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空想のサクラ 〜Another Flower  作者: 秋山 楓花
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逆転の姫君 2

 豪壮な建物なのだと萎縮していたが、少し離れれば普通の学校とそんなに変わらない景色が広がっていた。ここは下位のクラスの人たちが主に使う場所らしく、私の入隊する特殊部はあまり行かないとマイさんが言っていた。ということは豪華なあの場所が拠点になるのか。やはり私には荷が重い。少しお腹が痛くなった。

 

「あの……この場所あまり使わないのに、どうして教えてくれるんですか」

 

 必要最低限のことだけ喋って、後はその人任せ、問題起こしたらその人だけの責任、普通そんな感じじゃないのか。私にしたら皆親切過ぎて怖いのだが。

 

「え? どうしてって、どういうこと?」

 

 マイさんが首を傾げる。伝わらなかったかな。

 

「だ、だって、必要最低限のことだけ話したら後は放ったらかしにするものじゃ」

 

「なにそれ!? そんなことするの!?」

 

 彼女の声と共に皆がこっちに振り向く。ユウは驚いて固まり、タクさんは頭を抱えて溜め息を漏らす。マイさんも呆然としている。わ、私、変な事言ったのかな……。

 

「ナナさん、それ、今までのお仕事ずっとそんな感じだったの?」

 

「はい……それが当たり前だと……」

 

「当たり前じゃないよ! そんなの無責任過ぎる!!」

 

 ユウが首を振って思いっきり否定する。

 

「そうよ、先に学んだ人は次の人にしっかり伝える。必要最低限じゃ駄目、そんなんじゃ連携なんてあったもんじゃないわ! 失敗も一人で背負って辛かったでしょ?」

 

 彼女が私の肩を掴む。仕事中にこうやって怒鳴られたことを思い出して足が固まる。目を逸らしてしまった。

 

「で、でも、私が勝手に失敗したから、皆は関係ないと、いうか」

 

 あぁこうやって教えこまれたなぁ。失敗は一人で背負え、誰も擁護なんかしない、自分のケツは自分で拭けって。何度も何度も聞かされたっけ。

 

「関係あるわよ! 大切な仲間ですもの!!」

 

 仲間?

 

「仲間は、先日で使い切りましたよ……?」

 

 あのときはたまたま目的が一致したから。

 あのときは力を合わせないと目標を達成できなかったから。

 あのときは私がどうしても必要だったから。

 

 今、そんな状況ではないはず。それでもなんで好き好んで仲間になりたがるの?

 

「ナナ、仲間は使い切るものじゃない。育むものだよ」

 

 ユウはマイさんの手を私の肩から離した。そして彼女と手を繋いだまま、私の手を取る。

 

「上からの圧力をもう感じなくていいんだよ。これからはこうやって手を取り合うことができるんだ」

 

 マイさんがタクさんに微笑み、手を繋ぐ。彼は嫌そうな顔をしつつも手を離さない。

 

「そして仲間はこの手の力を、結束力を高めることができる。ナナ、一人じゃないんだよ」

 

 ユウが大きく手を振った。私の腕も大きく振れる。

 

「どんなときでも僕たちがいることを忘れないで」

 

 彼はにっと笑った。二人も頷く。

 私たちは、信頼する仲間ができたあのときの沿線上に立っているんだ。

――信じたい、彼らを信じたい、心が叫ぶ。でも怖い、信じるのが怖い、こわい。また裏切られるかもしれない。見捨てられるかもしれない。幻滅されるかもしれない。かもしれないなのに、決まったわけでもないのに、怖い。首が絞まる、呼吸ができなくなる、嫌だ、いやだ。また苦しい思いなんてしたくない。

 

「――おい」

 

 負の連鎖を断ち切ったのは無愛想な彼。低くも通った声で私と和やかな二人の意識を集める。煩わしそうな顔でマイさんの手を振り払った。

 

「仲間だと言うなら彼女の体調を心配してやったらどうだ」

 

 私を一瞥し、用は済んだな、と元来た道を戻り始めるタクさん。

――私の心を読まれた? そんなのありえない。今まで気持ちを隠してきて、ユウ以外のほとんどの人を偽ってきたのに。ならどうして

 

「大丈夫!? 体調良くないの!?」

 

「ごめんナナ、気付いてあげれなくて」

 

 手を離して二人が悲しそうな目でこちらを見る。

 

「ちょっと緊張して疲れちゃっただけですから」

 

 へらっと笑ってみせる。

 

「……今日はもう終わりにしましょうか、いいわよねユウ?」

 

「そうだね、僕ナナを家まで送るよ」

 

「えぇ、そうしてちょうだい。ナナさん、今日はお疲れさまね」

 

 正直本当に疲れた、肩が痛い。ちょっとの緊張じゃないと体が悲鳴をあげている。新しい環境に置かれるとありえない程のストレスがかかるのはいつもと変わらないようだ。それでも私の体調のせいでやるべきことをやれなかった。罪悪感が首を絞めていく。


「お疲れさまです。今日はありがとうございました」

 

 そんな中でも変わらないこの笑顔が少しだけ憎いと思ってしまった。

 

 

――学校に似た教練棟の出口でマイさんと別れた後、ユウと二人で黙々と林の中を歩く。この無言の時間が少し怖い。何か自分が悪いことをしてしまったのだろうかと詮索してしまう。自意識過剰なのも分かっている。分かっているけれど、思考は止まらない。

 

「――っ!」

 

――この気配。誰か私を見ている。足が止まる。しかも不気味な感じ。冷たい風。鳥肌が立つ。

 

「ナナ?」

 

 ユウが三歩先で私に振り返る。そして彼の声が響いた途端気配が薄まった。

 多分、いや、絶対あいつらだ。

 

「……ごめんね、綺麗な鳥を見つけて立ち止まっちゃった」

 

 作り笑いでこの場を凌ぐ。彼に心配かけたくない、それに下手に挑発でもしたら何をしてくるか分からない。完全にこの感覚が消えるまで

 

「何かあったよね?」

 

 鋭い一言が私の頬を掠める。

 

「何もないよ」

 

 もっと笑って私。

 

「あるよ」

 

 さっきよりも鋭い一言を投げてくる。本当にこの人だけは騙せない。私は隣に駆ける。

 

「今は黙って、見られてる」

 

 小声で彼に伝えると驚き、口を閉じた。理解が早くて助かる。私たちが歩き始めると少しずつ不確かで確実な視線が離れていった。もう少しで林の出口。あそこまで耐えれば。

 

「――やっぱり林に潜んでいたみたい」

 

 暖かな日差しと共に安堵の溜め息が漏れる。しかし、隠れやすい林の中で見張るとはなかなかに幼稚だ。心の中で嘲笑う。貴方たちが鍛えてくれたこの危険察知能力、まだまだ現役だ。

 

「なぁ」

 

 少し尖った声とひんやりとした空気。

 

「そんなに頼りないかな」


「え?」

 

「僕、頼りないかなって」

 

 あ、私、怒らせたかも。機嫌取らなきゃ。

 

「そんなことないよ! 私何回も助けられて」

 

「ならどうして! 一人で抱え込むの!?」

 

 叫びにも似た声が私の耳を突き抜ける。痛みへ変わるのに充分すぎる言葉たちは、私の頭を真っ白にする。ただこの状況を記憶するだけで精一杯の中で、ユウは焦った顔でこちらを見た。

 

「……ごめん、何言ってんだろ僕」

 

 私が悪いから、だから。

 

「謝らないで、ユウは悪くないの」

 

 悲しそうな顔をしないで。

 

「ここまで送ってくれてありがとう。後は一人で帰れるから」

 

「でも、さっきまで」

 

「あの人たち公の場では行動しないから大丈夫だよ。人通りが多い道を歩けば狙われないし」

 

 太陽が大きな雲に隠れ、少しの暗がりを落とす。

 

「そっか……でも気をつけてね」

 

「うん、ありがとう。またね」

 

 小さく手を振って彼に背を向けた。十分に距離をとって、大きな溜息がもれる。あぁ、憂鬱だ。これから起こることを想像するだけで吐き気が押し寄せてくる。

 でも、私は変わったんだ。今はこの力で、生きていけるから。頼る、頼らないじゃない。私の足で歩かなきゃ、進まなきゃ。

 

 自分が作った綻びは、一人で、解決しなきゃ。

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