろん、彼女が「生き方」を教えてくれるからだ。
「私の方法じゃ肉は食べれない。ありつけるのは果物に野菜。...いや、稀にお菓子も食べれるか。それでもいいか?」
「はい先生」
そう、いつもこの方式。
先生の言葉に反論したことなんてない。
だってそうすれば生きれるから。
先生についていってから、僕は食べ物にありつけた。
果物、野菜、野菜、果物、果物、果物、野菜。
「お菓子」はちょっとわからなかったが、規則的に石が置かれた場所には大抵いつも食べ物が置いてあった。
「取りに行くのは夜だ。彼らは賢くて、頭が良い。私たちはこっそりと食べ物をもらうんだ。いいね?」
「はい先生」
先生と僕は夜になったらでかけて、朝と昼は遊んだり、寝たりして過ごした。
遊んでると楽しかったし、寝ると心地が良かった。
そんな1日1日を千回ほど続けたある日、朝起きると先生がいなかった。
僕はとても不安になったが、そんなこともあるかと考え、先生を待った。
昼頃に遠くでポンという音が聞こえた。
不思議な音だった。
幸い、先生は夜になる少し前に帰ってきた。
「危なかった。やっぱり人間は賢くて強いんだ。絶対に近寄ってはいけないよ」
「はい先生」
人間は何度かみたことがある。
僕の何倍も大きくて、足は二本しかない。
先生に言われるまでもない。
あんなのに近づいて踏み潰されてはたまらない。
先生が一度いなくなった日から10回くらい1日を数えた日、先生と一緒に人間をみつけた。
でも、何かがおかしい。
いつも見る人間よりも背丈が半分くらいしかない。
先生は言った。
「あれは子供だ。ちっちゃいからって侮ってはいけないよ。彼らは無邪気で、好奇心が強い。大人に私たちのことを言いつけられたらたまらない」
「はい先生」
ちょうどいつものやりとりをした時、子供が手から何かを落とした。
子供はそれに気づかず、行ってしまう。
先生はそれを拾うと、
「これはお菓子だね。いつもの野菜や果物とはちょっと違うものだ。食べて見るかい?」
「はい先生」
僕は先生に差し出された「お菓子」を食べてみた。
甘い。美味しい。甘い甘い美味しい甘い甘い。
僕は夢中でそれを舌で転がした。
「そうか...お前はお菓子が好きなのか。私とおんなじだな」
「ふぁい先生」
お菓子はとっても甘かった。
お菓子はとっても美味しかった。
また食べたいと思った。
でも、お菓子にはなかなかありつけなかった。
お菓子を食べない1日を百回くらい数えた。
ある日朝起きるとまた先生がいなかった。
僕はあることを思いついた。
いや、思いついてしまった。
子供を探しに行こう。
お菓子を探しに行こう。
夜までに帰れば先生にバレないだろう。
そう思っていつもの寝床を飛び出した。
しばらく歩いていると子供がいた。
僕は待った。
お菓子を落とすのを待った。
でも子供はなかなか落とさなかった。
待っている間に子供は立ち上がり、どこかに行ってしまう。
僕は追った。
夢中で追った。
お菓子を食べたい。お菓子を落とせ。
僕は気づかなかった。
今いる場所が規則的な石だらけだったことに。
僕は気づかなかった。
今が昼だということに。
僕は気づかなかった。
鉄の筒が僕に向けられていることに。
ポン
どこかで聞いた音。
僕は気づいた。
先生が倒れていることに。
僕は夢中にで先生に駆け寄った。
「...言ったじゃないか、昼はダメだって。ごめんな、ゴン。早く逃げるんだ、あいつらが来る前に。生きるんだ、ゴン」
「はい、先生」
僕は夢中で逃げた。
この先の僕に先生はいない。
でも僕は生きようと思った。
僕は気になった。
先生が僕の名前を知っていることに。
かなり書くのが難しかったです
時間は1時間16分。
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三題噺1号もみていただけると